「ウインディ、ギャロップ、両者戦闘不能!」
審判の声が、岩場のフィールドに響いた。
観客席から、大きな歓声が上がる。
「すげぇ……!」
サトシが身を乗り出す。
「これで、マサヒロもシゲルも最後の一匹だ!」
「そうね」
隣に座るカスミもフィールドを見つめる。
「ここまで来るだけでも、かなり激しい戦いだったわ」
「ああ」
タケシが腕を組む。
「残ったポケモンは、マサヒロがフシギバナ」
「そしてシゲルがカメックスだ」
サトシがフィールドを見る。
「どっちが有利なんだ?」
「タイプだけで言えば、フシギバナだな」
タケシが答える。
「くさタイプのフシギバナに対して、カメックスはみずタイプ」
「くさ技は、みずタイプのカメックスに効果が抜群だ」
「じゃあ、マサヒロが有利なんじゃない?」
カスミが言う。
「いや、そうとも限らない」
タケシは首を横に振った。
「問題は、フシギバナの消耗だ」
「……あ」
サトシが気づく。
「フシギバナは、さっきギャロップと戦ってるもんな」
「ああ」
タケシは頷く。
「フシギバナはギャロップの激しい攻撃を受けてかなり体力を削られている」
カスミがカメックスを見る。
「じゃあ、カメックスは?」
「カメックスは、ほとんど消耗していない」
タケシは真剣な表情になる。
「最初にプテラと戦ったが、あっという間に倒してその後すぐに戻された」
「だから、体力だけならカメックスが圧倒的に有利だ」
サトシが拳を握る。
「じゃあ……どっちが勝つか分からないってことか」
「ああ」
タケシは静かに答える。
「タイプ相性ではフシギバナ」
「体力ではカメックス」
「どちらが勝っても、おかしくない」
カスミはフィールドを見る。
「シゲル……マサヒロ」
サトシも拳を握る。
* * *
少し離れた観客席。
そこには、リョウとサンドが座っていた。
「……」
リョウはフィールドをじっと見つめている。
「サンド」
「サンド?」
リョウは小さく笑った。
「大丈夫だよ」
「サンド?」
「俺は、マサヒロが勝つと思ってる」
サンドが首をかしげる。
「サンド?」
「だって、あいつはここまで何度も挫けそうになってきた」
「それでも、最後には必ず立ち上がってきたんだ」
リョウは拳を握る。
「セキチクジムでも」
「ギャラドスのときでも」
「それから、俺とのバトルでも……」
サンドが静かに頷く。
「だから――」
リョウはフィールドを見つめる。
「今回も絶対に勝つ」
「絶対に」
サンドが力強く鳴いた。
「サンド!」
リョウは笑った。
「そうだよな」
「俺たちも、マサヒロを信じよう」
* * *
岩場のフィールド。
マサヒロとシゲルは、互いに最後のモンスターボールを握っていた。
「……シゲル」
「ああ」
二人はフィールドの中央を見る。
「これで最後だな」
「そうだな」
シゲルがボールを構える。
「行け、カメックス!」
「カメェェッ!」
巨大なカメックスがフィールドへ現れる。
その身体には、ほとんど傷がない。
マサヒロもボールを投げる。
「頼む、フシギバナ!」
「フシギバナァ!」
フシギバナが現れる。
しかし――
「……フシギバナ」
マサヒロは、その身体を見る。
呼吸が荒い。
足元も少しふらついている。
それでも、フシギバナは前を向いていた。
「まだ戦えるか?」
「フシギバナ!」
「……よし!」
マサヒロは拳を握る。
「最後まで一緒に戦おう!」
「フシギバナ!」
「始め!」
審判の声が響いた。
「カメックス、ハイドロポンプ!」
「カメェェッ!」
いきなり巨大な水流が放たれる。
「フシギバナ、避けろ!」
「フシギバナ!」
フシギバナが横へ飛ぶ。
ドォォン!
水流が岩場を削る。
「危なかった……!」
マサヒロが息を呑む。
「今度はこっちだ!」
「フシギバナ、パワーウィップ!」
「フシギバナ!」
太いツルが伸びる。
「カメックス、かわして!」
カメックスが横へ飛ぶ。
しかし――
「カメックス、こうそくスピン!」
「カメッ!」
カメックスが身体を丸め、高速で回転する。
「フシギバナ!」
ドンッ!
回転しながら突っ込み、フシギバナを吹き飛ばす。
「フシギバナ!」
「立て!」
「バナ……!」
フシギバナは何とか立ち上がる。
「ヘドロばくだん!」
「フシギバナ!」
紫色の弾が飛ぶ。
「カメックス、かわして!」
カメックスが身体をひねる。
ヘドロばくだんが地面へ落ちる。
「くっ……!」
マサヒロは歯を食いしばる。
「カメックス、かみつく!」
「カメェ!」
カメックスが一気に接近する。
「フシギバナ、パワーウィップ!」
「フシギバナ!」
ツルが伸びる。
しかし――
「こうそくスピン!」
カメックスが回転しながらツルをかわす。
「フシギバナ!」
ドンッ!
またしてもフシギバナが吹き飛ばされる。
「くそっ!」
マサヒロが拳を握る。
フシギバナの息はさらに荒くなっている。
「まだだ!」
「フシギバナ、はっぱカッター!」
「フシギバナ!」
大量の葉が飛んでいく。
「カメックス、からにこもる!」
「カメッ!」
カメックスが甲羅へ身体を引っ込める。
葉が甲羅へ次々と命中する。
「カメックス!」
しかし――
カメックスはほとんどダメージを受けていない。
「そんな……!」
マサヒロが驚く。
シゲルが笑う。
「残念だったね、マサヒロ」
「カメックスはまだまだ元気だよ」
「……!」
マサヒロはフシギバナを見る。
傷だらけ。
息も荒い。
それでも――
「フシギバナは、まだ諦めてない」
「フシギバナ!」
「そうだ!」
マサヒロは拳を握る。
「俺たちは最後まで諦めない!」
「フシギバナ!」
「行くぞ!」
* * *
「カメックス、かみつく!」
「カメェ!」
カメックスが突進する。
「フシギバナ、パワーウィップ!」
「フシギバナ!」
ツルが伸びる。
カメックスがツルをかわす。
「こうそくスピン!」
「フシギバナ!」
ドンッ!
フシギバナが吹き飛ぶ。
「フシギバナ!」
「まだだ!」
フシギバナは立ち上がる。
「はっぱカッター!」
「フシギバナ!」
葉が飛ぶ。
「カメックス、からにこもる!」
「カメ!」
再び甲羅へこもる。
「くっ……!」
攻撃が通らない。
カメックスは体力に余裕がある。
フシギバナは限界に近い。
シゲルが手を上げた。
「これで終わりだ」
シゲルの目が鋭くなる。
「カメックス、ハイドロポンプ!」
「カメェェェェッ!!」
巨大な水流が放たれる。
「フシギバナ!」
マサヒロが叫ぶ。
フシギバナは逃げようとする。
しかし――
身体が動かない。
「……!」
フシギバナの足が震える。
水流が迫る。
「フシギバナ!」
マサヒロは叫ぶ。
「バナ…!」
フシギバナは顔を上げた。
「俺たちは……ここまで来たんだ!」
「絶対に負けない!」
「フシギバナ……!」
その瞬間だった。
フシギバナの身体が、強い光に包まれた。
「……え?」
マサヒロが目を見開く。
「フシギバナ?」
光はどんどん強くなる。
フシギバナの足元から、無数の太いツルが伸びていく。
岩場を突き破るように。
地面を覆うように。
「な、なんだ!?」
シゲルも驚く。
フシギバナが大きく吠えた。
「フシギバナァァァァッ!!」
そして――
無数のツルが、一斉にカメックスへ向かって伸びる。
「これは……!」
マサヒロの目が輝く。
「新しい技だ!」
「フシギバナ!」
「いけぇぇぇ!」
「ハードプラント!!」
「フシギバナァァァァ!!」
無数の巨大なツルが、カメックスへ襲いかかる。
「カメックス、ハイドロポンプ!」
「カメェェッ!」
巨大な水流と、無数のツルが正面から激突する。
ドォォォォン!!
水と植物の力がぶつかり合う。
「押し返せ!」
マサヒロが叫ぶ。
「フシギバナァァァ!」
フシギバナが力を振り絞る。
「カメックス!」
シゲルも叫ぶ。
「負けるな!」
「カメェェェ!」
ハイドロポンプが激しく水を噴き出す。
しかし――
少しずつ。
ほんの少しずつ。
ハードプラントが水流を押し返していく。
「なっ……!」
シゲルが目を見開く。
「押し切った……!」
マサヒロが叫ぶ。
「いけぇぇぇぇ!!」
「バナァァァァ!!」
ドゴォォォン!!
ハードプラントがハイドロポンプを打ち破った。
無数のツルがカメックスへ直撃する。
「カメックス!!」
カメックスの身体が大きく吹き飛ぶ。
そして――
ドサッ。
カメックスが地面へ倒れた。
「カメックス、戦闘不能!」
一瞬。
会場が静まり返った。
そして。
「勝者、マサヒロ!」
「…………」
マサヒロは動かなかった。
「勝った……?」
フシギバナがゆっくりと顔を上げる。
「バナ……!」
「……勝ったぁぁぁぁぁ!!」
マサヒロが拳を突き上げる。
観客席から、凄まじい歓声が響き渡った。
「やったぞ、フシギバナ!」
「フシギバナァ!」
マサヒロはフシギバナへ駆け寄る。
「すごいぞ!」
フシギバナも嬉しそうに鳴いた。
「ハードプラント……!」
マサヒロはフシギバナを見る。
「最後の最後で、覚えたんだな!」
「フシギバナ!」
「ありがとう!」
マサヒロはフシギバナを抱きしめた。
* * *
「やったぁぁぁ!」
観客席ではサトシが飛び上がっていた。
「マサヒロが勝った!」
「すごい……」
カスミも目を輝かせる。
「最後のハードプラント、すごかったわね!」
タケシも頷く。
「ああ」
「最後まで諦めなかったからこそ、フシギバナは新しい力を引き出したんだ」
「マサヒロ……!」
サトシは拳を握る。
「決勝リーグ進出だ!」
* * *
リョウも立ち上がっていた。
「ほらな」
サンドが嬉しそうに鳴く。
「サンド!」
「俺の言った通りだろ?」
リョウは笑った。
「マサヒロなら、絶対に勝つって!」
「サンド!」
二人は嬉しそうにフィールドを見つめた。
* * *
試合終了後。
選手用の通路。
マサヒロとシゲルは、並んで歩いていた。
「……」
しばらく、二人とも何も言わなかった。
やがて。
「マサヒロ」
シゲルが口を開く。
「ん?」
「……負けたよ」
マサヒロが振り返る。
シゲルは悔しそうな顔をしていた。
だが――
その表情には、どこか清々しさもあった。
「俺の負けだ」
「……シゲル」
「君最後まで、本当に強かった」
シゲルは笑う。
「前のバトルは引き分けだった」
「でも、今回ははっきり決着がついた」
マサヒロは頷く。
「ああ」
「だから――」
シゲルは立ち止まる。
「ここから先、僕はは君を応援する」
「え?」
マサヒロが驚く。
「僕が負けた以上、次は君を応援するしかないだろ」
「シゲル……」
「絶対に優勝しろよ」
シゲルは拳を差し出した。
「僕の分までね」
マサヒロは、その拳を見る。
そして――
自分の拳をぶつけた。
「分かった」
マサヒロは笑う。
「絶対に優勝する!」
「……ああ」
シゲルも笑った。
「期待してるよ、マサヒロ」
「俺、絶対にカントーリーグで優勝する!」
「そして――」
マサヒロは振り返る。
「次は、カントーチャンピオンになる!」
シゲルは黙ってマサヒロを見つめる。
そして、小さく笑った。
「……応援してるよ」
マサヒロは歩き出す。
その背中を、シゲルは静かに見送った。
マサヒロのカントーリーグは――
ここからが、本当の戦いだった。