クチバシティ。
大きな港を持つこの街には、たくさんの人やポケモンが行き交っていた。
「すっげぇ……!」
街に入ったマサヒロは、目を輝かせながら辺りを見回す。
港には大きな船が何隻も停泊している。
潮の香りが漂い、遠くから船の汽笛が聞こえてきた。
「こんなに大きな街、初めて来たな!」
「ブイ!」
隣を歩くイーブイも、興味深そうに港を眺めている。
「でも、まずはポケモンセンターだな」
マサヒロは腰のモンスターボールを見る。
ニビジム。
ハナダジム。
そして――
「三つ目のバッジを取りに行くぞ!」
「ブイ!」
イーブイが元気よく鳴いた。
* * *
「ここがクチバジム……」
大きな建物を前に、マサヒロは息を飲んだ。
「よし!」
扉を開ける。
「失礼しまーす!」
「おう! 挑戦者か!」
中から大きな声が返ってきた。
マサヒロが顔を上げる。
そこに立っていたのは、大柄な男だった。
黄色い服に身を包み、筋肉質な体を揺らしながらこちらを見ている。
「俺はクチバジムのジムリーダー、マチス!」
「俺はマサヒロ!」
マサヒロも負けじと名乗る。
「ポケモントレーナーだ!」
「マサヒロ……」
マチスは腕を組み、マサヒロを見る。
「ずいぶん若いトレーナーが来たネ」
「若くても、二つのバッジを持ってるぞ!」
マサヒロは胸を張る。
「ニビとハナダを勝ち抜いてきた!」
「ホウ……」
マチスの表情が変わった。
「それなら、その実力を見せてもらうネ!」
「望むところだ!」
二人はフィールドへ向かう。
審判が中央に立った。
「クチバジム、ジムリーダー・マチス対挑戦者マサヒロ!」
「使用ポケモンは一匹ずつ!」
「先に相手のポケモンを戦闘不能にした方が勝者となります!」
マチスがモンスターボールを手に取った。
「行くネ、ライチュウ!」
「ライチュウ!」
ボールから現れたライチュウが、鋭い目でマサヒロを見る。
その頬からは、バチバチと電気が弾けていた。
「ライチュウ……!」
マサヒロは少し緊張する。
今まで戦ってきた相手とは、明らかに違う。
強い。
そう感じさせる迫力があった。
マサヒロもボールを取り出す。
「俺の相棒も負けてない!」
「行け、イーブイ!」
「ブイ!」
イーブイがフィールドへ飛び出した。
マサヒロはイーブイを見る。
ハナダジムでの敗北。
その悔しさを乗り越えて、イーブイは新しい技を覚えた。
そして先日。
サトシのピカチュウにも勝った。
「イーブイ」
「ブイ?」
「今日も一緒に勝つぞ」
「ブイ!」
イーブイが力強く返事をする。
マチスが笑った。
「それでは、始めるネ!」
「バトル、スタート!」
「ライチュウ、でんきショック!」
「ライチュウ!」
バチィッ!
強烈な電撃が飛んでくる。
「イーブイ、よけろ!」
イーブイが横へ飛ぶ。
電撃が地面を焦がした。
「今だ! でんこうせっか!」
「ブイッ!」
イーブイが一気に加速する。
「ライチュウ! 迎え撃つネ!」
ライチュウも走り出した。
「なに!?」
ドンッ!
二匹が正面からぶつかる。
「イーブイ!」
イーブイが弾き飛ばされた。
「ブイッ!」
何とか体勢を立て直す。
「大丈夫か!?」
「ブイ!」
イーブイはすぐに立ち上がった。
マチスが笑う。
「速さはなかなかネ!」
「だったら、もっと速くする!」
「でんこうせっか!」
「ブイ!」
再びイーブイが走り出す。
今度は正面からではない。
ライチュウの周囲を大きく回り始めた。
右へ。
左へ。
そして後ろへ。
「ライチュウ、見失うな!」
「ライ!」
ライチュウが振り向く。
その瞬間。
「かみつく!」
イーブイが飛び込んだ。
ガブッ!
「ライチュウ!」
ライチュウの腕にイーブイが噛みつく。
「今だ!」
マサヒロが拳を握る。
しかし――
「ライチュウ、アイアンテール!」
「ライ!」
ブンッ!
「イーブイ!」
ドォン!
尻尾の一撃を受け、イーブイが地面を転がる。
「くっ……!」
マサヒロは歯を食いしばる。
「ブイ……」
イーブイも立ち上がるが、少しふらついている。
「大丈夫か?」
「ブイ!」
イーブイはまだ戦えるとばかりに前を向いた。
「そうだ……」
マサヒロはイーブイを見る。
ライチュウは強い。
攻撃力も。
防御力も。
そして、こちらの動きを見てから攻撃してくる。
「だったら……」
マサヒロは考える。
どうすればいい。
ただ速く走るだけじゃ、ライチュウには届かない。
「ライチュウ、10まんボルト!」
「ライ!」
バリバリバリッ!!
大量の電気が放たれる。
「イーブイ、でんこうせっか!」
「ブイッ!」
イーブイが走る。
電撃をかわす。
しかし、ライチュウはすぐに追ってくる。
「右だ!」
イーブイが右へ。
「左!」
今度は左へ。
「後ろ!」
イーブイが方向を変える。
ライチュウも追いかける。
その瞬間だった。
「……あれ?」
マサヒロが目を見開く。
一瞬。
イーブイの姿が二つに見えた。
「イーブイ……?」
イーブイは走り続ける。
その動きがさらに速くなる。
「ブイ!」
また一つ。
さらに一つ。
イーブイの姿が次々と増えていく。
「な、なんだこれは!?」
マチスが驚く。
フィールドには、何匹ものイーブイがいるように見えた。
ライチュウが戸惑う。
「ライ……?」
「これは……!」
マサヒロはすぐに理解した。
「イーブイ!」
イーブイが振り返る。
「新しい技だ!」
マサヒロが叫ぶ。
「かげぶんしん!」
「ブイィ!」
複数のイーブイが、一斉に駆け出した。
「ライチュウ!」
マチスが叫ぶ。
「どれが本物か見極めるネ!」
ライチュウが目を凝らす。
しかし、イーブイたちはすべて同じように動いている。
「すごい……!」
マサヒロも驚いていた。
イーブイ自身も、自分の新しい力に驚いているようだった。
「でも、まだ終わりじゃない!」
マサヒロが叫ぶ。
「イーブイ、いけ!」
「ブイ!」
ライチュウが一匹のイーブイへ飛びかかる。
しかし――
その姿は消えた。
「違うネ!」
別のイーブイが走る。
「そこネ!」
ライチュウが攻撃する。
また消える。
「くっ……!」
マチスが歯を食いしばる。
「速いだけじゃない……!」
マサヒロが呟く。
「速さを使って、相手を迷わせてるんだ!」
そのとき。
「ライチュウ! 10まんボルト!」
「ライ!」
ライチュウが周囲へ向かって電撃を放つ。
「イーブイ!」
マサヒロが叫ぶ。
複数の影が一斉に飛び退く。
その中から――
一匹だけが、ライチュウの懐へ飛び込んだ。
「今だ!」
「でんこうせっか!」
「ブイッ!」
ドンッ!
イーブイの体当たりがライチュウを吹き飛ばす。
「ライチュウ!」
ライチュウが転がる。
だが、まだ立ち上がる。
「まだだ!」
マチスが叫ぶ。
「ライチュウ、アイアンテール!」
ライチュウが突進する。
「イーブイ、かげぶんしん!」
「ブイ!」
再び複数のイーブイが現れる。
ライチュウの攻撃が空を切る。
「そこネ!」
ライチュウが振り向く。
しかし、そこにもイーブイはいない。
「こっちだ!」
マサヒロが叫ぶ。
「でんこうせっか!」
「ブイ!」
一匹のイーブイが高速で走り抜ける。
ライチュウの背後へ回った。
「かみつく!」
「ブイ!」
ガブッ!
「ライチュウ!」
ライチュウが大きくよろめく。
「よし!」
マサヒロは拳を握る。
だが、ライチュウは倒れない。
「まだ終わらないネ!」
マチスが叫ぶ。
「10まんボルト!」
「ライチュウ!」
バリバリバリッ!!
「イーブイ!」
マサヒロが叫ぶ。
電撃がイーブイを追いかける。
イーブイは必死に走る。
一度。
二度。
三度。
電撃をかわす。
しかし――
「そこネ!」
ライチュウが攻撃を読んだ。
「しまった!」
バリィッ!!
電撃がイーブイを直撃する。
「イーブイ!」
イーブイが地面に倒れる。
「ブイ……」
「立てるか!?」
マサヒロが叫ぶ。
イーブイはゆっくりと立ち上がった。
「ブイ……!」
その目には、まだ戦う意思がある。
マサヒロは拳を握った。
「そうだ……」
ハナダジムのときとは違う。
あのときは、負けた。
でも、そこで終わらなかった。
イーブイは強くなった。
そして今も、また新しい力を手に入れた。
「俺たちは、まだ強くなれる!」
「ブイ!」
マサヒロは前を向く。
「最後まで行くぞ!」
イーブイが頷く。
ライチュウも構える。
「いくネ!」
「いけ!」
二匹が同時に走り出した。
「ライチュウ、アイアンテール!」
「イーブイ、かげぶんしん!」
「ブイ!」
複数のイーブイがフィールドを駆ける。
ライチュウの尻尾が空を切る。
「今だ!」
マサヒロが叫ぶ。
「でんこうせっか!」
一匹のイーブイが飛び出した。
ライチュウが反応する。
「そこネ!」
しかし――
それは影だった。
「なっ!?」
本物のイーブイは、ライチュウの横をすり抜けていた。
「イーブイ!」
マサヒロが叫ぶ。
「かみつく!」
「ブイ!」
ガブッ!
ライチュウが大きくよろめく。
「今だ!」
マサヒロはイーブイを見る。
「エボルブラスト!」
「ブイィィィィッ!!」
イーブイの尻尾から、強烈な衝撃波が放たれた。
ドォォォォン!!
ライチュウが吹き飛ばされる。
土煙がフィールドを包む。
「ライチュウ!」
マチスが叫ぶ。
しばらくして――
土煙の中からライチュウが姿を現した。
しかし、その目にはもう戦う力が残っていなかった。
ライチュウはゆっくりと倒れる。
ドサッ。
審判が確認する。
「ライチュウ、戦闘不能!」
「勝者、挑戦者マサヒロ!」
「……」
マサヒロは一瞬、言葉を失った。
そして――
「やったぁぁぁぁ!!」
「ブイィ!」
イーブイがマサヒロへ飛びつく。
「勝ったぞ!」
マサヒロはイーブイを抱きしめる。
「やったな、イーブイ!」
「ブイ!」
マチスはライチュウのもとへ駆け寄る。
「よくやったネ、ライチュウ」
ライチュウをボールへ戻すと、マチスはマサヒロへ向き直った。
「見事だったネ」
「本当!?」
「最初はスピードだけのポケモンかと思ったネ」
マチスは笑う。
「しかし、違った」
「……?」
「お前とイーブイは、戦いながら答えを見つけたネ」
マサヒロはイーブイを見る。
「俺たちが……?」
「そうネ」
マチスは頷いた。
「その強さを認めるネ」
マチスがポケットから何かを取り出す。
それは黄色く輝くバッジだった。
「クチバジム、オレンジバッジ!」
「オレンジバッジ……!」
マサヒロは両手で受け取った。
「三つ目だ!」
イーブイが嬉しそうに跳ねる。
「ブイ!」
マサヒロはバッジを空へ掲げた。
「ニビ、ハナダ、そしてクチバ!」
三つのバッジが揃った。
「カントーリーグまで、あと少しだ!」
「ブイ!」
マサヒロとイーブイは笑い合った。
* * *
夕方。
クチバシティを歩くマサヒロたち。
マサヒロは、手の中のサンダーバッジを眺めていた。
「今日のイーブイ、すごかったな」
「ブイ!」
「でんこうせっかを使って、あんな戦い方ができるなんて……」
イーブイが得意そうに胸を張る。
「でも、まだまだだぞ」
「ブイ?」
「次のジムもあるし、シゲルだって待ってる」
マサヒロは前を見る。
「俺はもっと強くなる」
「ブイ!」
「一緒にな」
「ブイ!」
夕焼けの街を、少年とポケモンたちは歩いていく。
三つのバッジを胸に。
しかし、その旅の先には――
まだ知らない出会いと、さらなる強敵が待っていた。
そして、イーブイを巡るロケット団の影もまた、少しずつ近づいていた。
「次はどこへ行こうかな!」
マサヒロの声が、夕暮れの街に響いた。
イーブイ 現在の技
エボルブラスト でんこうせっか
かげぶんしん かみつく