ポケモンリーグまで、残り一ヶ月。
マサラタウン。
町の外れにある広場では、マサヒロとポケモンたちが特訓を続けていた。
「フシギバナ、もう一回!」
「バナ!」
フシギバナがパワーウィップを繰り出す。
「スピアー、もっと速く!」
「スピアー!」
スピアーがこうそくいどうで駆け抜ける。
「イーブイも負けるな!」
「イーブイ!」
イーブイがでんこうせっかで走り抜ける。
「よし!」
マサヒロは拳を握った。
「リーグまであと一ヶ月しかないんだ。もっともっと強くならないとな!」
その時だった。
「マサヒロ!」
聞き覚えのある声がした。
「ん?」
マサヒロが振り返る。
そこには――。
「サトシ!」
サトシとピカチュウ。
そして、その後ろにはタケシとカスミがいた。
「久しぶりだな!」
「サトシ!」
マサヒロが駆け寄る。
「タケシさんとカスミも!」
「久しぶりだな、マサヒロ」
タケシが笑う。
「元気そうじゃない」
カスミも手を振る。
「みんな、どうしたんだ?」
「決まってるだろ!」
サトシが笑った。
「ポケモンリーグ前の腕試しだ!」
「腕試し?」
「ああ!」
サトシは拳を握る。
「リーグまであと一ヶ月だろ?」
「俺もマサヒロも、最後のジムバッジを手に入れた」
「だから、今の俺がどれくらい強くなったのか試してみたいんだ!」
マサヒロは笑った。
「なるほどな」
そして。
「いいぜ!」
「本当か!?」
「ああ!」
マサヒロは拳を握る。
「俺もサトシと戦いたかった!」
「よし!」
サトシが嬉しそうに笑った。
「それじゃあ、バトルしようぜ!」
* * *
「一対一でいいよな?」
サトシが確認する。
「ああ」
マサヒロは頷く。
「ポケモンリーグ前の腕試しなら、それくらいがちょうどいい」
二人は向かい合う。
タケシが審判役を務めることになった。
「それじゃあ、始めるぞ!」
マサヒロとサトシがモンスターボールを構える。
「行け!」
「ギャラドス!」
「出ろ!」
「リザードン!」
二つのボールから、巨大な水竜と炎の翼を持つポケモンが現れた。
「ギャラドス!」
「ギャアアアス!」
ギャラドスが雄叫びを上げる。
「リザードン!」
「グオオオオ!」
リザードンも大きな声を上げた。
「ギャラドス!」
「ギャア!」
「今日も頼むぞ!」
「ギャア!」
ギャラドスは力強く返事をする。
一方。
「リザードン!」
サトシが声をかける。
「今日は俺と一緒に――」
「グオオオオ!」
リザードンはサトシの言葉を最後まで聞かず、勝手に飛び上がった。
「え?」
サトシが目を丸くする。
「リザードン!?」
リザードンはサトシを振り返りもしない。
そのまま空高く舞い上がる。
「……」
マサヒロは黙ってリザードンを見る。
「どうしたんだ?」
サトシが困ったように声をかける。
「リザードン、戻ってこい!」
しかし。
「グオオオ!」
リザードンは聞く耳を持たない。
サトシの指示を無視して、空を旋回している。
「……」
マサヒロの表情が変わった。
「マサヒロ?」
サトシが呼びかける。
「いや……」
マサヒロはギャラドスを見る。
「ちょっと、昔のことを思い出したんだ」
「昔?」
「ああ」
マサヒロの脳裏に、あの頃のギャラドスの姿が浮かんだ。
暴れるギャラドス。
言うことを聞かないギャラドス。
そして。
それを怖がっていた自分。
「……俺も、昔はギャラドスとこんな感じだった」
「え?」
「ギャラドスが何をするか分からなくて、俺も怖がってた」
「……」
マサヒロはギャラドスを見る。
今は違う。
「でも――」
マサヒロが笑う。
「今は違う」
「ギャア!」
ギャラドスがマサヒロを見る。
「俺たちは一緒に旅してきたからな」
「ギャア!」
「こいつが何を考えてるのか、少しずつ分かるようになった」
マサヒロは拳を握る。
「そして、ギャラドスも俺を信じてくれるようになった」
「ギャア!」
ギャラドスが力強く鳴いた。
「だから、今は俺の指示をちゃんと聞いてくれる」
マサヒロはサトシを見る。
「……そっか」
サトシはリザードンを見上げる。
「でも、リザードンだって――」
「サトシ!」
マサヒロが呼びかける。
「まずはバトルに集中しよう!」
「……ああ!」
サトシは拳を握った。
「リザードン!」
「グオオ!」
「かえんほうしゃ!」
しかし。
リザードンは動かなかった。
「リザードン!」
サトシがもう一度叫ぶ。
「かえんほうしゃだ!」
「グオオオオ!」
リザードンは突然、自分の判断で急降下した。
「え!?」
サトシが驚く。
リザードンはギャラドスへ向かって一直線に突っ込んでいく。
「ギャラドス!」
マサヒロが叫ぶ。
「右へ!」
「ギャア!」
ギャラドスが身体を動かす。
リザードンが横を通り抜ける。
「今だ!」
マサヒロが指示を出す。
「こおりのキバ!」
「ギャア!」
ギャラドスが振り返る。
リザードンの翼へ向かって飛びかかる。
ガキン!
「グオオ!」
リザードンの翼が凍りつく。
「リザードン!」
サトシが叫ぶ。
「つばさでうつ!」
しかし。
リザードンはサトシの指示を無視した。
凍った翼を振り回しながら、自分の判断で再びギャラドスへ突っ込む。
「ギャラドス、かわして!」
「ギャア!」
ギャラドスが素早く身体を反らす。
リザードンの攻撃が空を切った。
「そのまま!」
マサヒロが叫ぶ。
「たきのぼり!」
「ギャアアア!」
ギャラドスの周囲から大量の水が噴き上がる。
「グオオオ!」
リザードンがまともに水流を受ける。
ドォン!
地面へ叩き落とされた。
「リザードン!」
サトシが叫ぶ。
リザードンはすぐに立ち上がった。
しかし。
「……」
マサヒロは気づいた。
リザードンは、サトシの指示を聞いていない。
自分の判断だけで攻撃している。
その一方で――。
「ギャラドス、左!」
「ギャア!」
ギャラドスは迷わず動く。
「右!」
「ギャア!」
「そのまま、ぼうふう!」
「ギャアアア!」
強烈な風が巻き起こる。
「グオオオ!」
リザードンが吹き飛ばされた。
「リザードン!」
サトシが叫ぶ。
「りゅうのいかり!」
しかし。
リザードンはサトシの指示を無視した。
「グオオオ!」
リザードンは勝手に飛び上がる。
そして。
「グオオオオ!」
自分の判断でかえんほうしゃを放った。
ゴォォォッ!
巨大な炎がギャラドスへ迫る。
「ギャラドス、たきのぼり!」
「ギャア!」
ギャラドスが水流をまとって突っ込む。
炎を突き抜ける。
「なっ……!」
サトシが目を見開く。
そのままリザードンへ接近。
「アクアテール!」
「ギャアアア!」
巨大な尻尾が振り抜かれる。
ドォン!
「グオオオ!」
リザードンが吹き飛ばされる。
「リザードン!」
サトシが叫ぶ。
リザードンは何とか空へ飛び上がった。
「よし!」
サトシが叫ぶ。
「リザードン、つばさでうつ!」
しかし。
リザードンはサトシを無視する。
「グオオ!」
そのままギャラドスの頭上を飛び回る。
「リザードン!」
サトシの声は届かない。
「なんでだよ……!」
サトシが悔しそうに拳を握る。
マサヒロはその様子を見つめる。
そして。
「ギャラドス!」
「ギャア!」
「相手の動きを見ろ!」
「ギャア!」
ギャラドスがじっとリザードンを見る。
リザードンは空を飛び回っている。
そして、自分の判断で急降下した。
「今だ!」
マサヒロが叫ぶ。
「ぼうふう!」
「ギャアアア!」
ギャラドスが強烈な風を放つ。
リザードンの飛行ルートが崩れる。
「グオオ!?」
リザードンがバランスを崩した。
「そのまま、こおりのキバ!」
「ギャア!」
ギャラドスが一気に接近する。
ガキン!
リザードンの翼に再び攻撃が入る。
「グオオオ!」
リザードンが地面へ落下する。
ドォン!
「リザードン!」
サトシが駆け寄ろうとする。
だが。
リザードンは自分で立ち上がった。
「グオ……」
その身体はかなり傷ついている。
「リザードン、もういい!」
サトシが叫ぶ。
しかし。
リザードンはサトシの声を無視した。
そして。
「グオオオオ!」
再びギャラドスへ突進する。
「ギャラドス、迎え撃て!」
「ギャア!」
「たきのぼり!」
「ギャアアア!」
ギャラドスが真正面から突っ込む。
リザードンが炎をまとって向かってくる。
「グオオオオ!」
「ギャアアア!」
二匹が激突する。
ドォォォン!!
激しい衝撃。
しかし。
ギャラドスは倒れなかった。
「ギャア!」
そのままリザードンを押し返す。
「なっ……!」
サトシが驚く。
「ギャラドス、アクアテール!」
「ギャアアア!」
ドォン!!
巨大な尻尾がリザードンを吹き飛ばす。
「グオオオ!」
リザードンが地面を転がる。
「リザードン!」
サトシが叫ぶ。
「立て!」
リザードンは立ち上がろうとする。
だが。
身体が動かない。
「……」
サトシが息を呑む。
「リザードン……」
タケシが静かに確認する。
「リザードン、戦闘不能!」
「勝者、マサヒロ!」
「……」
サトシは黙ってリザードンを見る。
マサヒロはギャラドスへ駆け寄った。
「ギャラドス!」
「ギャア!」
「すごかったぞ!」
「ギャア!」
マサヒロがギャラドスの身体を撫でる。
「ちゃんと俺の指示通りに動いてくれたな」
「ギャア!」
ギャラドスは嬉しそうに鳴いた。
* * *
「負けた……」
サトシはリザードンのもとへ歩いていく。
「ごめんな、リザードン」
「グオ……」
リザードンは顔を背ける。
サトシは悔しそうに拳を握った。
「俺の指示、全然聞いてくれなかったな……」
「グオ……」
マサヒロは二人の姿を見つめる。
そして。
「サトシ」
「ん?」
「ギャラドスも昔、リザードンと同じだったんだ」
「……」
「俺、ギャラドスが怖くて、暴れないようにすることばっかり考えてた」
マサヒロはギャラドスを見る。
「だから、ギャラドスのことをちゃんと信じられてなかった」
「……」
「でも、一緒に旅して、一緒に戦って……」
「少しずつ分かってきたんだ」
マサヒロは笑う。
「信じるって、言うことを聞かせることじゃないんだって」
サトシは黙って聞いている。
「まず自分が相手を信じる」
「そうしたら、相手も少しずつ信じてくれる」
マサヒロはリザードンを見る。
「今のサトシとリザードンは、昔の俺たちと同じなんだと思う」
「……」
「リザードンは自分の力で戦おうとしてる」
「でも、それだけじゃ勝てないんだ」
サトシはリザードンを見る。
「……」
「ギャラドスだって、一人で戦ってるわけじゃない」
マサヒロはギャラドスの頭を撫でる。
「俺と一緒に戦ってるんだ」
「俺が指示を出して、ギャラドスが応えてくれる」
「それができるから、今日みたいに強い相手にも勝てるんだ」
サトシはしばらく黙っていた。
やがて。
「……分かった」
拳を握る。
「俺、リザードンのことをもっと分かりたい」
「グオ……」
「リザードンが何を考えてるのか、ちゃんと知りたい!」
リザードンがサトシを見る。
「そして――」
サトシはリザードンへ手を伸ばす。
「俺のことも、信じてもらえるように頑張る!」
「グオ……」
リザードンは、ほんの少しだけサトシを見る。
「一緒に強くなろうな!」
「グオオ!」
サトシが笑った。
マサヒロも笑う。
「そうこなくちゃな!」
「マサヒロ!」
「なんだ?」
「リーグでは絶対に勝つからな!」
「俺だって負けない!」
「ピカ!」
「イーブイ!」
ギャラドスも大きく鳴いた。
「ギャアアア!」
マサラタウンに、ポケモンたちの声が響く。
ポケモンリーグまで、あと一ヶ月。
マサヒロとギャラドス。
サトシとリザードン。
二組のトレーナーとポケモンは、それぞれの絆を胸に、リーグへ向けてさらに強くなるための道を歩き始めた。