17話の補足:ゲンガーがイーブイを知っている様な描写があったのは実験の犠牲となったイーブイ達の魂がポケモンタワーに流れ着いていたからなんですね、この設定を挟めそうな所がないので供養も兼ねてここに載せておきます。
* * *
――それから、しばらくの間。
オーキド研究所では、マサヒロが毎日のようにイーブイと遊んでいた。
「イーブイ、今日は何して遊ぶ?」
「ブイ!」
「じゃあ、外に行こう!」
「ブイ!」
二人は研究所の庭を走り回る。
ボールを追いかけたり。
草むらに隠れてみたり。
一緒に昼寝をしたり。
最初は人間を見るだけで怯えていたイーブイだった。
しかし――。
「イーブイ!」
「ブイ!」
今では、マサヒロの声を聞くだけで嬉しそうに駆け寄ってくる。
その様子を、オーキド博士は少し離れた場所から見ていた。
「……」
最初、オーキドはマサヒロのことを心配していた。
イーブイは人間を恐れている。
いつまたマサヒロを傷つけるか分からない。
そう思っていた。
しかし――。
「ブイ!」
イーブイがマサヒロに飛びつく。
「うわっ!」
マサヒロが倒れる。
「ははは!」
マサヒロは笑いながらイーブイを抱き上げる。
「元気だな、イーブイ!」
「ブイ!」
イーブイも嬉しそうに鳴く。
オーキドは二人を見つめる。
イーブイの表情は、以前とはまるで違っていた。
怯えていない。
苦しんでいない。
マサヒロと一緒にいる時だけは、心から楽しそうにしている。
「……そうか」
オーキドは小さく呟く。
「この子は、もう大丈夫なのかもしれんな」
そして――。
オーキドは一つの決断をした。
* * *
ある日。
「マサヒロ」
「ん?」
オーキドがマサヒロに声をかける。
「お前に話がある」
「何?」
「イーブイのことじゃ」
「イーブイ?」
マサヒロの隣で、イーブイが首をかしげる。
「この子を……お前に預けようと思う」
「え?」
マサヒロが目を丸くする。
「俺に?」
「うむ」
オーキドは頷く。
「この子は、以前は人間をひどく恐れていた」
「……」
「だが、お前と過ごすうちに、少しずつ心を取り戻していった」
オーキドはイーブイを見る。
「今のこの子なら、お前と一緒に暮らしていけるじゃろう」
「本当に!?」
マサヒロの顔が輝く。
「イーブイと一緒に暮らしていいの!?」
「うむ」
「やったー!」
マサヒロはイーブイを抱きしめる。
「これからずっと一緒だぞ、イーブイ!」
「ブイ!」
イーブイも嬉しそうにマサヒロへ身体を寄せる。
こうして――。
イーブイの新しい生活が始まった。
* * *
その日。
マサヒロは母親と一緒にオーキド研究所へやって来た。
「博士、本当にありがとうございます」
母親が頭を下げる。
「いやいや」
オーキドは笑う。
「マサヒロとこの子なら、きっとうまくやっていけるじゃろう」
「イーブイ!」
マサヒロが呼ぶ。
「帰ろう!」
「ブイ!」
イーブイはマサヒロのところへ駆け寄る。
そして――。
マサヒロと一緒に研究所を出ていった。
その日から、イーブイはマサヒロの家で暮らすことになった。
正式に――。
マサヒロの家族になったのだ。
* * *
それからの日々は、とても賑やかだった。
「イーブイ、遊ぼう!」
「ブイ!」
二人で外を走り回る。
「ご飯だぞ!」
「ブイ!」
一緒にご飯を食べる。
「お風呂入るぞ!」
「ブ、ブイ!?」
「なんで逃げるんだよ!」
「ブイ!」
「こらー!」
毎日が楽しかった。
もちろん、楽しいことばかりではなかった。
「俺のプリン食べただろ!」
「ブイ……」
「絶対食べた!」
「ブイ!」
「やっぱりお前だ!」
「ブイィ!」
「もう知らない!」
「ブイ!」
喧嘩もした。
けれど――。
「……イーブイ」
「……ブイ」
少し時間が経てば、二人とも自然に仲直りしていた。
「さっきはごめんな」
「ブイ」
「一緒に遊ぼう!」
「ブイ!」
そして、また喧嘩する。
「だから俺の布団を取るなって!」
「ブイ!」
「返せ!」
「ブイィ!」
そんな毎日だった。
まるで――。
本物の兄弟のように。
* * *
そして――。
時間は、あっという間に流れていった。
マサヒロは六歳。
七歳。
八歳。
九歳。
そして――。
十歳になった。
その日。
マサヒロの家では、誕生日を祝っていた。
「マサヒロ、誕生日おめでとう」
「ありがとう!」
母親からプレゼントを受け取る。
「へへっ!」
その隣には、イーブイがいる。
「ブイ!」
「お前も祝ってくれるのか?」
「ブイ!」
マサヒロは笑う。
そして――。
ふと、イーブイを見る。
「なあ、イーブイ」
「ブイ?」
「俺さ……」
マサヒロは少しだけ真剣な顔になる。
「昔から、ずっと夢があるんだ」
イーブイは静かに聞いている。
「カントーのチャンピオンになること」
「ブイ!」
「だから俺、十歳になったら旅に出ようって決めてたんだ」
マサヒロは立ち上がる。
「ポケモンジムを回って、バッジを集めて、カントーリーグに出る!」
「ブイ!」
「そして、絶対にチャンピオンになる!」
マサヒロは拳を握る。
それから――。
イーブイの前にしゃがみ込む。
「……イーブイ」
「ブイ?」
「俺と一緒に旅に出てくれないか?」
イーブイが目を丸くする。
「俺の相棒としてさ」
「……」
イーブイはマサヒロを見る。
これまでの日々が思い出される。
研究所。
怖かった人間たち。
暗い部屋。
そして――。
初めて自分を「イーブイ」と呼んでくれた少年。
一緒に遊んだ。
一緒にご飯を食べた。
一緒に眠った。
喧嘩もした。
仲直りもした。
ずっと一緒だった。
だから――。
答えは決まっていた。
「ブイ!」
イーブイは元気よく頷いた。
「本当か!?」
「ブイ!」
「よっしゃあ!」
マサヒロはイーブイを抱きしめる。
「これからもずっと一緒だ!」
「ブイ!」
二人は笑い合った。
こうして――。
マサヒロとイーブイの旅が始まった。
* * *
――そして。
それから数日後
「行くぞ、イーブイ!」
「ブイ!」
マサヒロとイーブイは、マサラタウンを出発した。
カントーチャンピオンになるという夢を胸に。
二人の長い旅が、始まった。
* * *
――現在。
「……」
回想を終えたマサヒロは、黙ってイーブイを見つめていた。
「ブイ……」
イーブイもマサヒロを見つめる。
「……そうだったんだ」
マサヒロは小さく呟く。
自分が知らなかった、イーブイの過去。
E-01と呼ばれていた頃のこと。
そして――。
自分と出会ってからのこと。
「イーブイ」
「ブイ?」
「……やっぱり、お前は俺の最高の相棒だよ」
「ブイ!」
マサヒロはイーブイの頭を撫でる。
イーブイは嬉しそうに目を細めた。
二人の間にある絆は――。
誰にも壊すことのできないものだった。