朝。
シオンタウンには、まだ薄い霧が残っていた。
「……やっぱり、気になるな」
ポケモンセンターの前で、マサヒロはポケモンタワーを見上げていた。
昨日のことが、頭から離れない。
ゲンガー。
そして、あのゴースト。
「イーブイも気になるのか?」
「ブイ……」
隣にいたイーブイが、ポケモンタワーを見つめている。
「よし。もう一回行ってみるか」
「ブイ!」
マサヒロが歩き出す。
フシギソウ、スピアー、ハクリュー、バルキーも後に続いた。
* * *
ポケモンタワー。
中へ入ると、昨日と同じように静まり返っていた。
「……誰もいないな」
マサヒロが辺りを見回す。
その時。
「ゴース……」
「!」
昨日のゴーストが、柱の陰から姿を現した。
「お前!」
ゴーストはマサヒロたちを見ると、すぐに奥へ飛んでいく。
「待て!」
マサヒロたちも追いかける。
階段を上り、長い廊下を進む。
やがて、ゴーストが一つの部屋へ入った。
「ここか?」
マサヒロが中を覗く。
そこには、何匹ものポケモンがいた。
弱っているポケモン。
怪我をしているポケモン。
そのポケモンたちを、ゲンガーが守っていた。
「……ゲンガー」
ゲンガーはマサヒロたちを見る。
だが、昨日のように威嚇することはなかった。
むしろ、そこにいるポケモンたちを指すように、手を動かした。
「こいつらを守ってるのか?」
「ゲン……」
ゲンガーが頷く。
「そうだったんだな」
マサヒロは納得した。
「昨日、俺たちを攻撃したのも……俺たちがこいつらに近づいたからか」
ゲンガーは黙っている。
「悪かったな」
マサヒロは頭を下げた。
「俺、てっきりお前が敵だと思ってた」
「ブイ……」
イーブイもゲンガーの前へ歩いていく。
ゲンガーはイーブイを見る。
そして、ゆっくりと手を伸ばした。
イーブイも逃げなかった。
二匹の間に、静かな時間が流れる。
その時だった。
「……いたぞ」
突然、廊下から声がした。
マサヒロが振り返る。
「誰だ!」
黒い服を着た男が、部屋の入口に立っていた。
その胸には、ロケット団のマーク。
「……ロケット団!」
マサヒロが身構える。
「またロケット団か!」
男はニヤリと笑った。
「探したぞ」
そして、イーブイを見る。
「実験体E-01……」
「!」
マサヒロの表情が変わった。
「……E-01」
第13話でランスから聞いた言葉。
イーブイがロケット団の実験体だったという証拠。
「お前……イーブイを知ってるのか?」
「当然だ」
男はボールを取り出した。
「その個体を回収するのが俺の任務だ」
「ふざけるな!」
マサヒロはイーブイの前に立つ。
「イーブイは物じゃない!」
「ブイ!」
イーブイもマサヒロの横に並ぶ。
ゲンガーも動いた。
「ゲン……」
男が笑う。
「邪魔をするなら、お前たちもまとめて相手をしてやる!」
ボールからポケモンが飛び出す。
「出てこい!」
現れたのは、ドガースとスリープだった。
「いくぞ!」
マサヒロもボールを取り出す。
「スピアー! フシギソウ!」
二匹が飛び出した。
「ハクリューとバルキーも頼む!」
四匹が並ぶ。
そして――
「イーブイ!」
「ブイ!」
戦いが始まった。
「ドガース、ヘドロこうげき!」
「スピアー、こうそくいどう!」
ドガースが吐き出した攻撃を、スピアーが高速でかわす。
「そのままダブルニードル!」
スピアーが一気に接近する。
「スリープ、ねんりき!」
スリープが超能力を放つ。
「フシギソウ、避けろ!」
フシギソウが横へ飛ぶ。
「はっぱカッター!」
鋭い葉がスリープへ飛んでいく。
「ハクリュー、たつまき!」
「ハクリュー!」
竜巻がドガースを巻き込む。
「バルキー、いけ!」
「バル!」
バルキーも走り出した。
「イーブイは俺と一緒に行くぞ!」
「ブイ!」
イーブイが走る。
「でんこうせっか!」
一瞬で距離を詰める。
「かみつく!」
イーブイがドガースへ飛びかかる。
「よし!」
だが――
「まだだ!」
スリープがイーブイへ向けてねんりきを放つ。
「イーブイ!」
ゲンガーが動いた。
「ゲン!」
黒い影がイーブイの前に現れ、攻撃を受け止める。
「ゲンガー!」
ゲンガーがスリープを睨む。
「助かった!」
イーブイもゲンガーを見る。
「ブイ!」
二匹が並んだ。
「……行けるか?」
「ブイ!」
「ゲン!」
マサヒロは笑った。
「よし! 二人でいくぞ!」
「イーブイ、かげぶんしん!」
イーブイの姿がいくつにも分かれる。
「ゲンガー、今だ!」
ゲンガーが影の中へ消える。
「どこだ!?」
ロケット団員が周囲を見る。
「そこだ!」
ゲンガーが背後から現れた。
「ゲン!」
「イーブイ!」
「ブイ!」
イーブイも一気に走る。
「かみつく!」
ゲンガーとイーブイの攻撃が同時に決まった。
「ぐわっ!」
ロケット団員が吹き飛ぶ。
「今だ! 全員、一気に攻撃!」
「スピアー、ダブルニードル!」
「フシギソウ、はっぱカッター!」
「ハクリュー、りゅうのいかり!」
「バルキー、いけ!」
四匹の攻撃が一斉に飛んでいく。
「ドガース!」
「スリープ!」
二匹が吹き飛ばされた。
「くそっ!」
ロケット団員が後ずさる。
「まだだ!」
男が別のボールへ手を伸ばした。
その瞬間。
「イーブイ、エボルブラスト!」
「ブイッ!」
イーブイの尻尾に力が集まる。
「待て!」
ゲンガーがイーブイの前に立った。
「……え?」
イーブイが止まる。
ゲンガーは首を横に振った。
「ゲン……」
「使うなってことか?」
マサヒロはゲンガーを見る。
そして、すぐに頷いた。
「……そうだな」
マサヒロはイーブイへ声をかける。
「無理する必要はない!」
「ブイ!」
「みんなで勝つぞ!」
「フシ!」
「ハチ!」
「シャア!」
「バル!」
仲間たちが一斉に動いた。
ゲンガーもその中へ加わる。
「いけえええっ!」
全員の攻撃が、ロケット団員たちへ集中した。
「うわああああっ!」
ドガースとスリープもろとも、ロケット団員が吹き飛んでいく。
「覚えてろぉぉぉ!」
声だけが遠ざかっていった。
* * *
静かになったポケモンタワー。
「……終わったな」
マサヒロが息を吐く。
イーブイがゲンガーのところへ歩いていく。
「ブイ……」
ゲンガーはイーブイを見つめる。
そして、そっと頭に手を置いた。
「……」
イーブイは嬉しそうに目を細める。
「ゲンガー」
マサヒロが声をかける。
「イーブイのこと……何か知ってるのか?」
ゲンガーは答えない。
ただ、イーブイを見つめている。
「……そっか」
マサヒロは無理に聞こうとはしなかった。
「いつか分かるといいな」
イーブイが振り返る。
「ブイ!」
「俺たちは行くけど……」
マサヒロはゲンガーへ手を振る。
「また会おうな!」
ゲンガーは少しだけ笑った。
「ゲン……」
イーブイも手を振るように前足を上げる。
「ブイ!」
そして、マサヒロたちはポケモンタワーを後にした。
* * *
シオンタウンの入口。
「じゃあな、シオンタウン!」
マサヒロは町を振り返る。
「次はどんなポケモンと会えるかな!」
「ブイ!」
「よし! 次のジムを目指すぞ!」
マサヒロたちは歩き出した。
その頃。
ポケモンタワーの最上階。
ゲンガーは、遠ざかっていくマサヒロたちを見つめていた。
「……」
その目は、イーブイを追っている。
一方。
シオンタウンから少し離れた場所では、先ほどのロケット団員が通信機を使っていた。
「こちらシオンタウン支部」
『どうした?』
「E-01を確認しました」
『確保は?』
「失敗しました」
少しの沈黙。
「ですが……あの個体には、強力な仲間がついています」
『……なるほど』
通信が切れる。
ロケット団員はイーブイたちが去った方向を見つめた。
「E-01……」
そして、静かに呟いた。
「次は必ず捕まえる」
遠くの道を歩くマサヒロたち。
その先には――
新たな町が待っていた。
「行くぞ、みんな!」
「ブイ!」
「フシ!」
「ハチ!」
「シャア!」
「バル!」
マサヒロたちは、次の冒険へ向かって走り出した。