過労死ライン越え(TS)転生者 キャロライン・オーバーは労働の待つ輪廻から解脱したい 作:エテンジオール
内容
キャリーが妹ちゃんから罵倒された期間
5年→3年
修正日時
26年9月17日 19:48
理由
該当話におけるキャリーの年齢(10歳)より、5年前は5歳。姉妹の歳の差2歳を考慮すると、妹ちゃんは3歳(ねーたま!と呼んでいた頃)からキャリーを出来損ない扱いする差別主義者だったことになってしまうため。妹ちゃんが先生の色に染められたのは5歳頃になります。
一度、冷静になって考える。心臓が止まって、この時間に戻ってきたということは、つまりこの瞬間から動けばゲームの死に間に合うということ。これは、先程レンジで確認した前提からして間違いない。
先程までの繰り返しより、このタイミング自体は狼の対処をするために選ばれている、と考えるのが無難だ。もっと前に分岐点があればそのタイミングまで戻されるはずだし、後ろであれば鬼ごっこの途中に戻ったっていい。そうでない以上、俺が今するべきなのは可能な限り早く狼を撃退して、その足でゲームを助けること。
そして、普通に考えてゲームがやられるような相手を前に、俺が立ち向かえるはずがない。あの子は生意気でも、あのルーカス先生が認める天才だ。ひとりで出歩く許可だってとっている。であれば、この“助ける”というのは、正確には“助けを呼ぶ”になるだろう。俺の力でゲームの居場所を突き止めて、そこに助っ人となるルーカス先生を連れていく。なんだ。言葉にしてしまえば単純じゃないか。その前提に俺が狼に勝つ、とあるのを除けば。
前回の鬼ごっこで小一時間誰も帰ってこなかったことから、誰かが助けに来るまで待つことは現実的ではない。それが来るよりも、時間切れが来るほうが早いから。そうなると自然、逃げる、生き延びることではなく倒すことに思考をシフトする必要がある。
気を引くために投げるナイフと、メイン装備である短剣はマストなので回収して、そこから先を考える。足を一本奪うだけでも大金星だった俺が、そこから更にトドメまで刺す方法。手負いになった獣から、如何にして攻撃手段を奪っていくか。
妹ではなく遊びの方のゲームっぽく考えれば、今の状況はレベルと装備で戦うタイプのソウルライクゲーで、全裸初期武器レベル1縛りをしているようなもの。……それなら慣れればできる?短剣もいらない?素手でいけ?あのね、ゲームならともかく、現実には武器の磨耗ってものがあるの。キャリーがすでで挑んだら、狼の絶命より先にこのかわいらしいぼんやりおててが生ゴミになるよ。
これから待っている地獄のループから気をそらすために、そんな取り止めのないことを考えているうちに準備は終わり、再び対峙するのは狼さん。いい加減見飽きてきたな。恐怖も弱くなってきたのは、きっと感覚の磨耗によるものだろうか。
向き合って、出鼻をくじくために左手のナイフを投擲。ハズレ。左後ろ足のに力が込められたのを確認して、ジャンプと同時に右に避ける。距離が足りずに腕を牙がかすって、心停止。もう少し大きく避けることで、十分なマージンを確保しながら回避。怪我はない。
避けながら短剣を走らせることで僅かに傷をつけ、ヘイト管理をする。筋力不足、体表を滑らせる体毛が相まって、実に浅い。僅かに血が滲んで見える程度だ。非力なこの身が恨めしいが、筋力と魔法の才能は求めたって仕方がない。ないものはないのだ。
ヘイト管理も何も、最初から俺に首ったけじゃん!キャリー、モテモテでつらい!と思考の余白をいらないものに埋められながら、噛みつきに合わせてナイフを口内にプレゼント。おててごと召し上がられて、心停止。少し早めに手を離す。オオカミが悲鳴をあげて、口の中をペッてした。吐き出されたナイフには粘性のある唾液と、赤い汚れが着いている。へー、魔獣も血の色は赤いんだね。知ってた。
どうせならそのまま脳貫通して死んじゃえばよかったのにと思いながら、赤が混ざるようになった唾液を見る。多少、別の体液によりかさ増しされているとはいえ、体毛に保護されている箇所より明らかに出血量が多い。当然と言えば当然だ。この狼が俺の知る狼と類似の生物だと仮定すれば、所詮は哺乳類で動物。
頑丈な体の相手に対して、一番攻撃が通りやすいのは、粘膜がむき出しの箇所だと、一寸法師も言っている。俺は残念ながら140cmほどあるため、真似して胃の中に収まることはできないが、似たようなことはできる。例えばさっきみたいな口の中とか、むき出しの眼球とか、あるいは向きを180度変えて肛門とか。……狼さんおしりみーせて!って言って素直に差し出してくれるような開発済み狼だったら楽だったのかもしれないが、無理だね。仮にできたとしても、狼の排泄器官に愛用の短剣を突っ込むのは嫌だ。
なんて考えているうちに飛びかかられて組み伏せられる。そのままガブリで一心停止。みんな大好きおねロリで股下を潜りながら足を切ろうとして、うっかり自分を切って心停止。今まででいちばん無様な心停止ではなかろうか。
そんな、狼君との心温まる交流を続けることしばらく。何とか瀕死になるまで追い詰めて、とどめを刺すために近寄ったところをガブリ。先程までであれば避けられる挙動にも関わらず、かわせなかったのは疲労によるものか。元気と無尽蔵の体力に溢れる10歳ボディではあっても、限界というものは来るらしい。噛みつかれる前提で近寄って、まん丸綺麗なお目目に狙いをつけてぶすり。短剣とはいえ、目から入れて脳をグリグリ混ぜれるくらいの長さはあるのだ。
すぐ目の前で力を失った狼の体を前に、これが達成感!と感動しながら乱れに乱れた呼吸を整える。頑張ったよ、俺。めちゃくちゃ頑張った。レンジは無事だし、キャリーの体にも傷一つ付いていない。ついたらやり直しだからね。当然だ。
動物愛護の精神とかないんですか?とやかましいことをほざく脳内を黙らせながら、血と汗と涙と諸々で汚れた体を、水を被ることで誤魔化す。愛護の精神なんて、身の安全が保証された状態で初めて芽生えるんだよ。襲ってくる動物百匹の命と人間一人の命なら、俺は迷わず後者を選ぶ。その一人が自分なら尚更だ。……ところで、これから俺はゲームちゃんの保護をしなければいけないらしいね。これが前哨戦って本気?
襲われた以上、家の中も安全じゃない!とレンジに言い聞かせて、頼りになる大人を見つけるとの名目で連れ出す。少なくとも今回の狼が狙っていたのはレンジではなくキャリーだったことから、置いていけば弟の安全だけは確保できるのだろうが、少なくとも先生とゲームの居場所を確定させるまで、誰かが必要だった。
「ゲームはこっちの方向にいる」
心停止。心停止。心停止。指を指すことで具体的な方向の指定になっていることに気がついて、あっちの方!と範囲を緩める。それから狭めることで、具体的な方向を確保。
続いてルーカス先生。ゲームとおなじ手法で方向を突き止めて、家を基準とした方角がそれなりに離れていることに絶望。すぐ近くにいてくれれば良かったのに、これでは誘導にも時間がかかる。
まずは敵を知るため、ゲームの元へ。片手の二進数では数えられないくらいの心停止を繰り返しながらたどり着いた先には、ペソペソ泣きべそをかいたゲームの姿。この時点では、まだ周囲に危険は見えない。
見つけた小さい体を抱きしめて、一緒に帰ろうと伝える。まだ危険がないのであれば、一緒に帰るだけで俺の役目は終わりだ。そうであるに、こしたことはない。レンジの前で方向当てや戦闘などを見せてしまったのは、今後の秘密を考えると少し痛いが、妹と自身の安全には変えられない。
迷子になったのがよっぽど怖かったのか、素直に後ろを着いてくるゲームに、純真無垢だったかつての姿を重ねながら誘導。二分ほど歩いたところで、なにか大きな生き物がいることに気がつく。
家の近くの森の中、木々の隙間から僅かに差し込む月明かりに照らされたそれは、巨大な熊、だろうか。あんなに努力して倒した狼よりもずっと大きくて、強そうで、けれど同じように、食欲に支配された目でこちらを見てくる。
ゲームの死因はこいつだと、直感的に理解できた。諦め半分で攻撃するように伝えて、放たれたのは大きな火の玉。魔法かよ。魔法だね。キャリーが同じことしようとしても、火花がちょっと弾けるくらいなのに。
これが、この残酷なものが才能の差か。と悲しくなる暇もなく、火の中から現れたのは全くもって無傷な熊。おいおい嘘だろ、あんなの食らったらキャリーなら白骨だぞ。と思った次の瞬間、元気な熊さんにパクリと食べられて絶命。
戻った先は、お勉強中のレンジの前。セーブ地点の更新忘れてた!と思ったが、仕様を思い出してこの瞬間からじゃないと間に合わないのだと気付く。つまり、時間をかけすぎた、ということ。どうやら素晴らしき多胞体様は、俺のことをリアルRTA走者にしようとしているらしい。どうでもいいがリアルRTAって二重表現だね。日本語として美しくない。
また狼からやり直すことが確定し、工夫をこらしながらタイムを少し縮める。ポイントは調理場で香辛料を確保しておくことでした。おそらくカプサイシンを多分に含んでいる赤い粉をかけると、狼はとても苦しみながら悶える。難点は気をつけないと俺も被って心停止すること。唐辛子?目潰しって、傷判定になるんだね。鼻や目の粘膜が炎症を起こすのかな。
注意深く狼にとどめを刺して、そのままの足で向かうのはルーカス先生の場所。俺が一人……レンジと一緒に二人で行ったとしても、最大戦力のゲームが通用しない以上、餌が増えるだけだ。それなら、想定最高戦力である先生を連れていくしかない。
「キャロライン、なんのつもりでここに来た」
合流した先生が、言うことを聞かない子供を前に、お叱りの言葉を口にしようとしたのを無視して、ゲームが危険だと伝える。あっちの方に大きい熊みたいなものがいて、このままだと食べられてしまうと。
「ふむ、マーダーベアか。ありえない話だな。どうして家にいるはずのお前が、弟子に近付く危険に気付ける。神のお告げか、奇跡みたいな“直感”を持っていなければ、説明がつかない」
その“直感”でいいから、早くあの子を助けてくれ。俺はあの子を守らないといけないんだ。そう、心臓が止まらないように言葉を選びながら伝えると、ルーカス先生の雰囲気がいきなり固くなる。
「言葉と、伝え方を選べ。この状況から私がお前の言う方向に向かい、弟子を見つけたとしよう。それは直感なんて言葉で許容できるものではなく、未来予知か、視覚に寄らない広範囲索敵能力のどちらかになる。そんなものを見つけてしまったら、私は兄上、ヒンデルマン公爵に伝えねばならない」
それでもその言葉を違えないか。公爵に売られる覚悟があるか、と、先生は問う。ここまで話した以上、今更覆しても仕方がない。そう思って肯定した瞬間、俺の心臓は止まった。再び戻ったのは、勉強中のレンジの前。もう一回同じことをして、少し時間に余裕がある状態でも、同じく肯定した瞬間に心臓は止まる。
どうやら、先生に秘密を打ち明け、協力を得ることは不可能らしい。