過労死ライン越え(TS)転生者 キャロライン・オーバーは労働の待つ輪廻から解脱したい 作:エテンジオール
モルモット1号です。先生の付き人にして、専用の備品(実験道具)でもあります。両手にぺったんされている証のどちらかがなかったら、まともに生活もできないんですって。なんというか、人権剥奪!って感じがしてドキドキしますね♡そのドキドキ、ただの恐怖心だと思うよ。
改めて、キャリーです。人権剥奪って、言葉だけ聞くととっても恐ろしいけど、その分代わりに誰かが絶対的な保護をしてくれるならあながち悪いものでもないよね。思考を放棄して、脳みそをとろかして、隷属する悦びってあると思いませんか?……多胞体様ならありだけど先生はなしだな。釣った魚に餌くれなさそう。
若干汚染されつつある価値観に危機感を持ちながら、優雅で素敵な学園生活を謳歌する。学びが得られるって素晴らしいわね。単純かつ単調な仕事をこなすのにも慣れてはいるけれど、やっぱり人間、刺激が必要なんだよ。
なんてことを考えている俺の一日を紹介しよう。まず、朝起きたら身支度と食事。そして図書館に向かって、おやつのトカゲをつまみながら朝のお勉強。学園がある王都に来てから、魔獣の質が下がったのか、屋敷の頃と比べてだいぶ食べやすい味だ。……もちろんそれでもクソまずいし、体調は悪くなる。吐き気を我慢し続けるくらいから、ベッドから動きたくなくなるくらいに改善されたから、へっちゃらだな。意識がはっきりしている分、不眠不休無給の労働祭りよりずっといい。
ふみんっ、ふきゅうっ、むきゅうっ、って実態は欠片もかわいくないのに語感だけはめちゃくちゃかわいいな、なんてどうでもいいことを考えながら、とかげミイラのカスを本にこぼさないように食べる。この不調、朝食後には少々きついが、ここに置いてもらう対価であれば仕方がない。
図書館に人が増えてきて、少し騒がしくなってきたら、朝の読書は終了。先生の授業時間に合わせて、居室の方にもどる。ちなみにこの学園、授業自体は中高スタイルで教師は大学スタイル。教師方がまとまった職員室なんてものはない。
今日の最初の授業は、レンジと同年代くらいの子達が集まっている初等部から。俺は付き人として、先生の持ち物を全部持たされながら後ろを着いていき、教室の端っこでノート?とにらめっこ。魔法の基礎の基礎の部分をやっているこの授業は、俺の進捗と比べて手前の部分であり、授業自体に学ぶことはあまりない。なので、やっていることは自主学習だ。
自習、という体でルーカス航空の乗り心地改善ができないか一人で案だししたり、先生から目を通しておくように言われた論文の誤字脱字確認をしたりする。一言も喋らずただ黙々と作業をしているだけだから、なんのために着いてきているのかわからないね。これなら居室の方に残ってお勉強していた方が百倍有意義な気がするのは、俺だけでしょうか。
初等部向けの授業はこんな感じで何事もなく進み、お次の時間は中等部。俺は当然のように荷物を持たされて、そのまま長い廊下をえっちらおっちら歩く。子供に重たいもの持たせるのは児童虐待になりませんか?……まだこの世界にその概念はないですか。そうですか。改善は望み薄ですね。
先程までの初等部とは異なり、中等部の授業では、俺にもやることが生まれる。そもそも年齢的にも、俺は初等部後半から中等部前半に属しているくらいの歳。ならば当然、やることと言うのも一緒に学ぶこと……と思わせつつ、授業中に徘徊して質問事項に回答することである。いわゆるティーチングアシスタントというやつだな。
自分より年上の生徒たちに対して学習補助をする、なんて奇妙な状況だが、冷静に考えれば、あながちおかしなことでもないのだ。まだ普通の子供が勉強を始める前、ママ上と一緒にいられた頃から色んな本を読み漁って、前世の下駄もあるおかげで幼少の頃から先生の論文を見たりしている俺にとって、本来同年代の子供たちが受けている学びというものは、随分簡単なのである。学習補助というものが、2、3年分先の内容をやっていればこなせるものだと言う前提があれば、特に理論的な部分に関してはできない方がおかしい。……実技?見学だよ。応用的な魔法の行使とか、発展的な魔法の行使が必要な授業において、基礎的な行使すらままならない俺にできることなんてない。魔法の的くらいにならできるかもね。
先生が説明している間は初等部と同じように端っこで論文と睨めっこして、説明が終わると黒板の内容を見て自分のやることを把握する。説明は当然のように聞いていない。あとはぐるぐる回って、困っていそうな子がいれば助け舟を出す。自分から質問してくれる子は、大歓迎よ。
一部の女子生徒から、学習補助のキャリーちゃんとしてかわいがら……頼りにされながら、お仕事を続ける。たまに、“なんでキャリーちゃんは生徒じゃないの?”と聞かれた時に、“わたしには魔法の才能がないので……”と健気少女アピールすることで、
最初聞いた時は、出来損ないの言葉なんて誰が聞いてくれるのだろうか、と疑問に思ったものだが、やってみれば意外とみんな、聞いてくれるものである。毎度突っぱねる男子生徒?あれは年頃の少女の前で、勉強出来ないと思われたくないだけの思春期男子だから。
とまあ、これだけ見れば、意外と俺が学校に通ったところでクラスメイトたちからはまともな扱いをされたのではないか、と考えられるが、実際はそうではない。その原因が、次の実技授業である。
魔法を学ぶのにおいて、一番大切なのは、自分の才能で何ができるか知ることだ。たとえどれだけ才能があっても、適切な使い方を知らなければ、ただ垂れ流すだけで終わりである。実際、天才と呼ばれているゲームちゃんのハイスペ魔法パワーがあっても、ただ放出するだけではマーダーベアになんの手傷も与えられなかった。
適切な使い方の理論を知るのが座学であり、それを実際に、動きに落とし込むのが実践だ。座学の方は理屈的な計算の問題もあります。魔法って理系なんだね。であれば、実践の方は実験である。当然こちらでも評価は付くし、ひどい出来だとどれだけ座学が良くても評価は下がる。そしてここが曲者なのだが、この実践の授業は、グループ単位での評価なのだ。そんな中に、基礎の基礎すらできないやつがいて足を引っ張りまくったらどうなるか。総スカンだよね。
というわけで、この授業の時、俺は練習場の端っこでお水ちょろちょろをしている。あと、とかげもぐもぐも。こんなことしか出来ないやつがグループワークに混ざれるわけないだろ。一体どうして、学校に通いたいなんて思えたんですか?……何も知らなかったからだね。先生、止めてくれてありがとう。
ちょろちょろもぐもぐしながら、頭の中で論文の構成を考えつつ、授業を見守る。座学で詰まっていた女子生徒も、実践の授業では楽しそう。距離の離れた的を、最小限の魔法行使で破壊するためにはどうすればいいか、グループのみんなと意見交換をしている。俺は、ただそれを見ていることしか出来ない。俺がたとえ何を思いついても、机上の空論にしかならないのだ。だって、この体ではそれを実証できないから。ただの頭でっかちな理論家にしか、俺はなれない。
せっかく魔法なんて面白いものがある世界なのに、目の前でおもちゃを取り上げられた子供の気分だ。俺だって、みんなみたいに考えたい。試行錯誤して、実践して、頭を悩ませたい。なのにできるのは、頭を悩ませるだけ。何を言われるでもなく、惨めな気持ちになる。
「キャロライン、いつになく酷い顔をしているな。体調が優れないのなら居室か保健室で休んでいなさい」
惨めな気持ちを少しでもなにか形にして残すべく、練習場の一角をお砂さらさらで盛っていると、様子を見に来た先生が顔を見るなりそう言って、俺を追い出す。付きそうとか、人を呼ぶとか、そういう気遣いをしないのがこの人らしくて、けれども今の俺にとって、その対応は間違いなく正解だった。誰かと一緒なら、誰かに気を使われたら、当たり散らしてしまったかもしれないから。
居室の方に戻って、どうにか魔法の素質を伸ばすことができないかを考える。今のままの伸び具合では、人間の端くれになるまでに時間がかかりすぎるのだ。もっと劇的に、もっと効率よく、魔法の素質を伸ばしたい。出来損ないが、せめてみんなの輪に入れるくらいに。
とかげをもぐもぐしながら方法を考えて、ふと思いついたのはある方法。とかげを食べることで素質が伸びるなら、とかげにトカゲを食べさせればもっと素質を伸ばせるスーパーとかげを作れるのではなかろうか。はっはっは、孤独を拗らせて蠱毒を思いついちゃったぜ!と考えながら、細かい理屈を考えれば考えるほど上手くいく気がしてやまず、試しに草案をまとめてみる。
テンション上がって直前までの悲しさも忘れ、ニコニコしながら紙とインクを消費していると、しばらくして先生が帰ってくる。ちょっと長めの実践実習が終わったから、次はお昼ご飯の時間なのだとか。
後にして!キャリーは今忙しいのよ!とお昼のお誘いを突っぱねて、生意気なガキめっ!ととかげを2匹ほどねじ込まれる。一匹をゆっくり食べるのが限界な俺にとって、二匹同時かつ丸ごとのとかげは劇物だ。口に入れただけで広がる吐き気に耐えきれず、そのまま吹き出そうとして、書き途中のメモを汚せない!と頑張って飲み込む。途端に全身に広がる、酷い二日酔いのような不快感。
集中できない程に体調を崩したお陰で冷静になり、今にも胃がひっくり返りそうな状態で大人しく昼食に連れていかれる。そのあとの休み時間、本来ならのんびり過ごせたはずの時間を、寝て過ごすことになったのは、素直に心配されなかった俺に対する罰らしい。……ちょっとやりすぎじゃない?生意気な子供に身の程をわからせるのも大人の役目、ですか。そうですか。本気でこんな動機で劇物食わせるんだから、先生は恐ろしい。
授業一つ分休んでいるうちに体調も改善して、先生と一緒に本日最後の授業へ向かう。学年は高等部、俺よりも年上な皆さんが毎日学んでいる教室だな。当然、ちんちくりんな出来損ない系ロリは悪目立ちする。
初等部、中等部の時と同じように教室の端っこで待機しながら、今回は普通に授業を受ける。高等部2年目の内容になると、普通に新しい学習ができるのだ。気心の知れた縁説君であればもっと深い内容も理解しているが、現行の魔法技術で主流な考え方を俺はまともに教わっていない。先生も、普段は教えてくれない。そのせいで初学習なわけねっ!
ベルがなるまでしっかりお勉強すれば、今日の一日と授業は終わり。お気付きかと思うが、先生の授業にしか参加していない。他のことも学びたいんですが、学ばせてはもらえませんか?
「何を言うか。お前の学習進度を踏まえれば、今更同年の子供と共に学ぶようなことなど何もないぞ。既に修めた歴史や算術の復習をしたいというのであれば構わんが、そんなことより私から学ぶ方が有意義だろう」
“キャリーは学校で学ぶことを既に修めている”と口にする。心臓は止まらない。なんだよ、それじゃあ、俺は一体何のために学校に来たんだ。……一人が寂しいからだったね。ここには先生がいるね。
なぜか無性に悔しくなったので、夜はゲームとレンジをもみくちゃにした。