過労死ライン越え(TS)転生者 キャロライン・オーバーは労働の待つ輪廻から解脱したい 作:エテンジオール
かわいいことくらいしか取り柄のないキャリーです。最近、あんまりかわいがってもらえていないので、自己肯定感爆下げ中です。
素敵な宣戦布告を披露してくれた無礼もn……先生の息子の名前は、ローベルトと言うらしい。初対面の日はひとまず、宣戦布告だけされて終わった。名前くらい名乗れよ。コミュニケーションの基本だろ。……出来損ないは人間擬きだから名乗らなくてもいい?俺にも人権をください。あと出来ればお休みも。
先生の検証を手伝いながら話を聞いてみると、ローベルト少年は俺より一つ年下。不肖の、と言ったのは謙譲語というわけではなく、魔法がとっても苦手、ということらしい。
試しにどのくらい苦手なのかと聞いてみると、水の魔法は弱めの蛇口、火の魔法は弱火のコンロ、光の魔法は電池が切れるちょっと前の懐中電灯くらいしか使えないとの事。魔法が苦手な平民程度の出力で、とても貴族とは思えない出来損ないらしい。完全に俺の上位互換ね。それで出来損ないなら俺はなんなんだ。……ローベルト少年は貴族の出来損ないで、キャリーは人間の出来損ないですか。つまり格が違うってことねっ!
先生の見立てでは後どのくらいでキャリーは貴族の出来損ないになれますか?と聞いてみたところ、“人の寿命はあまりに短い”と素敵な言葉。思わず天を仰いじゃった。ちがうの。人権その辺に浮いてないかなーって思って探してるだけなの。泣いてなんていないのよ。と、しょうもない嘘をついて心停止。
「キャロライン、直近での光量の推移をプロットしたところ、このタイミングだけ異常な伸びが確認された」
心当たりはあるか?と聞かれ、示されたのは、俺が狼を倒して熊から逃げた日。つまり、ずっとループを繰り返していた瞬間の、その前後である。記録ではこの日、俺は他の日の数十倍も光量が増えていたらしい。
心当たりは、あった。ないはずがない。だって俺は、あの瞬間を超えるために、何日も、何十日もかけてきたのだ。数えられていないだけで、何百日かもしれない。俺の中にしか残っていない記憶は朧気で、けれど確かなものだった。
その中の多くの時間、俺は手を光らせていた。もしこの成長が巻き戻りによって消えないのであれば、たしかに俺は数十日分の練習を行っていた。だから心当たりは確かにあるが、それを先生に伝えることはできない。一度心停止によって確定させたこの事実は、口にしても心臓が止まることはないだろうが、俺には口にできない。
「ふむ、心当たりはあると。しかしその反応を見るに、私に伝えることはできないのだろうな。“伝えたくない”のではなく“伝えられない”ものと見た。ならば、3つ答えなさい」
俺が口を閉ざしたのを見て、ルーカス先生はそう言いながら指を三本立てる。こちらが情報を与えないようにしても意味がないのだから、全く頭のいいやつの相手は嫌なものだ。話の運び方が、お兄さんそっくりである。
「一つ目、この現象に再現性はあるか」
答えはYESだ。俺が回帰するだけで、それを繰り返すだけで、簡単にこれを起こすことはできるだろう。誰にも努力の姿を見せず、その成果だけを手にすることは可能だ。
「二つ、これはおまえ以外にも起きうる現象か」
No。多胞体様の祝福があってこそ、この現象は起こりうる。俺以外に多胞体様の信徒がいないのであれば、これは他の誰にも起きない現象だ。
「最後だ。お前は、この現象を積極的に引き起こしたいと願うか」
もちろん、答えはNoである。必要だから死んでいる、起こしているだけで、俺は不要に死にたいとは思えない。必要に迫られれば、この身は俺が持ちうる中で最も軽いチップだが、そうでなければ、両親から貰ったこの体を大事にしたいのだ。
「そうか、それであれば、無理に聞くまい。しかしそれとは別に、ひとつ思いついたことがある。付き合いなさい」
秘密に踏み込まずに受け入れてくれたのは、秘密の多いモルモット的には好印象。その後の言葉は、デートへのお誘いかしら。ダメよ先生、あなたには奥さんがいて、俺はまだ女児なのよ!と振ってやろうかと思ったが、どうせ冷たくあしらわれるだけなのでやめる。キャリーはマゾではないので、わざわざ自分が傷つくだけの行為はしないのだ。
連れていかれたのは、おうちの離れ。危険なものがあるから、あまり入らないようにと言われている、先生の研究部屋である。俺が、おはようからおやすみまで先生に見守られていた部屋だね。余談だが、ローベルトくんはここに興味を持ちつつも、入らせてもらったことがないとの事。
「繰り返しによる、魔法の出力向上について、現在の魔法理論において否定的な見方が主流だ。魔法の素質は生まれつきであり、成長は起こりえないとな。しかし我々はこれまでの検証によって、これが現実に起きることを確認している」
突然二人っきりの部屋に連れ込んで、することはただの復習かしら?と思いながら何やら棚をゴソゴソ探し始めた先生の話を聞く。
「前者の主張により、昔話やおとぎ話で散見される、強大な龍を食したことで魔法が芽生えた、という現象は否定されていた。しかし私はこう思うのだ。この主張自体が誤りである以上、昔話というのはあながちバカにできないのではないか、と」
お前の異常な成長が、そのことを思いつかせてくれた。ありがとう。そういいながら振り返った先生の右手には、干からびたトカゲのミイラみたいなものがある。その前の話も相まって、なんだかとっても嫌な予感。
先生、キャリーはそれ、気のせいだと思うわ。きっとそんなことしても何も意味なんてないのよ。と、逃げるために口にした瞬間心停止。クソッタレ、意味あるのかよ。いやよ、食べたくないわ。だってとっても不味そうだもの!
「私も食ったことがあるが、間違いなく不味い。魔法の素質が高い生物はことごとく不味い。例外はない。一説によると、自らと親和しない魔力が雑味として感じられるらしい」
不味そうなミイラは不味いミイラに確定された。というか、その理屈だと先生はくっそ不味そうね。逆に人間扱いが憚られるような俺はめちゃくちゃ美味しいのではなかろうか。……ひょっとして、魔獣ちゃん達からやたらと狙われるのってそれが理由?と口にしたところ、心臓は止まらなかった。どうやら俺はご馳走らしい。
そんなことはいいからさっさと食え。そう言われて、抵抗の甲斐なくミイラを口にねじ込まれる。せめて調理してくれ、火を通してくれ、と思ったが、聞き入れられることはない。口の中には想像を絶する臭みと悪臭が広がって、けれど吐くことも許されず飲み込まされる。
口の中、胃の中に始まり、全身が気持ち悪い。ゴキブリを食わされたとて、ここまで気持ち悪くはないだろうから、おそらくこれは精神的なものではない気持ち悪さ。この野郎、なんてもの食わせやがる。幼児虐待だぞ。
「大袈裟な。確かに味は良くないが、食って食えないものでもなかろうに」
鬼畜外道が何か言っているが、きっと戯言だ。これを食える、と表現するのであれば、きっと先生の味覚は終わっている。いつもあんなに美味しいご飯を食べてるのに味覚音痴だなんて、作ってくれたメイドさんたちに申し訳ないとは思わないのだろうか。これが食える味ならば、生ゴミだって至高のグルメだ。
呆れたようにこちらを見ながら、同じトカゲのミイラを口に入れ、咀嚼する先生。それに対して化け物を見るような目を向ける俺。そんな構図を作ったところで、ふとあることに思い至る。もし先生が味覚音痴ではなく、本当にそこまで不味くないと思っているのであれば、そこには何かしらの理由があるはず。例えば、体に宿している魔法の素質の違いとか。
「素質に起因する、魔獣肉への味覚変化か。面白い。サンプル数確保のため、屋敷の全員に食わせてみよう」
本人たちのあずかり知らぬところで、クソマズミイラの試食会が決まった。みんな、ごめん。反省はするがどうか俺と同じ苦しみを味わってほしい。と思ったところで、この仮説が正しければ俺と同じくらい苦しむ人なんて誰もいないことに気がつく。よかった。不味さに悶絶する被害者なんていなかったんだ。……なお、先生はまだ知らないがこの仮説は正解である。俺が口に出して心停止していないんだもん。
「それはあとに回して、本題に戻ろう。このトカゲは公爵領に多数生息する名産品で、自身の影を操る。マーダーベアの一件で、お前に見せた魔法と同種のものだ」
月光の系統に属する魔法、この前ゲームが見せてくれたものと同じだな。俺が真似しようとして、一ミリも動かなかったヤツ。以前取っ掛りも掴めなかったから、やっても無駄じゃないかと疑いながら影とにらめっこすること三十分くらい。指一本分程度、俺の影が動いた。
気の所為みたいな、誤差みたいな動きだ。お水ぽたぽたやお砂さらさらとは違って、物理的な影響を及ぼさないが故に、成功がパッと見でわからない。けれど、成功は成功。俺はやり遂げた!と先生に報告し、先生は本とのにらめっこを止める。この人はずっと、意味があるかわからない努力を課せられた俺の横で別のことをしていた。もっとキャリーを見ていてよ。……生徒ならともかくモルモットは常に見ていなくていい?丸一日ウォッチングしていた癖に何を言いやがる。
「ふむ、見間違いの勘違いかと思ったが、本当にできているな。それでは、おかわりにしようか」
俺の努力の成果を見た先生は、小さく頷いて追加のトカゲミイラを俺に渡す。悪い冗談だと言ってほしいが、この人でなしの口からは冗談など出ないことを、俺は知っていた。
追加で食べさせられたミイラは10体。その成果として。俺が動かせるようになったのは指もう一本分。もちろん縦ではなく横であり、猫耳の形にして遊ぶことすらままならない。
口の中には留まらない気持ち悪さで、俺はグロッキー。先生は新たな知見にご機嫌だ。そんな状態で屋敷に戻り、始まるのはみんなから不評の試食会。わかっていたことだが、いちばん苦しんでいたのはローベルト少年だった。父親と仲良く()している俺が気に食わないのか、こちらを元気よく睨みつけて、俺の手にあったトカゲミイラをひったくるように奪って食べた挙句の悶絶。淑女的に笑ってはいけないが、思わずちょっと笑っちゃった。そんなに仲良くしたいなら“僕もモルモットにして!”ってお願いすればいいのに。