過労死ライン越え(TS)転生者 キャロライン・オーバーは労働の待つ輪廻から解脱したい 作:エテンジオール
パッチンピン付き無表情成人男性の生成に成功したキャリーです。先生と仲良く?オソロヘアピンしていたら、モル2号が今日の測定のためにやって来ました。彼は自分の父を見て、先輩モルモットを見て、もう一度自分の父を見て、大変困惑した様子を見せてくれました。父親が突然ヘアピンつけてたら何が起きたかと思うよね。しかも年頃の女の子とお揃いのもの。
戸惑っている息子に対して通常運転な先生がおててピカピカの光量確認を始めて、その結果をまとめている間に俺が事情を説明。あのね、キャリー、久しぶりにお休みをもらったからお出かけしてきたの!そしたら良さそうなヘアピンがあったから買ってきて、予備を先生にプレゼントしたのよ!
ローベルト少年は俺の説明を聞いて、まずお休みが久しぶりというところに同情を示した。学問に励んでいる彼らにすら週一回はあるお休みが、俺にはずっとなかったのだから、仕方がない。そしてその次に、キャリー氏の優雅な休日を聞いて、頭を抱える。
曰く、まず最初のギャンブルがおかしい。たとえ自信があったとしても、そんな大金をポンポン賭けるのは異常だし、プラスになっているのもおかしいと。……仕方がないじゃない、お金がないと不安なんだもの。俺を安心させたければ、一生不自由なく過ごせるお金をください。養ってくれるのでもいいよ。
俺の言い訳は捨て置かれ、次のツッコミどころ。その辺の露店で買った安物を、高位貴族へのプレゼントにしたのか?というもの。身につけるものの一つ一つにも品格が求められ、買い物ともなれば商会を家に呼ぶのが当然な高位貴族。それに対する贈り物なら、普通は手に入りにくい珍しいものか、本人が好きだとわかっている高級品かの二択だ。手作りとか、温かみとか、そんな概念が許されるのはまだ幼い子供からのプレゼントくらいである。
淑女教育の甲斐あって、俺も当然そのことは理解していたが、今回渡したものは本来自分用に買ったもの。だから許されるかと思った。……自分用のものをプレゼントに転用するな?それはそう。返す言葉もないね。
ごもっともな意見に黙らさせられて、最後のツッコミは自分で稼いだお金を気軽に教会へ寄付したこと。これについては、なにかがいけない!と言われたわけではなく、どのような意図での寄付かと尋ねるものだった。具体的には、魔法至上主義と反する教会の考え方に賛同し、彼らと信仰を共にするのか、という問い掛け。
これについては、当然答えは明確にNoである。そもそも教会の教えとか知らないし、俺が信仰するのは多胞体様だけだ。どこの誰とも知らない神様とやらのことなんて信じるか。……心停止。どこの誰か知ってるね。王権神授説の授けてくれる神様だね。当たり前だけど、多胞体様云々のところは声に出していない。
アップルパイや無意味な徘徊、お土産のお菓子なんかは槍玉にあげられなかったものの、昨日の俺の行動にはほぼ全てに問題があったわけだ。そのことを年下の子供から指摘され、俺は深く反省する。こんな子供に指摘されるような休日は、間違っていたのだと。
「それなら、ローベルト様が正しい休日の過ごし方を教えてください。私の常識はどうやら、少し足りていないようなので」
“少し”をつけずに心停止したことから、概ね足りてはいるのだろう。けれども不足している分については、わかる人に補ってもらうのがいちばんだ。そして俺の前にはちょうどよく、程よく暇そうで、程よく頼みやすく、程よく聞いてくれそうな少年がいる。それなら、頼まない理由がないだろう。……身分差?俺の方がモルモットとして先輩だよ!
ダメで元々、聞いてみるだけならタダなのだ。そんな考えで投げてみたお願いは、意外とすんなり受け入れられる。実際のところ、ローベルトくんは少し渋った。渋って、先生から“それくらいいいだろう”と言われて受け入れた。先生が俺に甘くなったことで、奇妙な三竦みができている気がするな。先生のフォローがなくても受け入れられそうだったから、そこまで俺が2号に竦んでないが。
そんな経緯でお出かけが決まって、翌日の朝。俺は前の日に増やしたお小遣いを懐に入れて、少年が来るのを待つ。これでも、不規則とはいえ自分の収入?お小遣い?がある身。年上としても、お願いする立場としても、お出かけ代の全てを出す準備くらいはできている。……貴族令嬢としての立場?男の人に出してもらうのが当たり前だよ。自分で出そうとしたらむしろ失礼にあたる。
先生の居室で、いつもよりちょっと良い、外行き用の服を着て、手鏡を見て身だしなみを整えながら、今日も俺はかわいいと自画自賛。おててはぼんやり、頭はシャッキリ。一日休日があるだけで意識は明瞭。魔獣食も免除だったから、体調だって万全だ。健康って素晴らしい。
2号がやってきたのは、約束した時間ピッタリだった。嘘、数分前だった。仮にも年頃の少女がいる部屋ということもあり、ちゃんとノックの後返事を待ってから扉を開けた少年は、いつもと変わらぬ制服姿。貴族的な見栄の張り合いによる服装代インフレーションを抑制するため、この学校では制服が導入されている。そこに許される小物の色で、身分が判別できるのだ。他にも成績優秀者だけ与えられるピンバッチとかあるよ。ゲームはもう付けてる。
この制服は正装であり、同時に私服でもある。学園に通う生徒たちは、外出時にもこれを着ることが推奨されているし、パーティーとかで着てもいい。フォーマルかつカジュアルな格好だね。さすが制服。余談だが、一応公爵家の継承権があるローベルト少年は金色以外なんでもつけれるぞ。下級貴族のゲームはRGBのみ。お花は着けて行けるよ!良かったねっ!
少年にエスコートしてもらいながら、まず向かったのは朝の軽食。貴族的に歩き食いは許されないので、ちゃんと座れる室内でいただく。言われてみれば当たり前だけど、歩き食いってお行儀悪いよね。俺?一人なら気にしない。平民なら普通にしているし。
どこに行っても売っているアップルパイを、フォークとナイフでお上品に食べながら今日の予定を聞く。巷で話題の演劇を観て、カフェで感想会。その後は状況に応じて買い物や図書館、王立の博物館を選ぶのだとか。つまり高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応する、ということだな。コロシアムは?と聞いたらノータイムで行かないと答えられた。あんな野蛮な場所には行くべきではないと。同感。
王都の案内がてら連れていかれた先の劇場で、公演していたのはラブロマンス物。平民の女性に心を奪われた貴族子息が、親から決められた婚約者との間に揺れ動く一方、その想い人である女性が自身の幸せと相手の幸せを考えてうんちゃらそんちゃらする感じのやつ。娯楽飽食の時代こと現代日本出身の転生者としてはどこかで見たことあるような内容だったが、双方全部を投げ出して破滅的な未来にあゆみ出すオチはちょっと驚いた。いや、嫌いじゃないけど、この貴族社会の国で不幸になるような駆け落ちを肯定する演目は如何なものか。
これが貴族たちの学校で流行るって、つまりみんな内面的に駆け落ち破滅願望拗らせてるってこと?とローベルト少年に聞いてみると、彼は言葉に詰まって黙り込んだ。否定しろよ、公爵家の継承権持ち。
血縁、主に両親の魔法の素質によって子供の素質が左右されるこの世界において、身分差婚は子の出来に対して悪影響を与える要素である。もちろん、俺やゲームみたいに、両親の才にそぐわない子供も生まれるが、基本的には両親に素質があって、十分に愛し合っていれば子供もその素質を引き継ぐのだ。……あれっ、それってつまり、先生の奥方に才能がなくて、あまり愛もなかったらローベルト少年の出来は妥当ってこと?
以前聞いた、先生が昔の先輩モルモットの責任を取って結婚した、という話を思い出して、不都合な世界の真実に思い至りつつ、言葉にしないことでそうではない可能性を守る。心臓が止まってくれればいいけど、止まらなかった時があまりにも気まずいから。
喉までせり上がってしまった言葉を、お菓子と一緒に紅茶で胃袋まで流し込む。おしゃべりなお口さん、今はちょっと静かにしててね。ほら、クッキー甘くて美味しいでしょう?だから静かに、ね?
無言によって暗くなった空気を晴らすべく、次の行き先として本屋を希望する。まだ活版印刷が導入されていないこの世界において、本というものは全て手書きの高級品だ。識字率も高くないから、平民には手も出せない代物である。
当然、そんな本を売っている店がその辺中に溢れているはずもなく、ここ王都や栄えた公爵領の中心でもなければ、専門に取り扱っている店なんて見つからない。俺も興味はあったが、そもそもどこにあるのかすら分からなくて諦めたのだ。
案内人がいれば問題なく見つかるはず!と思って聞いてみれば、少年は案内できると応えてくれた。思いついたら叶えてくれるのね、実に便利。先生の次くらい。
そんな経緯で行った先は、王都で一番品揃えがいいと言う本屋。物語や実用的な専門書、果ては最近の研究論文の写しまである!と言われて、背表紙だけではわからない中身について店員さんの説明を聞いたりする。
一番気になったのは、“共食いによる魔獣の能力向上について”という題名の論文。どこかで聞き覚えがあるな、と説明を聞いてみると、最近学園で出された傍流の研究らしい。主流派ではないのに内容が興味深く、面白いよとオススメされた。思い返してみたら、書いたの俺だった。
嬉し恥ずかし照れながら、その周りのものを見るといくつか、先生が書いたものがある。せっかくなので記念に一つ、俺が好きなやつを選んで購入。値段は……うん、ローベルト少年のお小遣いでは足りないくらい。
その後は図書館で少しお勉強して、二日目の休日は終わった。現代風にいえば映画見て、カフェに行って、本屋の後に図書館で勉強。ローティーンって年齢と性別を考えれば、立派なデートだな。
自身の書いた論文を買ってこられた先生は、呆れた様子で俺を見ていた。いいじゃない、自分用にも一本欲しかったんだもの。