レッドラスト〜屈強な女軍人ばかりの流刑惑星に放り込まれたが無事に生き残れるだろうか〜 作:ベニサンゴ
大規模作戦決行日が迫るなか、カイは第一機甲部隊のガレージを訪れた。ユーリたちは周辺のスラッグの掃討に出ており、彼だけが残された。
「やあ、来てくれましたか」
広々とした格納庫には照明が点けられ、強い光で照らしている。その下ではツナギ姿の整備士たちが白銀のランナーに取り付いて仕事をこなしていた。カイがその様子に目を寄せていると、死角から声がかけられた。
整備士長バリの声に振り向いたカイは思わずぎょっとする。彼女はツナギの上衣を脱いで袖を腰にくくりつけ、汗で湿ったタンクトップ一枚だった。健康的な小麦色の肌が強い照明に照らされている。小柄でスレンダーな印象だった彼女だが、ゆとりのある作業着に隠されていただけで胸は周囲に負けないほどに立派だ。
「ここのところ作業続きで、臭かったらすみません」
「いや、それは大丈夫だけど」
へへ、と疲労の滲む笑みを浮かべるバリは、カイの視線の向く先に気が付かない。そのまま彼女は青年をランナーの前まで案内した。
「作戦に参加する全ての機体の点検と、装備の増強を進めています。ランナーは拡張性の高さも長所ですからね」
〈鉄喰らう狼〉が保有する二十二機のランナーは、全て専属のパイロットが存在する。座席の形から操縦桿の感度、キャノピーの角度、主砲の旋回速度に至るまで、あらゆる点を個人に最適化することで、人機一体の動きを実現するためだ。搭乗時間の長いパイロットほどランナーのカスタムも非常に細やかになっているようで、機付きの整備士たちにも高い技量が求められる。
「カスタマイズなら前もしっかり時間をかけてやってもらったけど」
カイも愛機"シルバーフェザー"が与えられ、それと同時に機付きの整備士班が配属された。第一機甲部隊の整備士たちのなかでも粒揃いの腕利きである。彼女たちの気合いの入りようは尋常ではなく、カイの体の隅々までメジャーで計り、数ミリ単位の微妙な調整をしていた。おかげでシルバーフェザーは一心同体のレベルで馴染んでいる。
「検査にかこつけて……。まあいいでしょう。確かにチューニングは万全ですが、今度の作戦ではそれだけでは足りないと考えています」
整備士長は部下たちの行動に小さくため息を吐きつつ、一度は横に置く。優先順位がより高いものから先に進めなければならない。
「たとえば、ユーリのコバルトレインは拡張武装としてワイヤーストリングを載せています。見たことは?」
「……いや、ないかな」
記憶を手繰り、首を振る。
「平時はそうそう使う機会もないでしょうからね。言ってしまえば、彼女の速さに機体を追い付かせるための補助具です。ネストの外縁部ならばともかく、深層に殴り込むならそういったプラスワンが必要になってきます」
とはいえ、とバリが腕を組む。タンクトップでかろうじて押し留められているボリュームが、たぷんと揺れる。
「カイさんの機体操縦においてワイヤーストリングが最適かどうかは分かりません。あれは扱いが難しいので、決行日までに慣熟できない可能性も高いですからね」
ランナーは素体だけでも強力な陸上兵器ではあるが、拡張していくことで真価を発揮する。ブルーブラスト動力の高効率で莫大なエネルギー供給によって、さまざまな拡張武装を駆動させることができるのだ。
ある機体では強力なブースターを各脚の先端に備えることで機動力を底上げし、またある機体では高周波振動刃で近接戦闘に特化している。
「我々整備士に要望していただければ、最大限それを実現できるよう努力させていただきます。なので何か案があればぜひにと思いまして」
技術者らしい言い回しながら、バリの表情には自信があった。これまでも色々と無理難題をこなしてきたのだろう。むしろ彼女はそれを望んでいるような節さえ見てとれた。
「拡張武装か……」
カイは思わず考え込む。
大規模な作戦が決まって以降も、幾度となく荒野に繰り出して小規模なネストを破壊するような経験を積んできた。実戦を通してランナーの操り方を学び、ノウハウを自分の中に組み上げていく。そのなかで足りない部分が見えてきたのではないか、とバリは期待しているようだった。
「なんでもいいのか?」
「なんでも仰ってください!」
キラキラと目が輝いている。そこに何か、一抹の不安を感じながらカイは口を開く。
「それなら――」
彼は失念していた。優秀で常識人に見える技術者のバリがこの赤い惑星にいる理由を。彼女もまた軍部の鼻つまみ者として流刑地に送られた一人であったことを。
カイの要望はバリの疲労を吹き飛ばし、その身に新たな活力を注入する。技術者の魂が燃え上がり、爆発を求める。青年の一声で、バリは暴れるための正当な口実を手に入れたのだった。