過労死ライン越え(TS)転生者 キャロライン・オーバーは労働の待つ輪廻から解脱したい 作:エテンジオール
先生の授業を補助しながら、ちょくちょく思い付いた内容をまとめていたキャリーです。思い付いたから書いたけど、実際にまとめたらボロクソ言われるんだろうな、と思いながらちびちび修正を繰り返していたら、ある日突然読まれました。まとめている途中に居眠りしていたら、先生はモルモットのメモが気になったそうです。
本人が隠そうとしている書き物を勝手に読むのは、捕虜の虐待としてジュネーブ条約でも禁止されている非人道的行為だぞ!と全力で抗議して、“じゅねーぶ?”と反応されながら心停止。この世界にジュネーブ条約はないらしい。どうか俺に人権をください。
そんな、望み薄な願いはさておき、大切なのは読んだ感想。読まれたくなかったのは大前提として、けれども読まれてしまった以上は感想が気になる。正直、中身としてはほぼ思いつきだし、確認できていない項目も多い。むしろ、確認できていることが数個しかない。そんな状態では、褒められるところがあったとしても最低限整えようとしている体裁くらいなものだろう。
「ひどい出来だな。特に、体裁がひどい、本当に私が書いたものを読んできたのか?」
と思っていたら、その唯一の項目がまっさきに否定された。添削とか、訂正とかよりも先にこの言葉が出るということは、よっぽど酷かったのだろう。
「文体の不一致、一文一意ができていない、表の書き方が美しくない。参考文献もこれではどれがどれかわからないし、この箇所は同じ表現が連続している。一つにまとめて書くか、語句の置換えをしろ」
本当にこれが論文の書き方を学んだものの書くものか。と全否定されながら、習ったことねぇよ!教えてくれたことないでしょ!と叫びたくなるのを我慢する。今世では習ったことがなくとも、前世ではある。そして今回指摘された箇所の大部分は、おそらく前世でも同じように指摘されたであろう箇所。心がポキッと折れながら、先生の指摘内容をメモしていく。
「しかし、内容については興味深い。“縁説を用いた、生物濃縮的アプローチによる高素質個体の人工作成”と言っているが、この高素質個体というのは歴戦個体や強化個体と呼ばれる魔獣のことだろうか。意図的に作成可能となれば他国への嫌がらせにも使えそうだな」
歴戦個体?強化個体?なんそれ。……というか当たり前みたいな顔で他国への嫌がらせとか口にするのやめてくださる?俺は!そんなもののためにこの研究をしたんじゃないっ!って嘆くことになりそうだから。……先生としては他国とかどうでもいい。興味を持ちそうなのは先生の兄上、公爵様か。確かにそれは解釈一致。
“とはいえこのままでは興味深いだけで、それまでだな”と結論付けた先生は、これを興味深いだけでは終わらせないため、今から魔獣を回収してこよう!と突拍子もないことを言い出す。……先生、授業は?お仕事あるでしょ?お休みになる明日まで、キャリーいい子に待ってるから、ちゃんと仕事してきて!
不承不承といった様子の先生を見送って、俺はのんびり指摘事項の修正に移る。この世界、コンピューターなんて便利なものは存在しないから、全ての修正は手書きである。かわいいお指にタコができちゃうよ。なお、先生の授業の方は初等部だったので不参加指示だった。1人の方が集中できるだろうから一人でやれ。との事。人との触れ合いを求めて学校まで来た俺に対して酷な物言いだ。
せっせとお直しを続けつつ、とかげを食べる。最近知ったんだけど、最初こそミイラだったとかげはいつの間にか干物に変わっていたらしい。何が違うのかよくわからなかったが、宗教的な意図や自然にできたものがミイラで、食用目的で乾燥させたのが干物との事。それってつまり、同じものってことじゃないですか?こんな理由で意味もわからず心停止を繰り返した俺の気持ちを答えよ。
そして翌日、お休みの日に、俺の姿は学園の近くの森にあった。王都から出て、すぐ近くにある森だね。深いところに入らなければ、大して強くない魔獣しか出てこないらしく、高等部の学生が実戦実習に使うこともあるらしい。貴族たるもの、有事の際は民を背に守り戦うべし、という考え方が主流なこの国では、貴族の子供は守られるだけではいられないのだ。どうでもいいけど実戦実習と実践実習って紛らわしくない?呼び方変えたりは……できないですか。慣習としてこれが続いている以上、理由なく変えることはできないと。紛らわしいは理由になりませんか。そうですか。
この国の考え方だと、魔法をまともに使えないキャリーは当然、貴族としても出来損ない!ということになるわけだな。人として出来損ないな以上、貴族として出来損ないなのは当然か。
お姉ちゃんと一緒にお出かけ!とるんるんしているゲームと、姉さまとお出かけ!とワクワクしているレンジ。尊い笑顔、
というわけで、今回の目的を整理しよう。フィールドワークの目的は、魔獣の回収だ。もちろん、強いものではなく弱いものを沢山、が優先。あと自然に囲まれた環境で、きょうだい水入らずの時間を過ごすこと。
森の中に入りながら、今回捕獲する魔獣について考える。そもそも魔獣とはなにか、というところから説明すると、一定以上の素質を備えることで魔法の行使が可能になった動物、その総称である。当然、その危険度はピンキリであり、かつ使える能力も様々。懐かしの狼であれば相手の素質を視覚によらず判別することらしいし、マーダーベアは極めて高い物理耐性とそこそこ高い魔法耐性。とかげだと影を纏う力で、両親の仇である憎き蜘蛛なら昏睡させる魔法の毒。
これらはどれも、恐ろしい力であるが、何も全ての魔獣がこのような攻撃的な能力を持っているわけではない……熊は防御だから攻撃的じゃないって?存在そのものが攻撃的なんだよ。
例えば、体内に水分を生成することで水を飲まずに長期間生存可能な牛だったり、光をねじ曲げることで姿を隠すカマキリだったり。生存のために魔法を使う魔獣の存在は、ある程度知られている。今回捕まえて回るのは、危険性の低いそれらの魔獣たちだ。
素質として高いものを秘めつつも、危険性の低い種類のものを集めて、先生のカバンの中に入れる。目的からして、蠱毒なので好きに争っていいぞ。存分に食い合え。と思いながら野生生物の乱獲をして、うっかり毒持ちに触って心停止。先生、ゲームたちが変なのに触ろうとすると止めるのに、俺のことは止めてくれないのね。なんで?……モルモットは当然危険な生き物について予習しているはずだから、止める必要はない。現に今も事前にわかって触らず止まっただろう?ですか。そうですか。
キャリーちゃん信頼されてるやったー!とやけくそ気味に頭の中で叫び、その後もちょくちょく心停止。危険だとわかっているから触らないんじゃない、危険だとわかったから触らないんだ。客観的にしか見れない先生にはこの違いがわからんのですよ。
庇護下から勝手にハブられる悲しさを胸にたくさんの魔獣をカバンに詰め、程よいところで昼食を取る。ゲームとレンジの分は、普通のお弁当。休日の学生は、外出を望めばお弁当を用意してもらえるのだ。素晴らしいシステムだな。……俺?実験器具にお弁当なんて用意してもらえるわけないでしょ。付き人としても、休日は自力で調達か食堂が基本よ。
というわけで、俺の分は先生が用意してくれたお弁当。来る前に買ってきたらしいサンドイッチが1.5人分と、明らかに美味しくなさそうなとかげの山。お外では万全でいるために、トカゲはやめときたいな。と伝えても、何かあれば私が守るから問題ないと論破される。守ってくれてないじゃん。俺が何回心停止したと思ってやがる。
それなりな味のサンドイッチとデザートのクソマズとかげでお腹を満たし、休憩前より体調を崩してフィールドワークの再開。途中、見るからに椎茸なきのこに触って心停止なんて一幕を挟みながら、何事もなく外出は完了。ゲームやレンジの保護用の宣言は、ただの杞憂に終わりました。……好奇心に身を任せず、余計なものに触らなければ俺も大丈夫だったって?止められるようなものは真の好奇心ではないんだよ。
ちなみに、第一回フィールドワークの成果は、俺が突っ込んだ毒虫を直接/間接接種した魔獣たちが全滅することで幕を閉じた。試しに食べてみたら、素の状態より不味かったから、きっと濃縮事態には成功したのだろう。……その後俺も毒死したせいで、表に出せる成果は残らなかったが。
平和回が続いたのでそろそろたくさん心停止させたい(╹◡╹)