過労死ライン越え(TS)転生者 キャロライン・オーバーは労働の待つ輪廻から解脱したい 作:エテンジオール
こわーい高位貴族様に見られて、思わずお水ちょろちょろしちゃいそうなキャリーよ!多分普通の7歳児ならお粗相してる。とっても怖いもの。
別室に連行されて、その場で聞いた話によると、やっぱり厳しいお顔の紳士はお偉いさんだった。この領地を支配する公爵様ご本人ですって。本当にお父上の上の上じゃんね。
さて、そんなお偉いさんに呼び出されて、どんな話をされるのかしら。来てすぐ挨拶出来なくてごめんね!オーバー男爵君、元気?なんて気さくな挨拶であれば、安心できることこの上ないのだが、違うだろうな。そんな気さくな人ならこんないかめしい表情はしないだろう。……生まれつきこんな顔?ごめんて。悪気はないのよ。
なんて、いつも通り頭の中で現実逃避をしながら、公爵様が話し始めるのを待つ。偉ければ偉いだけ、肩に背負ってるものの分、口も重くなるのかしらね。キャリーの口と、頭の軽さを見習ってほしいくらいだわ。
「オーバー卿。この場に呼ばれた理由はわかるか?」
なんでお母さんが怒ってるかわかる!?みたいな感じで、重い口を開く公爵。ちょっとボロ儲けしすぎたせいね。そして、一男爵家には過剰なお金を得た上で、満足して帰らずにまたやってきた。
確率論的に考えて、偶然の一言で受け入れられるようなものではない。約4×10の-8乗だからね。そりゃあ、お姉さんだってひっくり返る。
もちろん、走竜によってオッズの大小、人気の有無があるから、勝ちやすさ等もある。その辺を踏まえれば、単純な確率計算よりはだいぶ大人しい数字にはなるだろうが、それでも二連続で当たるようなものではない。
だからこそ、公爵は怪しんだのだろう。普通なら起こりえないことが起きるのは、なにかの異常がある証。賭け事の元締めとして、そんなものを野放しにしておけるはずがない。もし放っておく元締がいるのなら、そいつはとびっきりの無能だ。
状況的に考えて、お父上が俺が何かしらの干渉をした。そう考えるのが妥当だ。普通ならそんなことはできないが、この世界には魔法なんて素敵パワーがあるのだ。俺にはまともに使えないが。
昨日大勝ちした時点で、怪しまれることはわかっていた。こうして口を出されるのが翌日か、あるいは領地に帰った後になるかは読めなかったが、これが想定の範囲内である以上、慌てる必要はないのである。
だって、俺に与えられた力がバレるわけないのだから。どれだけあやしかろうと、不正の証拠が見つからなければ、罰せられることはない。大勝した相手から証拠もなくお金を没収する胴元なんて、誰からも信頼されなくなるからだ。
よって、プルプルしているお父上には悪いが、怖がる必要など何もないのである。イカサマや八百長なんかをやっているのであれば危機的な状況でも、俺にとってはそうではない。未来を見ていることに対する確信なんて、周囲からもたれるはずがないのだから。
内心に余裕を持ちながらお父上と公爵との会話を聞いて、聞かれたことに対して答えていく。ズルはしていない。八百長もしていない。ただ、これを選べばいいと思ったから選んで、それが当たっただけ。
「なるほど、キャロライン嬢は、なかなかに優れた直感を持っているらしい。それではその直感が真か、確かめさせてもらおう」
疑いを隠さない公爵の指示で持ってこられたのは、均一に切り分けられたカード。俺がお父上の説得に使ったものよりも立派ではあるが、やろうとしていることは一緒だろう。案の定、公爵からは数字を当てるようにと命じられて、俺はそのまま言うことを聞く。
「素晴らしい直感だ。本当に、素晴らしすぎる直感だ。未来でも見えているのかと思うくらいだな」
えへへ、そんなに褒められても、当たり番号くらいしか出ませんよ。なんて頭の中で照れながら、次の確認を待つ。
トランプのようなカードの次の数字が、今の場に出ている数字より大きいか小さいかを当てるゲーム。対戦相手は公爵様自身がやってくれるらしく、一枚めくって答えるように導かれる。
場のカードは4。大きいと回答して、心臓は止まらない。8。小さいと回答して、止まらない。2。大きいと回答して、心停止。小さいと回答して、1。大きいと回答して、7。
走竜さんの順番を決めるよりも、ずっと簡単な遊びだった。数字を並び替えるよりも、もっと簡単だった。次の数として大きいと答えて、心停止。5が出てくる。小さいと答えて心停止し、8が出てくる。
その瞬間、おかしいことに気がついた。だって、大きいで外れた以上次は小さいになるはずだから。未来は決まっていて、この力があれば簡単にそれを先取りできるのだ。にもかかわらず、今この瞬間、どちらを選んでもやり直しという現実がある。もちろん、選んだ数字と元のそれが一緒だからどちらもハズレ!なんてオチではない。
何度か繰り返して、症状が変わらないことに気がつく。大きいと答えれば5、そして小さいと答えれば8。 そしてその原因は、どちらを回答するかで、公爵がカードを選ぶ位置が変わっている。大なら上から、小なら下から、と言った調子だ。
「ふむ、キャロライン嬢。君の“直感”のことがわかったよ。次はそうだな、この言葉を繰り返してくれ」
何度も心停止を繰り返しながら、ようやくその事がわかって、俺は答えることができなかった。どちらを答えても、心臓が止まることがわかってしまったから。
公爵の選ぶ方向を先に指定出来れば、当てることは叶うだろう。けれど、そこまでするのは果たして“直感”の説明で済む話なのかと考えて、すぐに答えることができなかった。公爵はその様子を見て、なにか納得したように次の“余興”を提案した。
私の名前はキャロライン・オーバー。言えた。コンスタンティン・オーバーとヘレーネ・オーバーの娘。言えた。私は八百長やイカサマをしていない。言えた。私は自分の力で走竜レースを当てた。言えた。キャロライン・オーバーは男である。言えなかった。
「繰り返せないか?言葉にするだけの簡単なことだろうに」
愉快そうに、公爵は口角を上げる。望んでいた結果を得た、研究者のような表情。
「キャロライン嬢。君の口は、真実以外を表すことができないな?」
否定の言葉は出せなかった。沈黙は肯定で、お父上は置物だった。
「念の為、聞き方を変えよう。キャロライン嬢。君の口は、嘘をつくことが許されるな?
5秒経った。心臓が止まった。5秒経った。心臓が止まった。いいえ、と答えた。答えるしか、なかった。
「実に面白い“直感”だな。先のカード遊びとこの一文を混ぜたらどうなるのか、興味は尽きないところだが、今はいい。ひとつアドバイスをするが、その“直感”教会関係者にはバレぬようにせよ」
いやに、具体的なアドバイスだった。この人が“検証”を続けようとしたら、きっと俺はどちらを答えても嘘になるような袋小路に閉じ込められていたのだろう。そこまで示した上での、バレるなという言葉には、それだけの重みがあった。
正直に言えば、恐ろしかった。直前まで安全圏にいると思っていたのに、突然ターゲットにされたから。しかも、バレるべきではない秘密を探られてしまったから。俺の口が、権力者にとって喉から手が出るほどほしいものだとわかっていて、その権力者自身に当てられたから。お父上に抱えられながら、魔獣から逃げた時以上の恐怖心が、俺の中にはあった。
あったから、諦めて喋ることにした。声に出して説明することで、投了の意志を示した。公爵は満足そうに頷き、お父上は困惑しっぱなしだった。そりゃあ、いつも甘えん坊なキャリーが突然理路整然と話し出したんだ。驚くのも当然である。
そして、自分の言葉で喋り終えた瞬間に、俺の心臓は止まる。戻ってきたのは、ルーカス先生が出ていった直後の執務室。安心できる、オーバー男爵家のお屋敷だ。やっぱり我が家がいちばんだなーなんて考えながら、無事に戻って来れたことに一安心。多分大丈夫だと思っていたけれど、実際にやってみるまでは少し心配だったのだ。
戻ってくることができたのは、俺がお父上とした、むやみやたらと秘密を話さない、という約束が破られたことによるもの。言いふらさない、という約束は、お父上だけでなく俺にも適用されるのだ。そして、公爵様に詰められていたあの場には、俺たちだけでなく数名の護衛と、恐らく視界に入らない位置の控えがいた。
そんな中で秘密を喋ったら、当然バレちゃうよね。約束、守れなくなっちゃうよね。だから嘘つき判定になって、このタイミングに戻って来れたのである。とっても危なかった。公爵が俺とお父上と三人きりだったら、この手は使えなかった。……“誰にも言わない”にしておけば大丈夫だったんじゃないかって?お父上はそれでもいいけど、俺の方がダメになっちゃうからね。今後、秘密を打ち明ける機会はいくらでもあるだろうし。
お父上にはもう一度同じ約束をして、同じものを見せる。この時間に戻ってきたということは、つまりせっかく稼いだお金は全てなくなっているということだから。公爵様の鋭さと頭の回転の速さ、ついでに恐ろしさはよくわかったから、なるべく近寄らないようにしなくちゃね。
パパ、キャリーは王都に行きたいの!せっかくなら、国の中心を見てみたいのだわ!とアピールすることで、公爵領を避けつつ次のギャンブルを確保。王都は遠い?お金がかかる?大丈夫、キャリーが稼いで何とかするわ。大舟に乗ったつもりで信頼してくれていいのよ!
大丈夫!上手くいくから!とお父上を押し切って、王都行きの切符を手に入れる。念の為に言うが、ギャンブルにハマったわけではない。わかりきってる結果を当てるだけなんて、脳汁の一滴も出やしないからね。絶対当たるギャンブルなんてクソだ!と叫んでいたかつての友人は、おそらくこのことを言っていたのだろう。欠片ほども、楽しいとは思わなかった。
……公爵様、怖かったな。情報与えないまま逃げ切れて、本当に良かった。
公爵様は途中から、カードをどちらから出すか選ぶようにしました。すると途端に、キャリーちゃんは答えなくなったのです。不思議に思った公爵様はキャリーちゃんの“直感”の正体におおよその検討がつきました。
心を読む!とかを避けるために、公爵様は次のカードを知らないまま遊んでます。こわいね(╹◡╹)