その夜。
マサヒロは宿泊施設の部屋へ戻ってきた。
「……よし」
机の上に、手持ちのモンスターボールを並べる。
「明日はゴウジとのバトルだ」
イーブイが隣に座っている。
「イーブイ!」
マサヒロは一つのボールを手に取った。
「決勝リーグは、準々決勝までは三対三」
「イーブイ!」
「だったら……」
マサヒロは三つのボールを見る。
「最初の一匹は、ウインディだ」
ウインディのボール。
マサヒロは静かに見つめる。
「ゴウジと因縁があるのは、お前だからな」
「……」
「絶対に勝たせてやる」
そして、二つ目のボール。
「二匹目はギャラドス」
「ギャラ……」
ボールの中から低い声が聞こえる。
「今の俺たちの手持ちで、最高戦力の一匹だ」
マサヒロは拳を握る。
そして最後。
「三匹目は……イーブイ!」
「イーブイ!」
イーブイが元気よく立ち上がる。
「お前も絶対に出てもらう」
「イーブイ!」
マサヒロは三つのボールを見つめる。
ウインディ。
ギャラドス。
イーブイ。
「この三匹でいく」
「イーブイ!」
「目指すのは――」
マサヒロは拳を強く握った。
「完全勝利だ!」
「イーブイ!」
マサヒロの目に、強い闘志が宿る。
「ゴウジには絶対に負けない」
「ウインディにも、ギャラドスにも、イーブイにも!」
「思いっきり戦ってもらう!」
マサヒロはベッドへ入る。
しかし――
なかなか眠れなかった。
「明日は……絶対に勝つ」
マサヒロは天井を見つめる。
そして、静かに拳を握った。
* * *
翌日。
ポケモンリーグ、決勝リーグ第一回戦。
会場には、大勢の観客が集まっていた。
「いよいよだ……!」
マサヒロがフィールドへ入る。
反対側から、ゴウジも現れた。
「……」
二人の視線がぶつかる。
「昨日はよくも言ってくれたな」
ゴウジが言う。
「今日こそ、お前に思い知らせてやる」
「俺だって負けるつもりはない」
マサヒロは拳を握る。
「ウインディのためにも、絶対に勝つ!」
審判が中央へ立つ。
「これより、決勝リーグ第一回戦!」
「マサヒロ選手対ゴウジ選手のバトルを開始します!」
「使用ポケモンは三匹!」
「先に三匹すべてを戦闘不能にした方が勝者です!」
「それでは――」
「バトル、スタート!」
「行け!」
「ギャラドス!」
「ギャラァァァ!」
巨大なギャラドスがフィールドへ現れる。
会場がどよめいた。
「いきなりギャラドスだと!?」
ゴウジも驚く。
「だったら、こっちもいくぞ!」
「オニドリル!」
「オニィィ!」
オニドリルが空へ飛び上がる。
「飛行タイプか……」
マサヒロはオニドリルを見る。
「でも、関係ない!」
「ギャラドス!」
「最初から全力でいくぞ!」
「ギャラ!」
「オニドリル、つばさでうつ!」
「オニィ!」
オニドリルが急降下する。
「ギャラドス、こおりのキバ!」
「ギャラァ!」
ギャラドスが大きく口を開く。
青白い冷気が牙を包む。
「ガブッ!」
「オニドリル!」
こおりのキバがオニドリルの翼を直撃する。
「オニィィ!」
翼が一瞬で凍りついた。
「なに!?」
ゴウジが目を見開く。
「オニドリル!」
オニドリルが飛ぼうとする。
しかし――
「無理だ!」
マサヒロが叫ぶ。
「翼が凍ってる!」
オニドリルは空中へ上がれない。
「くっ……!」
ゴウジが歯を食いしばる。
「オニドリル、地上から攻撃しろ!」
「オニ!」
オニドリルが地面を蹴る。
「今だ!」
マサヒロが叫ぶ。
「アクアテール!」
「ギャラァァ!」
ギャラドスの尻尾が激しく水をまとい、オニドリルを叩き飛ばす。
ドォン!
「オニドリル!」
オニドリルが地面を転がる。
そして――
「オニドリル、戦闘不能!」
「よし!」
マサヒロが拳を握る。
「まず一匹!」
「ギャラドス!」
「ギャラァァ!」
ゴウジは悔しそうにボールを握る。
「……まだだ」
そして、次のボールを投げる。
「出ろ!」
「エレブー!」
「エレブー!」
黄色い身体のポケモンが姿を現す。
「……」
マサヒロはギャラドスを見て一瞬考える。
「いや」
ボールを取り出す。
「ギャラドス、戻れ!」
「ギャラ……」
ギャラドスがボールへ戻る。
「次は――」
マサヒロは別のボールを投げた。
「イーブイ!」
「イーブイ!」
イーブイがフィールドへ飛び出す。
「エレブーか……」
マサヒロはエレブーを見る。
「よし!」
「イーブイ!」
「俺たちのコンビネーションでいくぞ!」
「イーブイ!」
ゴウジが叫ぶ。
「エレブー、でんきショック!」
「エレ!」
電撃が飛んでくる。
「イーブイ、かげぶんしん!」
「イーブイ!」
一瞬でイーブイの姿が増える。
「なに!?」
電撃が分身を次々と通り抜ける。
「今だ!」
マサヒロが叫ぶ。
「でんこうせっか!」
「イーブイ!」
本物のイーブイが飛び出す。
「エレブー、かわし――」
「遅い!」
マサヒロが叫ぶ。
「そのまま、アイアンテール!」
「イーブイ!」
尻尾が鋼のように輝く。
ドンッ!
「エレブー!」
エレブーが吹き飛ぶ。
「まだだ!」
ゴウジが叫ぶ。
「エレブー、かみなりパンチ!」
「エレ!」
エレブーが接近する。
「イーブイ、でんこうせっか!」
「イーブイ!」
イーブイが横へ飛ぶ。
「そのまま後ろへ回れ!」
「イーブイ!」
一瞬でエレブーの背後へ。
「かげぶんしん!」
「イーブイ!」
再び分身が現れる。
「どれが本物だ!?」
ゴウジが叫ぶ。
「こっちだ!」
マサヒロが指示する。
一匹のイーブイがエレブーへ向かう。
「エレブー、攻撃しろ!」
「エレ!」
しかし――
そのイーブイも消える。
「なっ!?」
「本物はこっちだ!」
マサヒロが叫ぶ。
「でんこうせっか!」
「イーブイ!」
イーブイが一気に飛び込む。
ドォン!
でんこうせっかがエレブーを吹き飛ばす。
「エレブー!」
エレブーは地面へ倒れた。
「エレブー、戦闘不能!」
「やった!」
マサヒロが拳を突き上げる。
「これで二匹!」
イーブイが嬉しそうにマサヒロのもとへ戻ってくる。
「イーブイ!」
「すごいぞ!」
しかし――
ゴウジは震えていた。
「……こんなはずでは……」
「オニドリルも……エレブーも……」
ゴウジは最後のボールを握る。
「俺が……こんな簡単に追い詰められるなんて……」
そして。
「くそっ!」
最後のボールを投げる。
「出ろ!」
「カイリキー!」
「カイリキー!」
四本の腕を持つカイリキーが姿を現した。
「カイリキーか……」
マサヒロはイーブイを見る。
「イーブイ、戻れ!」
「イーブイ!」
イーブイがボールへ戻る。
そして。
「最後は――」
マサヒロはウインディのボールを握った。
「ウインディ!」
「ウインディ!」
ウインディがフィールドへ飛び出す。
「グルルル……」
ウインディはカイリキーを見る。
しかし、その視線はカイリキーではなく――
その後ろにいるゴウジへ向いていた。
「ウインディ……?」
マサヒロが気づく。
ウインディの身体が震えている。
「……グルルル……」
「おい」
マサヒロが声をかける。
「大丈夫か?」
「ウインディ!」
ウインディが勢いよく飛び出す。
「待て!」
しかし――
「カイリキー、かわせ!」
「カイリキー!」
カイリキーが横へ飛ぶ。
「ウインディ!」
ウインディは勢いを止められない。
「今だ!」
「カイリキー、けたぐり!」
「カイリキー!」
ドンッ!
「ウインディ!」
ウインディが地面を転がる。
「ウインディ!」
マサヒロが叫ぶ。
ウインディはすぐに立ち上がった。
「グルル……!」
再びカイリキーへ突っ込む。
「ウインディ、しんそく!」
「ウインディ!」
高速で接近する。
しかし――
「カイリキー、からてチョップ!」
「カイ!」
ドンッ!
「ウインディ!」
また吹き飛ばされる。
「くっ……!」
マサヒロは歯を食いしばる。
「ウインディ、落ち着け!」
「ウインディ!」
だが、ウインディは止まらない。
ゴウジを見ている。
かつて自分を捨てた人間。
その怒りが、ウインディの動きを狂わせていた。
「ウインディ、しんそく!」
「グルァ!」
「カイリキー、かわせ!」
「カイ!」
またかわされる。
「からてチョップ!」
ドゴッ!
「ウインディ!」
ウインディが大きく吹き飛ばされた。
「ウインディ!」
マサヒロが駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「……ウインディ」
ウインディは苦しそうに立ち上がる。
「……」
マサヒロはウインディを見る。
「お前……」
ウインディはゴウジを睨んでいる。
「まだ、あいつのことを怒ってるんだな」
「……グルル」
「そうだよな」
マサヒロは静かに言う。
「悔しかったよな」
ウインディが振り返る。
「でも――」
マサヒロは笑った。
「今はバトル中だぞ」
「……」
「ゴウジに勝つことばかり考えたら、カイリキーが見えなくなる」
「ウインディ……」
マサヒロは拳を握る。
「リラックスしよう」
「……?」
「怒らなくていい」
「深呼吸して」
ウインディはゆっくり息を吐く。
「そうだ」
マサヒロは笑う。
「お前は弱くなんかない」
「俺はお前を信じてる」
「だから――」
マサヒロは前を指差した。
「目の前のカイリキーだけを見ろ!」
「ウインディ……!」
ウインディの目に、力が戻る。
「グルル……」
そして――
「ウインディ!」
力強く吠えた。
「そうだ!」
マサヒロも笑う。
「俺たちは一緒だ!」
「ウインディ!」
ゴウジが叫ぶ。
「何をしている!」
「カイリキー、クロスチョップ!」
「カイリキー!」
カイリキーが突っ込んでくる。
「ウインディ、しんそく!」
「ウインディ!」
ウインディが一瞬で加速する。
「かわせ!」
カイリキーの攻撃を紙一重でかわす。
「そのまま――」
マサヒロは叫ぶ。
「かみくだく!」
「ウインディ!」
ガブッ!
「カイリキー!」
カイリキーがよろめく。
「まだだ!」
ゴウジが叫ぶ。
「カイリキー、ばくれつパンチ!」
「カイ!」
強烈な拳が迫る。
「ウインディ、しんそく!」
「ウインディ!」
ウインディが横へ飛ぶ。
パンチが空を切る。
「今だ!」
マサヒロが叫ぶ。
「かみくだく!」
「ウインディ!」
再びカイリキーへ飛び込む。
ガブッ!
「カイリキー!」
カイリキーが大きく吹き飛ばされる。
「まだ立てる!」
ゴウジが叫ぶ。
しかし――
カイリキーは立ち上がろうとして、膝をついた。
「カイ……」
そのまま動かない。
審判が確認する。
「カイリキー、戦闘不能!」
「勝者――」
「マサヒロ選手!」
「……!」
会場から大きな歓声が上がる。
「勝ったぁぁぁ!」
マサヒロが拳を突き上げる。
「完全勝利だ!」
「イーブイ!」
「ギャラドス!」
「ウインディ!」
三匹の声が響く。
マサヒロはウインディへ駆け寄った。
「やったな、ウインディ!」
「ウインディ!」
マサヒロはウインディの頭を撫でる。
「怒ってたけど……最後はちゃんと自分を取り戻したな」
「ウインディ!」
「やっぱりお前は強いよ」
「グルル!」
ウインディが嬉しそうに吠える。
* * *
一方。
ゴウジは、その場に立ち尽くしていた。
「……どうして」
拳を握る。
「どうして俺が……」
ゴウジはウインディを見る。
「よりにもよってあの時捨てたガーディに……」
「俺が……負けるなんて……」
マサヒロはゴウジを見る。
「ゴウジ」
「……なんだ」
「まだ分からないのか?」
「何がだ!」
ゴウジが叫ぶ。
マサヒロはウインディを見る。
「俺とお前の違いだよ」
「……」
「俺はポケモンを信じてる」
「だから、ウインディの怒りも、ちゃんと受け止められた」
「そして、ウインディも俺を信じてくれた」
マサヒロは拳を握る。
「今日の勝負は、ポケモンの強さだけじゃない」
「ポケモンを信じる気持ちの差だよ」
ゴウジは黙り込む。
「……信頼の差」
マサヒロは頷く。
「お前はウインディを弱いって決めつけて捨てた」
「でも、本当は違った」
「お前がウインディを信じなかっただけなんだ」
「……」
ゴウジはウインディを見る。
ウインディはもう、ゴウジを睨んでいなかった。
ただ、マサヒロの隣に立っている。
「……俺は」
ゴウジが小さく呟く。
「ずっと自分が勝つことしか考えてなかった」
「負けたら、弱いポケモンのせいだと思った」
「言うことを聞かなければ、使えないポケモンだと思った」
拳を握る。
「……間違ってた」
マサヒロは黙って聞いている。
「俺がポケモンを信じてなかったんだ」
ゴウジはウインディを見る。
「……すまなかった」
ウインディは少しだけゴウジを見る。
そして――
「ウインディ」
静かに鳴いた。
ゴウジは目を伏せる。
「……すまなかった」
マサヒロは笑った。
「これからは、ちゃんとポケモンを信じてやれよ」
「……ああ」
ゴウジは頷いた。
「もう、同じことはしない」
そう言って、ゴウジはボールを握り直す。
「俺も……もう一度、ポケモンと向き合ってみる」
マサヒロは頷いた。
「それなら、きっと強くなれるよ」
ゴウジは少しだけ笑った。
「……マサヒロ」
「ん?」
「今日は完敗だった」
「……ああ」
「でも、次に会った時は――」
ゴウジは拳を握る。
「もっと強くなってる」
マサヒロも拳を握る。
「俺だって負けないぞ!」
二人の拳がぶつかる。
「また、いつか戦おう」
「ああ!」
マサヒロはウインディを見る。
「その時は、もっと強くなった俺たちで勝負だ!」
「ウインディ!」
会場には、まだ大きな歓声が響いていた。
マサヒロは三つのボールを見る。
ギャラドス。
イーブイ。
そして――ウインディ。
「準々決勝も、絶対に勝つぞ!」
「イーブイ!」
「ギャラドス!」
「ウインディ!」
ポケモンリーグ。
マサヒロの快進撃は――
まだ始まったばかりだった。