レッドラスト〜屈強な女軍人ばかりの流刑惑星に放り込まれたが無事に生き残れるだろうか〜 作:ベニサンゴ
白銀の機体が大地を刻む。赤い土煙を舞い上げながら走る。顎を打ち鳴らし前に立ちはだかったテレアントを、長く鋭利な前腕が吹き飛ばした。
「ブレードの調子も良さそうだな!」
『油断なさらず。次々来ますよ』
シルバーフェザーの八本ある機械脚のうち、前方の二本は他より長く先端に刃が付いている。主砲や副兵装の機関砲だけでは追いつかないほどの連戦と至近距離まで迫られる近接戦において、ブレードは標準的な拡張武装であった。
カイは己の腕の延長と思えるほどに馴染んだ機体を軽やかに駆り、次々と飛びついてくるテレアントを振り落とす。周囲に機関砲の大口径弾をばら撒きながら目まぐるしく動き続ける。一度でも止まって仕舞えば周囲に蠢くスラッグに呑まれてしまうだろう。
「グレネード投げるよ!」
「ハル、遮光フィルター!」
『イエッサー』
キャノピーの外が白に染まる。
爆音と高熱の奔流が周囲に渦巻き、スラッグを一網打尽にしてみせる。
「助かった、トリス」
「ふふっ。先に行ってるから気を付けて着いてきてねぇ」
包囲されかけていたカイを助け、偉ぶることもなく駆け抜けていく真紅のランナー。副長機はそのカラーリングだけでなく形状にも大きな特徴があった。
「ユーリ、正面から突っ込んでくるわぁ」
「はいはーい!」
獅子奮迅の活躍を見せるコバルトレインを一瞥し、レッドギャロップがターボを発動させる。機体後部の増設リアクターがうなりを上げて、急激に出力を上昇させた。
おっとりと穏やかなトリスの印象とは裏腹に、レッドギャロップは攻撃的な外観だ。コクピットの先端には鋭利に尖った長い杭が備えられ。前面のみ装甲を分厚く増設している。
「
透き通るような声と共に、赤い駿馬が走り出す岩を蹴り砕き高らかに馬蹄の響きを奏でながら、敵陣の中央に突っ込んでいく。当然の如く進路を阻もうと断ちふさ上がったキャリッジスレーターの横腹を、鋭利な槍の穂先が貫いた。
「はああああああっ!」
メリメリと音を立て鋼鉄が貫かれる。ランナーの主砲さえも退けるほど堅固な鎧を、速度を乗せて叩きつけた槍が食い破っていた。
「相変わらずのバカ突進ネ」
「あれ、コクピットもめっちゃ揺れるから嫌いなんだよね。よくやるよ」
爆発するキャリッジスレーターを踏み潰して更に群れを蹴散らすレッドギャロップを、昔馴染みの仲間達は呆れ半分に見届ける。いくらランナーが機動力に秀でるとはいえ、その分装甲は薄い。当たりどころが悪ければ、一撃で行動不能になってもおかしくはない。そうならないのは、トリスの卓越した操縦技術と心臓に剛毛が生えたような胆力故である。
トリスがこじ開けた穴に、ユーリとイェンがすかさず主砲を叩きこむ。下手に狙いが甘ければレッドギャロップまで巻き込むようなギリギリの間合いだが、彼女たちの動きに恐れはなかった。これまでも幾度となく三人でこの動きを続けてきた信頼がそこに見える。
「カイ君!」
「まかせろ!」
そこに新たに加わった若いパイロットも、すでに実績を積み上げてきた。侮られることはなく、無理強いされることもない。爆煙の消えぬ中へと飛び込んだ白銀の翼が、迫り来るブレイズエッジマンティスをナイフで切り裂く。
激しい剣戟を響かせながら、シルバーフェザーは巧に両腕の刃を翻す。次々と迫る敵を的確に切り伏せ、食い込んだ敵地のなかに自陣を構築していく。
「近接戦闘は上手いもんだね、カイ君!」
「第三部隊のゴリラ共とも気が合いそうダヨ」
カイの戦闘スタイルは敵に肉薄して確実に破壊する過激なものだった。当初こそユーリたちからは非難轟々だったが、彼の反応速度には目を見張るものがあった。速度を重視してチューニングを施した機体もあいまって、彼の剣技は鮮やかに冴え渡っている。
「後ろは任せテ。まずは塔をぶっ倒すヨ」
イエロークラウドが背中に増設した拡張武装のグレネードランチャから、次々と弾を撃ち出す。ランナーのサイズに合わせて巨大化したグレネードが立て続けに爆発し、周辺一帯のスラッグを一網打尽にしてみせた。
イェンの駆る黄色い機体は八本の脚が異常に長い。拡張された脚は高さを生み、イエロークラウドは高所からの射撃で一方的に敵を蹴散らすことができるのだ。無論、スラッグもただ猛進するだけではない。その脚こそが弱点と見抜き襲いかかってくる。
「そんな甘噛みで折れるワケないヨ!」
しかし太く頑丈に補強された脚はもはや棍棒である。軽くイエロークラウドが足踏みするだけで、そこに集まったスラッグは瞬く間に擦り潰される。
レッドギャロップが活路を開き、シルバーフェザーが傷を押し広げ、イエロークラウドが雑兵を散らす。息のあった連携が、彼女たちの戦いを安定させる。絶え間ない敵の猛攻を凌ぎながら、目標へと近づいていく。
「ユーリ、行けるか!?」
「――よし、間合いに入ったよ!」
そして、切り札が動き出す。
監視塔の間際まで迫った部隊から、蒼の輝きが飛び出す。前に突き出された腕の先端から、白い鋼鉄糸が放たれていた。
それは塔に絡みつき、硬く固定される。強力な牽引機が動き出し、コバルトレインは勢いよく塔の壁面を駆け上る。
「うおりゃあああああっ!」
キャプチャービーの自爆特攻も掻い潜り、塔の頂点を目指す。その中にスラッグたちを統括するリーダーが潜んでいるのだ。
「爆殺じゃいっ!」
ガゴン、とコバルトレインの主砲の先端が塔の中へと突っ込まれる。
次の瞬間、ゼロ距離の砲撃が塔の内部をことごとく破壊した。