ポケットモンスターブラウン   作:光宙

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18話 傷だらけのガーディ!信じる心!

シオンタウンを出発して、しばらく。

 

マサヒロたちは、タマムシシティへ続く道を歩いていた。

 

「タマムシシティか……」

 

マサヒロは地図を見ながら呟く。

 

「次のジムは草タイプなんだよな」

 

「ブイ!」

 

隣を歩くイーブイが元気よく鳴く。

 

「炎タイプのポケモンがいたら、かなり有利なんだけどな」

 

マサヒロは自分の仲間たちを見る。

 

イーブイ。

 

フシギソウ。

 

スピアー。

 

ハクリュー。

 

バルキー。

 

「まあ、焦って探す必要もないか」

 

その時だった。

 

「……ん?」

 

マサヒロが足を止める。

 

「どうした?」

 

イーブイも立ち止まった。

 

「今、何か聞こえなかったか?」

 

森の中から、かすかな物音が聞こえてくる。

 

「ポケモンかな?」

 

マサヒロたちは音のする方へ向かった。

 

* * *

 

「……!」

 

木の陰を覗き込んだマサヒロは、息を呑んだ。

 

そこに、一匹のガーディが倒れていた。

 

体中が傷だらけになっている。

 

毛も汚れていて、足にはいくつもの傷があった。

 

「ガーディ……」

 

マサヒロはゆっくり近づく。

 

「大丈夫か?」

 

「ガウッ!」

 

ガーディが突然顔を上げた。

 

「うわっ!」

 

ガーディはマサヒロに向かって吠えた。

 

「ガウッ! ガウッ!」

 

「待て!」

 

マサヒロは慌てて後ろへ下がる。

 

ガーディは体を震わせながら、マサヒロを睨んでいる。

 

「……怖がってるのか?」

 

「ブイ……」

 

イーブイも心配そうにガーディを見る。

 

マサヒロはガーディの傷を見つめた。

 

「野生のポケモン同士で戦ったのかな……」

 

そう考えた。

 

しかし――

 

マサヒロがほんの少し近づいただけで、ガーディは激しく怯えた。

 

「ガウッ!」

 

「わっ!」

 

ガーディが攻撃してくる。

 

マサヒロはとっさに避けた。

 

「そんなに怖がるなって!」

 

もう一度近づこうとする。

 

「ガウッ!」

 

また攻撃された。

 

「……」

 

マサヒロは立ち止まった。

 

ガーディの目には、怒りだけではない。

 

恐怖があった。

 

人間そのものを恐れている。

 

「……おかしい」

 

マサヒロはガーディをじっと見つめる。

 

「野生のポケモン同士で戦っただけなら、こんなに人間を怖がるか?」

 

ガーディの体には、自然にできたとは思えない傷も残っていた。

 

「……まさか」

 

マサヒロの顔から笑みが消える。

 

「誰かに……やられたのか?」

 

ガーディがびくっと体を震わせた。

 

「……」

 

マサヒロは気づいた。

 

「トレーナーに傷つけられて……そのまま捨てられたのか」

 

「ブイ……」

 

イーブイが悲しそうに鳴く。

 

「……かわいそうに」

 

マサヒロは拳を握った。

 

「治療してやらないと」

 

マサヒロはポケモンセンターから持ってきた薬を取り出す。

 

「ほら。これを使えば――」

 

一歩近づく。

 

「ガウッ!」

 

ガーディが威嚇する。

 

「……」

 

もう一歩。

 

「ガウッ!」

 

ガーディが攻撃する。

 

マサヒロは避ける。

 

「くっ……」

 

何度試しても、ガーディは近づかせてくれない。

 

無理に捕まえようとすれば、もっと怖がらせてしまう。

 

「……ダメだ」

 

マサヒロは薬をしまった。

 

「今は無理に近づかない方がいい」

 

ガーディは警戒したまま、マサヒロを見ている。

 

「でも、治してやりたいんだ」

 

マサヒロは考える。

 

そして――

 

「そうだ!」

 

森の中を見回した。

 

「木の実なら……」

 

* * *

 

マサヒロは森の中から、いくつかの木の実を集めてきた。

 

オレンの実。

 

そして、他の傷の回復に役立つ木の実。

 

それらを細かくして、ポケモン用の食事に混ぜる。

 

「これなら食べてくれるかもしれない」

 

マサヒロはガーディから少し離れた場所に食事を置いた。

 

「ここに置いておくからな」

 

ガーディは警戒したままだ。

 

マサヒロはさらに離れる。

 

「俺たちはここにいる」

 

そして、木の陰に座った。

 

イーブイたちもその隣に座る。

 

「無理に食べなくてもいい」

 

「ブイ……」

 

ガーディは食事を見る。

 

しかし、近づこうとはしなかった。

 

時間だけが過ぎていく。

 

夕方になっても、ガーディは食事に手をつけなかった。

 

「……まだ怖いんだな」

 

マサヒロは静かに呟いた。

 

「仕方ないか」

 

その夜。

 

マサヒロたちが眠りについた頃。

 

イーブイがゆっくりと起き上がった。

 

「ブイ……」

 

イーブイはガーディのいる場所へ歩いていく。

 

ガーディはすぐに気づいた。

 

「ガウ……」

 

イーブイはそこで立ち止まった。

 

敵意は見せない。

 

ただ、ガーディを見つめている。

 

「ブイ……ブイ」

 

ガーディが首をかしげる。

 

イーブイは自分の胸に前足を当てた。

 

そして、遠くで眠っているマサヒロを見る。

 

「ブイ……」

 

ガーディはマサヒロを見る。

 

「ガウ……」

 

イーブイは首を横に振った。

 

人間には、悪い人間もいる。

 

自分を傷つける人間もいる。

 

でも――

 

すべての人間が悪いわけではない。

 

イーブイ自身も、かつて人間を信じていなかった。

 

ロケット団。

 

研究室。

 

そこで受けた実験。

 

痛み。

 

恐怖。

 

逃げ出した自分を、最初は誰も助けてくれなかった。

 

だから、人間なんて信じられなかった。

 

そんな自分を拾ってくれたのが――

 

マサヒロだった。

 

「ブイ……」

 

イーブイは眠っているマサヒロを見る。

 

マサヒロは何も知らずに、穏やかな顔で眠っている。

 

イーブイはガーディへ向き直った。

 

「ブイ」

 

そして、マサヒロを指すように前足を向ける。

 

「ブイ……ブイ!」

 

ガーディはじっとマサヒロを見る。

 

イーブイはもう一度鳴いた。

 

まるで、

 

――マサヒロはいい人だ。

 

そう伝えているようだった。

 

ガーディはしばらく動かなかった。

 

やがて――

 

ゆっくりと食事へ近づいた。

 

「……」

 

匂いを嗅ぐ。

 

そして、一口。

 

「……!」

 

もう一口。

 

ガーディは夢中になって食べ始めた。

 

「ガウ……」

 

イーブイは嬉しそうに笑った。

 

* * *

 

翌朝。

 

「ん……」

 

マサヒロが目を覚ます。

 

「おはよう……」

 

辺りを見回す。

 

そして――

 

「……え?」

 

昨日置いた食事が、なくなっていた。

 

「食べたのか!」

 

マサヒロは嬉しそうに立ち上がる。

 

「イーブイ!」

 

「ブイ!」

 

イーブイが駆け寄ってくる。

 

「もしかして、お前が何かしてくれたのか?」

 

「ブイ!」

 

イーブイは嬉しそうに鳴く。

 

マサヒロはガーディを見る。

 

「ガーディ……」

 

ガーディはまだ少し警戒している。

 

だが――

 

昨日とは違う。

 

マサヒロが一歩近づいても、攻撃してこない。

 

「……いいのか?」

 

マサヒロはゆっくりしゃがむ。

 

「治療してもいいか?」

 

ガーディはマサヒロを見る。

 

そして――

 

小さく頷いた。

 

「……!」

 

マサヒロは嬉しそうに笑った。

 

「ありがとう」

 

マサヒロは慎重に傷を治療する。

 

薬を塗る。

 

包帯を巻く。

 

「痛かったら言えよ」

 

ガーディはじっと耐えている。

 

「もう少しだからな」

 

フシギソウたちも心配そうに見守っている。

 

やがて――

 

「よし!」

 

治療が終わった。

 

「これで大丈夫だ」

 

ガーディは立ち上がる。

 

昨日までふらついていた足で、しっかりと地面を踏みしめる。

 

「ガウ!」

 

元気な声が森に響いた。

 

「よかった!」

 

マサヒロは笑った。

 

「元気になったな!」

 

「ブイ!」

 

イーブイも嬉しそうに跳ねる。

 

ガーディはそんな二匹を見つめていた。

 

そして、マサヒロの前まで歩いてくる。

 

「どうした?」

 

ガーディはマサヒロを見上げる。

 

マサヒロは少し考えた。

 

「……俺と一緒に来るか?」

 

ガーディが耳を動かす。

 

マサヒロはモンスターボールを取り出した。

 

「俺はこれからタマムシシティへ行く」

 

「ブイ!」

 

「仲間と一緒に旅をして、もっと強くなりたい」

 

マサヒロはモンスターボールを差し出す。

 

「もし、お前が俺と一緒に来たいと思ってくれるなら……」

 

マサヒロは笑った。

 

「仲間になってくれ」

 

ガーディはモンスターボールを見る。

 

そして――

 

マサヒロを見る。

 

少しだけ迷ったあと。

 

ガーディは自分から一歩近づいた。

 

そして、鼻先でモンスターボールに触れる。

 

カチッ。

 

「……!」

 

モンスターボールがガーディを吸い込む。

 

地面に落ちたボールが揺れる。

 

一回。

 

二回。

 

三回。

 

そして――

 

カチッ。

 

「……!」

 

マサヒロはボールを拾い上げた。

 

「やった……!」

 

拳を握る。

 

「ガーディ、ゲットだ!」

 

「ブイ!」

 

イーブイが喜ぶ。

 

フシギソウたちも嬉しそうに鳴く。

 

マサヒロはガーディの入ったボールを大切そうに握った。

 

「よろしくな、ガーディ」

 

* * *

 

少しして。

 

ガーディをボールから出したマサヒロたちは、再びタマムシシティへの道を歩いていた。

 

「これで六匹目だな」

 

マサヒロは仲間たちを見る。

 

イーブイ。

 

フシギソウ。

 

スピアー。

 

ハクリュー。

 

バルキー。

 

そして――

 

ガーディ。

 

「みんなでタマムシジムを攻略するぞ!」

 

「ブイ!」

 

「フシ!」

 

「ハチ!」

 

「シャア!」

 

「バル!」

 

「ガウ!」

 

マサヒロは笑った。

 

「よーし!」

 

木々の向こう。

 

遠くに大きな街が見えてきた。

 

「見えた!」

 

「タマムシシティだ!」

 

新しい仲間を加えたマサヒロたちは、次の目的地へ向かって走り出した。

 

その隣を、ガーディも元気よく走っていく。

 

もう、その目に人間への恐怖はなかった。

 

少なくとも――

 

マサヒロを見る目には。

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