トキワジム。
その野外バトルフィールドで。
マサヒロとキクコは、向かい合っていた。
「それじゃあ、始めようかねぇ」
キクコがモンスターボールを取り出す。
「アタシの最初のポケモンは――」
ボールが開く。
「出ておいで、ガラガラ!」
「ガラガラ!」
フィールドに現れたガラガラ。
しかし。
「……え?」
マサヒロは目を見開いた。
「ガラガラ……?」
「ブイ?」
マサヒロの知っているガラガラとは、明らかに姿が違っていた。
黒い身体。
燃えるような炎をまとった骨。
そして、その骨を両手に持っている。
「なんだ……このガラガラ……」
キクコはニヤリと笑う。
「おや、見たことがないかい?」
「はい!」
マサヒロはガラガラをじっと見る。
「俺の知ってるガラガラと全然違う……!」
「そうだろうねぇ」
キクコは説明する。
「このガラガラは、アローラ地方のガラガラさ」
「アローラ地方?」
「カントーとは違う地方だよ」
キクコはガラガラを見る。
「ポケモンは暮らす環境によって、姿や性質を変えることがある」
「へえ……」
「これはリージョンフォームって呼ばれているのさ」
「リージョンフォーム……」
「アローラの環境に適応するため、ガラガラも姿を変えたってわけさ」
マサヒロは頷く。
「なるほど……」
しかし。
マサヒロはすぐに自分のボールを取り出した。
「でも、ガラガラはガラガラだ!」
キクコが笑う。
「ほう?」
「姿が変わっても、ガラガラならじめんタイプ!」
マサヒロは一つのボールを投げる。
「行け、フシギバナ!」
「フシギバナ!」
フシギバナがフィールドへ出る。
「まずはパワーウィップ!」
「バナ!」
巨大なツルが伸びる。
ガラガラへ向かって振り下ろされる。
「ガラガラ!」
ガラガラは骨を構える。
しかし。
パワーウィップが直撃した。
「よし!」
マサヒロは拳を握る。
「効果は……」
しかし。
ガラガラは倒れない。
「……あれ?」
キクコが笑う。
「どうしたんだい?」
「パワーウィップが、あまり効いてない……」
キクコは楽しそうに笑った。
「そりゃそうさ」
「え?」
「アローラのガラガラは――」
キクコが指を向ける。
「じめんタイプじゃないんだからねぇ!」
「えっ!?」
ガラガラの身体から炎が噴き上がる。
「ガラガラ!」
「フレアドライブ!」
「ガラガラァ!」
炎をまとったガラガラが、一気に突進する。
「フシギバナ、避けろ!」
「バナッ!」
しかし。
間に合わない。
ドォン!
フシギバナが吹き飛ばされる。
「フシギバナ!」
そのまま地面へ倒れた。
「フシギバナ、戦闘不能!」
「そんな……!」
マサヒロは呆然とする。
一撃だった。
「ガラガラのタイプは――」
キクコが言う。
「ほのお・ゴーストさ」
「ほのお……ゴースト……」
マサヒロはガラガラを見る。
「じゃあ、じめんじゃないのか……!」
「そういうことさ」
キクコは笑う。
「知らない相手と戦うときは、見た目だけで判断しちゃいけないよ」
「……!」
マサヒロは歯を食いしばる。
「分かりました!」
すぐに次のボールを握る。
「だったら、ほのおタイプに強いポケモンだ!」
ボールを投げる。
「行け、プテラ!」
「プテラ!」
プテラが大空へ飛び上がる。
「空から攻撃だ!」
「プテラ!」
プテラが急降下する。
「かみつく!」
「ガラガラ!」
ガラガラが骨を構える。
しかし。
プテラの攻撃が直撃。
「ガラガラ!」
ガラガラが後ろへ吹き飛ぶ。
「よし!」
マサヒロは喜ぶ。
「やっぱり、プテラなら!」
「ほう」
キクコは笑った。
「ちゃんと弱点を突いてくるじゃないか」
プテラが再び空へ上がる。
「そのまま空から攻め続けろ!」
「プテラ!」
プテラが上空を旋回する。
「ガラガラ、ホネブーメラン!」
「ガラガラ!」
ガラガラが骨を投げる。
骨が回転しながら、プテラへ向かって飛んでいく。
「プテラ、避けろ!」
プテラが横へ飛ぶ。
骨はそのまま通り過ぎていった。
「……?」
マサヒロは首を傾げる。
「当たってない?」
キクコは笑った。
「当たり前さ」
「え?」
「ひこうタイプのプテラに、じめん技のホネブーメランなんて効かないからねぇ」
「じゃあ、どうして……」
その瞬間。
「ガラガラ!」
ガラガラが跳んだ。
「えっ!?」
ガラガラは、自分が投げたホネブーメランへ向かって跳躍する。
「なっ……!」
空中で骨を踏み台にするように跳び――。
「シャドーボーン!」
「ガラガラァ!」
骨が黒い影をまとっていく。
「プテラ!」
ドゴォン!
至近距離から攻撃を受けたプテラが、大きく吹き飛ばされる。
「プテラ!」
地面へ落下。
「プテラ、戦闘不能!」
「……!」
マサヒロは言葉を失った。
フシギバナ。
そしてプテラ。
二匹が、ほとんど何もできないまま倒されてしまった。
「くそっ……!」
マサヒロは拳を握る。
「強すぎる……!」
キクコは静かに笑っている。
「どうしたんだい?」
「……」
「まだ四匹残ってるんだろう?」
マサヒロは腰を見る。
残りのボール。
スピアー。
ウインディ。
ギャラドス。
イーブイ。
その中で。
マサヒロの手が、一つのボールの前で止まった。
「……」
ギャラドス。
今まで、ずっと出すことを避けてきた。
暴れるのが怖かった。
命令を聞いてくれないのが怖かった。
だから。
できるだけ使わないようにしていた。
しかし。
「……もう、逃げない」
マサヒロはギャラドスのボールを握る。
「俺がギャラドスを信じなきゃ……」
そして。
「ギャラドス!」
ボールを投げた。
「ギャアアアアアス!」
巨大なギャラドスがフィールドへ現れる。
「ギャアアアアアア!」
ギャラドスが咆哮する。
そして。
身体を大きく動かし始めた。
「ギャラドス! 落ち着け!」
「ギャアアアア!」
聞く耳を持たない。
「ギャラドス!」
ギャラドスが暴れ始める。
「やっぱり……!」
マサヒロは一歩下がる。
「ギャラドス、俺の言うことを聞いてくれ!」
しかし。
「ギャアアア!」
ギャラドスはマサヒロの方へ振り向く。
「……!」
マサヒロの身体が固まる。
怖い。
また暴れたら。
また誰かを傷つけたら。
そんな考えが頭をよぎる。
そのとき。
「ブイ!」
イーブイがマサヒロの前へ出た。
「イーブイ?」
イーブイはギャラドスを見る。
「ブイ! ブイ!」
「……」
まるで。
ギャラドスに何かを伝えているようだった。
ギャラドスがイーブイを見る。
「ギャ……」
イーブイはもう一度鳴く。
「ブイ!」
そしてマサヒロを見る。
「……」
マサヒロはイーブイを見る。
「……そうだな」
マサヒロはギャラドスへ向き直る。
「俺も、怖がってた」
ギャラドスが動きを止める。
「お前が暴れるんじゃないかって」
「ギャア……」
「だから、俺もお前を信じてなかったんだ」
マサヒロは一歩前へ出る。
「ごめんな」
ギャラドスはマサヒロを見る。
「でも……」
マサヒロは拳を握る。
「俺もお前を信じるから」
そして。
「お前も俺を信じてくれ!」
「……」
ギャラドスはしばらく動かなかった。
「ギャア……」
ゆっくりと。
ギャラドスの身体から力が抜けていく。
「……」
マサヒロは息を呑む。
そして。
「ギャア!」
ギャラドスが力強く鳴いた。
「……!」
マサヒロの目が輝く。
「ギャラドス……!」
ギャラドスがマサヒロを見る。
今までとは違う。
その目には、初めて――。
マサヒロを信じようとする意思があった。
「……分かった」
マサヒロは笑う。
「一緒に戦おう!」
「ギャアアア!」
「ギャラドス!」
マサヒロはキクコを見る。
「これで終わりじゃない!」
キクコは楽しそうに笑った。
「ようやく出てきたねぇ」
「行くぞ、ギャラドス!」
「ギャア!」
キクコが指示を出す。
「ガラガラ、フレアドライブ!」
「ガラガラ!」
炎をまとったガラガラが突っ込んでくる。
「ギャラドス、動くな!」
「ギャア!」
ガラガラが激突する。
ドォン!
「ギャラドス!」
炎がギャラドスを包む。
しかし。
「ギャアアア!」
ギャラドスは倒れない。
「すごい……!」
マサヒロが驚く。
「ギャラドス、まだいけるか!?」
「ギャア!」
力強い返事。
「よし!」
マサヒロは拳を握る。
「たきのぼり!」
「ギャアアア!」
ギャラドスが勢いよく水を巻き上げる。
巨大な水流がガラガラを包み込む。
「ガラガラ!」
ガラガラが吹き飛ばされる。
「まだだ!」
マサヒロが叫ぶ。
「アクアテール!」
「ギャア!」
ギャラドスの尻尾が水をまとっていく。
「ギャラドス!」
ドゴォン!
強烈な一撃がガラガラを吹き飛ばす。
「ガラガラ……!」
ガラガラが地面へ落ちる。
「立て!」
キクコが叫ぶ。
ガラガラは立ち上がろうとする。
しかし。
身体が動かない。
「ガラガラ、戦闘不能!」
「……!」
マサヒロは目を見開く。
「やった……」
そして。
「やったぞ、ギャラドス!」
「ギャアアアアア!」
ギャラドスが空へ向かって咆哮する。
「すごいぞ!」
マサヒロが駆け寄る。
「今までで一番すごかった!」
ギャラドスはマサヒロを見る。
そして。
「ギャア!」
もう一度、力強く鳴いた。
「……!」
マサヒロは笑う。
「ありがとう、ギャラドス!」
「ギャアア!」
二人の間に。
初めて、確かな絆が生まれた。
その様子を見ていたキクコは、口元を吊り上げる。
「……やるじゃないか」
「え?」
キクコはマサヒロを見る。
「ポケモンを信じることもできずに、あのギャラドスを使うのを怖がっていた小僧が――」
「……」
「ちゃんと自分のポケモンと向き合ったじゃないか」
キクコは笑う。
「見直したよ、マサヒロ」
マサヒロはギャラドスを見る。
「……ギャラドス」
「ギャア!」
「まだ戦いは終わってない」
「ギャア!」
マサヒロは拳を握る。
「ここからだ!」
キクコも新しいモンスターボールを手に取る。
「そうさ」
「!」
「アタシのポケモンは、まだ二匹いるんだからねぇ」
マサヒロは笑った。
「望むところです!」
最後のジム戦は――。
まだ終わらない。