グレンタウン。
七つ目のクリムゾンバッジを手に入れたマサヒロは、イーブイたちとともに街を出ていた。
「よし!」
マサヒロはバッジケースを取り出す。
「これでバッジは七つ!」
「ブイ!」
イーブイが嬉しそうに鳴く。
「あと一つだ!」
マサヒロは拳を握る。
「最後のジムに勝てば、ポケモンリーグに挑戦できる!」
「ブイ!」
「……とはいえ」
マサヒロは後ろを見る。
腰には六つのモンスターボール。
その中の一つ。
ギャラドスのボールを見つめる。
「こいつをどうするかな……」
マサヒロはため息をついた。
「捕まえてから、全然言うことを聞いてくれないんだよな」
ギャラドス。
ポケモン保護区で捕まえた、巨大なポケモン。
「出したら暴れるし……」
マサヒロは苦笑する。
「バトルでも俺の指示を無視するし」
「ブイ……」
イーブイもギャラドスのボールを見る。
「別に嫌いなわけじゃないんだけどな」
マサヒロは呟く。
「ただ……また暴れたらって考えると」
そのとき。
「マサヒロ!」
「え?」
聞き覚えのある声。
振り返ると――。
「やっぱりマサヒロだ!」
「リョウ!」
そこにはリョウが立っていた。
そして、その肩には小さなサンドが乗っている。
「久しぶりだな!」
「久しぶり!」
マサヒロは笑う。
「また会ったな!」
「そうだな」
リョウが笑う。
「……ん?」
マサヒロはリョウの肩を見る。
「そのサンド……」
「こいつか?」
「うん」
マサヒロはサンドを見る。
「サンドパンには進化させないの?」
「……」
リョウは少しだけサンドを見る。
サンドもリョウを見上げる。
「こいつはな」
リョウは優しく言う。
「サンドのまま強くなることを望んでるんだ」
「サンドのまま……」
「だから、俺はその気持ちを尊重したい」
「……そっか」
マサヒロはイーブイを見る。
「俺も、似たような経験があるんだ」
「ブイ?」
「こいつもイーブイのまま強くなる事を決めたんだ」
「ブイ!」
イーブイが胸を張る。
「だから俺も、サンドがそう望んでるなら、それでいいと思う」
「マサヒロ……」
リョウが笑う。
「ありがとう」
「いや!」
マサヒロも笑った。
「俺とイーブイも一緒だからな!」
「ブイ!」
二匹のポケモンが顔を見合わせる。
「サンド!」
「ブイ!」
* * *
「そういえば」
リョウがバッジケースを取り出す。
「マサヒロは今、バッジ何個だ?」
「七個!」
マサヒロが胸を張る。
「お前は?」
「俺も七個だ」
「本当か!?」
「ああ」
リョウがバッジを見せる。
「次のジムが最後だな」
「……!」
マサヒロの目が輝く。
「だったら!」
「ん?」
「最後のジムに向けて、特訓しようぜ!」
リョウが笑う。
「そう言うと思った」
「やっぱり分かってるな!」
「俺も同じことを考えてた」
リョウはボールを取り出す。
「だったら、3対3でどうだ?」
「望むところだ!」
マサヒロもボールを取り出す。
「やろう!」
* * *
「最初はこいつだ!」
マサヒロがボールを投げる。
「行け、イーブイ!」
「ブイ!」
リョウもボールを投げる。
「行け、サンド!」
「サンド!」
「イーブイ対サンド!」
マサヒロは笑う。
「相棒同士の勝負だ!」
「負けないぞ、マサヒロ」
リョウも構える。
「こいつは厳しい特訓を続けてきた」
「特訓?」
「ああ」
リョウはサンドを見る。
「進化先のサンドパンすら凌ぐパワーを手に入れた」
「……!」
マサヒロは驚く。
「サンドのままで、そこまで強くなったのか?」
「嘘じゃない」
サンドが地面を踏みしめる。
「サンド!」
「……分かった」
マサヒロも構える。
「その強さ、見せてもらうぞ!」
* * *
「サンド、こうそくスピン!」
「サンド!」
サンドが高速回転しながら突っ込んでくる。
「イーブイ、避けろ!」
「ブイ!」
イーブイが横へ飛ぶ。
「今だ!」
「サンド、あなをほる!」
サンドが地面へ潜る。
「来るぞ!」
マサヒロが周囲を見る。
「イーブイ、動き続けろ!」
「ブイ!」
イーブイが走り回る。
「そこだ!」
サンドが地面から飛び出す。
「イーブイ、かげぶんしん!」
「ブイ!」
イーブイの姿が一気に増える。
「サンド、ジャイロボール!」
「サンド!」
サンドが高速回転しながら分身へ突っ込む。
次々と分身が消えていく。
「本物を探してる!」
「そのまま攻めろ!」
サンドが地面を蹴る。
「10まんばりき!」
「サンド!」
強烈な突進。
「イーブイ、避けろ!」
イーブイが飛び上がる。
しかし――。
「サンド、こうそくスピン!」
サンドが空中へ跳び上がる。
「ブイ!?」
回転しながらイーブイへ迫る。
「イーブイ!」
ドォン!
イーブイが地面へ叩きつけられる。
「ブイ……!」
「まだだ!」
マサヒロは叫ぶ。
「でんこうせっか!」
「ブイ!」
イーブイが立ち上がり、一気に走る。
「アイアンテール!」
「ブイ!」
尻尾が鋼のように輝く。
「サンド、あなをほる!」
サンドが地面へ潜る。
「またか!」
マサヒロは周囲を見る。
「イーブイ、動きを止めるな!」
「ブイ!」
その瞬間。
「サンド、10まんばりき!」
「サンド!」
地面からサンドが飛び出す。
ドォン!
「ブイッ!」
イーブイが吹き飛ばされる。
「イーブイ!」
イーブイは何とか立ち上がる。
しかし――。
サンドはまだ余裕を残していた。
「すごい……」
マサヒロは息を呑む。
「本当にサンドパンに負けないくらい強い」
サンドが地面を踏みしめる。
「サンド!」
「だったら……!」
マサヒロはイーブイを見る。
「俺たちも負けてられない!」
「ブイ!」
「強くなってるのは、お前たちだけじゃない!」
マサヒロは拳を握る。
「イーブイ!」
「ブイ!」
「エボルブラスト!」
「ブイィィィ!」
強烈な光が放たれる。
「サンド、避けろ!」
サンドが横へ飛ぶ。
「まだだ!」
マサヒロは叫ぶ。
「もう一度、エボルブラスト!」
「ブイィィィ!」
「なに!?」
二発目の光が放たれる。
サンドが避けようとする。
しかし――。
「サンド!」
光が直撃する。
「まだだ!」
「エボルブラスト!」
「ブイィィィ!」
三発目。
「サンド!」
今度はまともに直撃する。
サンドが吹き飛ばされる。
「サンド……!」
リョウが叫ぶ。
「立て!」
サンドは立ち上がろうとする。
しかし。
身体が動かない。
「サンド、戦闘不能!」
「……!」
リョウは驚く。
マサヒロはイーブイを見る。
「やったな!」
「ブイ!」
「一発だけじゃない」
マサヒロは笑う。
「俺たちは、エボルブラストを何度も使えるようになったんだ!」
「ブイ!」
* * *
「次は俺だ!」
リョウがボールを投げる。
「行け、パルシェン!」
「パル!」
マサヒロもボールを取り出す。
「よし!」
「次はこいつだ!」
「行け、プテラ!」
「プテラァ!」
大きな翼を広げ、プテラが飛び出す。
「プテラ!」
プテラは嬉しそうに空を飛び回る。
「初めてのバトルだもんな」
マサヒロが笑う。
「思いっきりいけ!」
「プテラ!」
プテラが勢いよく飛び出す。
「パルシェン、みずでっぽう!」
「パル!」
水流が飛んでくる。
「プテラ、避けろ!」
プテラが空中で旋回する。
「つばさでうつ!」
「プテラ!」
翼を大きく振るう。
「パル!」
パルシェンが吹き飛ぶ。
「よし!」
「パルシェン、まもる!」
「パル!」
殻が光り、攻撃を防ぐ。
「プテラ、かみつく!」
「プテラ!」
プテラが飛びかかる。
ガブッ!
「パル!」
しかし。
「まだだ!」
「プテラ、もう一度!」
「プテラ!」
連続で攻撃する。
「パルシェン、耐えろ!」
パルシェンは攻撃を受けながらも耐え続ける。
「決めろ、プテラ!」
「ストーンエッジ!」
「プテラァ!」
巨大な岩が次々と飛んでいく。
「パルシェン!」
ドォン!
岩が直撃する。
「やった!」
マサヒロは拳を握る。
「プテラの勝ちだ!」
しかし。
「まだだ」
リョウが静かに言う。
「え?」
パルシェンが倒れている。
だが――。
「パル……」
殻の一部が動く。
「……?」
マサヒロが目を見開く。
「まさか……」
「パルシェン!」
その瞬間。
パルシェンが殻を脱ぎ捨てる。
「えっ!?」
「からをやぶるだ!」
リョウが叫ぶ。
「技を受ける直前に、からをやぶるを使ったんだ!」
「じゃあ……!」
マサヒロが見る。
倒れていたのは――。
「脱ぎ捨てた殻!?」
「そうだ!」
殻の中から、身軽になったパルシェンが現れる。
「パル!」
「しまった!」
マサヒロは叫ぶ。
「プテラ、気をつけろ!」
「プテラ!」
だが。
「パルシェン、つららばり!」
「パル!」
無数の氷の針が飛んでくる。
「プテラ、避けろ!」
「プテラ!」
プテラが飛び回る。
しかし、連続攻撃で疲れていた身体は思うように動かない。
「プテラ!」
つららばりが直撃する。
「プテラァ!」
プテラが地面へ落ちる。
「立て!」
「プテラ……」
プテラは立ち上がろうとする。
しかし――。
「プテラ、戦闘不能!」
「……」
マサヒロはプテラを見る。
「初めてのバトル……」
プテラは悔しそうに鳴く。
「プテラ……」
「よく頑張ったぞ」
マサヒロはボールを向ける。
「戻れ」
光がプテラを包み込む。
「次は勝とうな」
* * *
「これで一勝一敗だな」
リョウが言う。
「最後の一匹だ」
マサヒロはボールを取り出す。
「じゃあ、最後はスピアーで――」
その瞬間。
「ギャアアアア!」
「え?」
マサヒロの腰から、一つのボールが勝手に飛び出した。
「ギャラドス!?」
ボールから巨大なギャラドスが現れる。
「ギャアアアアア!」
「ちょっと待て!」
マサヒロが慌てる。
「俺が出したのはお前じゃない!」
「ギャアアア!」
ギャラドスはマサヒロの言葉を無視する。
「またかよ……」
リョウは少し驚いた顔をする。
「マサヒロ、こいつ……」
「うん」
マサヒロは困ったように笑う。
「まだ全然言うことを聞かないんだ」
「なるほどな」
リョウはカビゴンのボールを取り出す。
「だったら、こいつでいく」
「行け、カビゴン!」
「カビ!」
巨大なカビゴンが現れる。
「ギャアアアア!」
ギャラドスが突っ込む。
「ちょっと待て!」
マサヒロが叫ぶ。
「ギャラドス、止まれ!」
聞く耳を持たない。
「ギャアアア!」
ギャラドスがカビゴンへ突進する。
「カビゴン、受け止めろ!」
「カビ!」
ドォン!
カビゴンがギャラドスの攻撃を受け止める。
「ギャラドス、落ち着いてくれ!」
「ギャアアア!」
しかしマサヒロの指示は通らず再び突進。
「カビゴン、メガトンパンチ!」
「カビ!」
ドォン!
拳がギャラドスへ命中する。
「ギャアッ!」
「ギャラドス!」
マサヒロが叫ぶ。
「もうやめろ!」
しかし。
「ギャアアア!」
ギャラドスはさらに暴れる。
「カビゴン、のしかかり!」
「カビ!」
カビゴンが飛び上がる。
「ギャラドス!」
ドォン!
ギャラドスが地面へ叩きつけられる。
「まだだ!きあいだま!」
カビゴンが気弾を放つ。
「ギャアア!」
直撃。
それでもギャラドスは立ち上がる。
「すごい……」
マサヒロは驚く。
「ギャラドスも、まだ倒れない」
「カビゴン!」
リョウが叫ぶ。
「ギガインパクト!」
「カビィィ!」
カビゴンが全力で突進する。
「ギャラドス!」
ドォォン!
ギャラドスが大きく吹き飛ばされる。
「ギャア……」
そのまま動かなくなった。
「ギャラドス、戦闘不能!」
「……」
マサヒロは呆然とする。
「終わった……」
カビゴンは静かに立っている。
リョウがボールを向ける。
「戻れ、カビゴン」
「カビ」
カビゴンがボールへ戻る。
「……」
マサヒロはギャラドスを見る。
「ごめん、リョウ」
「ん?」
「せっかくの特訓だったのに……」
マサヒロは頭を下げる。
「ギャラドスが勝手に出てきて、勝手に暴れて……」
「別にいいさ」
リョウは笑う。
「でもな」
「え?」
リョウはギャラドスを見る。
「ギャラドスが言うことを聞かないのって、お前が必要以上に怯えてるのが原因じゃないか?」
「……!」
マサヒロは言葉を失う。
「怯えてる……?」
「ギャラドスが暴れるのが怖い」
リョウは続ける。
「だから、ボールから出すのを避けてる」
「……」
図星だった。
マサヒロはギャラドスを捕まえてから、できるだけボールから出さないようにしていた。
暴れ出したらどうしよう。
また言うことを聞かなかったらどうしよう。
そんなことばかり考えていた。
「でも、それじゃあギャラドスも」
リョウはギャラドスを見る。
「お前に信じてもらえてないって感じるんじゃないか?」
「……」
マサヒロはギャラドスのボールを握る。
「俺が……」
マサヒロは俯く。
「こいつを怖がってたから……」
「たぶんな」
リョウは静かに笑う。
「もう少しギャラドスを信じて使ってやれよ」
「……信じる」
マサヒロはギャラドスのボールを見る。
「俺が……」
拳を握る。
「俺が変わらないといけないんだ」
「そういうことだ」
リョウは背を向ける。
「じゃあな、マサヒロ」
「リョウ!」
「次に会うときは、お互い最後のバッジを持ってようぜ」
「……ああ!」
マサヒロは頷く。
「絶対だ!」
「じゃあな!」
リョウは歩き出す。
肩にはサンド。
その姿が少しずつ遠ざかっていく。
「……」
マサヒロはギャラドスのボールを見つめる。
「今まで……」
マサヒロは呟く。
「俺はギャラドスが暴れるのが怖くて、ずっとボールから出すのを避けてた」
「ブイ……」
イーブイが隣に寄り添う。
「それじゃ、ギャラドスだって俺を信じられないよな」
マサヒロはボールを強く握る。
「ごめんな」
ボールの中にいるギャラドスへ語りかける。
「これからは……ちゃんと向き合う」
「ブイ!」
マサヒロはイーブイを見る。
「俺ももっと強くならないとな」
「ブイ!」
「最後のジムまで、あと一つ」
マサヒロは前を向く。
「ギャラドスとも、ちゃんと仲間になってみせる」
そして。
マサヒロはイーブイとともに歩き出した。
その腰には。
まだ言うことを聞かないギャラドスのボールがあった。
だが――。
マサヒロの中には、今までとは違う気持ちが生まれていた。
「待ってろよ、最後のジム!」
「ブイ!」
少年とイーブイは、最後のバッジを目指して歩いていく。