ポケットモンスター茶 作:光宙
翌朝。
マサヒロは、ニビシティへ向かう道を歩いていた。
「いやー、昨日は色々あったな」
「ブイ!」
隣を歩くイーブイが元気よく返事をする。
その後ろでは、フシギダネがトコトコとついてきていた。
「ダネ!」
「そうだな、フシギダネ」
マサヒロは振り返る。
昨日、オーキド博士から受け取ったばかりのフシギダネ。
そして、幼い頃から一緒にいるイーブイ。
二匹のポケモンと一緒に旅をしている。
そのことが、なんだか妙に嬉しかった。
「まずはニビシティだ」
マサヒロは拳を握る。
「そこで最初のジムバッジを手に入れる!」
「ブイ!」
「ダネ!」
「よし!」
順調な旅の始まり。
――のはずだった。
「……ん?」
森の中を歩いていたマサヒロは、ふと足を止めた。
「今、何か聞こえなかったか?」
「ブイ?」
耳を澄ます。
「ビーッ!」
小さな鳴き声。
そして――。
「ギャアッ!」
「……鳥ポケモン?」
空から聞こえてくる激しい羽音。
マサヒロが顔を上げる。
「オニスズメ……?」
木々の向こうから、数匹のオニスズメが飛んできた。
その視線の先には――。
「ビードル!」
一本の木の根元。
一匹のビードルが、必死に逃げ回っていた。
「何してるんだ?」
マサヒロが目を凝らす。
よく見ると、ビードルの身体には傷がついている。
「まさか、あいつ……オニスズメに襲われてるのか?」
「ブイ!」
イーブイが唸る。
フシギダネも身構えた。
「よし」
マサヒロはモンスターボールを握る。
「イーブイ、フシギダネ!」
「ブイ!」
「ダネ!」
「ビードルを助けるぞ!」
オニスズメたちが一斉にこちらを向いた。
「ギャアッ!」
「来るぞ!」
数匹のオニスズメが一斉に飛びかかってくる。
「イーブイ、右!」
「ブイ!」
イーブイが横へ飛ぶ。
鋭いくちばしが地面をえぐった。
「フシギダネ、つるのムチ!」
「ダネ!」
フシギダネの背中から二本のツルが伸びる。
迫ってきたオニスズメを弾き飛ばした。
「よし!」
しかし、まだいる。
「多すぎるだろ!」
オニスズメたちは怒ったように鳴き声を上げる。
「ギャア! ギャア!」
「イーブイ、たいあたり!」
「ブイ!」
イーブイが一匹へ突っ込む。
ドンッ!
「ギャッ!」
オニスズメが吹き飛ぶ。
「フシギダネ、もう一度!」
「ダネ!」
つるのムチが別のオニスズメを叩く。
「今だ!」
マサヒロが叫ぶ。
「二匹とも、一気にいけ!」
「ブイ!」
「ダネ!」
二匹が同時に攻撃する。
オニスズメたちは怯み、やがて空高く飛び去っていった。
「……行ったか」
マサヒロは大きく息を吐く。
「ふう……」
そして、すぐにビードルのところへ駆け寄った。
「大丈夫か?」
「ビー……」
ビードルは弱々しく鳴いた。
「怪我してるな」
マサヒロはバッグから傷薬を取り出す。
「ちょっとだけ我慢しろよ」
傷薬を使って、ビードルの身体を手当てする。
「これで少しは楽になるはずだ」
「ビー……」
「……ん?」
ビードルがマサヒロを見つめている。
「どうした?」
「ビー!」
突然、ビードルがマサヒロの足元へ近づいてきた。
「おい?」
さらに、マサヒロの足へ身体を擦りつける。
「……もしかして」
「ビー!」
ビードルが嬉しそうに鳴いた。
イーブイが首を傾げる。
「ブイ?」
フシギダネも不思議そうに見ている。
「……俺についてきたいのか?」
「ビー!」
ビードルは元気よく返事をした。
「でも……」
マサヒロは少し困った顔をする。
「俺、これから旅に出るんだぞ?」
「ビー!」
「危険なこともある」
「ビー!」
「それでも?」
「ビー!」
ビードルは一歩前へ出た。
マサヒロはしばらくビードルを見つめ――。
「……分かった」
笑った。
「一緒に行こう」
マサヒロはモンスターボールを取り出す。
「入りたいなら、この中に入ってくれ」
ビードルはボールを見つめる。
そして――。
コツン。
自分からボールへ触れた。
白い光がビードルを包む。
ボールが地面に落ちる。
一回。
二回。
三回。
――カチッ。
「……」
マサヒロは目を見開いた。
「やった……」
拳を握る。
「やったああああっ!」
「ブイ!」
「ダネ!」
「初めてのゲットだ!」
マサヒロはモンスターボールを拾い上げる。
「よろしくな、ビードル!」
ボールを胸に抱える。
こうして。
マサヒロに、三匹目の仲間が加わった。
* * *
しばらく歩くと、視界が一気に開けた。
「……おお!」
目の前に大きな町が広がっている。
「ニビシティだ!」
「ブイ!」
「ダネ!」
マサヒロは拳を握った。
「ここが最初の目的地!」
そして町へ入る。
ニビシティ。
大きな岩山に囲まれた町。
ポケモンセンター。
ショップ。
そして――。
「あれだ!」
町の一角に、大きな建物がある。
「ニビジム!」
マサヒロの胸が高鳴る。
「最初のジム戦だ!」
勢いよく扉を開ける。
「こんにちは!」
中は薄暗かった。
「……」
返事がない。
「誰かいませんかー?」
「ここだ」
「うわっ!」
暗闇から声がした。
岩のような身体を持つ少年が歩いてくる。
「君は?」
「俺はマサヒロ! ポケモントレーナーです!」
「そうか」
少年はマサヒロを見る。
「私はタケシ。このニビジムのジムリーダーだ」
「タケシさん!」
マサヒロは目を輝かせる。
「俺、ジム戦をしたい!」
「旅を始めたばかりだろう?」
「そうだけど?」
「それでも挑戦するのか?」
「ああ!」
マサヒロは迷わず答えた。
「俺はチャンピオンになるんだ。そのために、最初のバッジを取りに来た!」
タケシは少しだけ目を細める。
「……いい目をしている」
「え?」
「分かった。挑戦を受けよう」
「よっしゃあ!」
マサヒロは拳を握る。
「絶対勝つ!」
* * *
「これより、ニビジムのジム戦を始める!」
審判の声が響く。
「使用ポケモンは二匹!」
タケシがモンスターボールを取り出す。
「行け! イシツブテ!」
「イシッ!」
岩のような身体のポケモンが現れる。
「こっちも行くぞ!」
マサヒロがボールを投げる。
「フシギダネ!」
「ダネ!」
「まずはお前だ!」
バトル開始。
「イシツブテ、たいあたり!」
「フシギダネ、避けろ!」
イシツブテが突進する。
フシギダネが横へ飛ぶ。
「今だ! つるのムチ!」
「ダネ!」
ツルがイシツブテを打ち抜く。
「イシッ!」
「効いてる!」
相性がいい。
マサヒロは攻撃を続ける。
「もう一度!」
「ダネ!」
ドンッ!
イシツブテが地面へ倒れた。
「イシツブテ、戦闘不能!」
「よし!」
マサヒロは拳を突き上げる。
「やった!」
しかし、タケシは冷静だった。
「まだ一匹残っている」
タケシがボールを投げる。
「行け、イワーク!」
「グオオオオ!」
巨大な岩蛇が姿を現した。
「……でかっ」
マサヒロの額に冷や汗が浮かぶ。
「フシギダネ、頼む!」
「ダネ!」
戦いは続いた。
フシギダネは懸命に戦った。
しかし――。
「イワーク、たいあたり!」
「ダネ!」
「フシギダネ!」
巨体がぶつかる。
フシギダネは吹き飛ばされ、地面に倒れた。
「フシギダネ、戦闘不能!」
「そんな……!」
マサヒロは拳を握る。
残ったのは――。
「イーブイ!」
「ブイ!」
イーブイが前へ出る。
「お前ならやれる!」
「ブイ!」
「イワーク、たいあたり!」
「イーブイ、避けろ!」
イーブイが走る。
しかし、イワークの攻撃は速かった。
「ブイ!」
ドンッ!
「イーブイ!」
イーブイが地面を転がる。
「立て!」
「ブイ……!」
「もう一度!」
イーブイが走る。
「たいあたり!」
ドンッ!
しかし――。
「グオオオ!」
イワークはびくともしない。
「そんな……」
マサヒロの顔から笑みが消える。
何度攻撃しても効かない。
「イーブイ、もう一度!」
「ブイ!」
ドンッ!
やはり駄目だ。
イワークの尻尾が振り下ろされる。
「イーブイ!」
ドカンッ!
イーブイが地面へ叩きつけられた。
「ブイ……」
「イーブイ!」
マサヒロが駆け寄ろうとする。
「まだ終わっていない!」
タケシが声を上げる。
「立てるか、イーブイ!」
イーブイが顔を上げる。
「……ブイ」
足が震えている。
それでも。
立ち上がった。
「……そうだ」
マサヒロの拳が震える。
「まだ終わってない!」
「ブイ!」
「でも、どうすれば……」
マサヒロは考える。
たいあたりでは駄目。
速さを活かしても、イワークの攻撃を完全には避けられない。
何か別の方法は――。
そのとき。
「……ん?」
イーブイの尻尾が、淡く光った。
「何だ……?」
ふわっ。
尻尾の周囲に、白いエネルギーが集まっていく。
「ブイ……?」
イーブイ自身も驚いている。
マサヒロには、何が起きているのか分からない。
図鑑にも、こんな技は載っていない。
けれど。
「……イーブイ!」
「ブイ!」
「その力だ!」
マサヒロは叫んだ。
「そのままイワークにぶつけろ!」
イーブイが尻尾を振る。
次の瞬間――。
ドンッ!
尻尾から、巨大な衝撃波が放たれた。
「グオオオオオ!?」
衝撃波がイワークを直撃する。
「何だ、今の技は!?」
タケシが驚愕する。
イワークの巨体が大きく後ろへ吹き飛んだ。
「すごい……」
マサヒロは呆然とする。
イーブイ自身も、自分の尻尾を見つめている。
「今の……」
マサヒロの胸が高鳴る。
「新しい技……?」
だが、まだ終わっていない。
イワークが立ち上がる。
「グオオオ!」
「まだ動けるのか!」
マサヒロは歯を食いしばる。
イーブイも息を切らしている。
「イーブイ!」
「ブイ!」
「もう一度だ!」
イーブイの尻尾に再びエネルギーが集まる。
白い光が強くなる。
「さっきの技……!」
マサヒロは叫んだ。
「エボルブラスト!」
「ブイイイイ!」
ドォンッ!
再び衝撃波が放たれる。
イワークへ直撃。
「グオオオオオッ!」
巨体が大きく吹き飛ぶ。
そして――。
ドシン。
動かなくなった。
「イワーク、戦闘不能!」
「…………」
静寂。
マサヒロは目を丸くする。
「……勝った?」
審判が頷いた。
「勝者、挑戦者マサヒロ!」
「…………」
次の瞬間。
「やったああああああ!」
マサヒロはイーブイを抱き上げた。
「勝った! 勝ったぞ、イーブイ!」
「ブイ!」
フシギダネも嬉しそうに鳴く。
「ダネ!」
「フシギダネもありがとう!」
マサヒロは二匹を抱きしめた。
タケシはそんな三匹を見つめていた。
「……見事だった」
「ありがとうございます!」
「だが、今の技は私も見たことがない」
「俺もです」
マサヒロはイーブイを見る。
「エボルブラスト……」
自分で名付けた技。
尻尾から放たれる、強烈な衝撃波。
「不思議な技だ」
タケシは腕を組む。
「普通のイーブイが使える技なのか?」
「分かりません」
マサヒロも首を傾げる。
「でも……」
イーブイの頭を撫でる。
「こいつが使えるなら、それでいいです」
タケシは微笑んだ。
「そうか」
そして、ポケットから一つのバッジを取り出した。
「では、これを受け取ってくれ」
キラリ。
岩を模したバッジ。
「グレーバッジ……!」
マサヒロの目が輝く。
「やった……!」
「おめでとう」
タケシがバッジを差し出す。
「これが君の最初のジムバッジだ」
マサヒロは両手で受け取った。
「ありがとうございます!」
バッジを見つめる。
胸が熱くなる。
昨日までただの少年だった自分が。
今日、初めてジムリーダーに勝った。
「一個目……」
マサヒロはバッジを握りしめる。
「これで、少しはシゲルに近づけたかな」
イーブイが隣で鳴く。
「ブイ!」
「そうだよな」
マサヒロは笑った。
「まだ始まったばかりだ!」
* * *
その日の夜。
ポケモンセンター。
ベッドの上で、イーブイはぐっすり眠っている。
フシギダネも、その隣で丸くなっていた。
そして、モンスターボールの中では――。
今日仲間になったばかりのビードルが眠っている。
マサヒロは窓の外を見る。
「……明日から、もっと頑張らないとな」
グレーバッジを握る。
「シゲルには負けない」
まだ見ぬライバルを思い浮かべる。
そして。
「サトシにも……」
少しだけ考える。
「……いや」
マサヒロは首を振った。
「サトシはまだライバルじゃない」
そう呟いて笑う。
その頃。
マサヒロの知らない場所では――。
ロケット団の研究施設。
薄暗い部屋の中で、一人の研究員が古いデータを確認していた。
「……これは」
画面に映し出される、一匹のイーブイ。
そして、その横に並ぶ実験データ。
「あり得ない……」
研究員が画面を見つめる。
「この個体は、まだ生きているのか?」
さらに画面に映し出される文字。
――進化抑制処置。
――実験体E-01。
――特殊エネルギー反応。
研究員は呟いた。
「まさか……」
その視線の先には、今日記録されたばかりの映像。
イーブイが放った、不思議な衝撃波。
「エボルブラスト……」
研究員の顔から血の気が引いていく。
「実験の影響が、まだ残っているというのか……?」
画面が暗くなる。
一方。
ニビシティのポケモンセンターでは――。
「すぅ……」
イーブイは何も知らずに眠っていた。
マサヒロもまた、知らない。
自分が今日手に入れた最初のジムバッジ。
そして、イーブイが突然覚えた謎の技。
その二つが。
これから始まる長い冒険の中で、大きな意味を持つことを。
「ブイ……」
イーブイが寝言のように小さく鳴く。
マサヒロは笑って、その頭をそっと撫でた。
「おやすみ、イーブイ」
窓の外には、満天の星空。
少年と三匹のポケモンの冒険は――。
まだ始まったばかりだった。