過労死ライン越え(TS)転生者 キャロライン・オーバーは労働の待つ輪廻から解脱したい 作:エテンジオール
と思っていたら昼休みは訪れなかった。自作のタッパー弁当は3時過ぎにお水で流し込んだ(╹◡╹)ナキソ
ようやく、椅子に座って落ち着いた時間を過ごせるようになったキャリーです。救出後、すぐに処置をしてもらいましたが、左手は上手に動かせなくなりました。なまっ白いお肌だったのに、ちょっと黒ずんじゃったね。お水ちょろちょろは変わらずできるのと、おてても変わらず光るので、魔法的な問題は全くないです。日常生活的な問題?ないわけないじゃん。
ゲームの命のためなら、安いもんだ、腕の一本くらい。……心臓止まらない!安かったんだ!俺の腕っ!なんて悲しい自己認識を理解しながら、やっぱり腕が使えないのは不便なため、他に何か道がなかったかを後追い確認する。情報がほとんどなかったあのタイミングでは確かなことを言えなかった先生でも、実際に魔族と戦ったあとであれば、結果論として都合のいいアイデアを思いつくかもしれない。
必要なものは全部持ち歩ける前提で、暇つぶしみたいな体を装いながら、先生にアイデアをもらう。それを俺が復唱して、これなら実現可能だといえば、後出しの最適解は見つけられるはず。
「……これであれば理屈上は可能だろうが、対価とするのは腕一本では足りぬな。少なくとも、私の頭ではお前以上の結果を導けそうにない」
そう信じて聞いてみて、だめだった。むしろ先生の計算では、今回の俺の結果すら、先生的にはなぜ上手くいっているのかわからない、とのこと。何って……発熱反応を応用しただけだが?
先生の反応的にちょっとまとめたらまたそこそこの評価が得られるのではないか、と考え、口にすることで失敗を理解。応用自体は他の人でも可能だが、最低限の魔法を使えればわざわざ発熱反応なんて使わなくても、それ以上の熱を確保できるから。それこそ、人間扱いされないレベルの出来損ないでなければ、使い道のないカス技術になるのがオチですって。ちなみにこれができなかった場合、俺は生焼け死体になるまで自傷魔法を使い続けて、ようやくゲームが目を覚ますまで過ごせるらしいぞっ!神技術だなっ!
一応、そのことを先生に伝えて、熱源確保については多少緩和した過程で考えてもらって、出してもらったアイデアを口にする。今の俺が左前腕の中ほどまで焦げているのに対して、先生の案では手首までの犠牲で済むらしい。素晴らしい!是非やり直そう!……とはならない。今回の結果は、ゲームっぽく見れば乱数任せの繰り返しによる勝利、再現性を確保できない奇跡だ。俺がRTA走者で、これがタイムに繋がるなら喜んで再走しただろうが、もう一度やりたいとは思えなかった。手がまともに動く状態まで戻るのならともかく、多少範囲が減る程度であれば、モチベーションがわかない。
セルフ心停止することで先生への余計な情報をなくそうと考えて、もう今更だとやめる。どうせ、未来予知か時間回帰かのどちらか、と察されているのだ。明言しなければいい以上、無駄に心臓を止める必要はない。
俺の献身もあり、無事五体満足後遺症なしで帰ってこれたゲームがお見舞いに来て、いらっしゃいと振った左手を見て表情を曇らせる。助けられた子に対して、そのために失った部位を見せつけるとか、腕と一緒に人の心まで使い物にならなくなっちゃったんですか?と思われても仕方がない行動だが、今の俺はご飯中、右手は使用中だ。自由に動かせるのは、まともにうごかないおかげで使い物にならない左手しかないのである。……動かせないのに自由に動かせるってさ。笑っちゃうよね。笑えよ。
見栄えが悪いが故に包帯でぐるぐる巻きになった、文字通り添えるくらいしかできなくなった左手を見せて、ゲームの用事を聞く。うんうん、お姉ちゃんが無事か心配になって、じっとしてられなかったんだね。大丈夫!ちょっと不便なだけでなんともないよ!
ゲームはどうやら、自分のせいで俺が左手を使いにくい飾りにしてしまったと後悔しているらしい。が、俺は別に気にしていない。それしか方法がなかったのであれば、腕の犠牲くらい、許容範囲なのだ。そうしなければゲームが死んで、連鎖的に俺の心臓も止まる以上、俺にとっては死ぬか腕を犠牲にするかの二択で、死ぬと強制的にやり直させられる以上、腕を犠牲にする一択しか無かった。右手は普段使いするし、歩けないのも不便。……普段見えない背中とか、服で隠せる部位だったらもっと影響が小さかったか?末端じゃないと生命維持に影響が出るのね。やっぱり左手一択じゃないか。
気にしなくていいよと言って、それでもとごねるゲームに対して、それなら、お姉ちゃんが本当に困った時は左手の代わりに助けてねと伝える。……本当に困った時以外?こっちから頼まなければわざわざ助けなくていいよ。単純に左手の代わりに〜とか言ったら、ベッタリ引っ付いて離れなくなるでしょ。せっかく助けた妹の人生を制限するなんて、俺が喜ぶと思う?
何時でもそばにいる!と案の定主張するゲームに、片手でもそんなに困らないことの方が多いのだ、と示してみせる。ちょうど今は食事中。貴族令嬢の端くれとしては、ナイフとフォークを駆使してお上品に食べるのが正解。けれどこの左手は手首から指先まで見事に動かないので、当然フォークは持てない。紐で括り付けたとしても、まともに動かせない。でも大丈夫!俺は令嬢である前に元日本人。礼儀なんて些細な事象に目をつぶれば、むしろ右手にフォークの方が食べやすい!
食事は手伝いが不要。読書は……ちょっと不便。先生のお手伝いは荷物持ちが免除され、論文は片手で書ける。お仕事がPCだったら諦めるしかなかったが、日常生活において、片手でできないことなんて家事を除けばそれほどない。お風呂で右腕を洗うことくらいか。
食事なんて極論、適切な器と顔の位置を調整できるつっかえ棒さえ着いていれば、手がなくても食べれるのだ。それに比べて、俺にはぼんやり光る立派な右のおててが着いている。それに、何も出来ない訳じゃない。
「そんなに心配してくれなくても大丈夫。お姉ちゃん、ゲームが思ってるよりずっとすごいんだから」
そういいながら、左手をゲームの頭に載せる。ちょうどよく、力が抜けた形で動かせないそれは、頭の形にピッタリだ。つっかえ棒としての用途に限らず、この左手は妹の頭を撫でれるのだ!
言い終えると同時に謎の心停止が発生し、“ずっとすごい”を“ずっと頑丈”に変えることで回避。へぇ〜、ゲームちゃん、俺のことをただのポンコツお姉ちゃんじゃなくて、ちょっとはすごいお姉ちゃんだと思ってくれてるんだ。うれしいな。……ゲームの授業も補佐してるし、結構生徒たちの前で論文褒められたりしてたな。そりゃ、ちょっとはすごいお姉ちゃんか。一応これまで何度も助けてるしな。
妹から向けられる敬意を、思わぬ所で事実としてぶつけられて、俺は少し照れた。どうでもいいが、動かせないくせに感覚のある左手は、少し関節に力が掛かるとひどく痛む。右手でぎゅっきゅってしたら握りこぶしも作れるよ!激痛も走るけどなっ!
撫でられたことで静かになったゲームは、噛み締めるように“絶対、今度は私が助けるから……”などと呟いて、名残惜しげに去っていく。特に用事とかはなかったのね。ちなみに、正面で食べている先生は元々マナーにうるさくないです。食べながら作業できるサンドイッチを絶賛しているタイプだからね。俺の食べ方が多少、貴族のマナーから外れても、特に口うるさく言うことはない。
「キャロライン、パンのおかわりはいるか?」
ゲームにも言ったけど、日常生活は何とかできるくらいだから、そこまで気を使ってくれなくても大丈夫。でもまあ、気持ちは嬉しいから大人しく受け取っておこう。ゲームには甘えず、先生の気遣いは受け入れる理由は簡単、先生は気を使っても、それを最優先にはしない。あくまで余力をさいてくれるくらいに留まると、理解しているからだ。
「食べ終わったら食器を運んでやるから呼びなさい。研究室にいるが、気を使う必要はない。何かあったらすぐに声をかけるように」
前言撤回。ゲームみたいに付きっきりにならないだけで自分の生活リズム崩すやつじゃん。いくら
そんなに気を使ってくれなくても、自分でやるべきことは、だいたいできる。むしろ、できることまで全部やってもらって、何もしなくなることの方が嫌だ。おれは確かに、不出来な出来損ないだが、モルモットとして、先生の補佐として、有用なことはこれまで示してきたはずだ。
「気を使ってくれることはうれしいですけど、それでわたしの“出来る”を否定しないでください」
気遣いを拒絶するように、少し強い言葉を使う。“それとも、片手の使えないわたしには頑張らせる価値すらありませんか?”と続ければ、先生はそれを否定できない。否定できるわけがない。それをわかっていて、わざとこんな言い方をする俺はきっと卑怯者だ。信頼関係ありきの言葉を、信頼関係を引き合いに出しながら使うのだから。相手の気持ちを無視して、都合のいい返事を引き出すのだから。
けれど、それでもいい。今の俺はゲームの姉で、両親の娘で、先生のモルモット兼助手。特に最後のものに関しては、これまでの積み重ねで手に入れたポジション。それを片手の不具程度で脅かされるなんて、たまったもんじゃない。
そう思う根源はきっと、自分のあり方に対する不安だ。努力の果てに手に入れた、ちょっと大変でもやりがいのある役目と、恥ずかしいから直接は言わないが尊敬できる
だから、役に立たなければ俺には価値がない、なんてのは、ただの強迫観念だ。先生を、周囲を疑っているだけの、不要なものだ。そう頭では理解しているはずなのに、“役に立たなきゃ”という思いは、鍋底の焦げのように取れなかった。
Q.力になりたいと思っていた相手が、自分のせいで片腕を“素敵な飾り”に進化させました。せめて手の代わりになりたいと思った矢先、慰めるようにその手で頭を撫でられてしまった少女の心境を50字以内で答えよ。ただし、句読点は文字数に数えないものとする。(配点:5)