過労死ライン越え(TS)転生者 キャロライン・オーバーは労働の待つ輪廻から解脱したい   作:エテンジオール

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 保険のため、【鬱展開あり】【胸糞注意】の二名をタグにお迎えしました。(後者に)役目があるかは今のところわかりません(╹◡╹)

 苦手な方はごめんなさい。


ゲームちゃんとの関係性改善大作戦

 最近、ゲームちゃんが冷たい。

 

 どうも、魔法使いの出来損ないにして、モルモット界の大天才ことキャリーです。自身の状態変化や体調について自発的にほうれん草できて、さらにメモや論文の下読みまでできるのだから、最近のモルモットはすごいな。

 

 ルーカス先生の書くメモに引っ張られ、最近自認がモルモットになっていることに危機感を覚えます。多分個人情報保護の観点だと思うが、メモにはキャリーの名前ではなく被検体1と記載されているのだ。うん、2とか3が今後現れる前提の書き方だね。やっぱりキャリーはモルモットもる。

 

 そんな、俺の自認のことは置いておくとして、最近ゲームちゃんが冷たい。以前までは、お菓子を持って歩いていると強請って来たり、その辺をぷらぷらしていると、出来損ない〜♡って声をかけてくれたのに、近頃全くないのだ。……むしろ無視される現状の方が暖かい扱い?バカ言っちゃあいけない。キャリーはゲームちゃんとのコミュニケーションに飢えているのだ。例え罵声でも構わない。

 

 理由を少し考えて、先生のせいだなと結論をつける。これまで、尊敬する先生から出来損ないのクソ無能、生きる価値無し。生まれてきたことが憐れでならないと教わっていたはずの姉が、いつの間にかその先生と仲良くなっているのだ。ゲームちゃんが困惑するのも当然である。実際、先生の前で俺に出来損ないっ!って叫んでやんわり窘められてたこともあるからね。

 

 立派なクソガキに育って、けれどもそれをぶつけることができなくなったゲームちゃん。とっても可哀想でかわいいね。子供なんてものは、ちょっと生意気に育っているくらいがちょうどいい。かつて職を失う前の父に口答えした時、言われた言葉を俺は気に入っていた。ちょっと生意気を言えるくらいが、程よく信頼関係を築けているということなのだとか。……そんな素敵な言葉を残した前父への信頼?有り金毟られた時になくなったよ。

 

 ともあれ、そんな経緯で、俺は姉に辛辣なゲームちゃんのことを嫌っていなかった。手放しにかわいい!って言い切れるほどのかわいげはなくとも、十分にかわいい妹だ。労働の対価である貴重なお菓子を分け与えるのには躊躇があっても、かわいいことに変わりはない。何より、俺はこの子が純粋な目でねーたまねーたまと着いてきた頃のことを覚えているのだ。多少差別主義者に育ったところで、嫌いになれるはずがない。

 

「ゲーム、最近なんだか様子がおかしいけど、何か嫌なことでもあったの?」

 

「うっさい。あんたには関係ないでしょ」

 

 なので、たまにはお姉ちゃんっぽいところを見せちゃおうかな、と相談に乗ろうとしたところ、あえなく撃沈。俺にとってはまだまだかわいい妹でも、向こうから見たらいつも見下している出来損ないの姉。そんな相手が話しかけたところで、素直に相談なんてするはずがない。俺としたことが、とんだ見落としだ。

 

「家族だもの。心配くらいするよ。お姉ちゃんに言いにくいことだったら、ママでもパパでもいいから、相談してほしいの」

 

「しつこい!出来損ないと話すことなんて何もないから黙っててよ!」

 

 そもそも相談とか言うなら手を光らせるのやめろ!ともっともなツッコミを受けながら、振られたキャリーは引き下がる。……おててぼんやりは仕方がないでしょ。先生からいつ何時もやめるなって言われてるんだもん。そりゃあ、赤と橙を交互に替えてたのは不真面目に見えたかもだけど。

 

 ゲームちゃんに逃げられて、どうしたものかと考える。罵倒の少なさとそのキレのなさから、あの子が何かしらの悩みを抱えているのは明白だ。この出来損ない、伊達に3年ほど罵られているわけではないのである。

 

 その理由が先生であることまでは何となくわかっているので、出来ればこの機会に関係を改善したいのだ。俺はクソ生意気なゲームちゃんも愛せるが、素直でかわいいゲームちゃんの方がもっと愛せるから。

 

「弟子と関係性を改善したい?それはなにか、検証に役立つのか?」

 

 人選ミスかもなーと思いながら、とりあえず相談してみたのはルーカス先生。ゲームがこよなく尊敬するこの人であれば、何かあの子の心をくすぐる案を思いつかないかと、淡い期待を胸に質問したが、結果はこれだ。無表情貫通して困惑が浮かんでいるあたり、心の底から理解できていないのだろう。

 

 この差別主義者に期待した俺が間違いだった!と頭の中で吐き捨てるように反省しながら、最有力心当たりであるお母様の元に向かおうとしたところ、先生から頭をむんずと掴まれる。大人の大きなお手てなら、キャリーの頭を固定するのに一つだけで十分だった。

 

 歩行中にされたことで相対的に重心が後ろに倒れ、転びそうになったところで襟首を後ろから掴まれて支えられる。安い服の硬い生地で首がきゅっと締まり、ぐぇっ、と淑女らしからぬ無様な声が漏れた。

 

「どこに行こうとしている。今週の分の測定がまだ済んでいないだろう」

 

 こちらの都合を一切考慮してくれない、先生の素敵な宣言によって、俺は拘束された。ちょっと態度が優しくなったから勘違いしてしまったが、所詮この人にとって俺はモルモット。そのことをもっと、自覚しながら生きていこうと思う。

 

 

 

「そうねぇ、お母さんも、二人の関係を良くできないか考えることはあるのだけど、ゲームの気持ちが難しいみたいなの」

 

 真っ暗な密室での密会()を済ませてからママ上の元に向かうと、柔らかい空気で受け入れて貰えた。ついでに“最近ゲームが冷たい”という相談に対しては、あの子が冷たいのはずっとでしょう。むしろこの子、気付いていなかったの!?といった驚きを見せてくれる。ママ上、びっくりした顔もかわいいね。……こんなに綺麗でかわいいから邪智暴虐の種馬に狙われ続けるんだな。

 

“それとも、10歳の子にとって三年って最近なのかしら……?”と困惑から抜けきれていないお母様に、ちょっと前までは顔を合わせる度に出来損ない〜♡って声をかけてくれたのに、最近それすらないの!と伝えると、ママ上は我が子の精神状態を心配するような表情になった。どんな表情だよ。

 

「あの子、まだそんな口の利き方してたのね……。てっきりもうやめたものだと思っていたのに」

 

 お母様いわく、言っているのを見た時に注意をしたことはあったらしい。それ以降、少なくともママ上やお父上の前では言っていなかったから、反省してやめたものだと思っていたと。……そういえば、先生以外の前ではキャリーって呼び捨てにされていた気がするな。

 

 図らずも告げ口のような形になってしまったことで、珍しくお怒りモードなお母様を眺めながら、最有力候補も無力だったことを内心嘆く。関係性改善に努めるのが少し遅すぎたのかしらね。あの子が差別主義、魔法至上主義に染まる前に手を打てていれば、もっとすんなりいった気もする。うーん、転生者らしからぬミスプだ。こいつらいつも失敗してるよな。きっと成功できるような徳の高い人間は転生なんてしないのだろう。

 

 なお、まだ幼いレンジは力不足がわかりきっているから相談対象にはならない。……お父上?彼は優柔不断なタイプの子煩悩だから、相談しても役に立たないよ。ほんのり匂わせても改善できなかった実績ありだ。

 

 そうやって、ただゲームちゃんへのお説教が決まっただけの相談を終えて、なんかやるせない気持ちになりながらおててを光らせつつ晩御飯を待っていると、しばらくして家の中が騒がしくなったことに気がつく。いつもの、晩御飯前の賑やかさではなく、騒がしい。

 

 部屋を出て状況把握に務めると、ゲームちゃんがいなくなったらしい。部屋におらず、居間にもおらず、当然お母様のお部屋にもいない。それなりに広いとは言え、複数人でさがせばすぐに網羅できてしまう家の中の、どこを探してもゲームは見つからなかった。

 

 そうなると自然、いる可能性があるのは別邸か、家の外。たとえ夜中でも、ゲームは外出を許されているが、それはあくまで目的地がわかっていて、かつ事前に相談している場合。たとえ天才とはいえ、年齢一桁の子供が勝手に出歩いていいほど、この世界の治安は良くない。

 

 両親が、使用人が、何故かご相伴にあずかる気満々だったルーカス先生が、総動員で家を出てゲームを探しに行く。当然、俺も一緒に行くと主張して、危ないからダメだと止められる。天才少女でも危ないから探しに行くような環境に、クソ無能の出来損ないを連れていくような余裕は、ない。

 

 わかりきったことだった。自分が、戦力取り柄ないことくらい。俺にできることなんて、みんなの無事を祈りながらレンジとお留守番していることだけ。治安が悪い家に子供二人置いていく方が危険じゃないか、という俺の主張には、縄張り意識が強い魔獣が、明確な人の住処に対して攻撃を仕掛けることは少ない。と返された。

 

 そのはずなのに、気を紛らわせるためレンジにお勉強を教えながら待っていると、突然大きな音が聞こえる。レンジにじっとしているように伝えて様子を見に行くと、誰もいないはずの家の中から、聞こえるなにかの息遣い。

 

 燭台とぼんやりおててで最低限の視界を確保しながら、少し歩いた先で目が合ったのは、キャリーより頭一つ分低い位置の、二つの目。ロウソクの明かりに照らされた体の模様は、火の色のせいで判別が難しいが、野外に溶け込める迷彩模様。

 

 飛びかかってきた大きなお口に首を噛み付かれて、声も出せずに倒れ込む。自分の血の匂いに混ざる、生臭い吐息と獣の匂い。意識がなくなる直前に、視界に映った片耳には、小さな穴が空いていた。

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