過労死ライン越え(TS)転生者 キャロライン・オーバーは労働の待つ輪廻から解脱したい   作:エテンジオール

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魔法の素質はミソッカス。

 生きにくいこの身であっても、時間が経てば当然生きることになるし、本体も周囲も変化は生じる。それは例えば加齢であったり、誕生であったり。

 

 何が言いたいのかと言うと、この俺、キャリーにかわいいかわいい妹が生まれた。二つばかり歳が離れた、元気な女の子だ。お母様に、俺にそっくりで、とってもかわいい。お父上?指の本数とかそっくりだよ。

 

 さて、俺にとっていちばん恐ろしいものは労働で、いずれ産まれてくる妹とはそれを伴った存在だ。けれど、待って欲しい。一体誰が、俺の妹が1人しか生まれないなんて言っただろう。いや、誰も言っていない。なんて考えているのはつまりそう、この赤子が、俺の運命の妹ではなかった……なんてわけではない。そうだと明言されたわけでは無いが、名前を聞けば運命と理解するには十分だった。オーバーさん家のゲームちゃん。つまり、ゲーム・オーバー。これが俺の妹の名前である。あのさぁお母様、ネーミングセンスってご存知?

 

 キャリー・オーバーより酷い名前が、まさかこんなすぐに現れると思っていなかった俺は、親から名前を聞いて絶句した。いくらこの世界にゲームが存在しないとは言っても、こんなのってあんまりだろ。確かに、俺にとっては守れないとゲームオーバーな存在だが、両親にとっては愛しい娘のはずだ。なのにこんな、自己紹介聞いたら笑っちゃうような名前になるなんて。

 

 今後俺は妹の名前を聞く度に笑いを堪えなければならないのだ。そう考えて憂鬱な気分になったのも、今となっては二週間前。はじめ、確かに強かったはずの違和感は、いつの間にかなくなっていた。

 

「ゲーム・オーバーは転生者である。前世は人間」

 

 あどけない笑顔を見せる、まだぷくぷくな妹ちゃんの前で、そう口にする。心臓は、止まらない。

 

「ゲーム・オーバーは転生者である。自覚はない」

 

 止まらない。発言が聞かれることによって、嘘の有無を判定されることは、これまでの検証で確認済だ。そこに相手が理解しているかは関係しないため、言語の有無は関係ない。一回これで心停止したからね。そこは十分、確認済だ。

 

「ゲーム・オーバーは転生者である。記憶は蘇らない」

 

 止まらない。ちなみにこの判定、虫にしてもダメだった。一旦、人間に通用するのは確認できているが、どの範囲までいけるのかは未確認だ。うちの周辺、哺乳類っぽいやつがいないのよね。広いお庭にいる虫さんたちはダメだったが、これは助かった。虫なんてどこにでもいるからね。

 

 産まれる前に考えていた、全人類精神崩壊転生者説を補強してしまう結果に恐ろしさを感じつつ、心停止前提で家族全員に試してみると、ママ上は猫さん、お父上はチワワだった。なんだ、我が家で人間なのは俺と妹ちゃんだけか。

 

 そういえば多胞体様が、輪廻転生を肯定していたなと納得しながら、不用意な質問の記憶を残させないために心停止。質問前に戻る。うん、いつも通り苦しい。俺がマゾなら大歓喜だな。そうではないので辛いだけだが。

 

 

 妹ちゃんの脳みそが俺以上のつるすべであることを確認したら、いくつか仕込めるものを仕込んであとは待ち。元気かつ知的な幼児らしく、部屋の中を走り回ったり、ママ上に魔法を教わったり、ママ上に文字を教わったりする。お父上?外で元気にやってるんじゃないかな。昼間はいないよ。家族という共同体にとって、外貨を稼いでくるのは重要な役割だからね。がんばれっ!お父上。月月火水木金金、働くあなたは魅力的!

 

 どうやら生まれがいいらしく、お上品なお母様とは異なり、どことなくなよっとしたお父上のことを頭の片隅で考えながら、ママ上の教え通りに魔法の練習。水や火以外にも、曜日っぽいものは一通り精霊さんがいるらしい。そこから派生して、一週間は7日なのだとか。太陽の日、月光の日、炎の日、と、なんかそれっぽく呼ばれてはいるが、要は月火水木金土日。とっても覚えやすくて転生者向けだね。なお、日曜日に神様は休まない。よって定期の休日は存在しない。

 

 過労死転生者としては発狂しそうになるような事実から目を背けつつ、過酷な労働に励むお父上に合唱。手を開くと、水も滴るぷにおててが目に入る。やっぱり、この体は魔法の適性がないらしい。

 

 太陽の魔法を使えば蓄光くらいのぼんやりとした光、月光の魔法は発動しない、電子ライター程度の火花。水氷は手汗で森緑は発動しない。金属は砂鉄が僅かにくっ付いて、大地は砂埃。日火水金土しか発動しないですね。残り二日は休日でいい?

 

 土土土土土土土の素敵な日々を送りたい願望を持ちながら、たった二日だけでいいから休ませてくれと謙虚な願いを抱きつつ、手のひらから砂埃をサラサラする。室内の無風環境だから、生成された砂は全て足元に落ちて、コロコロ転がる泥団子に吸収されていく。ママ上が魔法で作ったお掃除用ゴーレムだ。同じ土の魔法でも、汚すしかできない俺とは違い、ゴーレムくんはいい子である。なお、生き物ではないため嘘をつける。あのね、実はキャリー、男の子なの!

 

 思考を持たない非生物に嘘をつくという、この世で最も意味のないことをしばらく続け、途中で虚しくなる。そろそろやめようと思ったタイミングでママ上が戻ってきたらしく、1心停止。口先から常に嘘を垂れ流すことで、人の接近、言葉の意味を理解できる程度のそれを察知することができる。カスみたいなライフハックだな。もっと役に立ってよ。

 

 転がりながら成長を続けるゴーレムくんと、一向に成長の色が見えない魔法との差に泣きながら、床の上に砂を巻き続ける。成長できない俺の分も、たくさん吸収して大きくなるんだよ。なんてことを考えるくらいには愛着が湧いていたゴーレムくんは、戻ってきたお母様の一言で屋外に向かい、そのまま自壊。命でさえも儚いのに、使い捨て道具の儚さといったら。思わず涙が増水しちゃうね。

 

「さて、キャリー。魔法の基礎、放出はやり方を覚えたわね。全ての基本になるからこれからも練習は続けてもらうけど、ここからはもう少し別の勉強もしましょう」

 

 なんと、俺が魔法だと思っていたものは基礎でしかなかったらしい。そりゃ、手のひらぽたぽたとか手のひらサラサラとかが本当に魔法か?と思いはしたので、納得ではある。つまり、俺にもまだゴーレムくんを使役する可能性が残っているということ!……ところでママ上せんせー、俺、まだ二歳なんだけど。その説明口調はちょっと対象年齢高くない?まほーのおーよーってやつも、対象年齢高いんじゃない?

 

 そんなふうに思いながらも、教えてもらえるのであれば俺としては都合がいい。水の魔法でお布団に世界地図を描く以外、魔法のコソ練って難しいんだ。物理的な影響のない魔法ってやつは揃って発光を伴うし、物証として残ってしまうと約束を破ったとバレる。実際には破っていなくても、お母様視点だと破ったように見える。誠実一本で売っている俺としては実に都合が悪い。その点、水魔法ちゃんはいい子だね。おねしょってことにすればいくらでも誤魔化せるもんね。……本当はもう、トイトレ済んでるの。いつも濡らしてごめんね、ママ。

 

 言葉にせず頭の中だけでママ上に謝りながら、幼児向け!やさしい魔法講座!を聴講。ほーん、魔法ってえーしょーが大事なんだ。けど長い上に間違えるとボンッ!だからみんな簡易詠唱をするんだ。そうすることで魔法に方向性を持たせて、ただの現象を意味ある発現に変えると。

 

「この身に宿るは火の運命」

 

 慣れるより習え!と座学を重視した姿勢を見せるママ上に、やって見なきゃわかんないもん!と駄々を捏ねて、実践の機会を獲得。まずは全ての基本、簡易詠唱から。聞いた話から全体像を推測すると、これはご挨拶にあたる。現代語訳すると、“火の精霊さん、よろしく!”って感じ。人間関係舐めてんのか?

 

 それに対して簡易じゃない詠唱は、詳細説明した上でのお願いします。放出こと無詠唱は、やってくれないかなー。ちらっ、ちらっ。って感じか。人間関係舐めてんのか?

 

 貧困な語彙力で詠唱を続けて、おてての先にガスバーナーくらいの火を発注。きっとこれでキャリーも魔法使いさんねっ!とうきうきわくわくしていると、消えかけのロウソクのような頼りない火がちょろっとあらわれて、すぐさま消えた。火付けの役にも立ちやしねぇ。

 

 でも大丈夫、火打ち石よりはずっと役に立つから。全く役に立たないわけじゃぁないのよ。可燃ガスとか、アルコールの蒸気とかが充満している場所なら、立派な火種に成れるわ。……そんな状況なら火花一発、無詠唱の放出でどうにかなるんですよ。やっぱ役に立たないな。

 

「あのね、キャリー。たまーに生まれつき魔法が上手な子もいるけれど、魔法は本来、精霊との縁を重ねていくことで強まるの。何回も繰り返し使ったり、勉強でその現象に対する理解を深めたり、時間をかけて育てていくのよ」

 

 だから、始めたばかりでほとんど使えないのは、おかしなことではないのだ。そう、どこか焦ったように口にするお母様。しっかり勉強をすれば、きっと上手に魔法を使えるようになるのだ、と慰めの言葉を口にするママ上の目は、どこか泳いで見える。

 

 オウムのように、言われた言葉を繰り返す。魔法は縁を深めることで、勉強することで成長していく。今は小さな火でも、いつかもっと大きな火になる。心臓は止まらなかった。未来に少し希望が見えて、世界が明るくなったような気がした。

 

「キャリーくらいの歳なら、この位の魔法しか使えないのも、おかしいことじゃない」

 

 心臓は止まった。初学習時点であっても、こんなミソッカスみたいな魔法しか使えないことは異常な出来事だった。

 

 心停止(そんなこと)を知りもしないママ上の、泳いだ目をとらえる。いや、気持ちはわかるのだ。キラッキラなおめめで、魔法、たのしいっ!なんて言っている我が子に対して、残酷な真実を告げるのが心苦しいのだろう。だから慰めの言葉を口にするし、本当に傷付くのが後になるようにする。俺は賢いキャリーちゃん、そのくらいのこと、理解できるさ。中身は大人だからな。でも、

 

 おかあさまの、うそつき。

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