レッドラスト〜屈強な女軍人ばかりの流刑惑星に放り込まれたが無事に生き残れるだろうか〜 作:ベニサンゴ
作戦決行の日は快晴だった。
惑星レッドラストにおいて、天気が良いことは諸手を上げて喜べるわけではない。遮るもののない空から容赦なく降り注ぐ日光は赤い大地を焼き焦がし、ゆらめく熱気が肌をあぶるのだ。しかしディーロの下で過酷な修練を積んだカイは、その煉獄にも慣れ始めていた。
「これより、第13地区ネスト深層調査作戦を開始する。各員、最大限気を引き締めて慎重に進めるように」
広い修練場に整然と並んだ軍人たちをひとつ高いところから見下ろすアメリは、冷厳な口調で呼びかける。この二週間寝る間も惜しんで作戦の検討を続けていた彼女だが、シワひとつない軍服に身を包み銀髪も艶やかで疲労の色は一切見えない。眼前に並ぶ猛者たちの命を預かる者として、弱さを見せることなどできるはずもない。
「目標は発信源不明のシグナルの調査である。古代の通信暗号文であることは判明しているが、誰がどういった理由で発しているのか、全て謎のままだ。それを白日の下に晒すのが諸君らの仕事である」
上に立つ者としての威厳を放つアメリの言葉。今回の大規模作戦の主旨。不穏で危険な状況が強く予想される。ダレス荒野でも有数の巨大ネストの深奥に踏み込むとなれば、これまでの小競り合いとは比較にならないほどの反発は確実だ。ここに居並ぶ数百人の全員が五体満足で帰還できる可能性は限りなく低い。
しかし、ここで謎を解き明かさなければ未来はない。アメリの言葉が理解できない者は、すでに赤い荒野の鉄錆と化している。誰も彼もが歴戦であり、スラッグの脅威が身に染みている。だからこそ、普段は戯けている彼女たちも真剣そのものだ。
「作戦の進行については事前に共有した通りである。我々が目指す推定発信源区域に至るまでは三つの壁がある。第13地区ネスト外縁部の監視塔、骸の大壁、そして旧軍港――これらを突破しつつ、周囲に気を配り、怪電波を見つけなければならない」
動員する人員は〈鉄喰らう狼〉の三割に達する。拠点防衛の任に就く留守番組だけでなく、現在は別の長期間任務に当たっている人員や基地内で働く後方支援人員も数に入れたものであり、稼働できる戦闘員に限れば過半数以上だ。
総力戦と言ってもよい規模の人員投入が、今回の作戦の危険度を物語っていた。
「我らの惑星の奪還のため、必ずや勝利を」
「おおおおっ!」
アメリの声に剛声が応える。
一度はこの地上で繁栄した人類が、再び返り咲くために。赤く錆びついた鉄屑を剥がし、栄えある未来を奪還するために。忘れかけられていた宿願を拳に掲げ、狼たちが猛々しく吠える。
「――カイ君」
作戦が始まる。屈強な女軍人たちがそれぞれに散っていくなか、青年の肩が叩かれる。銀髪の鋭利な美女が、彼を見下ろしていた。
「第一機甲部隊には危険を強いることになる。でも、君はまだ――」
「行かせてくださいよ、指揮官」
壇上で威風堂々と胸を張っていた姿とは一転して弱さの見えるアメリの言葉を、カイは微笑で遮る。
「監視塔を抜けるには、今の人数が必要最低限だ。俺たちに余裕はないし、新参だからといって後ろに控えているほど臆病じゃない」
「……そうね。ごめんなさい、失言だったわ」
確かにカイは新参だ。二週間鍛えたとて肉体的に女性に勝るはずもない。しかし、第一機甲部隊に籍を置いているのはコネや贔屓によるものではないと証明しなければならない。
「こんな千載一遇のチャンスにビビってるようじゃ男じゃないだろ?」
「ふふっ。頼もしいわね、カイ君は」
おそらくアメリには珍妙な言葉に聞こえているはずだ。思わず吹き出して慌てて
謝罪する彼女に、カイは頷く。男であろうと、女であろうと、関係ない。
「じゃあ行ってくる。のんびり追いついてくれればいいさ」
とても上官に向けた言葉遣いでも態度でもないが、それが自信の現れでもあった。
カイはユーリたちが向かう方、己の愛機が停まっている方へと走り出した。
『マスター、すでに機体の準備はできておりますよ』
「よし。早速だな」
ずらりと並ぶランナーの一軍に、新たに加わった白銀の機体。側面に翼が描かれ神々しいほどによく目立つ。しかし、カイも最初は気恥ずかしかったそれが、今では誇りになっていた。
ハルがコクピットに備えられたソケットへと身を納め、機体と接続する。システムを汎用支援AIが掌握し、薫るブルーブラストの炎を制御する。ラダーを駆け上ったカイが、身に馴染んだチェアに体重を預け、ベルトで固定していく。
「シルバーフェザー、準備完了」
「よーし! じゃあいよいよ出発だね!」
第一機甲部隊のリーダーは"コバルトレイン"のユーリ。二番機"レッドギャロップ"、三番機"イエロークラウド"、そして四番機の"シルバーフェザー"が続く。隊長機を先頭にして、四機は地上員の誘導にしたがって進む。
第13地区ネスト最初の関門である監視塔は、以前のような少人数での隠密行動であればある程度見逃される。だが、今回のような数百人規模ともなれば話は変わってくる。監視塔が脅威と見做せば即座にネスト各地の大型スラッグに報され、怪物たちが集結してしまう。
それを避けるためには、監視塔が警報を発する前に迅速に無力化する必要があった。その切込隊長を任されるのが第一機甲部隊だ。
「第一、第二カタパルト、いつでもいけます」
「コバルトレイン、レッドギャロップ、接続完了」
肝心なのは迅速であること。監視塔が反応する前に無力化しなければならない。
カイは初めてユーリと出会った時を思い出す。あの時彼女は空から落ちてきた。コバルトレインには飛行能力はないはずなのに。
地響きを起こしながら立ち上がる、巨大な鉄の道。まっすぐにレールが引かれ、その際端部に蒼のランナーが固定されている。
超長距離に向けてランナーを届けるために使用されるカタパルトであった。
「じゃあカイ君、先に行ってるね」
通信機越しに楽しげな声。
オペレーターたちの忙しない指差喚呼が続き、空に向かう鉄橋が照準を合わせる。
「第一カタパルト、射出」
次の瞬間、コバルトレインの尾部に増設された推進機が爆音と業火を発した。