グレンジムでの戦いを終えたマサヒロは、グレンタウンを歩いていた。
腰には、七つ目のバッジ。
「あと一つ……!」
マサヒロはクリムゾンバッジを眺める。
「あと一つで、カントーリーグだ!」
「ブイ!」
隣を歩くイーブイも嬉しそうに鳴く。
その時――。
「そういえば、マサヒロ」
後ろからカツラが声をかけた。
「はい?」
「君はポケモンの研究に興味はあるか?」
「ポケモンの研究?」
マサヒロの目が輝く。
「あります!」
「なら、少し見学していかないか?」
「どこですか?」
「グレンタウンのポケモン研究所だ」
「研究所!?」
マサヒロは食いつく。
「行きたいです!」
「そう言うと思ったよ」
カツラは笑った。
* * *
グレンタウンのポケモン研究所。
「すげぇ……!」
研究所の中には、たくさんの機械が並んでいた。
大きな水槽。
ポケモンのデータを調べる機械。
珍しい化石。
マサヒロは目を輝かせながら、あちこちを見て回る。
「これは何ですか?」
「ポケモンの細胞を調べる装置です」
「へぇ!」
「こっちは化石の研究に使う機械です」
「化石!」
マサヒロは机の上に置かれた化石を見る。
「これもポケモンなんですか?」
「そうです。大昔に生きていたポケモンの化石ですよ」
「すげぇ……!」
イーブイも興味深そうに化石を眺める。
すると――。
「……あれ?」
マサヒロが足を止めた。
研究所の奥。
大きなガラス越しに、何かが動いている。
「なんだ、あれ?」
「……!」
研究員の表情が変わった。
「マサヒロ君、そこから離れてください!」
「え?」
次の瞬間。
ドンッ!
ガラスの向こうから、大きな翼が叩きつけられた。
「うわっ!」
マサヒロが驚いて後ろへ下がる。
ガラスの向こうにいたのは――。
「プテラ……」
研究員が呟いた。
「プテラ?」
マサヒロは目を見開く。
「これがプテラか!」
翼を広げた大きなポケモン。
鋭い牙。
鋭い爪。
そして、見るからに獰猛な顔。
「すげぇ……!」
マサヒロは興奮する。
「本物のプテラだ!」
「驚くのも無理はありません」
研究員が説明する。
「プテラは古代に生息していたポケモンです」
「古代……?」
「はい。長い間、絶滅したと考えられていました」
研究員は化石を手に取る。
「しかし最近になって、この化石からプテラを復元することに成功したんです」
「復元……」
マサヒロはプテラを見る。
「じゃあ、このプテラは……」
「ええ」
研究員は頷く。
「現代に蘇った、最初期の復元個体です」
「すげぇ!」
マサヒロはさらに近づこうとする。
「もっと近くで見たい!」
「待ってください!」
研究員が慌てて止める。
「それは危険です!」
「危険?」
「このプテラは非常に気性が荒いんです」
「グルル……!」
プテラがガラス越しに唸る。
「これまで何度も研究員に襲いかかっています」
「……」
マサヒロはプテラを見る。
プテラは牙を剥き出しにしている。
確かに、近づくのは危険そうだった。
「だから、今はこの部屋から出さないようにしています」
「そうなんですか……」
マサヒロは少し残念そうにする。
その時だった。
「ブイ……」
イーブイがプテラを見つめていた。
「イーブイ?」
イーブイはじっとプテラを見る。
そして――。
「ブイ……」
どこか悲しそうな声を出した。
「どうしたんだ?」
マサヒロが尋ねる。
イーブイは答えない。
ただ、プテラを見つめている。
「……」
マサヒロもプテラを見る。
プテラは暴れている。
しかし――。
「……怖いのかな」
「え?」
研究員が振り向く。
「何がです?」
「いや……」
マサヒロはプテラを見る。
「こいつ、怒ってるっていうより……」
プテラがガラスに爪を当てる。
「……不安なんじゃないかな」
「不安?」
「だって、こいつにとっては全部知らないものなんだろ?」
マサヒロは続ける。
「生まれた時から知ってる場所も、仲間もいない」
「……」
「いきなり知らない世界に連れてこられたんだ」
イーブイがマサヒロを見る。
マサヒロはイーブイの頭を撫でる。
「イーブイも……昔はそうだったんだよな」
「ブイ……」
研究員たちは黙ってプテラを見る。
「……確かに」
一人の研究員が呟く。
「復元された直後から、ずっと暴れていました」
「外の世界を知らないんだ」
マサヒロはプテラを見る。
「だったら……」
マサヒロの顔が明るくなる。
「俺が今の世界を見せてやればいい!」
「ええ!?」
研究員が驚く。
「何を言っているんですか!」
「この研究所だけじゃなくてさ」
マサヒロは笑う。
「町とか、海とか、空とか!」
「危険です!」
「でも……」
マサヒロはプテラを見る。
「こいつには、知らない世界を知る時間が必要なんじゃないかな」
研究員は首を横に振る。
「駄目です。プテラの力は強すぎます」
「私も同意見だ」
カツラが口を開いた。
「しかし――」
カツラはプテラを見る。
「マサヒロの考えにも一理ある」
「カツラさん?」
「このまま閉じ込めておくだけでは、プテラが現代の世界に慣れることはないだろう」
研究員は困った顔をする。
「ですが……」
「私が責任を持つ」
カツラは言った。
「プテラと触れ合わせてみよう」
「カツラさん……!」
「ただし、無理はするな」
カツラはマサヒロを見る。
「危険を感じたら、すぐに離れるんだ」
「はい!」
マサヒロは頷く。
「分かりました!」
* * *
研究員が慎重に扉を開ける。
「……」
プテラが低く唸る。
マサヒロはゆっくりと近づく。
「大丈夫だよ」
「グルル……」
プテラは牙を見せる。
研究員たちが緊張する。
「マサヒロ君!」
「大丈夫です」
マサヒロは手を広げる。
「俺はお前を傷つけない」
プテラは警戒している。
その時――。
「ブイ」
イーブイがマサヒロの隣に立った。
そしてプテラを見る。
「ブイ……」
プテラが少しだけ動きを止める。
「……」
イーブイは静かにプテラを見つめる。
まるで――。
大丈夫だ。
怖がらなくていい。
そう伝えているようだった。
プテラはイーブイを見る。
そしてマサヒロを見る。
「……」
マサヒロは笑った。
「俺も、お前のことを知らない」
「……」
「でも、お前も俺のことを知らないだろ?」
マサヒロは一歩だけ近づく。
「だから、少しずつ知っていこうぜ」
プテラが唸る。
しかし――。
さっきまでの敵意は、少し弱くなっていた。
「……」
マサヒロはさらに一歩近づく。
「俺はマサヒロ」
胸に手を当てる。
「こいつはイーブイ」
「ブイ!」
イーブイが元気に鳴く。
「よろしくな」
プテラはマサヒロを見る。
しばらく沈黙が続いた。
そして――。
プテラがゆっくりと頭を近づける。
「……!」
マサヒロは驚く。
「触ってもいいのか?」
プテラは逃げなかった。
マサヒロは恐る恐る手を伸ばす。
そして――。
プテラの頭に手を置いた。
「……!」
マサヒロの顔が明るくなる。
「すげぇ……!」
プテラは静かに目を閉じる。
研究員たちは驚いていた。
「こんなこと……」
「今まで一度も……」
カツラは微笑む。
「どうやら、プテラは人間を嫌っているのではないらしい」
「え?」
「知らない人間を、恐れていただけなのかもしれんな」
マサヒロはプテラの頭を撫でる。
「なぁ、プテラ」
プテラがマサヒロを見る。
「外に行ってみないか?」
「……」
「今の世界を、一緒に見ようぜ」
プテラは少しだけ翼を動かした。
「ブイ!」
イーブイも嬉しそうに鳴く。
* * *
その後。
研究所の中庭。
プテラは大きな翼を広げた。
「すげぇ……!」
マサヒロが見上げる。
「これが今の空だぞ!」
プテラは空を見上げる。
青い空。
白い雲。
そして――。
遠くにはグレンタウンの街並みが広がっている。
プテラは静かに周囲を見回す。
マサヒロは笑う。
「どうだ?」
プテラが翼を広げる。
「飛びたいのか?」
「グルル!」
「よし!」
マサヒロは拳を握る。
「行ってこい!」
プテラが地面を蹴る。
バサッ!
大きな翼が風を起こす。
「うわっ!」
マサヒロの髪が風で揺れる。
プテラは空高く舞い上がった。
「すげぇぇぇ!」
マサヒロが叫ぶ。
イーブイも空を見上げる。
「ブイ!」
プテラは何度も空を旋回する。
初めて見る現代の空。
初めて感じる自由。
そして――。
プテラは研究所へ戻ってきた。
マサヒロの前に降り立つ。
「おかえり!」
マサヒロが笑う。
プテラはマサヒロを見つめる。
「……」
その目に、もう敵意はなかった。
* * *
「マサヒロ君」
研究員が声をかける。
「はい?」
「相談があるんですが……」
研究員はプテラを見る。
「このプテラを、君に預けたい」
「え?」
マサヒロは驚く。
「俺に?」
「はい」
研究員は頷く。
「プテラはまだ現代の世界に慣れていません」
「……」
「ですが、君とイーブイと一緒にいる時だけは、とても落ち着いている」
「そうなんですか?」
「ええ」
研究員は笑う。
「君なら、このプテラに新しい世界を教えてあげられると思います」
マサヒロはプテラを見る。
「……本当にいいんですか?」
「もちろんです」
「やった!」
マサヒロは喜ぶ。
「プテラ!」
プテラがマサヒロを見る。
「これから一緒に旅をしよう!」
「グルル!」
プテラが力強く鳴く。
「よろしくな!」
マサヒロはプテラに手を差し出す。
プテラはその手に頭を近づけた。
「ブイ!」
イーブイも嬉しそうに鳴く。
「これで……」
マサヒロは腰のモンスターボールを見る。
「俺の仲間は六匹だ!」
イーブイ。
フシギバナ。
スピアー。
ウインディ。
ギャラドス。
そして――。
「プテラ!」
プテラが翼を広げる。
「これからよろしくな!」
* * *
「それじゃあ、行ってきます!」
「気をつけてな」
カツラと研究員たちに見送られながら、マサヒロとイーブイはグレンタウンを出る。
少し離れた場所では、プテラが空を飛んでいる。
「プテラ!」
「グルル!」
「こっちだ!」
プテラがマサヒロたちのところへ降りてくる。
「よし!」
マサヒロは前を向く。
「次は最後のバッジだ!」
「ブイ!」
マサヒロとイーブイ。
そして、新たな仲間となったプテラ。
七つのバッジを手にした少年の旅は――。
最後のジムを目指して、再び始まった。