「……イーブイ」
マサヒロは、すぐ隣に立っているイーブイを見る。
フシギバナが戦闘不能になり、残された仲間は――
イーブイ、一匹だけ。
イーブイはずっとマサヒロの隣で戦いを見守っていた。
「ここまで来たな」
マサヒロがイーブイの頭を撫でる。
「最後は、お前に任せる」
「ブイ!」
イーブイが力強く返事をする。
マサヒロは拳を握った。
「一緒に勝とう!」
「ブイ!」
「行け、イーブイ!」
イーブイが勢いよくフィールドへ飛び出す。
「ブイイ!」
「……!」
リョウはイーブイを見つめる。
そして――
「やっぱり、最後はお前なんだな」
リョウは一つのモンスターボールを手に取った。
「なら、俺も最後まで全力でいく!」
「行け!」
「サワムラー!」
「サワムラー!」
長い脚を持つサワムラーがフィールドへ現れる。
「サワムラー……!」
マサヒロが身構える。
「格闘タイプか!」
リョウが頷く。
「そうだ」
「イーブイはノーマルタイプ」
「だからこそ――」
リョウはサワムラーを見る。
「格闘タイプで迎え撃つ!」
「……!」
マサヒロはイーブイを見る。
「そう簡単にはいかないぞ」
「ブイ!」
サワムラーが構える。
「サワムラー、いくぞ!」
「サワ!」
「とびげり!」
「サワムラー!」
サワムラーが一気に跳び上がる。
「イーブイ、かわして!」
「ブイ!」
イーブイが横へ飛ぶ。
サワムラーの蹴りが地面を叩く。
ドォン!
「よし!」
マサヒロが拳を握る。
「イーブイ、でんこうせっか!」
「ブイ!」
イーブイが一気に加速する。
サワムラーの周囲を走り回る。
「速い!」
リョウが叫ぶ。
「サワムラー、追え!」
「サワ!」
サワムラーもイーブイを追いかける。
しかし――
イーブイは距離を取ったまま、慎重に動いていた。
「そうだ!」
マサヒロが叫ぶ。
「格闘技は絶対に受けるな!」
「ブイ!」
イーブイはサワムラーの攻撃範囲へ入らない。
右へ。
左へ。
後ろへ。
「なるほど……」
リョウが呟く。
「イーブイの弱点を分かっているんだな」
「もちろん!」
マサヒロは答える。
「残りはイーブイ1匹!」
「だから、決して無理はさせない!」
「……」
リョウは少し笑う。
「でも――」
サワムラーを見る。
「逃げ続けるだけじゃ、勝てないぞ!」
「サワムラー、とびげり!」
「サワ!」
サワムラーが再び跳び上がる。
「イーブイ、右!」
「ブイ!」
イーブイが右へ飛ぶ。
「そのまま左!」
イーブイが方向を変える。
「サワムラー、かわらわり!」
「サワ!」
サワムラーが着地と同時に地面を蹴る。
「イーブイ!」
イーブイがギリギリでかわす。
「よし!」
「まだだ!」
リョウが叫ぶ。
「ブレイズキック!」
「サワムラー!」
サワムラーの脚に炎がまとわりつく。
「イーブイ、下がれ!」
「ブイ!」
イーブイが後ろへ飛ぶ。
炎の蹴りが目の前を通り過ぎる。
「危なかった……!」
マサヒロが息を吐く。
「よし、今だ!」
「イーブイ、でんこうせっか!」
「ブイ!」
イーブイが一気に飛び込む。
「アイアンテール!」
「ブイ!」
尻尾が鋼のように輝く。
「サワムラー、インファイト!」
「サワァァ!」
サワムラーが全身の力を込めて突っ込む。
「イーブイ、離れろ!」
「ブイ!」
しかし――。
二匹の距離が近すぎた。
サワムラーの蹴りが、イーブイを捉える。
「イーブイ!」
ドォン!!
イーブイが大きく吹き飛ばされる。
「ブイィ……!」
地面を転がる。
「イーブイ!」
マサヒロが叫ぶ。
「大丈夫か!?」
「……ブイ」
イーブイはふらつきながら立ち上がる。
「まだ……戦える!」
「ブイ!」
「よし!」
マサヒロは拳を握る。
「だったら、ここからだ!」
イーブイがサワムラーを見る。
その目はまだ諦めていない。
「でんこうせっか!」
「ブイ!」
イーブイが一気に走る。
サワムラーも迎え撃つ。
「サワムラー、かわらわり!」
「サワ!」
「イーブイ、左へ!」
イーブイがかわす。
「右!」
再びかわす。
そして――
「今だ!」
マサヒロが叫ぶ。
「アイアンテール!」
「ブイ!」
イーブイが跳び上がる。
尻尾が鋼のように輝く。
「サワムラー、迎え撃て!」
リョウが叫ぶ。
「サワ!」
しかし――
イーブイの方が一瞬早かった。
「イーブイ!」
ドォン!!
アイアンテールがサワムラーの脳天へ直撃する。
「サワムラー!」
サワムラーの身体が大きく揺れる。
「まだだ!」
リョウが叫ぶ。
しかし――
サワムラーは膝をついた。
「サワ……」
そして、そのまま倒れる。
「サワムラー、戦闘不能!」
「……!」
リョウは拳を握る。
「サワムラー……」
マサヒロはイーブイを見る。
「やったぞ!」
「ブイ!」
イーブイも嬉しそうに鳴いた。
リョウはサワムラーをボールへ戻す。
「よくやった、サワムラー」
そして――
リョウはしばらく黙っていた。
残されたモンスターボールは――
あと一つ。
「……」
リョウはそのボールを見つめる。
「マサヒロ」
「ん?」
「俺たちの戦いも……」
リョウは少し寂しそうに笑った。
「もう終わりに近づいてるんだな」
「……」
マサヒロは黙ってリョウを見る。
「ここまで一緒に競ってきたのに」
リョウは拳を握る。
「あと一匹で、俺たちの戦いにも決着がつく」
「……そうだな」
マサヒロも少し寂しそうに笑う。
けれど――
「でもさ」
マサヒロはイーブイを見る。
そしてリョウを見る。
「この戦いが終わったからって、俺たちの関係まで終わるわけじゃないだろ?」
「……!」
リョウが顔を上げる。
「俺たちはライバルだ」
マサヒロは拳を握る。
「勝っても負けても、それは変わらない」
「これからも、もっと強くなる」
「そして、またいつか戦おうぜ」
「……」
リョウはしばらくマサヒロを見つめる。
そして――
「……ああ」
笑った。
「そうだな」
「この戦いが終わっても、俺たちはライバルだ」
「これからもずっと競い続けよう」
「約束だ!」
マサヒロが拳を突き出す。
「約束だ!」
リョウも拳を突き出す。
二人の拳がぶつかる。
「……それじゃあ」
リョウは最後のモンスターボールを握る。
「最後の勝負だ!」
「行くぞ、マサヒロ!」
「もちろん!」
リョウがボールを投げる。
「サンド!」
「サンド!」
黄色い身体のサンドがフィールドへ飛び出す。
「サンド……!」
マサヒロは目を見開く。
それは、リョウがもっとも頼りにしている相棒。
そして――
イーブイが一度、勝利した相手だった。
サンドはイーブイを見る。
「サンド……!」
その目には、強い闘志が宿っている。
「前に負けたこと、覚えてるんだな」
マサヒロが呟く。
サンドは拳を握るように前足を構える。
「サンド!」
「そうこなくちゃな!」
マサヒロはイーブイを見る。
「イーブイ!」
「ブイ!」
「最後まで、一緒に戦うぞ!」
「ブイ!」
* * *
「サンド、いくぞ!」
「サンド!」
サンドが地面を蹴る。
「イーブイ、でんこうせっか!」
「ブイ!」
二匹が同時に走り出す。
「サンド、あなをほる!」
「サンド!」
サンドが地面へ潜り込む。
「イーブイ、止まるな!」
「ブイ!」
イーブイが走り続ける。
「どこから来る……?」
マサヒロが地面を見る。
その瞬間――
「今だ!」
リョウが叫ぶ。
「サンド、出ろ!」
「サンド!」
ズドン!
サンドが地面から飛び出す。
「イーブイ!」
「ブイ!」
イーブイが跳び上がってかわす。
「よし!」
「まだだ!」
リョウが叫ぶ。
「ジャイロボール!」
「サンド!」
サンドが身体を丸め、高速回転する。
「イーブイ、でんこうせっか!」
「ブイ!」
イーブイが横へ飛ぶ。
ジャイロボールが地面を削る。
「今度はこっちだ!」
マサヒロが叫ぶ。
「アイアンテール!」
「ブイ!」
イーブイが一気に接近する。
「サンド、10まんばりき!」
「サンド!」
サンドが地面を蹴り、大きな力で突進する。
「イーブイ、かわして!」
「ブイ!」
イーブイが横へ飛ぶ。
サンドの突進をかわす。
「そのまま、でんこうせっか!」
「ブイ!」
イーブイがサンドへ突っ込む。
ドンッ!
「サンド!」
サンドが吹き飛ばされる。
「よし!」
マサヒロが拳を握る。
サンドは何とか立ち上がる。
「サンド……!」
それでも、その目にはまだ闘志があった。
「前に負けた時より、強くなってるな」
マサヒロが言う。
「サンド!」
リョウも笑う。
「もちろんだ!」
「サンドは、あの日からずっとイーブイに勝つことを目指してきた!」
「……!」
マサヒロはサンドを見る。
「そうか……」
「だったら、俺たちも負けられない!」
「イーブイ!」
「ブイ!」
戦いは続く。
「サンド、あなをほる!」
「サンド!」
再びサンドが地面へ潜る。
「イーブイ、周りを見ろ!」
「ブイ!」
イーブイが警戒する。
「今だ!」
サンドが飛び出す。
「イーブイ、右!」
「ブイ!」
ギリギリでかわす。
「ジャイロボール!」
「サンド!」
回転するサンド。
「イーブイ、でんこうせっか!」
「ブイ!」
イーブイが高速で移動する。
サンドの攻撃をかわしながら、何度も攻撃を当てていく。
「イーブイ、アイアンテール!」
「ブイ!」
ドン!
「サンド!」
サンドが吹き飛ぶ。
「サンド、まだだ!」
リョウが叫ぶ。
「立て!」
「サンド……!」
サンドは震えながら立ち上がる。
「すごい……」
マサヒロが呟く。
「ここまで耐えるのか……」
「サンドは絶対に諦めない!」
リョウが叫ぶ。
「俺たちは、ここで終わらない!」
「サンド!」
サンドが吠える。
しかし――
イーブイの方が少しずつ優勢だった。
何度も攻撃をかわし。
何度も攻撃を当てる。
サンドの身体には傷が増えていく。
「もう少しだ……!」
マサヒロは拳を握る。
「イーブイ!」
「ブイ!」
「この一撃で終わらせる!」
「エボルブラスト!」
「ブイイイイイ!」
イーブイの尻尾から、強烈な衝撃波が集まっていく。
「サンド……!」
リョウが叫ぶ。
サンドは傷だらけになりながらも、まだ立っていた。
そして――
「サンド、カウンター!」
「サンドォォォ!」
「……!」
マサヒロが目を見開く。
「カウンター!?」
サンドの身体が構える。
イーブイのエボルブラストが迫る。
ドォォォォン!!
強烈な衝撃波がサンドを包み込む。
「サンドォォォ!」
しかし――
サンドは倒れなかった。
受けた攻撃の力を溜め込み――
「サンド!」
一気に力を返す。
ドォォォン!!
強烈な反撃がイーブイへ直撃する。
「イーブイ!」
「ブイィィィ!」
イーブイが大きく吹き飛ばされる。
「イーブイ!」
マサヒロが叫ぶ。
イーブイは地面へ落ちた。
「ブイ……」
「立て!」
マサヒロが叫ぶ。
「イーブイ!」
しかし――
イーブイは立ち上がろうとした。
前足に力を込める。
「ブイ……!」
けれど、身体が動かない。
「イーブイ……!」
マサヒロは拳を握る。
そして――
イーブイはゆっくりと目を閉じた。
「イーブイ、戦闘不能!」
「……!」
静寂がフィールドを包む。
マサヒロは、ただイーブイを見つめていた。
「……負けた」
リョウもサンドを見る。
サンドも限界だった。
それでも――
「サンド……」
「よくやった」
リョウはサンドへ駆け寄る。
「本当に……よく頑張った」
サンドは力なく頷く。
審判が宣言する。
「準決勝、勝者――リョウ!」
「……」
マサヒロは俯いた。
「……俺のポケモンリーグは」
拳を握る。
「ここまでか……」
セキエイ高原。
多くのトレーナーが夢見たポケモンリーグ。
マサヒロはそこへ挑み――
ベスト4という結果を残した。
優勝には届かなかった。
それでも――
「……悔しい」
マサヒロはイーブイのもとへ駆け寄る。
「悔しいけど……」
イーブイの頭を優しく撫でる。
「お前とここまで来られて、よかった」
「ブイ……」
イーブイが小さく鳴く。
「みんなも頑張ってくれた」
マサヒロは立ち上がる。
そして、リョウを見る。
「リョウ」
「ん?」
「絶対に優勝してくれよ」
リョウは少し驚く。
「……ああ」
「お前のの分まで、頑張ってくる」
「約束だ」
「うん!」
マサヒロは笑う。
「俺はもっと強くなる」
「そして――」
拳を握る。
「次に会った時は、絶対に勝つ!」
リョウも笑った。
「ああ!」
「俺も、次はもっと強くなってる!」
二人はもう一度、拳をぶつける。
準決勝。
その激戦を制したのは、リョウだった。
マサヒロのポケモンリーグは――
ベスト4という結果で幕を閉じた。
しかし――
マサヒロの旅は、まだ終わらない。
イーブイとともに歩んできた道は、ここからまた新しい物語へ続いていく。
長かったポケモンリーグ編も次回で最後です。
もう少しだけお付き合いください。