過労死ライン越え(TS)転生者 キャロライン・オーバーは労働の待つ輪廻から解脱したい 作:エテンジオール
初等部の授業を完遂したことで先生からちょっと褒められたキャリーです。今日は待ちに待ったお休みの日っ!いつもならみんなと働いている時間に、労働から解放されているって最高ですね。この開放感のために全ての人類は労働しているのではなかろうか。
そんなキャリーの、素敵な休日について。ちょっと直近の出来事で思ったのだけれど、俺って自分が自由に使えるお金、持ってないんだよね。本来この力は、お金を沢山手に入れるために求めたというのに。本来の俺の意図と同じように使ったのなんて、ゲームの身請けを拒否するための賭け事と、先生のお使いのための賭け事だけ。初志を見失うなんて、転生者として恥ずかしくないんですか?
先生の前で唐突に、恥ずかしい!と言って、心停止。どうやら俺に羞恥の心はないらしい。この恥知らずめ。恥知らずついでに身元の保証等諸々お世話になっている恩人に金の無心をするという厚顔無恥を重ねて、先生一ヶ月分くらいのお金を貰う。……多すぎない?モル代や仕事の補助等を考えれば先生的には妥当、むしろ少し足りないくらいのお給金ですか。まあ、先生の仕事の裏方関係、半分くらい俺がやってるもんね。
「キャロラインにはいつも、公私共に多大な貢献をしてもらっている。足りなかったらいいなさい」
先日の魔獣食体調不良事件から、やけに優しくなった先生からお小遣いをもらって、るんるんのお出かけ。ルーカス先生一ヶ月分、って言うといまいちわかりにくい単位だが、先生って国立の学校で、自分の意思一つで仕事を休んだり復帰したりできるくらいの偉い人なのよね。細かい貨幣制度とかはさておき、俺の肌感覚的には百万くらいだと思っている。ちなみにメイン収入は貴族としての俸禄。学校の分は先生個人のポケットマネーね。
改めて、なんでこの人ド田舎下級貴族の家庭教師なんてしてたんだ?と疑問に思いつつ、懐にお小遣いをしまう。ある程度魔法が使えれば、スリくらい見つけた瞬間燃やせるが、俺では取られた瞬間負けである。大金を取りやすい状態にしておく趣味はないので、当然の対策だ。誘拐?相手のこと確認して死に戻りつつ、予防してから再現すれば無問題よ。俺には先生がいるもの。
のんびりぽてぽて歩いて、向かう先はお馴染みのコロシアム……ではなく、普通の賭博場。そこで先生一ヶ月分を少し増やしてから、コロシアムに向かう。一箇所であまり勝ちすぎると、目をつけられるからね。
どちらが勝つかではなく、体調や相性等を鑑みた上でどちらが勝つ方が妥当かを知ることで、奇跡みたいな偶然による勝利では負けておきながら、最終的な手持ちは先生四ヶ月弱。ちょっと割引いてもらえば、仔火竜の心臓を買えるくらいの手持ちだな。
いつもより多めに争っておりま〜す♡と、野蛮なことこの上ない煽り文句で、多めに賭けを実施していたコロシアムから出る。受付のお兄さんは、先日とおなじ教会のところのお兄さんだった。子供がこんなところに来るのは感心しない、と言いながら、仕事の手は丁寧。むしろ俺の出す額と得る額が不釣り合いだからと、周囲から見えないように気を使ってくれた。ありがとうね。お礼にちょっと寄進するね。
まだ居室で休むには少し早い時間だったから、部屋に戻って大金を置いて、ある程度の分だけ持って再度お出かけ。無事に帰ってくることを先生に宣言すれば、心配事もなくなる。ちなみに、ある程度というのは、最初のお小遣いの十分の一くらいの、そこそこなお金だ。落ちた財布から出てきたら仰天するくらい。
休日しかできないことをしたいなと考えながら宛もなくその辺をぶらぶらして、甘い香りに誘われて迷い込んだ路地裏で強盗される。わぁっ!拉致までセットなのねっ!キャリーそんなにお金もってないよ?……面のいいガキは、良い値で売れる、ですか。そうですか。えへへ、知らないおじさんにかわいいねって褒められちゃったっ!
この国って治安悪いなーと思いながら、念の為俺個人やその周囲を狙ったものでないことを確認して、舌を噛んで自傷。戻るタイミングは当然、一度帰った後。舌を噛んだら無事じゃないもんね。嘘になったら、戻るしかないからね。
路地裏は危険!と、初等部入りたての子供でも知っていることを再確認して、今度は大通りをメインに散策する。あっちはいつものアップルパイ、こっちは珍しいオレンジパイ。……ちょっと味は微妙だな。
しばらく歩いたところで声をかけてきた元気なおっちゃんに誘われて、ちょっとした小物を取り扱った露店による。置かれているのは、勧められたのは、髪留め。お嬢ちゃんのお小遣いでも買えるからな!と見せられたのは、ちょっと好みなデザインのものもあったが、いちばん気に入ったのは大きめな金属製のパッチンピン。前髪を止めるのに使うやつ。
試しにつけさせてもらったそれは一つで十分、俺の前髪を九割方ホールドできるもので、思わずにっこり。紙と向き合っている時に視界に写ったりするの、地味に邪魔だったのよね。かと言ってキャリーは前髪があった方が俺的にかわいいし、オシャレは我慢という言葉もあって切ることもできなかった。思わぬ所でいいものを見つけたとご機嫌になりながら、予備として同じものをもう一つ前手に取って、実用性度外視のかわいいやつも買う。おっちゃんはかわいい子が買ってくれてハッビー、俺もいいものを見つけてハッピー。誠、いい買い物であった。
頭につけている分も忘れずにお金を払って、実用性を考えていないかわいい方に付け替える。今は紙と向き合っていないから、実用性はいらない。かわいささえあればいいので、小さな青いお花のやつをセット。キャリー、かわいいっ!鏡見てないからわからないけどかわいいっ!……かわいい少女はボロ布でも貫頭衣でもかわいいから、極論何をつけててもいいのよね。要は味変である。
オトナかわいい、ロリカワイイ、貧しかわいい、かわいそかわいいと様々なかわいい自分の姿を想像して、どれもいいものだとひとり納得しながらお散歩を続けて、たまに“あの両手を光らせている少女はなんだ?”みたいな目で見られながら徘徊。最近はもう、おててを光らせているのが当たり前になりすぎて、逆に意識しないと消し忘れるのだ。癖になってるんだ、光らせるの。
俺をキャリーちゃん先生と呼ぶ女子生徒、ナディアちゃんとご飯を食べている時に教えてもらった、最近王都で流行りだというお菓子屋さんでお土産用のお菓子を買って、向かう先は教会。頭の中であっても、寄進するねと言った以上、嘘にして帰るのはなんというか収まりが悪いのだ。本当にどっちでもいいけど、その方が落ち着く。大したモチベーションがない以上、寄進の理由なんてそれで十分だろう。
一応表面上の理由として、そこそこ勝ったから幸せのおすそ分け、と用意して、大した額ではありませんがと寄付。言葉を選ばずにいえば、今日は勝ったから焼肉だ!がははっ!とご機嫌なパチパパムーブね。……なんだろう、こう言うとなんか抵抗があるな。
今日はおつかいようのお金じゃなくて自分のお金だから、前回よりももっと綺麗なお金であることをアピールしつつ、帰ってきたお兄さんにご挨拶して退散。一人一枚くらいしか食べさせてあげられなかったクッキーは、かなり好評だった。この世界の治安で、身元の知れない子供から食べ物をもらうとか正気か?とは思ったが、それだけ甘味に飢えているのだろう。あんまり、余裕なさそうだもんね。
俺は自分で増やせる元手を獲得できる環境で良かったと安心しながら、その安堵の元である先生のところへ帰る。すっかり自分の居場所と認識するようになった、ルーカス先生の居室。手鏡を使って見てみた、青を添えられた自身の姿は想像通りかわいくて、けれども何故か、しっくり来ない。
しばらく収まりのいい場所を探して、見つからなかったのでゲームに付けてみようと諦める。少し時間を余らせて、実用的な方を付けつつ本を読んで待っていると、程なくして先生が帰ってくる。
リラックスしている俺の姿を視界に収めて、先生が少し、相好を崩したような気がした。……相変わらず無表情だが、なんか空気が柔らかくなった。たぶん気のせいではない、と思う。
晩御飯を食べながら今日の出来事を話して、食後のお茶を飲みながらお菓子をつまむ。少女にとって夜中のお菓子は魅惑の大敵だが、俺はあまり気にしない。日常的な体調不良のせいか、あまり発育が芳しくないから。むしろ、多少脂肪が着いた方がいいくらいだ。これを魔獣ダイエットと名付けよう。普通に痩せた方がいいと思う。
話の内容にはあまり興味がなさそうなのに、話を聞くこと自体は積極的という、“年頃の娘と話したいけど中身全然分からない父親”みたいな挙動の先生を内心おかしく思いながらお茶を飲んで、それならばこちらも小生意気な気まぐれ娘みたいなことをしてやろう、と予備のパッチンピンを先生の前髪につける。
実用性重視で金属色丸出しの鈍色のものを選んだこともあって、壮ね……成人男性が着けていてもそれほど異物感はない。先生、かーわいい♡とメスガキチックに煽ろうとして、心停止。かわいくはないね。仕方がないのでにまにましながら似合ってますよとだけ伝えると、ルーカス先生はそうかと小さく答えて受け入れた。パッチンピン付き無表情成人男性誕生の瞬間である。
青いお花のパッチンピンは、ゲームに着けるととってもかわいかったのであげた。俺の手元に残ったのは鈍色の無難なもの、先生とオソロである。まあ、二人とも気に入ってくれたみたいだからいいか。
モルモットとセットの髪飾りをつけた先生の姿に、後日教室がざわめいたのは余談である。