結論から言うと、俺は実家の公爵家を追放された。
領境まで馬車で連行され、
「今日からお前は我がウィリアムズ家とは何の関係もないただのアランだ! 二度と顔を見せるな!」
いかにも貴族らしい、金の掛かっている綺麗に並んだ真っ白な歯を剥き出しにした父にそんなふうに通告され、文字どおり蹴り出されたのがつい先刻のこと。
現在、俺は西のほうへ独り、歩を進めていた。
ま、それはいいんだが、問題はこの〈神スキル〉だ。
二年前、十三歳の誕生日を迎えた時に突如として俺のステータス画面のスキル欄に出現したそれは、他に類を見ない効果を持っていた。てか、その効果しかなかった。
ステータス画面というのは、RPGとかにあるあれだ。下敷きみたいな半透明のホログラム的なもので、MPとかSTRとかスキルとかが表示される。世界のルールとして自分以外には見えないとされている。
スキルというのは、個体ごとに設定された一定の条件を満たすことで発現する異能のことで、その人の本質を表象する。例えば、俺を蹴飛ばした父親なんかは〈偽りの愛〉とかいうのを持ってて自分を愛する者の嘘を見破れるし、フィジカル以外ほとんどチートスペックの弟は精神感応系スキルの〈
さて、異世界チーレムざまぁファンタジーに精通した賢明なる読書子の皆様ならば、〈神スキル〉とかいういかにもすごそうな名称なんだから何かすごいことができるに違いないと、そう考えるに違いない。
申し訳ない。その期待には応えられない。なぜって、
〈神スキル〉
・オレと会話できる。
初めてこれを見た時はとても困惑した。
オレって誰だよ? チートなし転生者ことアランこと俺こと俺のことか? つまり独り言ができるようになるスキルなのか? 元からできるんだが? 要らなすぎる。何なのこれ。これが俺の本質なの? 独り言適性EXみたいな? 悲しすぎるわ!
そんなふうに内心で激しく突っ込んだ。もしかしたら口に出てたかもしれない。
すると、〈神スキル〉の効果欄にメッセージが表示された。
『オレだよオレ、お前らが信仰してやまない神のルシフ様だよ。決まってんだろ。何でわかんねぇんだボケが』
俺は若干イラっとしつつすかさずこう念じて返した。
──文脈的には “オレ=神” となるんだろうけど、だってそんなスキル聞いたことないし。
『はぁああ、お前マジで終わってんな。前例とか類例がないからってありえないとは限んねぇだろーが。どんだけ馬鹿なんだよ』
俺はまぁまぁイラっとしつつ、
──ま、まぁたしかに前例がすべてではない。それはそうだ。で、会話した結果、俺は何を得られるんだ?
『てめぇのオツムには糞でも詰まってんのか? 普通に会話しただけで何か起こるわけねぇだろーが。わかれやカス』
──未来予知的な、神のお告げ的なものは?
『ねぇよ。だいたい未来予知って何だよ? 神は未来がわかるとでも思ってんのか? アホか。普通にわかんねぇから』
──何か有益な情報をくれるとか。
『はぁあ? 何でオレがそんなことしねぇといけねぇんだ? 何の得があんだよ。糞オツムに蛆でも涌いたか? だいたいアンフェアだろーが。お前だって兄弟で扱いに差がある親は嫌だろ?』
──じゃあこのスキルは何ができるんだよ?
『だからオレと会話できるって言ってんだろーがボケ。てめぇの目は節穴か? もう
俺はとてもイラっとしつつ、
──お前ゴミスキルすぎない?
『ギャハ! いいね、どんどん
サターンデュ教の宗教画に描かれたきりりとした
やっぱり俺は無能なのかなぁ。
〈神スキル〉が口の悪い自称神と会話できるだけの “賑やかしスキル” だと理解してからというもの、そんなふうに鬱々とすることが増えた。術者の本質を表象するということは役立たずのスキル持ちは人としても役立たず、つまりは潜在能力が著しく低い──こんなふうに考えるのは自然なことだろう。これなら発現しないほうがマシだった。
サターンデュ教の教えには、〈善行を積めば死後の審判で有利に働き、悪行を積めば不利に働く〉というのがある。つまり、善行を推奨しているわけだ。俺は、自分で言うのも何だが、前世のころから積極的に人助けをして生きてきた。宗教云々からではなく、正義でありたかったから。誰よりも正しく生きたかったから。
それなのにこの仕打ち、あんまりである。神は嘘つきだったのか。
『オレは嘘つかねぇよ』聞いたわけでもないのに勝手にステータスオープンして答えてきた。『アンフェアは美学に反するんだよ。だから絶対にやらねぇ。反例を探しても無駄だせ? ボロは出してねぇからな』
口ぶりが完全にインテリヤクザのそれ。俺は詳しいんだ!
『あ、ちなみに黙秘権はあるし、「黙秘は肯定と
──でも正直者であることの証明って悪魔の証明じゃん。嘘つきであることの証明は「オレはメロンパンである」とでも言えばいいけど、その逆は無理じゃん。どうやって信じればいいんだよ?
『馬鹿か? 下位存在なんだから下位存在らしく盲信しろよ。アホ面で「神様の言うとおりにしましゅ~」つって喜んでオレの靴の裏舐めろよ』
これはひどい。こんなのってないぜ。
とはいえ、
うおーー!! この世界はクソゲーだぁあ!! 闇落ちしてやるーー!!
とはならないので安心してほしい。いろいろと不運なことはあるが、人生ってそういうものである。精神年齢うん十歳を舐めてもらっては困るというものだよ。はっはっはっ!
ウィリアムズ領──この世界では “家名=爵位名=領地名” だ──から程遠い、森を迂回するように延びる鋪道の中程に差し掛かったところだった。
「!?」
不穏な気配を察知して思わず身構えた。カーブした道の向こう、ここからだと森の陰になって見えない辺りから怒号が聞こえた気がしたのだ。足音を殺し、しかし足早に近づき、木の陰から覗く。
と、
「ぐぅっ」
騎士らしき男が賊らしき男に斬り伏せられ、
「イヤーッ!」
貴族令嬢らしき少女が天を裂かんばかりの悲鳴を上げたところだった。
『ギャハ』