翌朝。
マサヒロとイーブイは、マサラタウンの道を歩いていた。
「イーブイ!」
「ブイ?」
「もう少しでオーキド博士のところだぞ!」
「ブイ!」
昨日までの旅の疲れも、すっかり取れていた。
マサヒロは久しぶりの故郷を歩きながら、懐かしそうに辺りを見回す。
「やっぱりマサラタウンって落ち着くな」
「ブイ」
そして。
「見えてきた!」
丘の上にある、オーキド研究所。
マサヒロとイーブイは、研究所へ向かって走っていった。
* * *
「オーキド博士ー!」
研究所の扉を開ける。
「おお!」
奥からオーキド博士が顔を出した。
「マサヒロ!」
「博士!」
マサヒロは笑顔で駆け寄る。
「久しぶり!」
「うむ!」
オーキド博士はマサヒロの姿を見る。
「ずいぶん逞しくなったのう」
「そう?」
「出発した時とは別人のようじゃ」
博士はイーブイを見る。
「そしてイーブイも元気そうじゃな」
「ブイ!」
イーブイが嬉しそうに鳴く。
「それで?」
博士が笑う。
「旅の結果はどうじゃ?」
マサヒロは胸を張る。
「もちろん!」
腰からバッジケースを取り出す。
「全部そろえたよ!」
ケースを開く。
そこには八つのバッジが並んでいた。
「おお!」
博士が目を丸くする。
「八つ!」
「うん!」
「よく頑張ったのう!」
「これでポケモンリーグに出られる!」
マサヒロは嬉しそうに笑う。
「絶対に優勝するんだ!」
「その意気じゃ」
そのときだった。
「オーキド博士!」
研究所の奥から声が聞こえる。
「ん?」
マサヒロが振り返る。
「この声……」
「マサヒロ!」
「サトシ!」
研究所の奥から、サトシが走ってきた。
「久しぶり!」
「お前も帰ってきてたのか!」
「うん!」
サトシも腰からバッジケースを取り出す。
「俺も八個そろったぞ!」
「おお!」
マサヒロとサトシは、お互いのバッジを見る。
「同じだな!」
「だな!」
二人は笑った。
すると。
「ふん」
別の声が聞こえた。
「……その程度で喜んでいるのか?」
「この声は……」
マサヒロが振り返る。
そこに立っていたのは――。
「シゲル!」
シゲルだった。
「久しぶりだな、マサヒロ」
「お前も帰ってきたのか」
「ああ」
シゲルは腰のバッジケースを見せる。
そこには――。
「……十個?」
マサヒロの目が丸くなる。
「十個もあるのかよ!」
サトシも驚く。
「八個でいいんじゃないのか?」
「別にいいだろ」
シゲルは涼しい顔をする。
「取れるジムがあったから取っただけだ」
「無駄に多いな……」
「余計なお世話だ」
マサヒロが笑う。
「でも、俺たちも八個だからな」
「そうだな」
シゲルはマサヒロを見る。
「やっと同じ舞台に立てるな」
「……!」
マサヒロの目が輝く。
「そういうことか」
「僕はもう、ポケモンリーグに向けて準備を始めている」
シゲルは腕を組む。
「お前もサトシも、負けるなよ」
「もちろん!」
「俺だって!」
三人の間に、いつもの緊張感が生まれた。
* * *
「ところで」
オーキド博士が手を叩く。
「三人とも、ここまでよく頑張ったのう」
「博士!」
「せっかくじゃから、お前たちの旅について少し聞かせてもらおうか」
「旅?」
「うむ」
博士は資料を取り出した。
「これまで、どれくらいのポケモンと出会ったのかと思ってな」
「俺は……」
サトシが手を上げる。
「100種類以上だと思う!」
「100種類以上!?」
マサヒロが驚く。
「そんなに出会ったのか!?」
「うん!」
サトシは笑う。
「旅をしてたら、いろんなポケモンに会うからな!」
「すごいな……」
マサヒロは感心する。
「俺は60種類くらいかな」
「僕も、そのくらいだ」
シゲルが答える。
オーキド博士が笑う。
「面白いのう」
「何が?」
サトシが首を傾げる。
「サトシは、とにかくいろんな種類のポケモンと出会っている」
博士は続ける。
「一方で、シゲルとマサヒロは、出会った種類こそサトシより少ない」
「でも……」
マサヒロが言う。
「俺は一緒に旅してるポケモンたちと、ずっと一緒にいるからな」
「僕も、たくさんのポケモンを見てきた」
シゲルは答える。
「だからこそ、それぞれのポケモンの違いを知ることができる」
サトシとマサヒロはシゲルを見る。
「なるほどな」
マサヒロは頷いた。
「それぞれ違うんだな」
* * *
そのとき。
研究所の奥から、ポケモンたちの鳴き声が聞こえてきた。
「ん?」
「なんだ?」
三人が振り返る。
すると――。
ドドドドドッ!
大量のポケモンが走ってきた。
「うわあああ!」
サトシが逃げる。
「なんだこれ!」
マサヒロも慌てて逃げる。
「イーブイ!」
「ブイィ!」
イーブイもマサヒロの後ろを走る。
その中には――。
「ケンタロス!?」
マサヒロが驚く。
大量のケンタロスが研究所内を走り回っていた。
「サトシ!」
「俺のポケモンだ!」
「多すぎるだろ!」
マサヒロが叫ぶ。
「まあ……」
オーキド博士は苦笑する。
「サトシは博士に30匹以上のポケモンを預けておるからのう」
「30匹以上!?」
マサヒロが驚く。
「そんなにいたのか!」
「まあ、ほとんどケンタロスだけどな!」
「それでも多いよ!」
研究所の中をケンタロスが駆け回る。
「止まれー!」
サトシが追いかける。
「待てー!」
マサヒロも手伝う。
「ブイ!」
イーブイも一緒になって走る。
「こらこら!」
オーキド博士は笑っている。
「相変わらず元気じゃのう」
その横で。
シゲルは静かに立っていた。
「……」
マサヒロがシゲルを見る。
「お前は預けてないのか?」
「僕?」
シゲルは笑う。
「僕はもっと多いぞ」
「え?」
「僕が博士に預けているポケモンは――」
シゲルは指を立てる。
「200匹以上だ」
「に、200匹!?」
マサヒロとサトシが同時に叫ぶ。
「そんなに!?」
「どうやったらそんな数になるんだよ!」
「いろんな場所で捕まえてきたからな」
シゲルは平然と答える。
「同じ種類のポケモンでも、一匹一匹違う」
「だから、実際にたくさんの個体を見てみる必要がある」
マサヒロは研究所を見回す。
たくさんのポケモン。
そして、その中にはシゲルのポケモンもたくさんいる。
「……すごいな」
マサヒロは素直に感心した。
「200匹以上か」
「そうだ」
シゲルは胸を張る。
「僕はそれだけ多くのポケモンと向き合ってきたんだ」
「なるほどな」
マサヒロは頷く。
「じゃあ……」
博士が資料を見る。
「最後にマサヒロじゃな」
「俺?」
「うむ」
博士が笑う。
「お前がここに預けているポケモンは――」
少し間を置く。
「一匹もおらん」
「……」
サトシが目を丸くする。
「え?」
シゲルも少し驚く。
「本当に?」
「うん」
マサヒロは普通に答えた。
「俺、一匹も博士に預けてないよ」
「八個もバッジを持っているのに?」
シゲルが聞く。
「そうだよ」
マサヒロは腰のモンスターボールを見る。
「ずっと一緒に旅してきたから」
「……」
「イーブイも」
「ブイ!」
「フシギバナも、スピアーも、ウインディも、ギャラドスも、プテラも」
マサヒロは一匹ずつ思い浮かべる。
「みんな、一緒に旅してきた大切な仲間だから」
サトシが笑う。
「マサヒロらしいな!」
「そうか?」
「うん!」
シゲルは少し考える。
「……お前らしいと言えば、お前らしいな」
「どういう意味だよ?」
「別に」
シゲルは笑った。
* * *
研究所の外。
三人は並んで歩いていた。
「でもさ」
サトシが言う。
「シゲルって200匹以上も預けてるんだよな」
「そうだ」
「マサヒロは0匹」
「うん」
「俺は30匹以上!」
サトシは胸を張る。
「でも、そのほとんどケンタロスなんだろ?」
マサヒロが笑う。
「まあな!」
サトシも笑う。
「でも、数だけじゃないだろ」
シゲルが言う。
「何が?」
「ポケモンとの付き合い方だ」
シゲルはマサヒロを見る。
「お前は少ないポケモンと長く旅をする」
「サトシは、たくさんの種類のポケモンと出会っている」
「僕は、多くのポケモンを捕まえて研究している」
三人は顔を見合わせる。
「みんな違うな」
マサヒロが言った。
「でも――」
マサヒロはイーブイを見る。
「どれが正しいとかじゃないんじゃないか?」
「……」
シゲルは黙る。
サトシも頷く。
「俺もそう思う!」
「ただ」
マサヒロはシゲルを見る。
「俺は、今一緒にいるポケモンたちを大切にしたい」
「一緒に戦って」
「一緒に旅をして」
「嬉しいことも、悔しいことも、一緒に経験したいんだ」
イーブイがマサヒロの隣に立つ。
「ブイ」
「……そうか」
シゲルは小さく笑った。
「お前は昔から、そういうところが変わらないな」
「そうかな?」
「ああ」
シゲルは前を見る。
「でも、僕も負けるつもりはない」
「もちろん俺も!」
サトシが割り込む。
「俺もだ!」
マサヒロが拳を握る。
三人の視線がぶつかる。
「ポケモンリーグで――」
サトシが言う。
「誰が一番強いか決めようぜ!」
「望むところだ」
シゲルが答える。
マサヒロも笑う。
「俺も絶対に負けない!」
* * *
その日の午後。
研究所では、再び騒ぎが起きていた。
「ケンタロスを捕まえてくれー!」
「待てー!」
「サトシ!」
「マサヒロ、そっちだ!」
「任せろ!」
「イーブイ、右!」
「ブイ!」
三人が研究所を走り回る。
シゲルもポケモンたちを追いかけていた。
「まったく……」
オーキド博士は笑う。
「昔から変わらんのう」
しばらくして。
ようやく騒ぎが収まった。
「疲れた……」
マサヒロは地面に座り込む。
イーブイも隣で息を切らしている。
「ブイ……」
「大丈夫か?」
「ブイ」
そのとき。
サトシがマサヒロの隣に座る。
「なあ、マサヒロ」
「ん?」
「ポケモンリーグ、絶対に負けないからな」
「俺もだよ」
マサヒロは笑う。
少し離れたところにはシゲルが立っている。
「二人とも」
「ん?」
「僕を忘れてもらっちゃ困るぞ」
「忘れてないよ!」
サトシが叫ぶ。
「シゲルも倒す!」
「俺もな!」
マサヒロが立ち上がる。
「特に俺は、お前と決着をつけないとな」
「6対6の引き分けか」
シゲルも思い出す。
「そうだったな」
第22話。
あのときは、三勝三敗。
決着はつかなかった。
「今度は――」
マサヒロが拳を握る。
「絶対に勝つ!」
「僕も同じだ」
シゲルが笑う。
「今度こそ、僕が勝つ」
「俺だって!」
サトシが二人の間に入る。
「俺も優勝する!」
「じゃあ三人とも敵だな」
シゲルが言う。
「そういうこと!」
マサヒロが笑う。
「負けないぞ!」
「おう!」
「僕もだ」
三人はそれぞれ拳を握った。
* * *
夕方。
マサヒロはイーブイと一緒に研究所を出た。
「今日は楽しかったな」
「ブイ!」
「サトシもシゲルも、相変わらずだった」
イーブイが隣を歩く。
「でも……」
マサヒロは振り返る。
オーキド研究所。
自分が最初にフシギダネを受け取った場所。
そして、イーブイが自分と出会った場所でもある。
「ここから始まったんだよな」
「ブイ」
「俺たちの旅」
マサヒロはイーブイの頭を撫でる。
「そして、もうすぐポケモンリーグだ」
イーブイが前を向く。
「ブイ!」
「あと二ヶ月」
マサヒロは拳を握る。
「もっと強くなろう」
「ブイ!」
「シゲルにも、サトシにも負けない」
マサヒロは笑った。
「俺たちが、一番強いって証明するんだ!」
イーブイが元気よく鳴く。
「ブイ!」
夕暮れのマサラタウン。
少年とその相棒は、次の戦いへ向けて歩き出した。