レッドラスト〜屈強な女軍人ばかりの流刑惑星に放り込まれたが無事に生き残れるだろうか〜 作:ベニサンゴ
救助隊の帰投後、即座にブリーフィングが開かれた。議題は当然、第13地区ネストで何が起きたのかという点だ。
「ブラックボックスを解析したところ、夜間偵察飛行中のグリーンホロウは発信源不明の電波を受信したようです。その直後、突然の襲撃を受けてエンジン一機が破損。撤退も虚しく飛行能力を喪失し不時着したところで、スラッグの群れに襲われたと見られています」
技術者を代表しバリが判明した事実をまとめて提示する。
「生存者から直接の聞き取りは?」
「隊員2名が救助されましたが、現在も治療が行われています。意識不明の重体で、回復には時間がかかるとドクターが」
「……分かったわ」
8名の隊員のうち、5名が死亡し1名は遺体さえ見つかっていない。グリーンホロウの搭乗員は壊滅した。
出動を命じたアメリの両肩にはその重圧がのしかかる。しかし潰れるわけにはいかなかった。彼女は指揮官であり、その言葉で部隊は動くのだ。
「発信源不明の電波について詳細は?」
「現在も解析作業を進めていますが、ランダムなシグナルのように見えます。何か意味が含められているとは……」
「でもその電波はグリーンホロウに届いてる。直接機体に向けて投げられたものでしょう」
レッドラストの環境では電磁波はひどく掻き乱される。狙った対象に届けるためには、相応の設備と用意が必須だ。
「不時着したグリーンホロウをスラッグが待ち構えてたってのも妙な話だ。あいつらも常駐部隊として訓練は散々やってきてるし、実戦経験もある。だってのにロクに陣地も構築できず機体の中まで入り込まれるのは異常だぜ」
訓練教官として戦う術を叩き込んできたディーロも腕を組んで不満げだ。〈鉄喰らう狼〉の隊員たちの実力は上から下まで様々とはいえ、アメリが選んだ第三航空隊は十分に練度を高めている。対スラッグ戦闘にも精通し、墜落ごときでパニックになるはずがない。
実際、ブラックボックスに記録された音声ではエンジンをひとつ喪失した後も冷静に操縦され、柔らかな砂地を選んで不時着した様子が聞き取れた。問題はその直後、迎撃の構えを取る間もなくスラッグの群れが襲撃してきたという事実である。
「まるでスラッグたちが落ちてくる飛行機を追ってきたと?」
「それ自体は有り得ねえ話でもねえ。ただ、落ちてくる場所が分かってるのは嫌な感じがするな」
荒野の広さを考えれば、スラッグと遭遇せずに一夜を明かせる可能性も十分にあった。鉄虫たちが狙い澄ましたかのようにグリーンホロウへ襲いかかってきた事実は、ディーロの長い戦闘経験のなかでも強い違和感を残す。
「僕からもいいかな」
言いしれぬ気持ち悪さを皆が感じるなか、ユーリが手を上げる。周囲の視線を集めながら立ち上がった彼女は、真剣な表情で口を開く。
「僕らが蹴散らしたテレアントとキャプチャービーの群れ。随分呆気なかったんだよ。というか、ほとんど反撃されてない」
その言葉でカイも当然を思い返し、そういえばと頷く。
グリーンホロウを蹂躙していたスラッグたちは、二機のランナーによって瞬く間に掃討された。彼我の力量が隔絶していたことも当然にあるが、ファクトリー襲撃時のコバルトレインには多くのスラッグが群がっていた。同じく鎧袖一触に蹴散らしていたものの、機体には無数の傷がついていたはずだ。
「スラッグがランナーに反撃をしなかった……。グリーンホロウを貪るのに夢中だった、ってわけでもないでしょう」
「奴らの第一原理は自己の活動継続だからな。少なからず反撃はするはずだ」
一言で言えば異常だった。
己が傷ついても反応することなく目の前の飛行機に飛びついたままというのは、既知のスラッグの行動様式には当てはまらない。
「グリーンホロウにもコーティングはされてるはずだけど、それすら意に介していない……。飛行機の落下地点を正確に予測して待ち構えて……。やっぱり、何かがおかしいわ」
顎に指を添えて考え込むアメリ。周囲の面々も湧き上がる疑問に対する回答を持たないまま、重苦しい沈黙だけが場を支配する。
「バリ、解析中のシグナルって流せるか?」
「人間の可聴域を越えていますよ?」
「波形だけでもいい。ハルも何か分かるかもしれない」
頼み込むカイにバリはいい顔をしない。部隊の大型コンピュータでさえ解析が進まないものに対して、汎用支援型とはいえただのAIが解読できるとは、にわかには納得できない。
だが手詰まりであることも事実である。
結局、バリはアメリの許可を得て、データを提出する。
『では早速……』
背面のポートに情報記録端末を接続して、ハルは情報の解析を始める。
そしてすぐに激しく瞬き始めた。
驚き腰を浮かせる周囲。カイはハルの筐体を抱きしめる。
「ハル、何があった?」
『これは……。マスター、これは……』
狼狽えるような人工知能の言葉の先を誰もが待つ。
『これは、移民船団の標準通信プロトコルに準拠した暗号文です』