過労死ライン越え(TS)転生者 キャロライン・オーバーは労働の待つ輪廻から解脱したい   作:エテンジオール

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 平和な本編に我慢できなくなった。反省も後悔もしていない(╹◡╹)

 分岐条件
 金策をせず、借金でゲームちゃんが身請けされるのに任せる。(自分の家の資金的余裕のなさに気が付けない)


【閑話if】ゲームちゃん遠隔保護ルート(難易度EASY)

 キャロライン・オーバー、ななさいです!おててからおみずをちょろちょろできること以外、何もできることのない不才の身です。周囲からはよく、出来損ない♡と呼ばれます。愛がこもっている素敵な愛称ですね。そこに愛がなければ蔑称です。

 

 さて、そんな出来損ないなキャリーですが、毎日努力はしています。才能がないことと、それを理由に何もしないこととは、イコールではないからね。人より才能がないのなら、人より努力して補えばいい。精神論この上ない考え方だが、俺は嫌いじゃない。……努力でどうしようもないくらい才能がない時?もっと努力するだけだよ。

 

 というわけで、人よりもずっと努力をするために、今日も今日とておててからお水をちょろちょろ、うっすらぼんやり光らせて、ついでにお砂を部屋の片隅に積み上げる。

 

 使用人たちから哀れみのこもった目を向けられて、生意気な妹からは嘲りのこもった言葉を向けられて、別居中のかわいい弟からは素直な言葉を向けられる。実に素晴らしい、素敵な環境だ。

 

 すれ違いざまに、いつものように出来損ないと罵られて、ゲームと一緒に歩いているルーカス先生からは、一瞥すら貰えずに無視される。魔法を何より尊んでいるこの人にとって、おおよそ人間とは思えないレベルで才能のない俺は文字通りのゴミなのだろう。俺もこの人が苦手だし、どうせ口を開けたところでまともな会話はできないのだからいい。

 

 きっとこれからも、俺はゲームに罵られて、ルーカス先生に無視されて、使用人たちから軽視され続けるのだろう。それをどうにかしたいと、思わないと言ったら嘘になる。けれど、どうにかできるような手策は少しも思いつかなくて、俺は消極的な諦めを選んでいた。

 

 そんな状況が変わったのは、ある日の午後だった。俺とゲームと、ルーカス先生とが一室に集められて、お父上が口を開く。

 

「恥ずかしいことに、我がオーバー男爵家にはお金がない。領地の経営は上手くいっていないし、借金だってしているから、余裕がないんだ」

 

 お父上の口から、仕事が上手くいっていないって言葉は、出来れば聞きたくなかったな。まだ年若いお父上が完璧超人なんて勘違いはしていないが、それでも尊敬している父親だ。こんな、捨てられかけの子犬みたいな表情は、見たいものではない。

 

 しかしそれなら、この集まりは今後のメニューが減ることについての通知か。そんな俺の予想に反して続いた言葉は“だからゲームを養子に出す”というもの。一瞬前後の繋がりが理解できなくて、けれどその場にルーカス先生がいる理由を考えて、思考が追いつく。

 

 ゲームは、複雑そうな表情をしていた。心の底から悲しむのでもなく、喜びを全面に出すのでもなく、しかしその両方を備えたまま、後悔が混ざったような表情。きっと、俺とは違って前からこれを聞いていたのだろう。ここ一週間ほど、罵倒のキレが落ちていたことを考えれば、そのくらいからか。

 

 当然、母親であるママ上が聞いていないはずないし、引き取る側であろう先生も同様。となると、情報を確定させがてら、俺にも教えた、と言ったところだろうか。

 

 生意気とはいえ、かわいい妹だ。そんな身売りみたいなことはさせたくないし、今からでもどうにかできる手段がないかと尋ねて、もう無理だと自分の口に教えられる。なるほど、この口が無理だと言うのなら、それは本当に無理なのだろう。口を疑うことは多胞体様を疑うことである。それならもう、諦めるほかない。

 

 ゲームは、先生に引き取られて行った。少しするとママ上とレンジが家にやって来て、家族の人数は増えた。距離が離れた状態で、どうやって俺がゲームを守る(役目を果たす)のかはわからなかったが、きっと何とかなるのだろう。

 

 それからしばらくは、平和な時間だった。相変わらず使用人たちから向けられる視線は冷たいが、直接的に罵られることはなくなったし、存在ごと無視されることもない。先生の不在により家の最高権力を取り戻したお父上は、出来損ないの俺に対しても優しかったし、トップがそれなら下も倣う。

 

 魔法の練習以外にできることは、お父上の執務のお手伝いくらいだった。真っ当な令嬢であればそんなことよりもするべきことがあるが、あいにく俺は出来損ない。将来的に嫁ぐ相手も見つからないだろうから、何もなければこのまま、この領地で、将来的に継ぐことになるレンジのサポートくらいしかできることがない。血の繋がった使用人みたいな形になるんだろう。

 

 一般的な幸福とは違うだろうけど、そんな未来も悪くないかな。なんて考えていたある日、突然平和の終わりは訪れた。屋敷を襲撃してきた魔獣たちによって、俺はあっけなくもぐもぐされた。他の人には目もくれず、複数の魔物が俺にまっしぐらである。チュールかよ。モテるれでぃはつらいぜ。

 

 戻ったタイミングは、襲撃の一週間ほど前。嫌な予感がする!と中身のない警告をして、魔獣の襲来に備える。意味はなく、あっけなく食われて、戻る。お父上やニコラスさんは、数匹の魔獣を仕留めて、数に押されて負けた。

 

 家族に危険を伝えて、一緒に逃げる。無理を承知で屋敷の人をみんな引き上げさせて、戦力の多い公爵領へ向かう。自領の戦力だけではどうしようもないことは、先の一回で痛感した。移動中に襲われて、みんなで食われる。一番人気は俺。

 

 ルートを変えて、食われる。また変えて、食われる。行き先を方向の異なる王都に変えて、食われる。少し、魔獣の密度が低かった。ルートを変えて、少し減る。二手に分かれて、さらに減る。三手にわかれて、逃げる。

 

 死んで、戻って、死んで、戻って、死ぬ。お前たちだけでも先にいけと言って、お父上が魔獣の前に立ち塞がった。あなたたちだけでも逃げなさいと言って、ママ上が庇ってくれた。レンジの手を引いて、ただただ王都の方向に向かって、走る。

 

 魔獣に囲まれたタイミングで、移動用の馬車に火をつけたのが良かったのだろうか。王都に着く手前で、偶然俺たちを見つけてくれた騎士に保護されて、俺とレンジは生き延びた。両親も、ニコラスさんも、フリーダさんも、使用人たちも死んだのに、俺たちだけが生き延びた。

 

 死んだオーバー男爵の代わりに、直径男子であるレンジが次期男爵になった。政務ができる年齢ではないから、一時的によその貴族に引き取られ、そこで必要なことを学ぶらしい。お父上の、直属の上司が面倒を見てくれるのだとか。

 

 そして俺は、教会、その孤児院に預けられた。魔法が使えず、貴族としての役目も果たせず、次代への繋ぎにもならない出来損ないは、家族の情がなければ引き取るにも値しないらしい。幸い、教会は魔法至上主義に染まっておらず、俺に対して蔑みの目を向ける人はいなかった。愛してくれる家族を失って、初めて俺は、差別されない環境を得たのだ。

 

 情けなかった。俺に力があれば、家族を守れたかもしれないのに。誰かを守れるような力なんて、この身には備わっていなかった。そのことに対する後悔を、面談の度にシスターに伝える。部屋の中はほんのり甘い香りがして、シスターの柔らかい雰囲気もあって、胸の澱が晴れるような心地良さがあった。

 

 誰も、俺を差別しない。みんな、俺に優しくしてくれる。シスターも、一番年上のロルフも、俺のことを家族みたいに大切にしてくれる。そんな人達だったから、そんな環境だったから、秘密を打ち明けることに対する抵抗は、いつの間にかなくなっていた。

 

「よく、よく話してくれましたね、キャロライン。あなたのその力は、みなを幸福にできるものです。どうかわたくしたちのために、使ってくれませんか」

 

 否はなかった。あるなら、最初から伝えなかった。真実以外を口にできないという事実は複数回の検証を経て真実と認められて、俺の身柄は教皇様の元へ移される。教皇様は俺をかわいがってくれて、おじいちゃんはわたしをひつようとしてくれた。

 

 あまいかおりのするへやで、あたまのなかがふわふわするなかで、おじいちゃんにたのまれるとおり、しんじつをくちにする。わたしのおかげで、みんながしあわせになれるらしい。むずかしいことはわからないけど、とってもいいことらしい。

 

 たのまれて、くちにする。たまにひつようになって、くちにする。そうするとおじいちゃんがほめてくれて、おじいちゃんのてがひかって、あたまのなかがしあわせでいっぱいになる。まほうの“て”でなでられるのがしあわせで、なでてもらえないときがくるしくて、おじいちゃんのために、がんばる。

 

 しんぞうがとまるのは、いつのまにかこわくなくなっていた。そんなことよりも、まほうの“て”がもらえないほうが、ずっとこわかった。わたしのしあわせは、そこにしかなかったから。なでてもらうためなら、なんでもできた。

 

 やがてあたらしいおじいちゃんがやってきて、おなじようになでてくれる。それだけが、わたしにとってたいせつだった。ゆうしゃとか、せいじょとか、むずかしいことはぜんぶ、どうでもよかった。どこかみおぼえのある“ゆうしゃ”が、わたしになにかをいっているのも、ぜんぶ、ぜんぶどうでもよくて、しあわせにしてくれる“て”だけが、わたしのすべてだった。

 

「お姉ちゃん、少し待っててね。私が助けてあげるから。元に戻してあげるから」

 

「聖女キャロライン、こちらに来なさい。今日もたくさん撫でてやろう」

 

 ゆうしゃのこえをむしして、おじいちゃんのもとにむかう。あたまのなかが、しあわせにつつまれる。なにかもっと、きにしなければいけないことがあるきもするが、きっとそんなの、きのせいだ。だってこのよに、このてよりたいせつなものなんて、あるはずがないのだから。





 トロフィー“白痴の聖女”を獲得しました。ピコンッ

 Q.メインルートでは先生同伴で公爵領や王都まで逃げられないの?

 A.先生に未来予知もどきのことを伝えられるならなんでもできるよ。当然のようにキャリーは出荷されるよ(╹◡╹)

 領地を捨てて逃げるなんて、まともな貴族ならできないからね。それをさせたのは、それだけの説得材料ありきよ(╹◡╹)
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