謎の男STEVENは不適に笑みを浮かべている。
レオが混乱しながらもSTEVENに聞いてみる。
「何故俺なんだ。…俺以外の人間ではダメだったのか。」
STEVENは即答する。
「そうやって自分に役割が訪れることを本心が拒否している。浅はかな生き方をしてきた君だからこそ、ソレを手に入れたのさ。」
レオが悪魔召喚プログラムの画面を見つめる。STEVENに視線を戻すと彼はレオの後ろを指差していた。
後ろを振り向くと、だらっとしたポーズにニヤついた気色の悪い表情をした紫の怪物がそこにいた。その姿は、現実の物かと疑うほどに奇妙で、これから日常が崩れていくという実感をレオに与えた。
STEVENへ目を向けると、この一瞬で彼は消えていた。
悪魔召喚プログラムを見ると、怪物の名前が表示された。
「幽鬼ガキ…明らかに俺を見ている。狙ってるのか…俺の命を!」
ガキが奇妙に脚をバタつかせながらレオに突撃する。
「うわぁぁぁぁああ!!来るなッ!」
レオの叫びも虚しく、衝突してガキに覆いかぶさられる。
大きな口からよだれが零れて落ち、レオの顔を濡らす。
「腹が減ってんのさ、だからお前を殺して食うぜぇ!」
「やめろ…!離せ!」
レオはガキに必死にあがくが、力が足りずに意味をなさない。首を絞められ、抵抗する少しずつ力が抜けていく。
「こんな…嫌だ…死にたくない…。」
―――――――――
同時刻ミタキハラ
見滝原中学校にて授業開始の鐘が鳴る。
「今日は皆さんに、大事な話がありますッ!心して聞くように!」
まどかのクラスの担任の早乙女先生がなにやら真剣な面持ちで、教室の空気が一瞬張り詰める。早乙女先生は語りかけるように言った。
「目玉焼きとは堅焼きですか?それとも半熟ですか?はい中沢くん!」
まさかの目玉焼きの話に教室内は唖然とする。最前列に座る中沢くんが戸惑いながらも手を挙げ言葉を振り絞る。
「えっ…!?えぇ〜と、ど…どっちでもいいんじゃないかと。」
「そのとおり!!どっちでもよろしい!たかが卵の焼き加減なんかで女の魅力が決まるなんて思ったら大間違いです!!」
早乙女先生が指示棒をポキっとへし折る。
「女子の皆さんはくれぐれも!半熟じゃなきゃ食べられないとか抜かす男とは交際しないように!!」
前の席に座る青髪の少女
「ダメだったかぁ…」
少し残念そうな顔をしつつも、内心分かっていたかのような苦笑いをしている。
「ダメだったんだねぇ」とまどかが崩したような表情をする。
軽く咳払いし、先生は先程の熱弁を忘れたように笑顔になる。話というのは目玉焼きの話だけではないようだ。
「はい あとそれから、今日は皆さんに転校生を紹介します。」
「う…そっちが後回しかよ…!」
さやかが先生の話の熱量の差にずっこけ思わず反応する。
「じゃ、
先生の声に促され、彼女は教室へ足を踏み入れた。
自信を感じさせる一歩一歩と、美しい黒髪を持つ少女に
教室中は目を奪われた。まさしくクールビューティな姿にあちこちから息を呑むようなどよめきが聞こえる。
さやかもまどかの方へ向き、
「うわっ すげえ美人。」と反応する。
同じようにまどかも開いた口が塞がらず、彼女から視線を外せない。
「えっ…!」
その時、昨晩夢で見た光景と、戦う少女の姿を思い出す。
転校生の姿は、夢で見た少女と重なっている。
「ウソ…まさか…」
「はいそれじゃ、自己紹介行ってみよう!」
勿論まどかの衝撃を察する者はおらず、先生が紹介を続ける。
「
早乙女先生は電子黒板に名前を書くが、"ほむら"と書くところで躓いてしまった。ほむらが自分で名前を書き、生徒達へ向き直る。一礼し、生徒達は拍手をする。
直後に、ほむらはまどかへ向けて視線を飛ばした。驚いたまどかは目線を逸らしてしまう。
独特な空気感に先生が
「えっと…暁美さん?」と言う。
休み時間
教室内の生徒達は賑わっている。
何人かの女子生徒はほむらを囲んで次々と質問をしている。
そんな光景を見ながら、まどかの友達である美樹さやかと志筑仁美は3人でほむらについて話している。
「不思議な人ですよね、暁美さん。」
仁美は率直な感想を述べるが、
さやかは何か気になるのかまどかに質問する。
「ねぇ…まどか、あの子知り合い?なんかさっき思いっきりガン飛ばされてなかった?」。
「いやぁえっと…」
どう言えばいいかまどかは反応に困ってしまう。
すると、ほむらが右手で頭を押さえる。
「ごめんなさい。何だか緊張しすぎたみたいでちょっと気分が…保健室に行かせてもらえるかしら。」
「えっあっ じゃあ私が案内してあげる。」とほむらを囲む女子生徒が言うと、「私も行く行く。」と心配そうな態度で言う。
ほむらは席を立つ。
「いえ、お構いなく。係の人にお願いしますから。」
そのまままどかの席へ向かう。
まどかは驚き、さやかもわずかに反応した。
「鹿目まどかさん、あなたがこのクラスの保健係よね?」
と不思議な雰囲気をした佇まいで問う。
まどかはいきなり話しかけられて目を泳がせる。
「連れてってもらえる?保健室。」
ほむらに頼まれ、まどかは保健室まで連れて行くことに。
通りすがりに皆、ほむらの容姿に目を奪われている。
まどかは気になっていることの一つを聞いてみた。
「あの…私が保健係ってどうして…」と小さい声ながらも質問した。
「…早乙女先生から聞いたの。」
「あっそうなんだ。…えっとさ、保健室は…」
「こっちよね?」
とまだかは案内をしようとするものの、まるで行き先を知っているかのようにほむらは前を歩く。
「え?うん…そうなんだけど…いや…だから、その…もしかして場所知ってるのかなって。」
ほむらが沈黙し、まどかの言葉に答えない。
「あ…暁美さん?」
「…ほむらでいいわ。」
「ほむら…ちゃん。」
「何かしら。」
名前を呼んだはいいが、何を話すか思いついていなかった。
「あ…えっとその…変わった名前だよね。」
空気に緊張感が流れる。
「い…いや だからあのね、変な意味じゃなくてね…その…カッコいいな〜なんて…!」
何気ない事を聞いたつもりだったか、自分でも少し失礼な事を聞いてしまったと、内心慌て気味に言葉を選ぶ。
ほむらは脚を止め、まどかへ振り向いた。
誰も居ない静寂した廊下の中でほむらは、真剣な面持ちで質問する。
「鹿目まどか、あなたは自分の人生が貴いと思う?」
「家族や友達を大切にしてる?」
いきなりの意味深な質問にまどかは困りつつ、自分の気持ちを返答する。
「えっ…えっと、私は…大切…だよ。家族も友達のみんなも、大好きで、とっても大事な人たちだよ。」
自分の前向きな気持ちに安堵してか、まどかは少し笑顔でそう答えた。
「本当に?」
「本当だよ、ウソなわけないよ。」
「そう…もしそれが本当なら、今とは違う自分になろうだなんて絶対に思わないことね。さもなければ、全てを失うことになる。」
「えっ?」
突然の警告。思わずまどかは驚く。
「…あなたは、鹿目まどかのままでいればいい。今までどおり、これからも…」
ほむらは方向を変え、一人保健室へと向かっていった。
放課後
ショッピングモールのファーストフード店にて、まどか達3人は会話をしていた。
「えーっ何それ?」
さやさが食べる手を止め、かっと目を見開く。
先程ほむらと二人きりでいた時の事を、まどかは相談したのだ。
「訳分かんないよね…」
まどかがため息気味に言う。
「文武両道で才色兼備かと思いきや、実はサイコな電波さんー?かーっ!どこまでキャラ立てすりゃあ気が済むんだあの転校生は〜!萌えか!そこが萌えなのかッ!」
なんてスラスラとさやかが悔しがり、テーブルに顔を突っ伏せる。
仁美はヤレヤレとした表情で微笑み、まどかに聞いてみる。
「まどかさん、本当に暁美さんとは初対面ですの?」
「うーん…常識的にはそうなんだけど…」
と曖昧な返答をする。
するとさやかが顔をあげ、頭にハテナという表情だ。
「何それ?非常識なとこで心当たりがあると?」
「あのね、ゆうべ…あの子と夢の中で会った…ような…」
まどかが述べると、さやかと仁美が同時に笑い始めた。
「すげぇ、まどかまでキャラが立ち始めたよ〜」と、からかうようにさやかが言った。
まどかは身を乗り出し、「ひどいよ〜!私真面目に悩んでるのに…!」と言うと、さらにからかいながらさやかは
「あっもう決まりだ。それ前世の因果だわ。あんたたち、時空を超えて巡り合った運命の仲間なんだわ〜!」と言う。
仁美が真面目に相談に乗るように、まどかに質問する。
「夢ってどんな夢でしたの?」
まどかは少しどんな内容だったか考えてみるがハッキリとしない。
「…それが何だかよく思い出せないんだけど、とにかく変な夢だったってだけで…」
仁美が一つ軽く思いついた説を挙げてみる。
「…もしかしたら、本当は暁美さんと会ったことがあるのかもしれませんわ。」
「えっ?」
その仮説はまどかにとって予想外であった。
「まどかさんは覚えてないつもりでも、深層心理には彼女の印象が残っていて、それが夢に出てきたのかもしれません。」
さやかが
「それ出来過ぎてない?どんな偶然よ。」
と流石に無理がある仮説だと否定した。
仁美も無理があるとは思っていたので「そうね」と納得した。
「あら、もうこんな時間?」
仁美が時計を確認すると、椅子を立ち上がった。
「ごめんなさい、お先に失礼しますわ。」
これからお茶の稽古があるそうだ。仁美の家が裕福なのもあり、他より少し忙しいのだ。
「私たちも行こっか。」とお盆を片付けようと立ち上がると、さやかがまどかに耳打ちする。
「…まどか、帰りにCD屋寄ってってもいい?」
何度か一緒について行ってるので、理由はわかっていた。
「いいよ、また上条君の?」
とまどかが言うと、
「ヘヘッまぁね。」とさやかが少し照れくさそうにする。
エスカレーターまで仁美を見送り、二人はCD屋へ向かった。
CD屋のヘッドホンを装着し、まどかが音楽を聴いている。
『助けて』
確かに聞こえた。違和感を感じてヘッドホンを外すと、再び弱々しい声が聞こえた。
『助けて…まどか…!』
音楽などではなく、どこかから直接囁かれているのだ。
それに、まどかの名前を呼んでいる。
辺りを見ても声の正体は分からない。
声に誘われるように、まどかはCD屋を出てしまった。
その姿がさやかの目に留まり、不思議そうな表情をする。
声に誘われるにつれ、まどかはついに改装中の立ち入り禁止のエリアにまで入ってしまった。
恐る恐る慎重に足を運ばせながら声の正体を探す。
「…どこにいるの?」
「あなた…誰?」
暗くて薄気味悪い場所でまどかは言葉を投げかけるが、返事は返ってこない。
しかし再び、「助けて…!」と直接頭に響くような声が聞こえた。天井から物音が聞こえて後退りすると、一部が外れ、何かが落ちてきた。
「きゃあっ!」
まどかが驚いて地面にへたり込むと、目の前には小さくて白い獣が傷だらけになって倒れていた。
息遣いは荒く、まどかは急いで抱き上げる。
「…あなたなの?」と問うと、
白い獣は「助けて…」と弱々しく呟く。
ジャラジャラと鎖が落ちてくる。
そこにいたのは、まどかが夢で見た時と同じ格好をしたほむらであった。
「ほむら…ちゃん…」
ほむらの目は鋭く、白い獣を貫くように見ている。
「…そいつから離れて。」
まどかは状況を全く理解できていないが、弱ったこの生物を見過ごすことはできない。
「だ…だって…この子怪我してる。」
白い獣は深く息をする。まどかは咄嗟に守ろうとして訴えかける。
「ダ…ダメだよ!ひどいことしないで!」
しかし、ほむらはゆっくりとまどかへと近づく。
「あなたには関係ない。」
ほむらの容赦のない振る舞いに対して必死に説得しようとする。
「だってこの子、私を呼んでた!聞こえたんだもん、『助けて』って!」
「そう…」
ほむらが呟くと、恐ろしい沈黙が流れる。
心臓の音が大きく鳴り、まどかはその場から動けない。
その瞬間――
眩ゆい光がほむらをほむらの前に現れる。
そこに、白い翼を持つ鎖に繋がれた姿をした女性?が3人現れたのだ。
「魔法少女の分際が!
ほむらが驚いたような表情をし、一歩後ずさる。盾のような物を構え、そこに手を入れた。
女性?はまどかの方を向く。
「そちらを頼みます。ソレは私達にとって欠かせないのです。コヤツは我々が相手しましょう。」と白い獣の事をまどかに託したのだ。
訳が分からなかったが立ち上がる。
そこにちょうど消化器を手に持つさやかが現れた。
「まどかこっち!!」
「さやかちゃん!!」
非常口へと2人が走る。
「まどか!それ、なに?あとなんか転校生の事とか…!あの人たちは?守ってくれてたって雰囲気だったけど…!」
走りながらさやかが白い獣や、ほむらの事、翼の生えた女性の事を聞く。
「わ…わからないの!でもこの子が私を呼んでて…!」
まどかは白い獣を抱きかかえながら走るが、全てがいきなりだったので、全く状況を呑み込めていない。
2人の姿が見えなくなったところで、ほむらが盾から銃を抜く。
「…何か…大きく違う。」
翼を持つ女性が一斉に光を放ち、ほむらを攻撃する。
しかし一瞬で背後へと移動しており、一人に銃を向ける。
「あなた達は何?私はあなたを知らない。」
(私の願いはただ一つ。まどかを救う事。)
(そのために何度も繰り返してきた…しかしこんな時間軸は始めて…この世界は、私の知らない世界。)