レッドラスト〜屈強な女軍人ばかりの流刑惑星に放り込まれたが無事に生き残れるだろうか〜   作:ベニサンゴ

23 / 32
第23話「秘密の偵察」

 カイとユーリたちが鬼教官による地獄の修練に苦しんでいる頃。シャッターの閉じられた格納庫の中には張り詰めた緊張感があった。内側から施錠され最大レベルの進入制限がかけられた庫内で照明の明々とした光を浴びているのは、白銀色に塗装された真新しいランナー"シルバーフェザー"だ。その流麗な威容を前にしながら硬い表情のアメリが口を開く。

 

「機体の"防錆処理"は問題なく効果を発揮していたのよね」

「はい。実機の表面塗装を剥がして精査したところ、アンチスラッグコーティングは十分に生きていました」

 

 問いに答えるのは整備士長のバリである。彼女は回収直後のランナーを精細に分析し、その情報を余すことなく記録に残した。アメリはその解析結果を受けて、改めての確認のためにやってきたのだった。

 〈鉄喰らう狼〉に所属する二十一機のランナーは例外なく全て、スラッグの捕食を避けるためのコーティングが施されている。定期的な塗り重ねも行われており、その効力によって放棄されたとしても後々回収することができるようになっている。

 しかし、先日の回収作戦で目標としていたランナーは脚が捩じ切られ、搭乗席と機関部分がスラッグの巣へと運ばれていた。あわや鉄屑と化す直前にギリギリで回収されたのだ。

 放棄されたランナーにもコーティングは施されており、スラッグたちは近付けないはずだった。そんな予想に反した現実に、アメリは強い違和感を抱いた。

 考えられる原因は、

 

「忌避剤が効かない新種が現れたのかしら」

 

 スラッグとは、旧式の環境整備ナノマシンが無数に集まり、金属筐体に根を張った擬似生命体である。生殖活動を行うわけではないが、見かけ上それらしいことは行う。

 長く生きて経験を積んだスラッグが、その記憶を引き継ぎながら新たな機体へと乗り換えるのだ。しばらくは新しい機体に慣れる必要があるため生まれた直後は弱いが、徐々にその"操作"に完熟してくると強さを増す。

 更にその乗り換えの過程で、既知の脅威への対抗策を用意する者も稀に現れるのだ。そして、一機でも対抗手段を備えた新種が現れれば、その能力は後のスラッグたちにも波及する。

 

「もしそうだとすると非常に危険ですよ。今すぐに手を打たなければ壊滅さえ有り得ます」

 

 技術者は即座に危険性を算出する。

 現在、この基地が安全を保っているのは三重の防御陣地全てにコーティングを施しているからだ。それらが無力化されたとすれば、無防備に裸を晒すようなものである。

 

「せっかくカイ君が本格入隊したばかりだっていうのに、間が悪いわね」

「どちらにせよ本格的な調査は必須です。新たに人員を選定して、隊を組みましょう」

 

 新種のスラッグが存在するのか。存在するならば、どこまで広がっているのか。今はまだ何も分かっていない。しかし今こそ動き始めなければならないのも事実であった。

 アメリは眉を寄せ、決断する。

 

「第13地区ネストの深層への潜入調査を行うわ。ただし、地上からの進入はなし。第三航空隊の夜間偵察飛行で実施します」

 

 〈鉄喰らう狼〉にも航空兵科は存在する。しかし様々な理由から保有している機体はわずかに十機のみであり、第一、第二航空隊は既に長期任務のため出払っている。アメリが指名した第三航空隊はいわば切り札であり、おいそれと動かせるようなものではない。

 だが今回の任務が大々的に公表されれば、部隊全体の士気が崩壊しかねない。己の安寧の土台を根底から覆すような話にまで発展するからだ。そのため指揮官は少数精鋭による秘密行動を決断し、指示を下した。

 

「対外的にはネストの俯瞰調査としましょう。第13地区ネストの定期観測は二ヶ月後だけど、コントロールが仕事をしないのは周知の事実だし問題ないわ」

 

 大気圏外からの地表観測は、コントロールステーションによって実施されている。これを元に地上部隊であるアメリたちが動くのだが、上への信頼はほとんど払底している。ある程度独自に動いたところで、もはやそれを疑問に思う隊員もいない。

 

「実際、俯瞰調査は必要だと思っていたから問題ないわ。できるだけいろんな情報を取ってきてもらいましょう」

 

 これもいい機会であると割り切って、アメリは前向きに考える。

 指揮官として毅然とした態度を保ち続ける彼女に、バリは尊敬の念を抱く。

 そして、第三航空隊所属の小型偵察機"グリーンホロウ"による夜間偵察作戦は、その日の夜に早速実施された。即応態勢を維持しながらもなかなか出番のなかったパイロットたちの士気は高く、彼女たちは最大限の情報収集を行うために尽力した

 だが、"グリーンホロウ"は予定された作戦終了時刻を越えても帰投することはなかった。緊迫する上層部の元に"グリーンホロウ"の緊急通信が入ってきたのは、明け方の頃。赤い荒野の地平線から光が滲み出すなか、ノイズの酷い音声が辛くも拾われた。

 

『敵の異常――を確――。――塔の――に脅威――』

 

 その数時間後、ダレス荒野第13地区ネスト辺縁部に不時着する"グリーンホロウ"が発見された。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。