レッドラスト〜屈強な女軍人ばかりの流刑惑星に放り込まれたが無事に生き残れるだろうか〜 作:ベニサンゴ
幾重にも重なり回転する歯はそれ自体が強力な破砕機だ。口の周囲から伸びる鋭い牙に取り付かれたら、抵抗虚しくすり潰される。グラップワームの金切り声が頭上から降り注いだ。
「いっけええっ!」
対抗するのはコバルトレイン。出し惜しみなどするはずがない。機甲部隊トップエースの名に違わぬ迅速な動きで、ユーリはすでに照準を定めていた。猛々しい声に合わせて放たれた青雷がグラップワームの黒々とした体躯と衝突する。高レベルに圧縮されたエネルギーの爆発が立て続けに連鎖し、熱と衝撃が入り混じる。
「だめだ。効いてないぞ!」
煙幕が晴れる前にディーロが叫んだ。
グラップワームの凶悪な頭部がまっすぐに落ちてきたかと思えばコバルトレインへと掴みかかる。機敏な動きで跳ねるように避けたのは間一髪。轟音と激震が敵に巨大さを鮮やかに語る。
「そもそもこんなに大きなグラップワームは初めて見たわ。装甲も体格に応じて分厚くなって、自重を支えるために骨格も頑丈になっていると思った方がいいかもしれないわね」
「もーっ! 硬い敵ばっかりで楽しくないなぁ!」
アメリの冷静な分析の最中にもユーリは次々と主砲を叩き込む。しかし結果は変わらず。やはりグラップワームの体側に当たったエネルギー凝集弾は見た目こそ派手だが即座に拡散してしまう。
「ありゃただ硬いだけじゃねえな。とにかく無駄撃ちしても意味はねえ」
「じゃあどうするって言うの! うぎゃーーっ!」
次はこちらの番とばかりにグラップワームが攻勢に転じる。丸い口を大きく開きコバルトレインへ強烈な突進を繰り出した。手足のないチューブ状のスラッグに多彩な攻撃行動など存在しないが、シンプルなだけにその破壊力は絶大だ。
ランナーに避けられたグラップワームは勢い余って鉄塊の山に衝突し、金属の砕ける悲鳴のような音が爆ぜる。大部屋の中央で開閉を繰り返しているスクラッパーに入れるまでもなく、あの回転歯に噛み砕かれたものは問答無用で細かな鉄屑に成り果てる。
「大佐、やっぱりアイツ、忌避剤が効いてねえな」
「耐性を持ってるのか鈍感なのか……。なんにせよ厄介ね」
グラップワームは躊躇なくコバルトレインへと襲いかかる。その執念深い動きに、歴戦の兵士たちが違和感を抱いていた。ランナーには例外なくスラッグが忌避する特殊なコーティングが施されている。メンテナンスを終えたばかりのコバルトレインも同様だ。しかし敵は怯む様子もなく噛み付かんとしていた。
アメリは大型スラッグの目も鼻もない歪な顔面を見上げて眉を寄せる。
「大佐ァ! こっちはこっちでヤバいっす! 突破されそうだ!」
後方からの悲鳴。カイたちが進んできた通路は、今やテレアントたち有象無象のスラッグの群れで埋め尽くされていた。歩兵部隊の面々が銃弾をばら撒いて凌いでいるが、ますます圧力は増している。決壊は時間の問題だった。
「配置を変えるわ。ユーリ、後方の波を堰き止めなさい!」
「えええっ!?」
指揮官の判断は迅速だった。
主砲が通らない相手にランナーを張り付かせておく理由はない。ユーリに後方の波濤のような群勢を任せ、小回りのきく人員を前方に移す。エースは不満げに声をあげたが命令への応答は早かった。飛び跳ねるようにカイたちの真横を駆け抜け、景気良く主砲を群れに叩き込む。
青い稲妻は面白いほどにスラッグを吹き飛ばし、黒く塗り染められた通路に深い傷を刻みつけた。
「背中は任せて!」
重機関砲の獰猛な重低音を響かせながらユーリが叫ぶ。
歩兵たちでは束になっても押し負けていたスラッグの群れにランナー一機で対抗している。それどころか、徐々に押し返してすらいた。
「ランナーは凄まじいな」
「あの子の腕がいいのよ」
目を見張るカイにアメリは我が事を誇るような顔で答える。二人の頭上に濃い影が落ちた。
『マスター!』
「こっちはこっちで忙しいな!」
アメリとカイが走る。次の瞬間、二人がいた場所に巨大な口が落ちてきた。凄まじい勢いで叩きつけられた牙が硬い床を削り、深々と痕を残す。刻みつけた当人は痛みに悶える様子もなく、ぬらりと顔を持ち上げる。
「どうやって倒す?」
「ただのグラップワームならランナーで踏んづけて終わりなんだけど……」
グラグラと揺れる地面を走り抜け、距離を取る。ユーリと交代した歩兵たちが銃撃を繰り出す。だがやはり、分厚い装甲に阻まれて効果はあまりにも薄い。
「どうにか装甲を抜く方法……。口を狙うしかないか」
「一番激しく動いてるわよ?」
全身の防御を固めたグラップワームに弱点と呼べるような場所はない。カイが見出したのは、唸り声をあげて歯軋りする口だった。あらゆるものを問答無用で破砕するその部分だけが、唯一守りを固めていない。
無論、そこを狙おうと馬鹿正直に相対すれば丸呑みにされるのが落ちである。
どうにかして動きを止め、口の中に強烈な一撃を叩き込むしかない。
「どうでもいいが、早くしてくれよ! こっちも限界はあるぜ!」
時間は常に流れている。
ユーリに代わりディーロ率いる歩兵隊が決死の覚悟でグラップワームの注意を引いている。彼女たちにはランナーの装甲も機動力もない。追いつかれたらなす術もなく喰われる。
「いや、満足するまで食わせればいいか」
ガシャンガシャンと巨大な鉄塊を軽く蹴散らしながらディーロへ迫るグラップワームを見てカイは一つの道を見出す。アメリが怪訝な顔をするなか彼は走り出す。
「ちょ、ちょっとカイ君!? どこに行くの!」
「アイツに食べ放題をご馳走してやるんだ」
青年が向かう先は、うずたかく積み上げられた鉄塊の山であった。