宿に戻り、夜になると末っ子の本領を発揮してしきりに甘えてくるミスティを寝かしつけて一息つくと、そろりとベッドから出た。
ツインルームだが、エキストラベッド──長椅子を二脚並べただけの簡素な寝床が追加されており、そこにはレオノールがこちらに背を向けて横になっている。眠ってはいるのだろうが、常在戦場を心掛けている武人特有の敏感そうな空気を纏っていて、今世の母を思い出す。
ベッドの配置は、窓側から、レオノール、ミスティ、俺の順だ。
自分のベッドに仰向けに寝そべると、例の襲撃者について推理を巡らせはじめた。
まず大前提として、襲撃者は神のウイルスの感染者と見て間違いないだろう。あのような規格外の能力がノーチートの天然物だなんてありえない。
──そうだろう? ルシフ。
『感染者で間違いねぇよ』
であれば、ハウダニットは “ウイルスの力による” となり、それ以上は考えなくてよい。
フーダニットとホワイダニットに移る。
容疑者を絞る手掛かりはある。襲撃者の格好だ。
襲撃者は革製防具を着用していた。
防御力を上げるためだとすれば、これはおかしい。
なぜなら、襲撃者には自動雷化透過という事実上の準絶対防御があるからだ。
正攻法で攻撃を通すには、その電気操作スキルを貫通できる効果が必要だが、そういう種類の効果はどんなものでもすべて貫通できるというものではない。神の贋作シリーズの説明にも “全耐性EX” “全耐性貫通効果EX” という文言があることからゲーム風異世界に
つまり、通常の攻撃を防ぐために防具を着ける必要はなかったはずなのだ。
かといって、単に不特定の冒険者の犯行に偽装するためだけに革製防具を装備していたというのも考えにくい。なぜなら、犯人当ての的を絞らせないためなら圧倒的に数の多い農民に変装すべきだからだ。よって、このパターンも除外できる。
そして、特定の冒険者に嫌疑を向けさせるためだったなら、あまりにも没個性的な格好だったことが不整合だ。仮に変身魔法を使っていたなら仮面も矛盾ということになる。疑わせたい人物の顔を見せたほうがいいからだ。
であれば、異世界ファンタジー特有のアンフェアな例外を除けば、ありうる目的は一つしか残らない。
雷化でも透かせない攻撃への備えがそれだ。
考えられるのは、やはり概念系能力。
概念系能力──例えば、“体を斬られた” という結果そのもの(概念)を過程を飛ばして直接押しつけたり、“無限の時間” という概念を一定領域に設定し、いつまで経っても一歩が終わらない、瞬きさえ終わらないというような永遠の檻(際限なく引き延ばされつづける一瞬)に閉じ込めたり、などのことだ。
これを決められると、いかな自動雷化透過といえども対処は不可能だろう。
とはいえ、概念系能力はその強力さから、えてして面倒な条件や制約が課されているものである。例に挙げた斬撃能力なら厳しい距離制限があったり術者自身も同じ斬撃概念を受け入れなければならなかったり、無限時間概念ならその永遠領域内に外から干渉できず一定時間無力化するだけだったり、といった具合だ。
そうは言っても、概念系能力に鬼畜初見殺しが多く、厄介極まりないことに違いはない。
しかし、対処法がないわけではない。
初見でなくしてしまえばいいのだ。
つまり、一度敗北を受け入れて死亡し、その後蘇生してメタを張ればいい。
そのためにお誂え向きのものがこの世界にはある。そう、ダイヤモンドシールドの蘇生防具だ。
以上から、襲撃者が装備していたのはダイヤモンドシールドの蘇生防具である──この推論は十中八九、正解だろう。
であれば、と更に導ける。
大陸でも数人しかいない蘇生防具の所有者の中に犯人がいることになる。
容疑者リストはできた。
では、その中の誰が一番怪しいか。今まで見聞きしてきた情報を思い起こし、思案する。
「……」
しかし、わからない。
犯人は慎重に行動しているな、とは思う。
未開拓地の火事がその根拠だ。ルシフは以前、感染者も経験値を得たり訓練したりすれば非感染者同様、能力が向上すると言っていた。未開拓地の奥は人知れず特訓するには打ってつけだろう。高速で飛んでいけるなら距離は問題にならず、モンスターも強い。つまり、あの山火事は犯人が秘密裏に訓練した結果だったということだ。
もっとも、〈智将〉や〈天空の死神〉〈魔法の賢者〉〈ヤンデレハンマー〉〈
「むにゃむにゃ……」ミスティが何やら言っている。
顔を横に向けて彼女を見れば、安心し切った無防備なスヤスヤ顔。寝言だ。
「あらんしゃまぁ……おうつくしいでしゅ……おしたいしておりましゅ……」
やけに喋るやん。
「にゃんでもしましゅ……おっぱいもおおきくしましゅ……だからわたしをすてにゃいで……」
別に巨乳フェチというわけではないのだが。
『はいダウト。オレの生パイ見て目覚めてねぇとかぜってぇ嘘だし。マジありえねぇよ。爆乳教に改宗したって正直に認めろ。認めたら降臨して見抜きさせてやっから、な?』
どんだけ自信家なんだ、つーかそんなことのために降臨すんな──というのはさておき。
改めて考えてみると、ミスティもおかしい。
どうしてミスティはこれほどまでに俺を好いているんだ?
たしかに、政略結婚が常の令嬢たちにとって騎士物語のようなドラマチックな出逢いは憧れではある。皆、素敵な騎士様とのロマンスを夢見ている。俺たちの
しかし、それだけでここまで執着するものだろうか?
偽装追放劇の悪評もミスティはすでに知っている。
一緒に冒険して毎晩のように
不整合といえば、どうやら本気で俺の顔を “美しい” と評していることもそうだ。
俺のルックスはせいぜい平均くらいだ。ミスティ以外に容姿を褒める人がいないことから、客観的にもそれくらいか、それ以下だと思う。
ミスティの美的感覚が狂っているのだろうか?
……いやそれはないな。彼女は以前、
“エリス様は
と発言していた。“わたしの美貌” と自分で言うからには自分のことを美しいと認識しているはずだ。ならば、世間一般の美的感覚と一致している。
となると、俺への賛辞は、本気に見せかけるのが上手いだけで単なる世辞ということになるが……。
どうにも釈然としない。警察官として犯罪者の嘘をさんざん見てきた俺が、十四歳の小娘のつく嘘を、その気配すら見抜けないなんて、そんなことあると思いたくない。
それに、平均以下の容姿の男に美しいなどとは普通はあまり言わない。過剰な褒め言葉は相手の気分を害しかねないからだ。
やはりミスティには俺の顔が美しく見えている。これは確定事項と考えていいだろう。
──スヤスヤ……。
美しくも愛くるしい寝顔を眺めながら、そういえば、と思い当たる。ミスティはパトリシア侯爵を袖にしたんだよな。
その理由に関しては “ただのわたしの我儘です” と濁されて判然としないが、何が気に入らなかったんだろう。超優良物件なのに。
「……パトリシア侯爵か」
彼も変な選択をしてるんだよな。
パトリシアの元婚約者は、ミスティのエバンス家よりも名実共に格上のデイビーズ公爵家の長女で、教養も見目も一級品のご令嬢だ。パトリシア家と古くから同盟を結んでいる家でもあり、当人たちの仲も良好だったと聞く。
しかし、パトリシアはその婚約を破棄した。
理由はよくわからない。方向性の違いとか何とか述べていたようだが、まぁ建前だろう。
そしてミスティにアプローチし出したわけだが、貴族としては明らかにおかしい。
ミスティがどストライクだったから婚約者を捨てた、というのはありえない。好み云々の優先順位が低いからだ。結婚も子作りも純然たる仕事であり、個人の趣味嗜好など政治的利益の前には
ではミスティの何が魅力だったのか。
考えられるのは、彼女の体に流れる魔族──吸血鬼の血を欲したというケース。
二百年に一度の大陸間のポケモ……人間交換でやって来る魔族は、貴族から大人気である。なぜなら魔族と交わると、その特徴──人族より高いステータス上限や魔法適性などを引き継いだ子が生まれる可能性があるからだ。
例えば一世代下のハーフであれば、ステータス上限と魔法適性が魔族クラスで、それなのに本来なら魔族には使えないはずのスキルまで使え、おまけに繁殖力も人族に近い水準で具えた良いとこ取りの子になることも少なくない。もちろん世代が下るにつれただの人族と変わらなくなっていくが、ごく稀に先祖返りが起こる。魔族の血を取り込んでおいて損はないのだ。
ミスティはその先祖返り個体である。
箱入りの一令嬢が行使する魔法にしては、ダイヤモンドシールドの指輪があるにしても強すぎるのではないかと疑問にお思いの方もいらっしゃったことだろうが、これは吸血鬼の血の為せる業である。
深紅の瞳もその血に由来している。他方、血を吸うための鋭い犬歯はなく、日光が苦手ということもない。繁殖力については実験してみないと正確にはわからないが、統計的にいってそう低くはないだろう。体質的には普通の人族ということだ。
血という意味でもミスティは価値が高い。だからパトリシアが求めるのにも一定の合理性は認められる。
だが、力のある家との良好な関係を犠牲にしてまで求めるものかと問われると、首をかしげざるを得ない。ミスティ自身は魔族ではなく、ミスティと彼女の息子を交配させるのでなければ、次の世代からは普通の人族が生まれてくる確率のほうがずっと高い。だから、母体価値は元婚約者と大差ない。普通は元婚約者を選ぶ。
「……」
ふと思い立った。パトリシアを犯人だと仮定してみるか、と。
何となれば、ガバ、矛盾、不整合──このように呼ばれるものの背後には多く、無理を通そうとした作為が潜んでいるものだからだ。犯罪者が支離滅裂な言い訳をして犯行を隠そうとしたり、小説家がご都合主義展開を書いて読者ニーズに応えたりするのが最たる例だろう。パトリシアは蘇生防具の所有者でもある。考えてみる価値はあるはずだ。
パトリシアを犯人とすると、彼がミスティを求めた理由は……犯行に使えると思ったからか? 味方にしないと邪魔になると懸念したからか? あるいは、その両方か。
「……うん?」思わず、口を閉じたまま声帯が震えた。
すべてを整合的に説明できる答え、その一端が一瞬だけ垣間見えたような、もどかしい感覚があった。
現在のミスティのスペックを考える。
中堅伯爵令嬢、十四歳(中三相当)、容姿端麗、健康体、処女、魔族の血(先祖返り個体)、高いステータス上限と魔法適性。なお、スキルは未発現。
改めて並べてみると、大したことないなと思う。
優秀ではあるが、ウィリアムズ領滅亡作戦に必須というほどではない。魔法を磨いていけば将来的にはワンチャンあるが、それくらいだろう。そもそも、武力という点ではウイルス印の電気操作スキルだけで十分だ。
であれば、武力以外に価値があったということになるが、判明しているものの中にそれらしきものはない。
可能性は二つ。パトリシア犯人説が間違っているか、ミスティに俺の知らない加点要素があるか。
後者の場合、その加点要素はパーティーメンバーにも隠す必要があるもの、となる。
……スキルだろうか。
しかし普通、有用なスキルならば公表するはずだ。令嬢としての評価が上がり、より高い水準の貴公子を狙えるようになるからだ。なのに、エバンス家はミスティのスキルを宣伝していない。
俺と出会ってから発現し、それゆえエバンス家はそもそもスキルの存在を把握していないというのはありえない。パトリシアのアプローチがそれより前に始まっているからだ。俺と出会う前に発現していなければおかしい、ということだ。
「……あっ」
あるじゃないか。有用ではあるが公表しない、そんなスキル類型が。すなわち、
ミスティは読心系スキルの発現者だった?
鼓動が強く鳴り、じわりと汗が滲む。
前にも述べたが、読心系スキルの発現者は腹の裡を知られたくない権力者から目の敵にされており、暗殺されやすい。だから、普通は公表しない。
もしもミスティがそうだったとしたら、パトリシアが彼女を手中に収めようとするのもわかる。味方にできれば心強いし、その企みが露見するのを恐れたというのもあるだろう。読心系スキルの発現者だと発覚するリスクを押して匿名の告発状をバラ撒かれたりしないとも限らないと考えたんだ。
さらに、ミスティを襲った賊はパトリシアが送り込んだ
そして、その読心系スキルはおそらく視覚に変化を与えるものだ。その影響で俺のことが美しく見えている。しかもオンオフの切り替えができず、美しく見える人物──もっと言えばまともに人間の形をしている人物が極端に少ないのではないか。だから相対的にはマシな俺に執着する。彼女の世界では、俺が美しいのではなく、俺以外がひどく醜いのだ。そう考えると辻褄が合う。
加えて、具体的な思考を読むことまではできない。それができるなら浮気疑惑で恥も外聞もなく取り乱したことの説明がつかない。体面を重んじる貴族が男への牽制のために人目のある場所で哀れな女を演じるというのがありえない以上、真相を知らなかったと考えるほかないからだ。
ミスティはそのスキルによりパトリシアの企て又はそうなりかねない危険な人間性を見て取り、縁談を断った。
しかし、だ。
そうだとすると新たな疑問が出てくる。
すなわち、パトリシアはどうやってミスティのスキルを知ったのか。
一般に、ステータス画面を見ることができるのは本人のみとされている。
パトリシア自身かその部下が読心系スキルを有しているのだろうか。あるいは、ウイルスにより世界のルールを超えてステータス画面つまりスキル欄を覗き見できるスキルを獲得したか。
「……いや」
前者はおそらく違うな。
なぜなら、追撃がなかったからだ。
エバンス領の城下町でレオノールが斥候らしき者を感知した。その時点ではまだミスティを諦めていなかったと推測されるが、それ以降、監視者や刺客は現れなかった。
正体不明の力を行使する俺とS級冒険者のレオノールを警戒して断念したのだろうと思っていたが、厳密には少し違ったようだ。
つまり、パトリシアはスキル欄の〈神スキル〉というスキル名のみを覗き見て警戒を強めたんだ。
ウイルスによるルール無視の超強化を体験した彼は、それを神の介入だと考えた。そして、自分に起きたのだから自分以外への神の介入も現実としてありうると結論した。賊に扮した最初の刺客が一方的にやられていたこともその推測を裏付けていた。
“自分と同格の強さを持つかもしれない人物(俺)と敵対するデメリット” と “ミスティが企みを告発するリスク” を
効果までは覗き見できなかったと考える理由だが、〈オレと会話できる。〉というのがわかっていたらそこまで警戒しないだろうからだ。偽装追放劇の理由の一つである、“アランはゴミスキルの発現者である” という噂も当然耳に入っていただろうし、これと併せて考えると “〈神スキル〉自体は戦闘系スキルではなく、刺客を討ったのは純粋な実力によるか、又は他者若しくは魔道具などの力を借りたかしたのだろう” という結論に至るのが自然だ。同じ理由から読心系スキルもありえない。スキル名しかわからないという状況でなければ、整合性が取れないのだ。
スキル名しかわからないという制限は、パトリシアが強硬手段に訴えていることとも整合する。ミスティのスキルの効果を思考まで読めるものだと誤認したがゆえに、そうせざるを得なくなってしまったということだ。
「……」
常夜灯にぼんやりと照らされる天井を眺めながら少しの間、粗がないか探したが、それらしきものは見つからなかった。パトリシアを犯人とすると、いろいろと
しかし、少し弱い。
婚約を破棄したのは本当に方向性なりの違いが理由で、ミスティを襲ったのはパトリシアとは無関係の人物である、と抗弁されたら反駁のしようがない。決定的な証拠がないのだ。
……仕方ない。
やりたくはないが、手続法の未熟さを衝かせてもらおう。つまり、令和日本では判例上違法とされているが、この世界では合法とされている阿漕な手法を使う。
──の前にまずはミスティだ。
明日、朝一で質す。
ミスティには人の心が見えるのか、と。
そして翌朝。
「……気づかれるのも時間の問題だとは思っていました」
ミスティは眉をハの字にして言った。
宿屋の部屋だった。二人きりで話したいからとレオノールには席を外してもらっていて、俺とミスティはベッドに並んで座っている。
「アラン様のおっしゃるとおり、わたしの目には、人の現実の姿ではなく心に潜む本質が表象された姿のみが見えます」
スキル名を〈
「七歳の時に発現してからというもの、鏡で見る自分以外に人間らしい姿の人を見たことがありませんでした。例えば、お父様ならば鳥籠のような鉄格子が人の形を成していてその中に剥き出しの内臓が入っており、その内臓を突き破って夥しい槍や剣が四方八方に飛び出しています。レオノールさんならば普通の人の二倍の大きさの頭部と胴体に手足四本ずつというように二人分の部位がくっついた異形として見え、衣服はなく片方の女性器にのみ貞操帯を装着しています。すべての人がこのような不気味な感じです。わたしからすればモンスターのほうがよほどかわいらしく見えます」
パトリシアだけが特別、危険に見えたわけではなく、全員が異形に見えるから誰との婚姻だろうとしたくなかった、ということだったようだ。
「──ん?」矛盾に気づいた。「じゃあ何で刺客がしていた呪いの指輪が見えたんだ?」
「ああ」とミスティは軽く口を開けた。「すみません、舌足らずでした。衣服や装備はそのまま見えます。それと同時に異形の姿も見えるのです。幻影のように半透明の状態で重なっているというわけではなく、実体のように見えて重なっているにもかかわらず両方の全体像がはっきり見えています。なかなか想像しがたいとは思いますけれど」
「なるほど、べらぼうに疲れそうだ」
ミスティは物憂げな様子で、「一年も経つころには悟っていました」と言う。
「この姿が人というものの本来の形なのだと。わたしの求める “美しき心” などどこにもないのだと」
俺にとっての “正義” が彼女にとっては “美しき心” なのだろう。だからこそ、このスキルが発現してしまった。いかにも露悪趣味のサディストが好きそうなスキルだ。
ミスティはつらかったことだろう。自分の求めるものが全否定されつづける人生。これもある種の生き地獄に違いない。よくグレなかったな、と思う。
「けれど」とミスティは声を明るくして微笑んだ。
「アラン様が現れてくださいました。
名画の中から飛び出してきたかのような美しいお姿が目に入った瞬間、あのお方こそが、わたしがずっと求めていた “美しき心” の体現者であると確信いたしました」
必死でした、とミスティは困ったような照れ笑いを浮かべた。
「アラン様を逃したらもうわたしが幸せになることはできない、何がなんでも彼の伴侶にならなければ──そんなふうに瞬間的に考え、すべてを捧げる覚悟を決めました」
「知らないうちにすごい期待されてたんだな」
「ふふ、そうですね。
でも、アラン様は期待以上のお方でした。常に自分を厳しく律し、迷いなく博愛を実行してゆく様は、神話を目の当たりにしているかのようでした。……女性を惹きつけすぎるのは少々頂けませんが」
「そういえば、ルシフのことはどんなふうに見えてるんだ?」
ミスティとレオノールには、神が降臨してきてスキル発現試験をしたことは説明している。
「……随分と親しげにお呼びするのですね」ミスティは深紅の瞳をじとっとさせた。「やっぱりあのお胸の中で思い切り発散させたのでは──」
「いやぁ、神には親近感を覚えてるんだよ。隣人愛とか博愛とか、正義に通ずるものがあるっていうか、正義そのものっていうか」
「──ふふっ」ミスティは表情を柔らかくさせた。「冗談ですよ。冷静に考えてみれば、あの女性の姿はたしかにルシフ様のように美しかったです。心が見えるわたしにそう見えたということは、彼女は本物の神様か、少なくとも神様にも比肩しうる “美しき心” を持つ高潔なお方ということです。そのような素晴らしいお方が、極刑に科すべき薄汚い泥棒猫などということはありえません」
『おいおい、そんなに褒められたら本気で奪いたくなっちまうだろーが』
「知らぬが仏だなぁ」
「え、ホトケ? どういう意味ですか?」
「ははは、ミスティは今日もかわいいなぁ」
「もうっ、また子供扱いしてっ」ミスティは頬をぷくっとさせ、かと思えば首を傾け、こてっと肩に頭を乗せてきた。「お慕いしております、アラン様」
『オナ【自主規制】宣言乙』
「やかましいわ!」
「……え」ミスティは頭を上げて俺をまじまじと見た。「え?」
「すまん、間違えた。ちょっとインモラルなノイズがな」
まったく、これだからルシフは。
『ギャハハ!』