「そうさ」
キクコは新しいモンスターボールを手に取る。
「アタシのポケモンは、まだ二匹いるんだからねぇ」
マサヒロは笑った。
「望むところです!」
「ギャア!」
ギャラドスも力強く鳴く。
「じゃあ、次のポケモンを出すよ」
キクコがボールを投げる。
「出ておいで、ゴースト!」
「ゴース!」
紫色の身体をしたゴーストが、フィールドへ現れた。
「ゴーストか……!」
マサヒロは身構える。
「ギャラドス、気をつけろ!」
「ギャア!」
キクコが指示を出す。
「ゴースト、さいみんじゅつ!」
「ゴース……!」
ゴーストの目が怪しく光る。
「ギャラドス、目を合わせるな!」
「ギャア……」
しかし。
ギャラドスの動きが止まる。
「ギャラドス?」
「ギャア……」
ゆっくりと目を閉じる。
「しまった!」
「ゴース!」
ギャラドスが眠りに落ちる。
「ギャラドス、起きろ!」
マサヒロが叫ぶ。
しかし、ギャラドスは目を覚まさない。
「今度は、ゆめくい!」
「ゴース!」
ゴーストから怪しい光が伸びる。
眠っているギャラドスから、力が吸い取られていく。
「ギャラドス!」
「ギャア……」
ギャラドスの身体から力が抜けていく。
「くそっ……!」
マサヒロは歯を食いしばる。
「ギャラドス、起きろ!」
しかし。
「ゴースト、もう一度ゆめくい!」
「ゴース!」
再び力を吸い取られる。
「ギャラドス!」
「ギャア……」
ギャラドスは苦しそうに唸る。
マサヒロは拳を握る。
「ギャラドス……!」
そのとき。
マサヒロは、ギャラドスと初めて心が通じた瞬間を思い出した。
『俺もお前を信じるから』
『お前も俺を信じてくれ!』
「……そうだ」
マサヒロはギャラドスを見る。
「俺は、お前を信じるって決めたんだ!」
「ギャア……」
「ギャラドス!」
マサヒロは叫ぶ。
「俺の声を聞け!」
「ギャア……」
「お前なら起きられる!」
「……」
「俺と一緒に戦おう!」
ギャラドスの身体が、わずかに動く。
「ギャア……」
「そうだ!」
マサヒロはさらに声を張る。
「戻ってこい、ギャラドス!」
「ギャ……」
ゆっくりと。
ギャラドスの目が開いた。
「ギャアアアアア!」
「ギャラドス!」
マサヒロは拳を握る。
「起きた!」
キクコが目を細める。
「ほう……」
ギャラドスがゴーストを睨む。
「ギャア!」
「よし!」
マサヒロは指を伸ばす。
「ぼうふう!」
「ギャアアアア!」
ギャラドスが翼を大きく振る。
猛烈な風が巻き起こる。
「ゴース!」
ゴーストの身体が風に巻き込まれる。
「そのまま押し切れ!」
「ギャアアア!」
巨大な竜巻がゴーストを吹き飛ばす。
「ゴース……!」
ゴーストが地面へ落ちる。
「ゴースト、戦闘不能!」
「やった!」
マサヒロが拳を突き上げる。
「ギャラドス!」
「ギャア!」
しかし。
キクコは笑っていた。
「……惜しかったねぇ」
「え?」
「ゴーストは、ぼうふうを受ける直前に技を使っていたのさ」
「何を……?」
キクコが告げる。
「みちづれだよ」
「……!」
マサヒロの顔が固まる。
「まさか……」
ギャラドスの身体が、ぐらりと揺れる。
「ギャア……」
そして。
ドォン!
ギャラドスが地面へ倒れた。
「ギャラドス!」
「ギャラドス、戦闘不能!」
「……!」
マサヒロはギャラドスへ駆け寄る。
「そんな……」
キクコは静かに笑う。
「これがゴーストタイプの怖ささ」
「……」
「最後まで何をするか分からない」
キクコは倒れたゴーストを見る。
「眠らせることもできる」
「……」
「夢を食らうこともできる」
「……」
「そして、自分が倒れるときでさえ、相手を道連れにできる」
キクコはマサヒロを見る。
「それがゴーストタイプの強みなのさ」
マサヒロは拳を握る。
「……すごい」
悔しい。
けれど。
「でも、ギャラドスは勝ったんだ」
マサヒロは倒れたギャラドスを見る。
「四天王のポケモンを2匹も倒したんだ」
「ギャア……」
「よくやったな」
マサヒロはギャラドスのボールを握る。
「ありがとう」
ギャラドスはボールの中へ戻っていった。
キクコは最後のモンスターボールを取り出す。
「さて……」
マサヒロが顔を上げる。
「これがアタシの最後のポケモンだよ」
ボールが開く。
「出ておいで、ゲンガー!」
「ゲンガァ!」
黒い影のような身体。
鋭い目。
そして、不気味な笑み。
「ゲンガー……!」
マサヒロは息を呑む。
キクコは笑った。
「こいつはねぇ」
ゲンガーの肩に手を置く。
「アタシが持っている中で、最強のポケモンさ」
「最強……!」
「そうさ」
ゲンガーがマサヒロを見る。
「ゲンガァ……」
その笑みを見ただけで、背筋が寒くなる。
「……強そうだ」
マサヒロはボールを握る。
「でも、俺だって負けない!」
次のボールを投げる。
「行け、スピアー!」
「スピアー!」
スピアーがフィールドへ飛び出す。
「スピアー、こうそくいどう!」
「スピアー!」
一瞬でスピアーの姿が消える。
「速い!」
キクコは笑う。
「ほう」
「右だ!」
スピアーがゲンガーの横へ回り込む。
「ミサイルばり!」
「スピアー!」
無数の針が飛んでいく。
「ゲンガー!」
しかし。
ゲンガーは身体を動かす。
「速い……!」
針を次々とかわしていく。
「スピアー、もう一度!」
スピアーが高速で移動する。
右。
左。
後ろ。
一瞬も止まらない。
「ミサイルばり!」
「スピアー!」
しかし。
「ゲンガー!」
ゲンガーがスピアーの動きを追う。
「えっ!?」
スピアーが驚く。
「シャドーボール!」
「ゲンガァ!」
黒い球体が放たれる。
「スピアー、避けろ!」
「スピアー!」
ギリギリでかわす。
「よし!」
マサヒロは拳を握る。
しかし。
「ゲンガー、あくのはどう!」
「ゲンガァ!」
黒い波動が広がる。
「スピアー!」
直撃。
「スピアー!」
スピアーが吹き飛ばされる。
「まだだ!」
「こうそくいどう!」
スピアーが立ち上がり、再び走る。
「速さなら負けない!」
「スピアー!」
ゲンガーの周囲を高速で回り続ける。
「ミサイルばり!」
「スピアー!」
針が飛ぶ。
しかし。
「ゲンガー、サイコキネシス!」
「ゲンガァ!」
ゲンガーの目が光る。
「スピアー!?」
空中にいたスピアーの身体が止まった。
「なっ……!」
「そのまま!」
ゲンガーがスピアーを地面へ叩きつける。
ドォン!
「スピアー!」
「もう一度、シャドーボール!」
「ゲンガァ!」
黒い球が直撃する。
「スピアー!」
スピアーが地面へ倒れた。
「スピアー、戦闘不能!」
「……!」
マサヒロは息を呑む。
スピアーの最大の武器。
高速戦闘。
それすらも。
「……通じない」
キクコは笑う。
「速いだけじゃ、アタシのゲンガーには勝てないよ」
「くっ……!」
マサヒロは次のボールを握る。
「だったら……!」
ボールを投げる。
「行け、ウインディ!」
「ウインディ!」
ウインディがフィールドへ現れる。
「スピードがダメなら……!」
マサヒロはウインディを見る。
「パワーで押し切る!」
「ウインディ!」
キクコが笑う。
「いいねぇ」
「ウインディ、かえんほうしゃ!」
「ウオオオオ!」
巨大な炎がゲンガーへ向かう。
「ゲンガー、避けろ!」
ゲンガーが横へ飛ぶ。
「しんそく!」
「ウインディ!」
ウインディが一気に距離を詰める。
「かみくだく!」
「ウインディ!」
鋭い牙でゲンガーに噛みつく。
「ゲンガー!」
「よし!」
マサヒロが叫ぶ。
「そのまま押せ!」
「ウインディ!」
「かえんぐるま!」
炎をまとったウインディが突進する。
「ゲンガー!」
ゲンガーが吹き飛ぶ。
「やった!」
しかし。
キクコは冷静だった。
「まだまだだよ」
「え?」
「ゲンガー、サイコキネシス!」
「ゲンガァ!」
ゲンガーの目が光る。
「ウインディ!」
ウインディの身体が宙へ浮く。
「動け!」
「ウインディ……!」
身体が動かない。
「くそっ!」
マサヒロが叫ぶ。
「ウインディ、負けるな!」
しかし。
「シャドーボール!」
「ゲンガァ!」
黒い球体がウインディへ直撃する。
「ウインディ!」
ドォン!
ウインディが地面へ叩きつけられる。
「ウインディ、戦闘不能!」
「……!」
マサヒロは唇を噛む。
ギャラドス。
スピアー。
ウインディ。
そしてフシギバナとプテラ。
五匹が倒れた。
残るのは――。
「……イーブイ」
マサヒロは、最後のモンスターボールを見る。
そして。
「……」
イーブイを見る。
イーブイもマサヒロを見る。
しばらく。
二人は何も言わなかった。
やがて。
イーブイが一歩前へ出る。
「ブイ」
「……イーブイ」
イーブイはマサヒロを見つめる。
その目には、迷いがなかった。
「……そうだな」
マサヒロは笑う。
「俺たちなら、やれるよな」
「ブイ!」
イーブイがバトルフィールドへ飛び出す。
「ブイ!」
キクコはイーブイを見る。
そして。
「おやおや」
静かに笑った。
「とうとう最後の一匹だねぇ」
マサヒロは頷く。
「はい」
「五匹も倒されて、随分と追い詰められたじゃないか」
「……」
「怖くはないのかい?」
マサヒロは少し考える。
そして。
笑った。
「不思議です」
「ほう?」
「怖くない」
マサヒロはイーブイを見る。
「むしろ……」
拳を握る。
「ワクワクしてます!」
「ブイ!」
キクコは目を細める。
「ワクワク……ねぇ」
「はい!」
マサヒロはゲンガーを見る。
「だって、ここまで強い相手と戦えるんです!」
イーブイも構える。
「ブイ!」
キクコは不敵に笑った。
「……いいねぇ」
ゲンガーが笑う。
「ゲンガァ……」
マサヒロとイーブイ。
キクコとゲンガー。
最後の一匹同士が向かい合う。
決着の時は――。
もう、すぐそこまで迫っていた。