翌日、早朝。
高い壁に囲まれたリリスンの町の市門に行くと、深緑のマントをした太り
「女も好きだぞ」
レオノールがぼそっと呟いたが、ミスティは小首をかしげた。「そうなんですか?」
「あっ、いや、何でもない」レオノールはそっぽを向いた。桜色のポニーテールが揺れる。心なしか耳が赤い。
商品を積んだ馬車は二台あり、中には染料の植物がぎゅうぎゅうに詰め込まれているという。
「ザザンカで靴紐を染めるのが流行ってましてね」サイモンは言う。「片方だけ赤とか青とか派手な色にするのがいいらしいんです。誰も彼もみんなアシンメトリーな靴を履いてますよ。例外は足のない人くらいでしょう」到底理解できないセンスだ、というような口ぶりだった。
たしかに違和感がすごそうだが、
「そこは『いいセンスだ』って言うところですよ」と教えておいた。
ベナール領はアルマス王国の中央部にあり、到着予定日は順調にいって五日後の夕方となる。令和日本基準だと、交通が発達していないせいでまぁまぁ掛かるな、となるが、中世ヨーロッパ基準だと驚異のハイスピードである。ダイヤモンドシールドの指輪で
早速、出発する。サイモンとダニエルが御者となり、徒歩の俺たちがその周りを固めるという陣形だ。
市門を出ると、広大な草原に街道がどこまでも延びている。青々とした風が草花を撫でてゆけば、ミスティがその濡羽色の髪を押さえる。
「『なん……だと……』」
ルシフの驚愕する表情が目に浮かぶ。
俺も同じ台詞を吐いていた。我知らず、「馬鹿なっ」と唇が
何があったか。
出てくるモンスターはすべてレオノールが達人の居合い抜きみたいな速度の一太刀でオーバーキルしちゃうから、平和を通り越して暇だった。感知範囲も半径およそ300メートルと規格外に広く、不意を打たれることもない。すると当然、退屈が苦手なルシフが、「おい、チェスしろよ」と言い出す。
「ミスティ、いいか?」俺は彼女を誘った。
「うふふ、いいですよ」ミスティは満更でもなさそうに応じる。「アラン様もお好きですねぇ、ふふ」
「!?」
レオノールは当惑した様子だったが、それはともかく、驚くべきことにルシフが勝利した。
『はっ、所詮下位存在か! 多少はマシだったが、オレ様の敵じゃねぇな! ギャハハ!』
それはそれはイキり散らした。連敗からようやく一勝しただけなのに、だ。お前はイキりチート転生者か、というツッコミが喉まで出るほどだった。
しかし、世の中、上には上がいるものだ。
ミスティが突然、地獄の底から湧き上がってくるような笑い声を発した。
「ふふふふふふふふふっ! ここまでとはっ! よもやよもやだ! 実に愉快なりッッ!」
あの、ミスティさん? あなたそういうキャラでしたっけ?
とお思いの方もいらっしゃることと思うが、チェスをしている時はだいたいこんな感じである。諦めてくれ。
「どうやらわたしはアラン様を見くびっていたようです。申し訳ありません」
そしてミスティは、イキりチート転生者ムーブ返しをかました。
「淑女たる者、殿方を立てなければならない──そう思って “力” をセーブさせていただいておりました」
ごくり。聞き耳を立てていたレオノールとダニエルが唾を飲む気配がした。
「今までお相手していたのは “六歳のわたし” です」
ここで、何だと、である。ダニエルは「な、何だってー?!」と元気に合いの手を入れていた。ノリがいい。
「次からは “七歳のわたし” がお相手しますゆえ、覚悟のご準備を」
突如として
そうして旅路を行き、四日目の昼過ぎにペヌエの森に踏み入った。
「……三十八、三十九、四十」レオノールが言う。「全部で四十、おそらくアイスウルフの群れだ。間もなく接敵する」
アイスウルフ──氷魔法を得意とする狼型のモンスターで、成体は全長で三メートルを超える。討伐難易度は単体でC、群れとなると場合によってはAにも達する。
ペヌエの森は異様に背の高い針葉樹が繁茂している。その中央を横断する幅広の道を進むことおよそ一時間、レオノールがモンスターの気配を察知した。完全にロックオンされていて、統率の取れた動きで接近してきているという。
「ミスティは結界で依頼人と馬車を守ってくれ」俺は〈さけのけん〉を具現化しつつ指示を出した。「俺とレオノールで殲滅する」
初めての共同作業である。
ダイヤモンドシールドの指輪で強化されたミスティの結界魔法は、馬車二台をその半球体の中に収めた。
「来るぞ!」
レオノールが背中の大剣を二本とも抜き、羽ペンを扱うかのように軽々と構えた。今まではずっと一本で戦っていた。これが初めて見る大剣二刀流だった。
立ち並ぶ
だが、カンストしたステータスからすれば見切るのは容易い。
最小限の動きで身をかわし、〈さけのけん〉を下段に構えてアイスウルフに向かって跳躍する。
一歩で迫り、アイスウルフの反応はゆえに二拍遅く、余裕を持って斬り上げをくれてやれる。〈さけのけん〉が黄金色の軌跡を描くと、
「──!」
ヒット。左右の脳を斬り分けるように顎下から頭部を両断された白い毛並みの巨狼が、声なき断末魔と共に地に沈む。
はい次!
サクサクいこうと身を翻した。しかしその時、
「アラン様!」
ミスティの声が鋭く突き刺さった。「まだです!」
背後から殺気。肌が粟立ち、本能のままに飛び退くと、頭部を左右対称に斬り裂かれていたはずのアイスウルフがなぜか復活しており、大口を開けて噛みついてくるところだった。
ガチィィッ。間一髪、空振って牙が鳴った。冷や汗が滲む。
何だ、何が起きた?
手応えはあった。確かに殺したはずだ。
しかしのんびりと立ち止まって考察に耽ることはできない。次々と襲いくるアイスウルフを、“氷の槍” を捌いていく。
だが──
「なぜだ?」
なぜアイスウルフは蘇生できる?
何度斬り伏せても瞬く間のうちに復活してしまうのだ。
そして、そのゾンビアタックはレオノールにも起きていることだった。つまり、群れ全体の能力。同一能力を全個体がそれぞれ持っているか、全個体の協力があって初めて成立する “共犯型” か。
蘇生魔法か?
いやそんな馬鹿な、とその考えをすぐに打ち消す。超上級魔法をこんなホイホイ使われてたまるか。現実的に考えてそれはありえない。それにそもそも、氷魔法以外とおぼしき魔力の動きも見受けられない。
となると可能性は一つ──と、その時、少し離れた所で群れのちょうど半分を相手にしていたレオノールの唇が、
「未確認スキルか。厄介だな」
と呟くのが目の端に映った。レオノールも同じ結論に至ったようだ。
ということは、こいつらが被害増加の原因だろう。攻略法の確立していないスキルで有利を取って食い荒らしていたというわけだ。
そして、アイスウルフの足には “氷の靴” が履かれていた。おそらく足跡から自分たちが犯人であると悟らせないための偽装工作だろう。調査されて解明されるとメタを張られてしまう。それを防ぐためだ。
のみならず、氷表面の水を瞬時に凍らせて対象物に接着する “
かなりの狡猾さだ。変異株かもしれない。
群れの規模や練度、知能、そして未確認スキル──これらを総合的に考慮すると、討伐難易度はAランク中位くらいか。たしかに厄介だ。特に、継戦能力に不安のある俺とはすこぶる相性が悪い。無限に蘇生されるとガス欠で負ける。
発動条件は何だ?
アイスウルフを撫で斬りにしながらも、思考は止めない。
これほどのスキルが無条件なはずがない。しかし回数制限やMP消費タイプではないだろう。もしそうだったらとっくにガス欠になっているはずだ。
であれば、状態又は状況条件を満たして発動するタイプか──
「ガァァ!」
俺を切り裂かんとアイスウルフの “氷の爪” が振るわれる。
身を屈めてかわし、光を振るって首を切断する。
と同時に、横合いからアイスウルフがぶっとんできた。俺のすぐ目と鼻の先の樹木に衝突してひしゃげ、血飛沫が迸った。
「すまん!」
レオノールだ。殴るか蹴るかしたのだろう。彼女のDEXは7500を、STRに至っては13500を越えているという。すなわちカンスト時の俺以上の顕在筋力。この程度は赤子の手をひねるようなものだ。
いいよ、と手を上げて答える。
と、たった今俺が倒したアイスウルフが復活し、再び
それを処理したところで、
「ん?」
はたと気づいた。
ピンク髪の成人女性が殴る蹴るなどの暴行を加えて殺害したワンコ(科モンスター)に蘇生の気色が見えないのだ。飛び出した骨や臓物が体に引き込まれることもなければ、だらんと垂れた舌が動くこともない。確実に息絶えている。
と、アイスウルフたちの動きが変わった。
つまり、俺を襲う二十頭(以下、甲グループとする)が十頭ずつに分かれ(以下、甲Aグループと甲Bグループとする)、甲Aグループと甲Bグループで前衛と後衛をそれぞれ担当して攻撃を仕掛けてくるようになった。レオノールの十九頭(以下、乙グループとする)にはそのような変化は見られない。
「──アラン!」レオノールの鋭い声が耳に飛び込んできた。「この未確認スキルはグループごとの “相互担保能力” なのではないか!」
彼女の提唱する仮説はこういうことだろう。
つまり、甲グループのアイスウルフと乙グループのアイスウルフを同時に倒すことでどちらかの蘇生を阻止できるというものだ。
これなら、きっちり二十頭ずつに分かれていたことも腑に落ちる。総合的な戦闘力はレオノールのほうが上だ。それは少し戦えばわかる。であれば、弱いほうをスピーディーに処理するために甲グループに厚く割くか、その逆に強いほうを処理しやすくするために乙グループに厚く割くかするはずだ。つまり、賢く合理的な狩りが可能なこの群れが甲乙を等分としつづけるのは不整合なんだ。
なのにそうしているのはリスクを抑えるため。甲グループの個体と乙グループの個体が固定されていて、同時殺害でどちらかが蘇生できなくなるとすれば、甲乙を分ける必要がある。同じグループでは同時殺害のリスクが高くなるからだ。
ただ、そうなると甲Aグループと甲Bグループに隊列を分割したのは未確認スキルとは無関係の単なる作戦の変更ということになるが……
「試してみる価値はある!」
俺はレオノールに検証作業のGOサインを出した。
「了解!」
レオノールは自身のスキルを発動した。彼女をS級の頂きへと至らしめた、“白兵戦最強” との呼び声高いそれは、この検証に最も適しているスキルの一つだろう。
レオノールの前方の地面に魔法陣が出現する。
そして現れたるは、
〈鋼鉄の
クレイモアを携えた
いわゆる “人形遣い系” のこのスキルの最も恐ろしいところは、術者のステータスがそのまま反映される点だろう。つまり、レオノールが二人に増えたのと同義。
さらに、自動モードと手動モードの切り替えも可能で、五感の共有さえも可能だ。そのコンビネーションの破壊力は単純な足し算で測れる域を超越している。
そう、それは寸分の狂いもない同時殺害という、本来ならば夥しい試行回数を必要とする攻略法を、いとも容易く実行してしまえる。
さっちゃんが甲グループのほうにやって来る。「コロス……コロス……」合成音声みたいに抑揚のない細く高い声でぶつぶつ言いながら。「コロス……コロス……」手動モードでもお口(?)だけはさっちゃんの制御下なのだ。「コロス……コロス……」
「……」
さっちゃんなぁ、存在がホラーなんだよなぁ。
さっちゃんは昨日の夜番も自動モードでやってくれたんだけど、その時も「コロス……コロス……」ってずっと呟いててさぁ、怖いの何のって。
というわけで内心で苦笑しつつ気持ち多めに距離を取り、様子を窺う。
さっちゃんがクレイモアを振り、と同時にレオノールも大剣を振り抜いた。
哀れ、二頭のアイスウルフは顕在筋力一億オーバーの無慈悲な一撃に絶命してしまった。
しかし──
「なん……だと……?」「コロ……コロ……?」
レオノールとさっちゃんのリアクションが綺麗にシンクロする。アイスウルフが復活したのだ。それも二頭とも。
「どういうことだ……?」「コロコロコロス……?」二人して当惑の声を洩らしている。
何か
流れで甲グループを同担することになったさっちゃんと共にアイスウルフを処理しつつ、マルチタスク的に仮説を見直す。
同時殺害の組み合わせはグループごとではなく個体ごとの一対一なのか? それなら今のはハズレを引いただけということになるが……。
しかし何か引っかかる。喉に小骨が刺さったような嫌な感覚。やはり何か見落しが──
「!?」
おかしい。そうだ、これは不整合だ。
──なぜアイスウルフは一頭も逃げ出していない?
組み合わせが一対一なら、多いほうの甲グループには蘇生できない個体が含まれていることになる。そして、アイスウルフのゾンビアタック戦法ではその個体はすぐに殺されてしまう。俺たちとの戦闘力の差はこいつらも十分に理解しているはずだ。であれば、その蘇生できない個体は逃がしてしまったほうがいい。いても殺されるだけなのだから。
では、個体間の真の関係性は何だ?
一対一でもグループ対グループでもない関係性──。
不意にまなうらにチカッと閃光が走り、ギルドでのやり取りが想起された。
“受付嬢はレオノールの顔色を窺い、そのレオノールはミスティの指示を仰ぎ、そのミスティは俺に任せると言い、そして俺が依頼を引き受ける旨を受付嬢に伝えた”
山手線みたいに循環していてルシフに呆れられたやつだ。そう、循環していたんだ……循環……
「──ああっ!」
そういうことか!
「わかったのか?!」とレオノール。
「ああ! ちょい掛かっちまったが、辿り着いたぜ!」
──いや待て落ち着け。
冷静に考えると一意には推理できない。危ない危ない。ミステリー大学本格ミステリ学部消去法型推理学科の皆様に怒られちまうぜ。
「──いや、まだ仮説の域を出ない! だが、同時殺害後の不可解な作戦変更を考えるとこれが一番しっくり来る!」
名付けるならば、〈循環担保能力〉 。
つまり、こういうことだ。
まず前提として、アイスウルフには一から四十まで番号(=ID)が振られている。ただし、外見からは判別できない。
で、蘇生条件だが、〈二番死亡時に一番が生存していることが二番の蘇生条件になり、三番死亡時に二番が生存していることが三番の蘇生条件になり……〉と続き、〈……一番死亡時に四十番が生存していることが一番の蘇生条件となり〉と一周して戻ってくる。
ゆえに、同時殺害(=不可逆死)のリスクを抑えるために甲乙(=奇数と偶数)に分かれていたんだ。
これを前提に “一頭も逃走していないこと” “甲Aグループと甲Bグループへの分割” “甲Aグループと甲Bグループでの前衛と後衛の役割分担” “しかし乙グループには作戦変更がないこと” を解釈すると、死亡して蘇生できなかった個体より後ろ(又は前)の番号が、他の個体の蘇生完了後に、連続するように一つずつ詰めて振り替えられていたのだとわかる。だから循環担保関係は途切れておらず逃げ出す必要はなかった。しかし同じグループ内に連番が生じるので同時殺害(=不可逆死)のリスクが高くなる。だから甲A(=前衛)と甲B(=後衛)に分かれたんだ。
まとめると、こうなる。
〈循環担保能力〉
・n番の個体が蘇生するにはn-1番の個体が生存(=蘇生完了状態)していなければならない。ただし、n-1番とn番が寸分たがわず同時に死亡した場合、n番の蘇生条件の判定上はn-1番は死亡と
・効果処理の順番は、まずn番の蘇生条件の判定(=n-1番の生死の判定)がなされ、次にn番の蘇生処理が実行され、最後に番号(=ID)が振り替えられる。
・番号振替は、残存個体の関係性が連番のウロボロス構造の円環になるようにおこなわれる(繰り上げ、又は繰り下げられるわけだが、同じことなので区別しなくてもよい。また、外見上はどの個体がどの番号かは判別できない)。
『数学の授業かよ。だっっっる!』
──お前が始めた世界だろうが!
ルシフのことは措いといて、具体例を挙げて見ていこう。なお、奇数と偶数の振り分けはどちらでもよい。
〈殺害前〉
甲グループ(奇数)
1 3……21 23 25 27 29 31 33 35 37 39
乙グループ(偶数)
2 4……22 24 26 28 30 32 34 36 38 40
上記を前提に、例えば21番と22番が同時に殺害される(=22番の不可逆的な死)と以下のようになる(半角丸括弧は殺害前=振替前の番号)。
〈殺害・蘇生・振替後かつ甲グループ分割前〉
甲グループ
1 3……21 22(23) 24(25) 26(27) 28(29) 30(31) 32(33) 34(35) 36(37) 38(39)
乙グループ
2 4……20 23(24) 25(26) 27(28) 29(30) 31(32) 33(34) 35(36) 37(38) 39(40)
この状態だと21番と22番が甲グループに所属することになり、連番同時殺害(=後ろのほうの蘇生不可)のリスクが高くなってしまう。そこで、21番と22番が分かれるように甲グループを分割したんだ。
甲Aグループと甲Bグループに分かれると以下のようになる(21番と22番以外は何でもいい)。
〈甲グループ分割後〉
甲Aグループ(10頭)
21 1 3 5 7 9 11 13 15 17
甲Bグループ(10頭)
22(23) 24(25) 26(27) 28(29) 30(31) 32(33) 34(35) 36(37) 38(39) 19
乙グループ(変更なし。19頭)
2 4……20 23(24) 25(26) 27(28) 29(30) 31(32) 33(34) 35(36) 37(38) 39(40)
そして甲Aグループと甲Bグループにそれぞれ前衛と後衛を担当させれば、連番同時殺害のリスクを抑えつつ狩り(持久戦)を続行できる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」口頭で説明されたレオノールは混乱した。「つまり、わたしは何をすればいいんだ?」
他方、ミスティは “循環担保能力” という名を聞いただけですべてを理解したようだった。流石はチェスの魔王、ミスティスペシャルである。
さて、“組織” 若しくは “教団” に所属し、又は “
申し訳ない。一つ重大な事実をお伝えしていなかった。
──さっちゃんは “覚醒” 済みである。
スキルの覚醒とはスキルの
つまりピンク髪の悪魔が三十一人に増殖し、さらに五感共有により全体で一個の生物であるかのような完璧な連携でもって襲いかかってくるのだ。
こんなんチートやクソゲーや! やってられっか!
以上を踏まえて俺は、レオノールに指示を飛ばした。
「甲Aグループから八頭、甲Bグループから八頭、乙グループから十五頭をそれぞれ適当に選んで同時に殺し、その次に、蘇生処理後に生きてるやつを全部同時に殺してくれ! それがコスパ最強だ!」
三十九頭から三十一頭を殺す場合(=八頭を殺さない場合)、殺害個体が円環上で分断される区間は最大でも八。殺害個体の連続区間で蘇生できるのは直前の生存個体に担保される先頭の一頭だけだから、最大蘇生個体数も八頭になる。つまり、初手はどう振り分けても最低二十三頭は確殺でき、したがって二手での全滅も確定している。なら、あとは初手の不可逆死数の期待値が最大になる配分を取ればいい。それがこれである。
「何だ、そんなことでいいのか」
レオノールはどこか安心したように、そう、まるで数学の抜き打ちテスト(高二相当)が思いのほか優しくてほっとしたかのような口調で言い、早速、上限までさっちゃんを具現化した。
「「「コロス……コロス……」」」
「「「コロス……コロス……」」」
「「「コロス……コロス……」」」
「「「コロス……コロス……」」」
「「「コロス……コロス……」」」
「「「コロス……コロス……」」」
「「「コロス……コロス……」」」
「「「コロス……コロス……」」」
「「「コロス……コロス……」」」
「「「コロス……コロス……」」」
後は語るまい。この物語は、〈神スキル〉の愚痴であってB級ホラーではないのだから。
『いや、こりゃあS級ホラーだろ』
S級冒険者だけにってか──やかましいわ!