過労死ライン越え(TS)転生者 キャロライン・オーバーは労働の待つ輪廻から解脱したい 作:エテンジオール
一説によると、身に纏うアクセサリーは大きければ大きいほど、重ければ重いほどオシャレだそうです。もちろんそれが違和感なく馴染んでいる、という前提にはなりますが、大きなアクセサリーを違和感なく馴染ませる、ということ自体が類まれなるオシャレ力の表れと考えれば、あながち違和感のある言説ではないでしょう。キャリーが今適当に考えました。どんな適当な言説であっても、誰かが理屈付けて主張すればそれが学説です。
さて、この説を前提に考えれば、体重に対しておそらく2、3%程度のアクセサリーを常に身につけているキャリーは、大変なオシャレさんと言えるのではないでしょうか。……そんな大きなアクセサリーをつけてたの?って?左手だよ。わかれよ。元々着いていたパーツだけに、違和感はほぼゼロっ!ダボッとした萌え袖で隠すことができれば完全なゼロにできましたが、残った右手の作業性がすこぶる下がるため諦めました。我慢できないなんて、キャリーにはオシャレの才能がないのかもっ!ないのは魔法の才能だけにしとけよ。
なんて戯言は置いとくとして、キャリーです。魔族襲撃から、およそ一月が過ぎました。片手が使えない支障は、ほとんどないです。ぶつけたり、バランス崩して転んだり、その瞬間咄嗟に手をつこうとして怪我したり、単純にものを持てなかったり。たくさん不都合があるはずなのに、ほとんど支障がないのには、実は秘密があるのです。……ゲームちゃんを宥める過程でうっかり、“基本的にはほとんど支障ない”と言ってしまったんですね。そのおかげで俺は、俺の主観的によっぽどの支障と認識するものと遭遇すると、自然と心臓がキュっ!となるようになったのだ。つまり、転んだ結果はなかったことになる。めっちゃ苦しい。
基本的という前提のおかげで、日常生活でどうしても生じる多少の支障については例外として定義することができるが、変なタイミングでうっかり心停止は普通につらいです。これはひょっとして支障なのでは?……ヴッ!
要らぬ事を考えたおかげで心停止し、これは例外!と言い聞かせることでなんを逃れる。そのままオシャレの左手で紙を抑えて、ペンをカリカリ。素敵なお口からは、俺以外に需要がないと保証されてしまった無駄技術こと化学反応の応用について、せっかくだからまとめている途中である。
魔族云々の前に調べていた呪いに関する内容もだが、俺はどうやら、極わずかな魔法の才能を最大限活かすための手法について、興味が強いらしい。俺自身の才能が悲しいくらいミソッカスだから、それでもと興味を持つことは至極当然。周囲からの基本的な扱いは、“面白いけどあんまり役に立たなそうな論文ばかり書く賢し系ロリ”である。苦節数年、ようやく俺を、“ルーカス氏のモルモット”以外の目で見る人が増えてきた。これまでは“おもしろモルモット”だったからな。モルモットとおもしろの割合が、ちょうど半々くらいになった時はちょっと感動した。なんでそんなことわかるかって?俺にはお口があるんだよ。
「キャリー、頼まれてた本を持ってきたけど、これであってるか?」
俺が自己解決しながらのんびりペンを走らせていると、お手伝いをお願いしていた後輩モルモットが、両手に本を抱えながらやってきた。どれも、図書館の中でだけ読むことができる蔵書であり、“キャリーなら興味持ちそう”と先生の同僚、学園の教師陣が教えてくれたものである。最初はひとりで探して集めようとしていたが、今の俺では一度に一冊しか持ち歩けないことと、高いところにある本を上手に取れないことから、偶然近くにいた2号に回収を頼んだものだ。
実際には、“偶然だね”と言った瞬間心停止したので、欠片も偶然じゃない故意によって手助けしてくれたローベルト少年に優しさを感じつつ、お礼を言いながらうち一冊を開く。お返事は、“いつも勉強みてもらってるからこれくらいは”とのこと。ゲームのついでだし、先生にもお世話になっているから、気にするようなことではない。ではないのだが、この少年の、こういう律儀なところが、俺は嫌いじゃなかった。
パシられるだけパシられて、そのまま退散しようとする少年に、“偶然図書館に来たなら用事があったんでしょ?せっかくなら横座りなよ”と声をかけることで、返却要員を確保。他の人や司書さんに頼むこともできるが、ちょうどいいところにいるのだから使わない手はない。この量の本があれば、両手が使えても同じことをするだろう。
書き物を一度やめて、本を読みながら気になった箇所をメモ書きに落書き。言われた通り素直に横で勉強を始めたローベルト少年が途中詰まっているところを片手間に教えてあげながら、感想と気になるところを考えて、オススメしてくれた教師との話題を用意しておく。俺におすすめしてくれる人達って、結構年配な方とか気難しい方が多いのよね。おしゃべりするとうれしそうなの。
自傷魔法なんて狂気の産物を使ったとは言えないから、公にはただドジって怪我をしただけ、となっている左手の火傷を心配してくれた皆様のことを考えつつ、読み終わった内容を頭の中で咀嚼。引っかかったところをもう一度読み直して、どうにもならなかった部分は聞きに行くリストへ。年齢と転生ブーストのお陰で、周囲には賢く思われている俺だが、中身は普通の人間だ。天才じゃない。十五にもなれば才児である。わからないところは自己解決できない。
「キャリー、時間があったら、アップルパイを食べに行かないか?」
俺が一冊読み終えてのを見計らったように、横で勉強していたモル2号からお出かけのお誘いが入る。聞けば、キャリーちゃん働きすぎ事件以降、ちょくちょく休みを取るようになっていた俺が、雪崩以降休んでいないのが気になったらしい。なんでそんなに俺の休みを把握してるんだよ。ストーカーか?ひょっとして俺のこと好きなの?……好きなのか。こんなムードもへったくれもない状況で暴いてごめん。
突然隠したい内心を暴かれた2号は、驚きのあまり椅子からドンガラガッシャンと賑やかに落ちた2号は、どうやらこのキャリーちゃんに好意を寄せていたらしい。あんまり気付いていなかったが、納得はできる。だって俺かわいいし。
ローベルト少年から見た俺って、勉強を教えてくれる年上のロリお姉さんで、才能に絶望せずひたむきに努力している努力家で、同居している家族みたいな居候なんだよな。素直になれなかった父親との架け橋にもなったし、ついでに両親のおかげで無駄に顔がいい。……なんだこいつ、青少年の性癖ブレイカーか?
そんなものを、一般的に才能がなかったゆえにひとりで燻っていた少年にぶつけてしまえば、まあ好意を持つのもおかしくないだろう。教育による淑女ムーブから覗く、元男ゆえの親しみやすさ?だってある。
つまり先程の誘いは、俺の働きすぎにかこつけた、デートのお誘いだったということか。“お父さんとおしゃべりしたいのに!ずるい!”なんて時期から2号を見守ってきた俺としては、欠片ほども異性と認識して来なかったが故に少し思うところがあるが、中身はただのお出かけ。別に否はない。
これが、未来溢れる若者の熱病であれば、適当にあしらってやる方がいいのかもしれないが、ローベルト少年は出来損ないなので、貴族的にあまり未来が明るくないのだ。両親のこともよく知っているし、“なし”か、と聞かれたらなしではない。気心がしれていて、本人の人柄も理解していて、それでいて忌避感がない。どうせ、まともな伴侶なんて望めない身、悪くはない。
考えてみるほどに、悪くない選択肢だった。先生の元で一生助手をしながら独り身のまま生きて、両親を心配させる未来よりも、幾分か良い。おそらくやることはそれほど変わらなくて、二人に心配かけなくて、世間体も悪くならない。一つ難点をあげるとすれば、TS転生者である俺は性自認こそ今世に適応すれど、恋愛対象が迷子になっていること。
慌てた様子のローベルト少年に本を片付けるように頼……もうとしたところで司書さんから、またすぐ来るんでしょ?預かっとくよとご厚意。遠慮なく甘える。特別扱い、うれしいね。他に誰も読まないから戻してても預かってても変わらないとか、現実言うのやめてもらえませんか?俺みたいな物好きがいるかもしれないじゃん。
早くも役割を失った可哀想な少年を引き連れて、出かける度に食べているアップルパイの店に行く。俺のことが好きで誘ったってことは、当然エスコートしてくれるんでしょ?と淑女フィルターを通しながら伝えたら、2号は、黙ってこくこくと頷いた。
きっとさり気ないつもりであろう態度で、俺の左側を気遣いながらエスコートされて、片手で食べにくいアップルパイは、切り分けてもらう。けれど何から何まで手伝おうとするのではなく、困りそうな時だけ助けてもらえるのは、なんというかありがたかった。先生やゲームとは違って、この子はこちらの様子を見た気遣いができるらしい。
親からもらったお小遣いで俺の分まで払おうとしてくれる、カッコつけたい少年心には圧倒的な財力パンチを返すことで、自身の中に僅かに残った少年心を守りつつ、しょぼくれた困り眉もわるくないなと思う。その後の行動の中でも、妙な安心感があったことを考えるに、俺は自分が思っていた以上にこの子のことを気に入っていたらしい。
そんなことに気がつきながらお出かけは終わって、時間も遅くなったので図書館には戻らず先生の部屋に。ゲームにお出かけとエスコートがバレた少年は、“私は断られたのになんでっ!”と八つ当たりされていた。……ちょっとだけ、愉快。