シゲルとの激闘から数日後。
マサヒロとイーブイたちは、セキチクシティへ向かって歩いていた。
「セキチクまで、もう少しだな!」
マサヒロが前を見ながら言う。
「次のジム戦に向けて、もっと鍛えないと!」
「ブイ!」
マサヒロたちは街道の広い場所で立ち止まった。
「よし!」
マサヒロがボールを取り出す。
「今日はみんなで特訓だ!」
「ブイ!」
「フシギソウ!」
「ソウ!」
「スピアー!」
「シュア!」
「ハクリュー!」
「シャア!」
「ガーディ!」
「ワン!」
そして最後に――。
「バルキー!」
「バル!」
六匹のポケモンが並ぶ。
「みんな、シゲルとのバトルでは頑張ってくれた」
マサヒロが笑う。
「でも、まだまだ強くなるぞ!」
「バル!」
バルキーが元気よく返事をする。
「まずはバルキーからだ!」
「バル!」
マサヒロが指を向ける。
「かわらわり!」
「バル!」
バルキーが大きな岩へ向かって走る。
「せーの!」
ドォン!
バルキーの手刀が岩を叩き割る。
「すごいぞ、バルキー!」
「バル!」
「次は、からてチョップ!」
「バル!」
バルキーが次の岩へ向かって走る。
「もっと速く!」
「バルッ!」
ドォン!
岩が大きく揺れる。
しかし――。
岩は割れなかった。
「……!」
バルキーが岩を見る。
そして、悔しそうに拳を握る。
「バル……」
「大丈夫だ!」
マサヒロが駆け寄る。
「少しずつ強くなればいいんだ!」
「バル……」
バルキーは俯く。
その様子を見ていたマサヒロは、少しだけ不思議そうな顔をした。
「どうしたんだ?」
「バル……」
バルキーは拳を見つめる。
そして、もう一度岩へ向かって走り出した。
「バルキー!」
「バル!」
ドォン!
何度も何度も岩を叩く。
「バル!」
ドォン!
「バル!」
ドォン!
マサヒロは黙って見つめる。
「……バルキー」
バルキーは諦めない。
何度失敗しても、拳を振り続ける。
その時だった。
「ほう……」
突然、後ろから声が聞こえた。
「なかなかいい根性をしているな」
「え?」
マサヒロが振り返る。
そこには――。
大きな身体をした男が立っていた。
鍛え上げられた肉体。
そして、腰にはモンスターボール。
「……誰だ?」
男は笑う。
「俺はシバ」
「シバ……?」
マサヒロは目を見開く。
「まさか……」
シバは頷いた。
「そうだ」
「四天王のシバさん!?」
「その通りだ」
「すげぇぇぇ!」
マサヒロの目が輝く。
「本物だ!」
「元気な少年だな」
シバは笑う。
そして、バルキーを見る。
「だが、俺が気になったのは君ではない」
「え?」
「そいつだ」
シバがバルキーを指差す。
「バルキー?」
「バル!」
バルキーが顔を上げる。
「さっきから見ていたが……」
シバは岩を見る。
「何度失敗しても、拳を止めなかった」
「……」
「強くなりたいという気持ちが、身体から伝わってくる」
バルキーはシバを見る。
「バル……!」
シバが笑う。
「いい目だ」
「バルキーが?」
「ああ」
シバはバルキーの前にしゃがむ。
「お前、もっと強くなりたいんだな?」
「バル!」
バルキーが力強く頷く。
「だったら、俺と少しだけ修行してみるか?」
「バル……!」
「いいんですか!?」
マサヒロが驚く。
「ああ」
シバは立ち上がる。
「俺はかくとうポケモンを専門に鍛えている」
「……!」
「お前のバルキーなら、もっと伸びるかもしれん」
マサヒロはバルキーを見る。
「バルキー……どうする?」
バルキーは嬉しそうに頷いた。
「バル!」
「よし!」
マサヒロも笑う。
「じゃあ、お願いしてみるか!」
「バル!」
シバは少し離れた場所へ移動する。
「まずは俺の言う通りに動いてみろ」
「バル!」
「走れ!」
「バル!」
バルキーが走り出す。
「もっと速くだ!」
「バルッ!」
バルキーがさらに速度を上げる。
「次は、からてチョップ!」
「バル!」
大きな岩へ向かって拳を振り下ろす。
ドォン!
岩が大きくへこむ。
「……!」
マサヒロが驚く。
「すごい!」
シバが笑う。
「いいぞ。その調子だ!」
「バル!」
バルキーはさらに拳を振るう。
「かわらわり!」
「バル!」
ドォン!
今度は岩の一部が崩れ落ちた。
「やった!」
マサヒロが喜ぶ。
「バルキー、すごいぞ!」
「バル!」
バルキーも嬉しそうに拳を握る。
しかし――。
その後も特訓は続いた。
走り込み。
攻撃の練習。
体力作り。
シバの指示に、バルキーは必死についていった。
そして夕方。
「はぁ……はぁ……」
バルキーが地面に座り込む。
身体は泥だらけ。
それでも、その顔には笑顔が浮かんでいた。
「バル……!」
シバが頷く。
「よく頑張ったな」
「バル!」
マサヒロも駆け寄る。
「すごかったぞ、バルキー!」
「バル!」
バルキーが拳を突き上げる。
「今日はここまでにしよう」
シバが言う。
「バルキーも休ませてやれ」
「はい!」
マサヒロはバルキーの隣に座る。
「疲れただろ?」
「バル……」
バルキーは頷く。
マサヒロは笑った。
「でも、楽しそうだったな」
「バル!」
その夜。
マサヒロは焚き火の前で、シバと話していた。
「シバさん、今日はありがとうございました」
「礼を言う必要はない」
シバは炎を見つめる。
「俺もいい経験をさせてもらった」
「え?」
「バルキーは面白いポケモンだ」
シバはバルキーを見る。
「強くなりたいという気持ちが、とても強い」
「……うん」
「だからこそ――」
シバがマサヒロを見る。
「一つ、君に提案がある」
「提案?」
「ああ」
シバは真剣な表情になった。
「バルキーを、俺に預けてみないか?」
「……え?」
マサヒロの表情が固まる。
「バルキーを……?」
「ああ」
シバは続ける。
「俺のもとで、もっと本格的に鍛えるんだ」
「……」
マサヒロはバルキーを見る。
「それって……」
「しばらくの間、俺がバルキーを預かるということだ」
「嫌だ!」
マサヒロはすぐに答えた。
「……」
シバは黙ってマサヒロを見る。
「バルキーは俺の大切な仲間です」
マサヒロは拳を握る。
「ヤマブキシティからずっと一緒に旅してきたんだ」
「……」
「一緒に戦って、一緒に負けて……」
マサヒロの声が少し震える。
「それなのに、離れるなんて……」
「気持ちは分かる」
シバは静かに言った。
「大切な仲間と離れたくないのは当然だ」
「だったら……」
「だが」
シバがマサヒロを見る。
「君はまだ旅に出たばかりのトレーナーだ」
「……!」
「これから先、ジム戦もある。旅も続く」
シバは言葉を続ける。
「君は六匹すべてを大切にしている」
「当たり前です!」
「だが、それと同時に――」
シバはバルキーを見る。
「六匹全員を同じように鍛えるのは、今の君には難しい」
マサヒロは黙る。
「バルキーはかくとうタイプだ」
「……うん」
「そして俺は、かくとうポケモンを鍛えるプロフェッショナルだ」
シバは拳を握る。
「俺のもとなら、バルキーをもっと効率よく鍛えることができる」
「……」
「今日の特訓を見ただろう?」
マサヒロはバルキーを見る。
バルキーはまだ疲れている。
それでも、シバを見つめる目には強い意志があった。
「バルキーは、もっと強くなりたいんだ」
「……!」
「大切なポケモンと離れたくない気持ちは分かる」
シバは優しく言う。
「だが、トレーナーにはポケモンの意思を尊重することも必要だ」
「ポケモンの……意思」
「ああ」
シバは頷く。
「バルキーが本当に望んでいることを聞いてやれ」
「……」
マサヒロはバルキーの前に座る。
「バルキー」
「バル……?」
「俺は、お前とずっと一緒にいたい」
マサヒロの目に涙が浮かぶ。
「これからも一緒に旅したい」
「バル……」
「でも……」
マサヒロはバルキーの拳を見る。
「お前がもっと強くなりたいなら……」
声が震える。
「俺は、お前の気持ちをちゃんと聞きたい」
バルキーは黙ってマサヒロを見る。
「シバさんのところで……」
マサヒロは涙をこらえる。
「もっと強くなりたいか?」
「……」
バルキーは長い間、何も答えなかった。
マサヒロも急かさない。
ただ、じっと待つ。
やがて――。
バルキーが拳を握った。
「バル……」
そして、シバの方を向く。
「バル!」
強く頷く。
「……そうか」
マサヒロは目を伏せる。
「お前は……」
涙が一粒、頬を伝った。
「シバさんのところで、強くなりたいんだな」
「バル……」
バルキーは申し訳なさそうにマサヒロを見る。
マサヒロは涙を拭う。
そして、無理やり笑った。
「……分かった」
「バル?」
「お前がそうしたいなら……」
マサヒロはバルキーを抱きしめる。
「俺は応援する!」
「バル……!」
バルキーもマサヒロにしがみつく。
「いっぱい鍛えてもらえよ」
「バル……」
「もっともっと強くなってさ」
マサヒロの涙が止まらない。
「いつか、また俺と一緒に戦おうな」
「バル……!」
「約束だぞ」
「バル!」
バルキーが力強く頷く。
シバは二人を静かに見守っていた。
翌朝。
マサヒロたちは街道の分かれ道に立っていた。
「ここから俺はセキチクへ向かう」
マサヒロはバルキーを見る。
「そして、お前はシバさんと一緒に修行だ」
「バル……」
「寂しいけど……」
マサヒロは笑う。
「頑張ってこい!」
「バル!」
バルキーが拳を突き上げる。
「シバさん」
「ああ」
マサヒロはバルキーのボールをシバへ渡す。
「バルキーを……よろしくお願いします」
シバはボールを受け取る。
「ああ」
そして、バルキーを見る。
「任せておけ」
「バル!」
バルキーはマサヒロを見る。
「……」
マサヒロもバルキーを見る。
何も言えない。
ただ、涙が次々とこぼれていく。
「……じゃあな、バルキー」
「バル……」
「元気でな」
「バル……!」
バルキーが一歩、シバの方へ歩く。
そして――。
もう一度だけ振り返った。
「バル!」
「……!」
マサヒロは笑顔を作る。
「また会おうな!」
「バル!」
バルキーが拳を突き上げる。
シバとバルキーが歩き出す。
「……」
マサヒロはその背中を見つめ続ける。
やがて、二人の姿が遠くなっていく。
「……バルキー」
マサヒロは涙を拭う。
「絶対、強くなれよ」
「ブイ……」
隣にいたイーブイがマサヒロに寄り添う。
マサヒロはイーブイを抱き上げる。
「寂しいな……」
「ブイ……」
「でも……」
マサヒロは前を向く。
「バルキーが強くなりたいって言ったんだ」
涙を拭う。
「だったら、俺も負けてられない!」
「ブイ!」
マサヒロが拳を握る。
「俺ももっと強くなる!」
「ブイ!」
「いつかまた会った時に――」
マサヒロは笑った。
「バルキーに、俺も強くなったって見せてやる!」
「ブイ!」
マサヒロとイーブイは、セキチクシティへ向かって歩き出す。
離れ離れになった二人。
それでも――。
強くなりたいという想いは、同じだった。