ポケモンリーグ。
三回戦を終えた夜。
マサヒロは、リーグの宿泊施設にある部屋で一人、机に向かっていた。
「……うーん」
机の上には、ポケモンリーグの対戦表。
そして、シゲルの名前。
「シゲルか……」
マサヒロは頭を抱えた。
今回の四回戦。
ルールは三対三。
使えるポケモンは三匹だけ。
「三匹か……」
マサヒロは、自分のポケモンを思い浮かべる。
イーブイ。
フシギバナ。
スピアー。
ウインディ。
ギャラドス。
プテラ。
「この中から三匹……」
マサヒロは腕を組む。
「シゲルは、ポケモンを二百匹以上も捕まえてるんだよな……」
シゲルが持っているポケモンは多い。
多すぎる。
「相手が何を出してくるのか、全然分からない」
マサヒロは頭を抱える。
「三匹に絞り込めない……」
例えば、水タイプを選べば草タイプ。
炎タイプなら水タイプ。
地面タイプなら――。
「いや……」
マサヒロは首を振る。
「そもそも、シゲルなら俺がそう考えることも分かってるかもしれない」
シゲルは強い。
そして、頭もいい。
以前の六対六の戦いでも、マサヒロの戦い方を途中から見抜いてきた。
「相手に有利なタイプで攻める……」
マサヒロは呟く。
「それも難しい」
二百匹以上。
その中から、マサヒロの手持ちに合わせてポケモンを選ぶことだってできる。
「うーん……」
マサヒロはさらに頭を抱えた。
「分からない!」
椅子から立ち上がる。
「考えても考えても、全然決まらない!」
机の上の対戦表を見る。
「……シゲル」
マサヒロは拳を握る。
「絶対に勝ちたい」
だが。
考えれば考えるほど、頭の中がごちゃごちゃしていく。
「……駄目だ」
マサヒロは窓の外を見る。
「一回、頭を冷やそう」
その時。
ベッドの横で寝ていたイーブイが顔を上げた。
「イーブイ?」
「散歩に行くか?」
「イーブイ!」
イーブイが立ち上がる。
「よし」
マサヒロは部屋を出た。
* * *
夜のセキエイこうげん。
昼間とは違い、人通りも少ない。
静かな道を、マサヒロとイーブイは歩いていた。
「……」
マサヒロは黙っている。
イーブイも隣を歩いている。
しばらくすると、マサヒロが口を開いた。
「なあ、イーブイ」
「イーブイ?」
「シゲル、強いよな」
「イーブイ……」
「前の六対六も引き分けだったし」
マサヒロは空を見上げる。
「今度は三対三だ」
「イーブイ」
「三匹しか使えないから、もっと難しい」
イーブイがマサヒロを見る。
「……」
「でも」
マサヒロは少し笑った。
「お前たちなら、誰が出ても戦えるよな」
「イーブイ!」
「そうだよな」
マサヒロは歩き続ける。
やがて、宿泊施設から少し離れた場所にある広場へ着いた。
「ここならいいか」
マサヒロは立ち止まる。
そして。
腰のモンスターボールを一つずつ取り出した。
「みんな、出てこい!」
次々とボールが開く。
「フシギバナ!」
「バナ!」
「スピアー!」
「スピアー!」
「ウインディ!」
「ウイン!」
「ギャラドス!」
「ギャアアア!」
「プテラ!」
「グオオオ!」
六匹のポケモンが、広場に姿を現した。
最後に。
「イーブイも!」
「イーブイ!」
イーブイがマサヒロの隣に立つ。
「みんな、今日もお疲れ!」
「バナ!」
「スピアー!」
「ウイン!」
「ギャア!」
「グオオ!」
「イーブイ!」
六匹とも、やる気は十分だった。
マサヒロは嬉しそうに笑う。
「みんな元気そうだな!」
だが。
その中でも。
特に気合が入っているポケモンがいた。
「……」
マサヒロはフシギバナを見る。
フシギバナは、じっと前を見ていた。
「フシギバナ?」
「バナ……!」
力強く鳴く。
そして。
ウインディも。
「ウイン……!」
鋭い目で遠くを見つめている。
「ウインディも?」
マサヒロは二匹を見る。
すぐに理由が分かった。
以前。
シゲルとの六対六。
フシギバナもウインディも、シゲルのポケモンに敗れている。
「ああ……」
マサヒロは思い出す。
「あの時、負けたもんな」
「バナ!」
「ウイン!」
二匹が力強く鳴く。
まるで。
――今度こそ勝つ。
そう言っているようだった。
マサヒロは二匹を見つめる。
「……そうだな」
その時だった。
マサヒロの頭に、ある考えが浮かんだ。
「待てよ……」
マサヒロはゆっくりと顔を上げる。
「シゲルなら……」
マサヒロは考える。
「前の戦いで、自分を倒したポケモンの対策をしてくるんじゃないか?」
「イーブイ?」
「シゲルが前回倒したポケモンより……」
マサヒロは拳を握る。
「倒されたポケモンの方を、徹底的に研究するんじゃないか?」
シゲルは、そういうトレーナーだ。
負けた相手を、そのままにしておくはずがない。
「だったら……」
マサヒロは、自分のポケモンたちを見る。
「前に負けた二匹を出す」
マサヒロはフシギバナとウインディを見る。
「フシギバナとウインディだ」
「バナ!」
「ウイン!」
二匹が力強く鳴く。
そして、もう一匹。
マサヒロの視線が、プテラへ向いた。
「それから……」
「グオ?」
プテラがマサヒロを見る。
「プテラだ」
「グオオ!」
マサヒロは頷く。
「プテラは、前のシゲルとの戦いにはいなかった」
「グオ!」
「それに、古代のポケモンだから、シゲルも今まで戦ったデータがほとんどないはずだ」
マサヒロは考える。
「二百匹以上もポケモンを持ってるシゲルでも……」
プテラを見る。
「お前については、対策するのが難しいはずだ」
「グオオオ!」
プテラが大きく翼を広げる。
「よし!」
マサヒロは拳を握った。
「決めた!」
「次の三匹は――」
フシギバナ。
ウインディ。
そして。
「プテラ!」
「バナ!」
「ウイン!」
「グオオオオ!」
三匹が同時に雄叫びを上げる。
フシギバナは力強く地面を踏みしめる。
ウインディは鋭い目で前を見つめる。
プテラは大きな翼を広げる。
その姿を見て、マサヒロは笑った。
「うん」
マサヒロは三匹を見渡す。
「その気持ち、ちゃんと伝わったぞ」
三匹がマサヒロを見る。
「明日は、思いっきり戦おう!」
「バナ!」
「ウイン!」
「グオオオ!」
三匹の声が夜の広場に響く。
その一方で。
「……」
スピアーが少しだけ身体を揺らした。
「スピアー?」
「スピアー……」
どこか残念そうだ。
ギャラドスも。
「ギャア……」
こちらも少しだけ不満そうにマサヒロを見る。
「ギャラドス?」
二匹はマサヒロを見る。
そして。
自分たちを指差すように身体を動かした。
「……?」
マサヒロは首をかしげる。
「もしかして……」
スピアーとギャラドスを見る。
「自分たちも出たいのか?」
「スピアー!」
「ギャア!」
二匹が力強く鳴く。
「ははっ」
マサヒロは笑う。
「そりゃそうだよな」
二匹も、このリーグのために戦ってきた。
スピアーは素早さを磨き。
ギャラドスは、マサヒロとの信頼を築いてきた。
「ごめんな」
マサヒロは二匹の頭を撫でる。
「今回は三匹だけなんだ」
「スピアー……」
「ギャア……」
二匹は少しだけ俯いた。
そして。
「……」
イーブイも動かない。
マサヒロが振り返る。
「イーブイ?」
「……」
イーブイは、明らかに落ち込んでいた。
耳が垂れている。
尻尾も下がっている。
「どうした?」
「イーブイ……」
マサヒロは気づいた。
「……お前」
イーブイを見る。
「自分は出ると思ってたのか?」
「……イーブイ」
イーブイは小さく頷いた。
マサヒロは驚いた。
「そっか……」
イーブイにとっては当然だった。
これまで。
大事な戦いでは、いつも自分がそばにいた。
ハナダジム。
クチバジム。
トキワジム。
そして。
リーグの三回戦でも戦った。
「……そうだよな」
マサヒロはしゃがみ込む。
「お前も頑張ってきたもんな」
「イーブイ……」
イーブイは俯いたまま。
「でもな」
マサヒロは優しく笑う。
「今回は、シゲルが相手なんだ」
「イーブイ……」
「だから、俺が考えて決めた」
マサヒロはイーブイの頭を撫でる。
「ごめんな」
「……」
その時だった。
「バナァァァァ!」
突然。
フシギバナが大きな声で鳴いた。
「え?」
マサヒロが振り返る。
フシギバナがマサヒロの前へ出る。
「バナ!」
そして。
ウインディも。
「ウインディィィ!」
プテラも大きく翼を広げる。
「グオオオオオ!」
三匹が並んだ。
大きな雄叫びが夜の広場に響く。
「……」
マサヒロは目を見開く。
三匹の目には、強い決意があった。
まるで。
――俺たちがやる。
――今度こそ勝つ。
そう言っているようだった。
「……みんな」
マサヒロは笑った。
「分かった」
マサヒロは三匹の前へ歩み寄る。
「明日は思いっきり戦ってこい!」
「バナ!」
「ウイン!」
「グオオオ!」
三匹が力強く鳴く。
その声に。
スピアーも顔を上げた。
「スピアー!」
ギャラドスも。
「ギャアアア!」
二匹も、三匹を応援するように鳴く。
そして。
イーブイも顔を上げた。
「……イーブイ!」
マサヒロはイーブイを見る。
「イーブイ」
「イーブイ?」
「今回は一緒に戦えないけど――」
マサヒロは笑う。
「お前も俺の大事な仲間だ」
「イーブイ……」
「だから、みんなでシゲルに勝とう」
「イーブイ!」
イーブイの目に、少しずつ力が戻っていく。
マサヒロは立ち上がった。
そして。
フシギバナ。
ウインディ。
プテラ。
三匹を見る。
「シゲルは、きっと俺たちのことを研究してる」
「でも――」
マサヒロは拳を握る。
「俺たちだって、何も考えてないわけじゃない!」
「バナ!」
「ウイン!」
「グオオ!」
夜空に三匹の声が響く。
マサヒロは笑った。
「明日、絶対に勝つぞ!」
「バナァァァ!」
「ウインディィィ!」
「グオオオオオ!」
そして。
その後ろで。
「イーブイ!」
「スピアー!」
「ギャアアア!」
仲間たちの声も響いた。
マサヒロは六匹を見渡す。
誰が戦うのか。
誰が戦わないのか。
それは違っても。
「みんなで戦うんだ」
マサヒロは笑った。
「俺たちは、仲間だからな!」
夜のセキエイこうげんに、七つの声が響いていた。