俺の〈神スキル〉がインモラルすぎてつらい   作:虫野律

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英雄へと至る道はきっと泥だらけ

 ドアを細く開け、隙間からホールを窺う。

 と、

 

「……いるな」俺が言うと、「いるね」レミもうなずく。

 

 朝からザドキエールを訪れ、丸腰でマッドラビットを蹴り殺しまくり、現在に至る。

 学校の体育館ほどもある広い空間を、ダイヤモンド製のキラキラした逆三角形の盾が回遊している。ダイヤモンドシールドだ。もちろん誰もいない。

 

「レミは安置部屋で待っててくれ」

 

 安置部屋は、たとえドアを開けていようとも、モンスターは入ってこられず攻撃も遮断される。

 

「うん」少し暗い顔だった。勝てるか不安なのだろう。

 

「心配すんなって」

 

 俺はそう言ってレミの赤毛を掻き回すと、ホールへと踏み出し、ドアを閉めた。

 ダイヤモンドシールドがぴくりと反応し、正面をこちらに向けた。

 と同時に、

 

 ──〈さけのけん〉の賃貸借契約を申し込む!

 

〈さけのけん〉とは、〈かみがみがさけのせきでかんがえたさいきょうのけん〉の略称である。

 

『オーケー、せいぜい気張れや』

 

 ルシフのメッセージに続き、

 

『〈神の剣(贋作)・かみがみがさけのせきでかんがえたさいきょうのけん〉の賃貸借契約を締結しました』

 

 電子的なシステムメッセージが脳内に響く。

 先手必勝! 何もさせずに終わらせてやる!

 ダイヤモンドシールドへと駆け出した俺の手のひらで黄金の閃光が瞬く。ロングソードの形へと収束していき、たちまちのうちに〈さけのけん〉が具現化。しかと握り締め──

 次の瞬間、踏み込む一歩が爆ぜた。

 ステータスカンストの影響だ。超加速した疾駆は、世界を置き去りにするかのような錯覚、それさえも遥か後方に残し、刹那のうちにダイヤモンドシールドに肉薄した。

 

「っ!」

 

 逆左袈裟──左下から斬り上げようと〈さけのけん〉を振るう。

 ヒット。ダイヤモンドシールドが高い高い天井へとぶっ飛ぶ。

 が、斬った手応えがない。確かにクリーンヒットしたはずなのに、どういうことだ?

 天井にめり込んだダイヤモンドシールドは、ぱらり、と塵を落として脱出すると、高速で回転しはじめた。汚れが飛び散る。それを終えると、すーっと音もなく宙を下降して舞い戻ってきた。

 

「──は?」

 

 我が目を疑った。

 ダイヤモンドシールドは無傷だったのだ。ダイヤモンドボディーをキラリと輝かせ、

 

 ──まるで効かんな。

 

 と言わんばかりの泰然とした佇まい。

 こいつ臆病な性格じゃなかったのかよ!? 強者の風格纏ってるんだけどぉお?!

 などと軽口を叩いてる場合ではない。落ち着いて情報を整理すべきだ。

 連続バックステップで距離を取りつつステータスを開き、〈さけのけん〉のスペックを今一度確認する。

 

〈切れ味EX〉〈全耐性貫通効果EX〉〈全耐性EX〉〈全ステータスカンスト〉

 

 とある。見間違いではない。

 “EX” とは、一般的には、常識的な最上位ランクである “S” の上、規格外のものに当てられる表記だ。つまり、並の相手であればこの前提条件で斬擊が通らない道理はない。しかし現実は、ああ無情。

 

 ──ルシフのダンナァ!? 話、違うくないっすかぁ?! 楽な仕事って言ったじゃないすかぁ!?

 

『るっせぇな。啖呵切ったんならグダグタ言ってんじゃねぇよボケ』

 

 それはそう。

 俺はルシフとのじゃれ合いを切り上げ、ダイヤモンドシールドに集中する。

 十中八九、やつのスキルの効果だろう。

 

 ──どうした、もう終わりか?

 

 そんなことを思ってそうなドヤドヤした雰囲気のダイヤモンドシールドに、その安い挑発に乗ってやろうというのじゃないが、再び突撃する。

 今度はカンストした脚力(=顕在筋力=STR(潜在筋力)×DEX(器用さ))に任せた回し蹴りをくれてやる。

 ヒット。どん、という空間ごと揺るがす重たい衝撃と鉄球でも蹴ったかのような硬い感触──粉砕した感覚は一ミリもしないが、構わずに脚を振り抜くと、壁に向かってダイヤモンドシールドが飛ばされる。弾丸かのような速度。先ほどと同じように、耳をつんざく衝突音と共に石造りの壁に叩きつけられた。

 粉塵舞う中、ゆらりと影が動いた。ダイヤモンドシールドは、またしても高速回転して塵を落としているようだった。そして現れた体は案の定の無傷。上限まで強化されたステータスすなわち身体能力を以てしても掠り傷一つ与えられない。

 であれば──。

 ダイヤモンドシールドの、そのスキルのカラクリの見当がついていた。おそらくは、

 

 “体の不変化”

 

 最強クラスの攻撃が一切効かないならば、耐久や耐性というのとは別の概念が作用していると考えるほかない。初めは目にも留まらぬ速さで回復しているのかとも思ったが、それならば斬ったり蹴り砕いたりした手応えがないのがおかしい。

 そこで “不変化” だ。文字どおり体の状態を変化しないようにするのだ。状態を決定する変数を定数にすると解釈してもよい。例えば、HPを満タンの状態で固定して攻撃を受けても減らないようにするというようなイメージだ。

 わざわざ体を綺麗にするのは、神の美学による縛りだろう。フェアプレーのため、すなわち傷ついていないというヒントを与えるためとも解釈できるからだ。この点も整合する。

 初心者向けダンジョンのボスとは思えないチートくさいスキルだが、そう考えないと辻褄が合わないのだから受け入れるしかない。

 だが、絶望はしない。絶対不壊の盾などというアンフェアの塊みたいな存在をルシフが許すはずがない以上、必ず弱点がある。それを見つけられれば、あるいは──

 その時だった。

 それまで鷹揚と構えていたダイヤモンドシールドが、その本来のメタル●ライム的すばやさを発揮した機敏な動きで天井付近、その中央の辺りに移動したではないか。

 何か来る。

 こういう特別感のある挙動はヤバめの技の予備動作って相場が決まってる。

 そんなゲーム脳的直感は、果たして的中した。

 ダイヤモンドシールドの体が赤く煌めいたかと思ったら、数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほど大量の赤い光線が全方位に放たれたのだ。当たったら痛いじゃすまなそうだ。

 光の速度で迫る無数のデ●ス的ビーム。それが難易度ルナティックのシュンーティングゲームみたいな密度で降りそそぐ。掻いくぐるだけの隙間はない。

 遠くから見れば花火のようでさぞ風情のある光景だろうが、当事者にとっては悪夢でしかない。

 だが、こちらの準備も整いつつあった。

 嫌な予感がした時点で換装へと動いていたのだ。

〈さけのけん〉はすでに雲散霧消している。それと入れ替わるように具現化するは、

 

〈神の盾(贋作)・かみがみがたこぱしながらかんがえたさいきょうのたて〉

〈本体性能〉

 カッコ良さB 耐久EX 重量EX たこ焼きの香りEX 羞恥心B 隠密性E 衝撃吸収EX 全耐性EX 全耐性貫通効果EX

〈バフ効果〉

 全ステータスカンスト 全耐性EX スタミナ回復速度上昇EX 魔力回復速度上昇EX たこ焼き調理速度上昇EX

〈賃料〉

 1秒につき5善行ポイント

 

 略して〈たこぱのたて〉!! ちょーいいにおい!! ソースべちゃ掛けしたふにゃふにゃたこ焼きで白米かっ込みてぇー!!

 ──それが〈たこぱのたて〉(?)。

 見た目は光の大盾だけど、たぶん魂はたこ焼き。知らんけど。あと、たぶん関東最強のあのたこ焼き屋を勝手に敵視してる。知らんけど。よく見たらダイヤモンドシールドのまるで油で揚げたかのようなあのカリカリ具合(?)、実質あのたこ焼きじゃね? 赦せんなぁ、とか思ってそう。知らんけど。

 すなわち──ここに最強のたこ焼き(関東)VS最強のたこ焼き(関西)の戦いの幕が上がる!

 

『頭大丈夫か?』

 

 ──やかましわ!! アホな性能こさえたジブンらのせいやろがい!! 何やねん “たこ焼きの香りEX” て?! 腹減るやろが!! 何やねん “たこ焼き調理速度上昇EX” て!? EXも要らんわァ!! タコパ開くぞオラァァア!!

 

 ぴしゃりと言い放つと俺は、〈たこぱのたて〉を構えて身を隠す。

 間髪を容れずに光線が着弾する。

 が、〈たこぱのたて〉はそのすべてを易々と遮断する。俺にダメージはない。

 もちろん、このまま何もしなければじり貧だ。攻めに転じなければガス欠で負け、蜂の巣にされてゲームオーバー──そんなのは御免である。

 冷めてもおいしいたこ焼き、もといダイヤモンドシールド攻略のシナリオはすでに完成している。

 ダイヤモンドシールドの “体の不変化” が常時発動型で一切の隙がないと仮定すると、光線の発動に際してわざわざ俺から距離を取るように天井付近まで浮上する必要なんかない。何をされてもダメージがないのだから、その場でぶっぱなしてもダイヤモンドシールドにリスクはないはずなんだ。

 なのに、そうしなかった。

 ということは、今、光線をブッパしているこのタイミングこそが “体の不変化” の唯一の脆弱性──攻撃が通るボーナスタイムに違いない。

 だから。

 俺は〈たこぱのたて〉を構えたまま駆け出した。

 ホールを埋め尽くさんばかりに夥しい赤き光線が降りそそぐ中、ひと息でダイヤモンドシールドの真下まで行き、そして──

 

「っ!!」

 

 (もも)の筋肉がピキピキと悲鳴を上げるのも構わず、全力で跳んだ。鉛直に。ダイヤモンドシールドに向かって。〈たこぱのたて〉を真上に掲げて。

 必然、“最強の盾” と “最強の盾” が激突する。

 ピシッ。金剛石の体に亀裂が走る確かな手応えがあった。

 勢いそのままに天井に押し当てる。

 ゴシャ、と、そんな音を聞いた、次の瞬間、ダイヤモンドシールドの体はプレス機に挟まれたかのように粉々に砕け散った。終わりは呆気なく、舞い散る破片が〈たこぱのたて〉の金色(こんじき)の光を受けてキラキラと輝く。浮き世離れした美しさだった。幻想的なその光景に思わず心を奪われる。

 が、それも束の間のこと、システムメッセージの散文的な声に正気に戻された。

 

『ザドキエールのボスモンスターを討伐しました』

『960ポイントの経験値を原始取得しました』

『レベルが上がりました』

 

 床に着地すると同時に〈たこぱのたて〉を返却する。

 

『〈神の盾(贋作)・かみがみがたこぱしながらかんがえたさいきょうのたて〉の賃貸借契約が終了しました』

 

 

 

 

 

 

「ふーー」と長く息を吐く。

 

 疲れた。体は若者だけど心はおっさんなんだもの、若いころのような青くさい熱を維持するのはなかなかにしんどいものがある。

 んー、と全身で伸びをすると、ポキポキと心地よさが弾けた。おもむろに安置部屋のほうへ歩を進め、ドアを開けた。

 石のベンチに腰掛けていたレミが、はっとして顔をこちらに向けた。

 

「アランさん!」跳ねるように立ち上がって駆けてくる。「倒せたんだよね?!」

 

「ああ、何とかな」

 

「すごいっ!」レミは感動しているみたいだった。すごいすごい、とはしゃいでいる。「ダイヤモンドシールドのボス個体を一人で倒すなんて、S級の実力ってことだよ!!」

 

 通常個体の討伐難易度がAだから、単純計算で考えているのだろう。実際は、光線を防ぐか回避しつつダメージを与える手段がありさえすればA級相当の火力でも十分に倒せる相手だろう。

 

「それでもすごいよ!」レミは興奮している。「やっぱりアランさんは本物の英雄だったんだ!」

 

 レミの言う “英雄” がどういうものなのか判然としないが、彼にとって大切なものであるのはわかる。俺にとっての “正義” がそうであるように。

 だから、レミの顔がふと(かげ)ったその理由にもすぐに思い当たることができた。俺にもあった。理想とあまりにも違う自分の有りさまに打ちひしがれていた時期が。

 ふ、と微苦笑が零れた。

 

「レミのおかげだよ」

 

「? おれは座ってただけだけど?」

 

「違うよ。レミが、ルシフとかいう輩の性格の悪さが滲み出た意地悪なスキルにもめげずに努力しつづけたからボス部屋を見つけることができた。その一歩一歩が今回の勝利に繋がったんだよ」

 

「!」レミは息を呑むような間を経てから、「おれのスキルがわかるの」

 

「ああ、おそらく〈モンスターを1,000体倒すごとにごく少ない固定経験値のみを取得するスキル〉──合ってるだろ?」

 

「……どうしてそう思うの」

 

 推理はそう難しくない。どういう前提条件ならばマッドラビットばかりを狙って狩るか、というのを考えればいい。

 一昨日の推理では、“ドロップ率を上げる確率変動系” か “経験値にボーナスをつける成長補正系” かの二択まで絞ったが、これだとレミの稼ぎやレベルの低さと辻褄が合わないというところまで導いた。

 もし本当にこの二つのどちらかだったならば、マッドラビットより強い、同じ最下級のモンスターを狩ったほうが合理的だ。ドロップアイテムも経験値も泥兎よりはマシなのだから、多少時間が掛かったりリスクが増えたりしたとしても、収入や取得経験値の増加すなわち期待値の上昇が見込める。だが、レミはそうしていない。したがって、この観点からもこれら二つの可能性は否定される。

 ここで逆転の発想だ。

 すると、マッドラビットを倒すメリットを増やすだけでなく、マッドラビット以外を倒すメリットが減る効果をも併せ持っている可能性に思い至る。

 ここまで来れば、固定経験値という考え方が最適だとすぐに気づく。どんなモンスターを倒しても同じ経験値しか得られないのなら、最弱で、しかも “わらわら湧いてくる” マッドラビットをスピーディーに狩っていくのが、長い目で見ると最も合理的だ。現状のレミではマッドラビット以外を狩ろうとするとペースが落ちてタイパが悪化する。そうなると収入の期待値が下がる。あるいは多少はマシになるのかもしれないが、だとしても家族を救うにはまったく足りないだろう。であれば、今は雌伏の時と割り切り、なるべく早く強くなれる道を選ぶべきだ──レミはそんなふうに考えたんだ。

 もちろん、レミの中でくすぶる英雄への憧憬もあったのだろう。物語の英雄のように強く、強く、誰よりも強くなりたいという、魂を焦がす激情が、その、泥だらけの至難の道へと駆り立てた。その強さは、誰かを救うためのものなのか、自らの栄達のためなのか、あるいは闇色の願いを叶えるためなのかはわからないけれど。けど、その本質は成長チート系のスキルを発現することと非常によく整合している。

 そして、“1,000体までの倒した数がわかるようになってる” という発言から固定経験値を得られるキリ番が1,000だと推測できる。

 

「全部お見通しだったんだね」レミは観念したように肩から力を抜いた。「アランさんの言うとおりだよ。おれのスキル〈千里の道も1ポイントから〉は、1,000体倒すごとに1ポイントの経験値が入るんだ」

 

「1ポイントだけか」

 

 そいつぁキツそうだ。

 

「弱いよね」レミは言う。子供には似つかわしくない、気恥ずかしさを誤魔化すような卑屈な口ぶりだった。「こんなの呪いと変わらないよ」

 

「いやそんなことはないが。超絶大器晩成なだけでチートと言えなくもない絶妙なラインのスキルだと思うよ」

 

「何で? このスキルって、たった1ポイントの固定経験値の代わりに、強いモンスターを倒してもたくさんの経験値を貰うことができなくなる効果なんじゃないの」

 

「そのたった1ポイントが重いんだよ。レミはさ、強くなれば強いモンスターを狩ればいいって単純に考えてるんだろ?」

 

「違うの?」

 

「理屈は合ってるが、現実はなかなかそうはいかない。強くなればなるほどその強さに見合ったモンスターの数は減っていく。同格以上にはそもそも出会えず、仮に運良く出会えたとしても実力が開きすぎていてハイリスクなことがほとんど。かといって格下では経験値が入らない。つまり、ある一定ラインから経験値を得る難易度が跳ね上がるんだ」

 

「それじゃあ──」

 

「ああ、レミの〈千里の道も1ポイントから〉は、高レベルになればなるほど恩恵が大きくなる。S級冒険者なんかは喉から手が出るほど欲しいだろうな」

 

「そうなんだ……」レミは嬉しみを噛み締めるように囁いた。

 

「だからなレミ、君の夢は、決してただの夢物語なんかじゃない。

 そのスキルは術者の意志の強さが試される。ほとんどの人は途中で挫折して努力をやめてしまうだろう。俺だって続けられるかわからない。

 けど、レミなら──どんなにつらくても努力をやめなかったレミならば、その試練に打ち克って人類史上最強の、その先にだって届きうる。俺はそう思うよ」

 

「……」

 

 二、三秒ほど言葉を失っていたレミは、ふと意志のこもった瞳を俺に向けた。

 

「おれ、がんばるよ。いつかアランさんみたいに強くなってみせるから、その時はまたおれとパーティーを組んでください。今度はちゃんと対等な冒険者として」

 

「ああ、いいぞ。その時までに俺ももっと強くなっておくよ」

 

「うん!」レミは子供らしい天真爛漫な笑みを咲かせた。「約束だよ!」

 

「ああ、約束だ」

 

 と一段落ついたところで、「──ところで、ちょっとお願いがあるんだが、いいか?」

 

 何? と不思議そうにするレミに、

 

「ダイヤモンドシールドの死骸拾うの手伝ってくんない? ちょっと粉々にしすぎちゃって」えへへ。

 

『きっしょ』

 

 ──うるさいぞ。

 

 レミは安置部屋の入り口からホールの中央の辺りに視線をやった。散乱するダイヤモンドシールドの破片を認め、

 

「1,000個以上ありそうだね……」

 

 まぁまぁ嫌そうに言った。

 

 

 

 

 

 

 昼下がりの冒険者ギルドは空いている。だから、宝石が詰まった袋を肩に背負った、古典的なこそ泥みたいなスタイルで突入しても不審がられることもなく、すんなりと例の受付嬢の下に辿り着いた。

 

「お疲れ様です。本日はどういったご用件でしょうか? ──へっ、ダイヤモンドシールド? ザドキエールのボスだった? またぁまたぁ──ひぇっ、何ですかこのキラキラパラダイス!? どこのお貴族様の城から盗んできたんですか?! 今ならまだ八つ裂きと全財産没収ですみます。悪いことは言いません。わたしにこっそり分け与えてから自首してくださ──は? ダイヤモンドシールドの死骸ですって?!」

 

 ここで例のセバスチャンが寄ってきた。

 

「おやおやこれはこれは──」などど言うと、懐から魔道具のルーペを取り出し、破片のいくつかを(あらた)めた。「なるほど、たしかにこの魔力の色はダイヤモンドシールドのものでございますね──おや? これは?」

 

 セバスは破片の中に埋まった指輪を見つけた。プラチナ製のリングに大ぶりのダイヤモンドが設えられている。見てくれは婚約指輪っぽい。

 

「ドロップアイテムだよ」俺は答えた。通常個体から指輪がドロップしたという記録はないから、「おそらくボス討伐の報酬だろう」

 

「ふむ。では、鑑定のほうはいかが致しましょう?」

 

 特殊な効果がないか調べるか否かを尋ねているのだ。もちろん有料だが、お願いした。そして、死骸の破片はすべて買い取ってもらうことにした。

 

「よろしいのですか?」

 

 と言うのは、その死骸が蘇生効果のある特殊な魔力を帯びているからだ。その魔力を抽出して革製防具に注入すると蘇生効果を付与できる。冒険者には垂涎(すいぜん)のチート防具の完成である。

 が、一体で蘇生一回分しか採れず、したがって市場にも出回っていない。所持しているのは大陸でも数人、パトリシア侯爵などの有力貴族やS級冒険者だけだ。つまり、その防具は実力の証明にもなるのだ。

 けど、今は金のほうが大事だった。

 

「かしこまりしました」セバスは恭しく言った。

 

 買取金額──この場合は競売の落札価格から手数料と経費を引いた額──の半分、その将来債権をレミに渡す形で委任契約を結び、続けてザドキエールの攻略情報を共有すると、ギルドを後にした。

 

 

 

 

 

 

 これにて一件落着である。

 そう思ってのほほんとしていたのだが、次の日に事件が起きた。冒険者ギルドからの帰りだった。

 リリスンの町の表通りを一人で歩いていると、オフショルダーの白いワンピースを着た少女に呼び止められた。シエナだ。挨拶もそこそこに、彼女はこんなことを言い出した。

 

「お礼をさせてください」

 

 体で、ということらしい。

 シエナはすっと俺の手を取って自分の胸乳(むなぢ)──推定E70──に引き寄せた。

 

「わたしにはこんなことしかできませんけど、どうか受け取っていただけませんか。アラン様にご満足いただくためなら、どんな変態プレイでも喜んで致します。アラン様が望んでくださるのなら【自主規制──お前もか】にだってなります」

 

 こらこらこんな往来で変態プレイとか言っちゃいかんでしょ、と窘めようとした俺の耳に、不意に飛び込んできた声があった。

 

「アラン様? 随分と楽しそうですね。何をなさっているのですか?」

 

 心臓が跳ねた。ゆっくりと振り向くと、見知らぬ女を引き連れたミスティ・スペシャルが──

 

『ミスティ・エバンスな』

 

 ──が、育ちの良さが窺える楚々(そそ)とした微笑を口元に張りつけて俺を見据えていた。なお、目は笑っていない。

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