グレンシティへ向かうため、マサヒロとイーブイは旅を続けていた。
「グレンシティまで、あとどのくらいかな?」
「ブイ!」
「七つ目のバッジか……」
マサヒロは腰につけたバッジケースを見る。
「ここまで来たんだ。絶対に取ってやるぞ!」
「ブイ!」
その途中――。
「ん?」
道の先に町が見えてきた。
「町だ!」
「ブイ!」
「ちょっと休んでいこうぜ」
マサヒロとイーブイは町へ入っていく。
すると――。
「マサヒロ!」
聞き覚えのある声がした。
「え?」
振り返る。
そこにいたのは――。
「サトシ!」
「久しぶりだな!」
サトシが手を振っている。
その隣にはカスミとタケシもいた。
「サトシ!」
マサヒロは嬉しそうに駆け寄る。
「カスミ、タケシさんも!」
「久しぶりね、マサヒロ」
「元気そうだな」
「はい!」
マサヒロは笑う。
「こんなところでまた会えるなんてな!」
「ああ!」
サトシが頷く。
「ところで、マサヒロは今どこへ向かってるんだ?」
「グレンシティです」
マサヒロは答える。
「七つ目のバッジを取りに行くんだ!」
「そっか!」
サトシも嬉しそうに笑う。
「俺たちもグレン島を目指してるんだ!」
「本当!?」
「でも、その前にやることがあってな」
タケシが言う。
「実は、森で迷子になっていたイーブイを見つけたんだ」
「イーブイ!?」
マサヒロが驚く。
「もう一匹いるの?」
「うん」
カスミが抱えていたイーブイを見せる。
「この子、首輪をつけていてね」
「首輪?」
マサヒロが見る。
「住所が書いてあるの」
カスミが説明する。
「だから、そこまで送り届けようとしてるのよ」
「へぇ……」
マサヒロはイーブイを見る。
「俺もイーブイを使ってるし、面白そうだな!」
「ブイ!」
マサヒロのイーブイも嬉しそうに鳴く。
「じゃあ、一緒に行こうぜ!」
「いいぞ!」
こうして、マサヒロもサトシたちと一緒にイーブイの飼い主を探すことになった。
* * *
森を抜けると、一軒の大きな家が見えてきた。
「ここみたいね」
カスミが首輪を確認する。
「この住所で間違いないわ」
「じゃあ、行こう!」
サトシが扉を叩く。
「すみませーん!」
扉が開く。
「はい?」
中から少年が顔を出した。
「あなたがタイチ?」
カスミが尋ねる。
「そうですけど……」
少年はイーブイを見る。
「イーブイ!」
タイチの表情が明るくなる。
「見つかったんだ!」
「森で迷子になってたの」
カスミがイーブイを渡す。
「ほら、タイチ」
「ありがとう!」
タイチは嬉しそうにイーブイを抱きしめる。
しかし――。
「イーブイが帰ってきたぞ!」
家の奥から声が聞こえた。
「タイチのイーブイだ!」
「今日は進化パーティーだな!」
何人かの少年たちが現れる。
「進化パーティー?」
サトシが首を傾げる。
タイチの顔が曇った。
「……」
マサヒロもその様子に気づく。
「どうしたんだ?」
タイチは黙っている。
すると、兄の一人が嬉しそうに言った。
「今日はタイチのイーブイを進化させるんだ!」
「サンダースになるんだろ?」
「いや、シャワーズもいいぞ!」
「ブースターもかっこいいぞ!」
兄たちは楽しそうに話している。
「……」
タイチはイーブイを抱きしめる。
「どうしたの?」
マサヒロが尋ねる。
タイチは俯いた。
「僕……」
「うん」
「イーブイを進化させたくないんだ」
「え?」
サトシたちが驚く。
「だから森に隠してたんだ」
タイチは小さな声で話す。
「兄ちゃんたちは、イーブイは進化させたほうが強くなるって言うけど……」
タイチはイーブイを見る。
「僕は、このイーブイがこのままでいてほしいんだ」
「そうだったのね」
カスミが優しく言う。
「だったら、お兄さんたちにちゃんと話せばいいじゃない」
「でも……」
タイチは兄たちを見る。
「怒られるかもしれない……」
「そんなこと言ってたら何も変わらないぞ」
サトシが言う。
「ちゃんと自分の気持ちを伝えないと!」
「……」
タイチは黙り込む。
マサヒロは自分のイーブイを見る。
「なあ、タイチ」
「え?」
「俺もイーブイと一緒に旅してるんだ」
「そうなの?」
「ああ」
マサヒロはイーブイの頭を撫でる。
「こいつは進化してないけど、今までいろんな強いポケモンと戦ってきた」
「……」
「進化してるから強い、進化してないから弱いっていうのは、俺は違うと思う」
タイチの兄たちがマサヒロを見る。
「じゃあ、どれくらい強いんだ?」
兄の一人が尋ねる。
「見てみます?」
マサヒロは笑う。
「俺のイーブイと、あなたたちのポケモンでバトルしましょう!」
「バトル?」
「はい!」
マサヒロは前へ出る。
「俺のイーブイが、進化したポケモンたちとどこまで戦えるか見てください!」
「面白そうだな!」
兄たちも乗ってくる。
「俺はサンダース!」
「俺はシャワーズ!」
「俺はブースター!」
三人がそれぞれポケモンを繰り出す。
「サンダース!」
「シャワーズ!」
「ブースター!」
「イーブイ!」
マサヒロもイーブイを出す。
「ブイ!」
「一匹で三匹と戦うのか?」
「大丈夫です!」
マサヒロは自信満々に笑う。
「こいつは俺の一番の相棒ですから!」
「ブイ!」
* * *
「始め!」
「サンダース、でんきショック!」
「シャワーズ、みずでっぽう!」
「ブースター、ひのこ!」
三匹が一斉に攻撃する。
「イーブイ、かげぶんしん!」
「ブイ!」
イーブイの姿が一気に増える。
三つの攻撃が次々と空を切る。
「今だ!」
「イーブイ、でんこうせっか!」
「ブイ!」
イーブイが一気に駆ける。
「速い!」
「サンダース、避けろ!」
しかし遅い。
イーブイがサンダースの懐へ飛び込む。
「アイアンテール!」
「ブイ!」
ガキン!
イーブイの尻尾が鋼のように輝く。
「サンダース!」
サンダースが吹き飛ばされる。
「まだだ!」
「シャワーズ、みずでっぽう!」
「ブースター、ひのこ!」
二匹が同時に攻撃する。
「イーブイ、かげぶんしん!」
「ブイ!」
イーブイが分身する。
水と炎が分身を次々と消していく。
「そこだ!」
マサヒロが叫ぶ。
「イーブイ、でんこうせっか!」
イーブイが一気に距離を詰める。
「アイアンテール!」
「ブイ!」
ガキン!
鋭い一撃がシャワーズに直撃する。
「シャワーズ!」
シャワーズが吹き飛ばされる。
「そんな……!」
残ったブースターが前へ出る。
「ブースター、ひのこ!」
「イーブイ、避けろ!」
イーブイが炎をかわす。
「今だ!」
マサヒロは拳を握る。
「エボルブラスト!」
「ブイィィィ!」
強烈な光がイーブイから放たれる。
分身したイーブイたちとともに、巨大な光が三匹のポケモンを包み込む。
「うわぁっ!」
「きゃあっ!」
「ブースター!」
ドォォン!
三匹が同時に吹き飛ばされた。
「……」
その場が静まり返る。
三匹のポケモンは倒れていた。
「勝った……」
タイチが呟く。
「進化してないイーブイが……」
マサヒロはイーブイを抱き上げる。
「な?」
「ブイ!」
「進化してるかどうかなんて、大した問題じゃないんだ」
タイチは自分のイーブイを見る。
「僕のイーブイも……」
その時だった。
「なーんて、いい話をしてるところ悪いけど!」
突然、空から声が響いた。
「!?」
全員が空を見上げる。
巨大な気球が降りてくる。
「なんだかんだと聞かれたら!」
「答えてあげるが世の情け!」
「世界の破壊を防ぐため!」
「世界の平和を守るため!」
「愛と真実の悪を貫く!」
「ラブリーチャーミーな敵役!」
「ムサシ!」
「コジロウ!」
「銀河を駆けるロケット団の二人には!」
「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」
「ニャーんてニャ!」
「ロケット団!?」
サトシが叫ぶ。
「そうよ!」
ムサシが笑う。
「今日はポケモンだけじゃないわ!」
コジロウが続ける。
「進化の石も、料理も、全部いただく!」
「家にあるものを根こそぎいただくニャ!」
ニャースが叫ぶ。
「そんなことさせるか!」
マサヒロが前へ出る。
「イーブイ!」
「ブイ!」
「行け!」
イーブイが飛び出す。
「ニャース、捕まえろ!」
「ニャ!」
ニャースが飛びかかる。
「かげぶんしん!」
「ブイ!」
イーブイが分身して逃げる。
「こっちだ!」
サトシもピカチュウを繰り出す。
「ピカチュウ、でんきショック!」
「ピカ!」
電撃がロケット団へ飛んでいく。
「そんなもの!」
「避けるわ!」
しかし――。
「ギャアアアアア!」
突然、マサヒロの腰のボールが揺れた。
「え?」
「まさか……」
ボールからギャラドスが飛び出した。
「ギャアアアアア!」
「ギャラドス!?」
マサヒロが驚く。
「おい、ギャラドス!」
ギャラドスは返事をしない。
「落ち着け!」
「ギャア!」
ギャラドスが大きく身体を振り回す。
ドォン!
近くの木が倒れる。
「うわぁ!」
「危ない!」
カスミたちが逃げる。
「ギャラドス、やめろ!」
しかしギャラドスはマサヒロの言うことをまったく聞かない。
「ギャアアア!」
そのままロケット団へ突進していく。
「こっちに来たぁ!」
「うわぁぁぁ!」
「ニャァァァ!」
ギャラドスが尻尾を振り回す。
ドォォン!
ロケット団の気球が大きく揺れる。
「なんなのよ、このギャラドス!」
「見境なく狙ってくるぞ!」
「ニャー!」
「ギャラドス!」
マサヒロは頭を抱える。
「俺の言うことを聞いてくれよ!」
「ギャアアア!」
ギャラドスはさらに暴れる。
「こうなったら!」
マサヒロがボールを構える。
「戻れ、ギャラドス!」
赤い光がギャラドスを包む。
しかし――。
「ギャア!」
ギャラドスが光から抜け出した。
「ええっ!?」
「まだ戻ってくれないの!?」
ギャラドスはロケット団へ向かって突進する。
「もう知らないぞ!」
マサヒロは叫ぶ。
ギャラドスが大きく口を開ける。
「ギャアアアアア!」
ロケット団の気球が吹き飛ばされる。
「うわぁぁぁぁ!」
「結局こうなるのかぁぁ!」
「ニャァァァァ!」
「「「やなカンジー!」」」
ロケット団は空の彼方へ飛んでいった。
「……」
マサヒロたちは呆然と見送る。
「すごい……」
タイチが呟く。
しかし――。
「ギャアアアアア!」
ギャラドスはまだ暴れていた。
「えっ!?」
マサヒロが振り返る。
「ギャラドス、もういいだろ!」
「ギャア!」
ギャラドスが身体を振り回す。
ドォン!
また近くの木が倒れる。
「危ない!」
マサヒロたちは慌てて逃げる。
「ギャラドス! 戻ってくれ!」
マサヒロがボールを構える。
「戻れ!」
赤い光がギャラドスへ伸びる。
しかし――。
「ギャア!」
ギャラドスは光を振り払ってしまう。
「ダメだ……!」
マサヒロは焦る。
「どうすれば……」
その時。
「……僕がやる!」
タイチが前へ出た。
「タイチ!?」
サトシが驚く。
「危ないぞ!」
「分かってる!」
タイチは震えている。
それでも、自分のイーブイを抱きしめる。
「僕だって……」
タイチはギャラドスを見る。
「僕だって、できるんだ!」
イーブイを前へ出す。
「イーブイ!」
「ブイ!」
「たいあたり!」
「ブイィ!」
イーブイがギャラドスへ向かって走り出す。
「ギャア!?」
ドンッ!
イーブイのたいあたりがギャラドスに命中する。
「ギャアア……!」
ギャラドスの動きが一瞬止まった。
「今だ!」
マサヒロが叫ぶ。
「戻れ、ギャラドス!」
赤い光がギャラドスを包み込む。
今度こそ――。
「ギャアアア!」
ギャラドスの身体が光に包まれていく。
「よし!」
マサヒロがボールを握る。
ギャラドスがボールの中へ吸い込まれる。
ボールが地面に落ちた。
「……」
全員が息をのむ。
カチッ。
ボールが一度揺れる。
カチッ。
もう一度。
そして――。
カチッ!
ボールが動かなくなった。
「……戻った」
マサヒロがほっと息を吐く。
「やった!」
サトシが喜ぶ。
「タイチ、すごいぞ!」
「え?」
タイチは驚いた顔をする。
「僕が……?」
「ああ!」
サトシが笑う。
「ちゃんと勇気を出したじゃないか!」
「……」
タイチは自分のイーブイを見る。
「ありがとう、イーブイ」
「ブイ!」
マサヒロも笑う。
「タイチ、お前すごいよ!」
「マサヒロ……」
「俺だけじゃ、ギャラドスを止められなかった」
マサヒロはギャラドスのボールを見る。
「お前のイーブイが作ってくれた隙があったから、戻すことができたんだ」
「……うん!」
タイチは嬉しそうに頷いた。
「よくやったな、イーブイ!」
「ブイ!」
その様子を見ていた兄たちは、静かにタイチを見つめていた。
そして――。
タイチがゆっくりと兄たちの前へ出る。
「兄ちゃんたち……」
「ん?」
「僕、イーブイを進化させたくない」
タイチは震えながらも、しっかりと口にする。
「この子は、このままがいいんだ」
兄たちは黙ってタイチを見る。
「さっきのバトルを見て分かったよ」
兄の一人が笑う。
「進化してなくても、あんなに強くなれるんだな」
「それに……」
別の兄がタイチのイーブイを見る。
「お前がその子を大切にしてるのも分かった」
「じゃあ……」
タイチが顔を上げる。
「進化パーティーは中止だ!」
「本当!?」
タイチの顔が明るくなる。
「よかったな!」
「ありがとう、兄ちゃん!」
タイチはイーブイを抱きしめる。
「イーブイ!」
「ブイ!」
マサヒロはその様子を見て笑う。
「よかったな、タイチ」
「うん!」
タイチはマサヒロを見る。
「ありがとう、マサヒロ!」
「俺は何もしてないよ」
マサヒロは笑う。
「お前が自分の気持ちをちゃんと伝えたんだ」
「……うん!」
タイチは力強く頷いた。
サトシがマサヒロの肩を叩く。
「やったな、マサヒロ!」
「へへっ」
マサヒロは笑い、自分のイーブイを見る。
「俺たちも一緒に、もっともっと強くなろうぜ!」
「ブイ!」
マサヒロとイーブイは顔を見合わせる。
そして――。
「じゃあ、俺たちはグレンシティへ行くよ!」
「俺たちもグレン島を目指すから、また会うかもな!」
「その時はバトルしようぜ、サトシ!」
「もちろん!」
マサヒロとサトシは拳を合わせる。
「じゃあな!」
「またな!」
マサヒロとイーブイは、グレンシティへ向かって歩き出した。
腰には――。
まだ言うことを聞かない、ギャラドスのボール。
「ギャラドス……」
マサヒロはボールを見る。
「いつか絶対、仲良くなってやるからな!」
「ブイ!」
マサヒロとイーブイは、次の目的地へ向かって歩いていった。