過労死ライン越え(TS)転生者 キャロライン・オーバーは労働の待つ輪廻から解脱したい 作:エテンジオール
表に出せる成果も確保できたキャリーです。生け捕りにしたとかげに、先生お手製の干物とかげを食べさせることで、上手に素質を濃縮させたとかげを作ることに成功しました。影を纏って突進されると、キャリーの貧弱ボディはすぐ心臓に穴を空けられるから、近付く時は要注意ですね。このとかげがただの食べ物ではなく危険な魔獣ということを思い出せてよかったです。犠牲者が俺だけなら、被害はないと言っていいもんな。
魔法の素質という観点で、影突進での貫通力の向上をまとめた、“共食いによる魔獣の能力向上について”の論文は、先生との共著ではなく、俺の著作として発表された。学校にも通っていない出来損ないのガキが、教諭の補助付きとはいえ一本論文を仕上げたことに、ほかの教師陣はびっくり仰天。学園長からお名前を呼ばれることに成功したよ!キャリーはこの日、教師陣から一個体として認識されたのだ!
データ取りの過程で100匹程、とかげを使用することになったが、そこは先生がひょいっと捕まえてきてくれた。なんでも、特定の条件で突進することしか能のない魔獣が相手なら、影を広げておくだけで簡単に回収できるのだとか。カバンの中にひしめくとかげを見た時は、危うく失神しかけた。
そして、肝心の摂取効率。たとえどれだけ強い魔獣を作れても、肝心の味が良くなってしまえば俺たち的にカスである。素質の高さが味覚として、不味さにフィードバックされる以上、美味しいとかげに価値はない。これについては、あくまで体感の指標だが、口の中に広がるエグ味や体調への影響が概ね2匹分になった。100匹分を濃縮することで2匹分の成長を望めるよ!残りの98匹、どこいった?
濃縮効率が極めて低いことを理解して、このアプローチによるスーパーとかげの作成は諦める。いいもんっ!スーパーとかげは作れなかったけど、扱いはちょっと向上したもんっ!と口にして心停止。強がりも言えない不便なお口に万歳。余談だが、別種の魔獣に100匹分を食わせた場合、濃縮率はさらに低下した。俺がとかげ一匹分の素質を備えられるのはいつになるのだろう。5年後?10年後?……知るのがこわいから口にはしないよ。
と、そんなふうに表に出せる成果を得るまで、かかった時間は約一年。途中、長期休暇で先生のお家に帰ったりしたが、基本的にはずっと学園内で生活していた。衣食住が保証されて、さらに勉強までできる素敵な環境だから、ついつい時間が経つのを忘れちゃうね。
さりげなく歳をとっていた俺は14歳の立派なロリに成長し、そんな俺を囲っているように見える先生はロリコンの誹りを受けていた。残念ながら当然である。……実態?研究者がモルモットの年齢を気にするはずがないじゃない。
とはいえ共同生活も続くとなれるもので、いつの間にか俺は先生が食事中に追加の調味料を欲しがっているタイミングがわかるようになっていた。ゲームとかレンジは学友と一緒に食べるから、自然、俺は一緒に食べる相手が先生しかいないのよね。一人で食堂に行くと、未だに多少はコソコソ話が聞こえるし、所有者として先生には役目を果たしてもらう。……この人が俺に対しての陰口を気にしている姿が想像できないな。本人がロリコン扱いされても気にしてないもんな。それなら俺は一体何のために、親子ほど年の離れた成人男性とふたりで食事をしているのだろう。
不都合なこの世の真実に気が付いて、試しに“今日は一人でご飯食べる!”と宣言。先生はそうかと受け流し、俺は悠々と食堂へ。麺類をひとりでちゅるちゅるしていたところ、学習補助で関わりのある女子生徒から“キャリーちゃん先生ひとりじゃん。一緒に食べよ!”と誘われて、受けたところ心停止。先生への宣言を“今日のお昼は先生と別で食べる!”へ変更することで停止を回避。ちなみに、該当の生徒はティーチングアシスタントの後に図書館で勉強をちょっと教えたところ、そこそこ懐かれました。俺より年上で、ちょっと勉強が苦手な子。かわいいね。キャリーほどじゃないけどっ!
“○○ちゃん先生”という呼称は親しみを感じればいいのか、舐められてる、と思えばいいのかどちらなのかと考えて、そもそも俺先生でもなんでもないやと思い至る。それなら、愛称を付けられるのは親しみの表れですね。悪くない。
みんなが当然のように魔法を使える環境ゆえ、給水器が存在しない不便な食堂で、飲水確保のためにコップにちょろちょろしていたところを助けてもらったりしつつ、一緒にお昼ご飯を食べる時間は過ぎる。一人だとお水飲むのが大変なんだね。ちなみに、女子生徒は俺と違ってぼっち飯予定ではなかったため、同じ食卓には年上の少女たちが沢山います。先生とのお昼と比較して、大変華がありますね。こんな精神的アウェーな環境でも、喋りやすいように話を回してくれるのだから、この子達もいい子だ。……キャリーがいつも食べてるとかげが気になる?おいしくないけど、食べたいならわけてあげるね。
俺でなくても顔を顰めてしまうくらいにはおいしくないとかげによって、不味いものを好き好んで食べている変人のレッテルを貼られかける。こんなの、好きで食べてるわけないじゃない。キャリーは先生の実験道具だから、食べろって言われたら逆らえないの。……そう弁明したところ、とっても哀れまれて、甘いお菓子を貰えた。おいしくて、うれしい。
食べたいと思える味のおやつ、なんて当たり前の存在を再発見しながら和気あいあいと談笑していると、突然なんの脈絡もなく心臓が止まる。戻ってきたのは、女子生徒からお昼に誘われた直後。時間にしてだいたい30分くらいだろうか。
このタイミングに戻るような発言の心当たりはなく、嘘起因の場合はまず嘘になる瞬間の直後に戻ることから、ゲームのみになにか起きたことを想定。このまま一緒にお昼を食べたら二の舞になることを理解して、“一緒に食べよう!”と言った直後に“やっぱやることあるからやめるね”と去る。ポイントは、ひとくち食べ始める瞬間まで待つこと。そうしないと無駄に心臓止まっちゃうからね。
続いてすることは、ゲームの居場所確認。心臓が止まっているということは、つまりゲームが死んでしまったということだ。まず、状況の確認をしなければならず、そのためには本人を見つける必要がある。幸い周囲にはたくさんの人がいるので、ゲームはこっち!と大きな声で宣言すれば位置確認は容易。容易だが、突然大声で騒ぎ出したせいで職員さんに捕まって、事情聴取されている間に心停止。ほんと、よく止まる心臓だな。山間部のクソザコ路線かよ。
状況の特定までにかかったのは、六周分だった。場所は実践実習場で、授業が長引いてお昼ご飯にまでかかっていたらしい。時間通りに授業終わらせろよ。……どうしても連続して実施する必要があったから、食堂等には連絡済ですか。カリキュラム上も認められているから問題ないんですね。そんなら生徒死なせるな。被害者がゲームじゃなくて、俺がただの少女だったら大事故だぞ。
一応経緯としては、対人戦闘練習中に冷静さを欠いた生徒が魔法を暴発させ、運悪く着弾地にいた生徒を庇おうとしたゲームが当たり所悪く死亡、ということらしい。監督不行き届きですね。担当教師は始末書を書くように。
しかしこうなると、俺がこの場で飛び出して庇う、という選択肢は難しい。担当教師がいるのは出入口付近だから、俺が行くより先に見つかるし、仮に上手く出し抜けたとしても、あまりに不審な行動だ。説明を求められるだろうし、この擬似未来予知のことは話せない。
また、クソ面倒な状況になったものだ。ひとまず、偶然通りかかり危険に気付いた通行人という体でどうにかできないか試して、毎度失敗。俺の声が聞こえないくらいには、加害者生徒は冷静さを欠いていて、声で動けないくらいには、不運な着弾地生徒は腰が抜けてしまう。そしてゲームは反射的に庇ってしまい、声掛けだけでの解決は望めない。
どうにかして直接介入せずに解決できないかと考えて、思いついたのは思い通りに動かない万能ユニットこと先生の存在。試しに、先生を実習場のそばに連れていけば遠距離から解決できる。と口にして、心臓が止まることなく周囲に発言を聞かれる。できるのかよ、なんでできるんだよ。どうしたら連れて行けるんだよ。
時間的に、俺が直接演習場に向かうくらいしか、猶予はない。先生を途中で回収することはできなくて、解決できるはずの便利ユニットは相変わらず役に立たない。もう直接殴り込むしかないか……と考えたところで、ふとあることに気がつく。
別に、この瞬間、お昼に誘われた瞬間から始めなくても、良いのだ。以前のクマ襲撃事件の時は、前まで戻しても解決の余地はなかったが、今回はただの事故、少し前にもどることができれば、先生を連れていく余裕は十分にある。
というわけで、俺は女子生徒の前で突然涙をポロポロ流しながら、“今すぐ先生に会いたい……”とアピール。もちろん本物の涙ではなくお水ぽたぽたの応用だが、客観的に見てそんな泣き真似をする必要性はないのでバレない。ただ、俺が情緒不安定なマッド教師依存系ロリに見えるだけである。最悪な誤解だな。なかったことになるから諦めよう。
慌てた、善良な女子生徒の1人が、目の前の食事もそのままに“あたし、ルーカス先生呼んでくる!”と飛び出して行ったのを見送って少し待って、連れてこられた先生とご飯を食べることで心停止。“今日のお昼は先生と別で食べる!”の宣言が嘘になったことによる死亡のため、戻るのはお昼を食べ始める30分ほど前。実に素晴らしいタイミングだな。一つ難点をあげるとすれば、せっかくの楽しかった昼食がなかったことになったことくらいか。
先生、キャリー、一緒にゲームの様子見に行きたいな。……お昼とか後ででいいでしょ!そんないつでもできることとは違って、授業を頑張るゲームの様子は今しか見れないのよ!明日の授業は明日しか見れないし、今日のは今日しか見れないの!いやよ!キャリーは今日、今見たいの!我慢なんてしないわっ!
全力でわがままを言い、“食後でいいだろう”と宥める先生に駄々を捏ね、要望をぶつける。どうしても今じゃなきゃいけない理由?言わないよ。先生はキャリーのわがままを聞いてくれればいいの!そういうお年頃なのっ!……14歳少女として、ちょっと恥ずかしいな。淑女教育の成果はどこへやら。
10分ほど時間をかけて何とか勝利をつかみ、先生同伴の元ゲームの授業を見に行く。先生がいると実習上の中まで入れてもらえて楽だね。さすが万能便利ユニット。あとはもっと簡単に俺の言うことを聞いてくれれば文句な……何その先生気持ち悪っ!
想像上の素直先生に鳥肌を立てながら、10分ほど待機。ゲームたちの方に魔法が飛んだところで先生に伝えて、次の瞬間には魔法がかき消される。そのまま犯人を強制的に正座をさせて、滔々とお説教を始める先生。百じゃ足りない心停止の結果は、このような終わりだった。……今更だけど先生ゲームの居場所知ってたっぽいのよね。最初から聞きに来てれば、初めの50回くらいは要らなかった気がする。
どうやってゲームちゃん死なせようかな〜って考えるのが一番大変だった(╹◡╹)