彼方楽園のレチタティーヴォ(リメイク)   作:三文小説家

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 今回は旧作にはいなかった新キャラが登場します。


霞さん

 森へのお出かけから数日。リンと二人で話したり、リンのいつもの面子四人と集まったりしていた。なお、四人は対身内限定であまりにも喧嘩っ早いので、喧嘩になる度にアヤメが拳で鎮圧したりした。

 

 ちょうど今も、四人を鎮圧したところである。

 

「もしかして小夜風さん、僕達より強いんじゃ……」

 

 とは、リンの言だが、それに対するアヤメの返答は、「護身術」とのことだった。明らかに護身の範囲を超えて攻撃しているとかツッコんではいけない。リン達は少し釈然としない気持ちがあったが、深く踏み込んではいけない気がしたのでやめた。

 

 そんな日常を過ごしていたある日、リンはとある人物に話しかけられた。

 

「ねー。君って天野リン君だよね」

 

 その人物はリンの通う星彩学園の生徒だった。ピンク色に染めた髪のツインテールに、よく手入れされたネイル、短いスカートに、カラーコンタクトでも入れているのか緋色の瞳と、普通の高校ならば校則違反のバーゲンセールのような格好をした少女で、ネクタイの色などを見る限り同級生のようである。

 

 とりあえず、話しかけられたので返事をするリン。

 

「そうだけど、貴方は誰?」

「あたしは霞(かすみ)咲(さき)。アヤメちゃんの友達って言えば分かるかな」

「ああ、週に一回連絡してるっていう、あの?」

「うっ……まあ、はい、それです……」

 

 リンの確認に渋い表情をする咲。週に一回連絡しているという事実、いや、週に一回しか連絡してくれないという事実に思う所があるようだ。

 

「小夜風さんなら放課後に会いに行くけれど……」

「それなんだけどさ……」

 

 唐突に咲はリンに対して頭を下げた。

 

「お願いします! アヤメちゃんと仲良くする方法を教えてください!」

「……え?」

 

 彼女の話によると、この学校に入って最初の内にアヤメと仲良くなり、当初は音楽室にアヤメの演奏を聞きに行ったりもしていたのだが、ここ最近は週に一回の定期連絡以外にろくに話さなくなってしまったのだという。そして、咲はその状況をなんとかしたいと思っているらしい。

 

「そういうわけなので、アヤメちゃんとどうやって仲良くなったのか教えていただけるとありがたく存じます……」

「どうやってと言われても……普通に音楽室に行って普通に話しただけだよ。それに、最初の内は話してくれたって言うなら、霞さんだってその方法で上手くいったんでしょ?」

「え、えーと……その、アヤメちゃんからは多分ちょっと嫌われてるというか……」

「その反応、やっぱり霞さん側から何かしたんだね。小夜風さんから言ってこない以上、大して興味もないけど一応聞いておくよ。何をしたの?」

「何か辛辣なんですけど……い、いや、そんなに大したことはしてないんだよ? ちょっとした戯れというか」

「いいから言いなよ。何をしたのさ」

 

 興味が無いとは言いながらも、友達であるアヤメに何かしたらしい咲に多少イラついているリン。咲は少し逡巡した後に観念したように話し始めた。

 

「機嫌悪い時のアヤメちゃんに後ろから抱き着いて……」

「…………」

「おっぱい揉みました」

「何してんだ」

 

 予想以上にしょうもない咲の行動にリンは溜息を吐く。いや、相手が嫌がっていれば普通にセクハラなので、しょうもないという感想もズレてはいるか。などと明後日の方向に思考を働かせもする。

 

「どんな状態の小夜風さんだってキレるだろそんなの」

「仕方ないじゃん! あたしには無い豊潤なる柔らかさの塊が目の前にあるんだよ!? 手や視線がおっぱいに向かうのもやむを得ないことなんだよ!」

「無駄に豊富な語彙力でエロおやじみたいな言い訳しないでよ」

「アヤメちゃんの態度が冷たくなった原因とはいえ、あのおっぱいは柔らかかった……男子なら分かってくれるよね? このおっぱいに対する渇望を」

「女の子が公然の面前で卑猥な単語を連呼するんじゃない。あと、僕はその手の話には興味無いから」

「え、大丈夫? 男子高校生がエロティックなことに興味無いって……何か悩みがあるなら聞こうか?」

「そんなに心配されるような事かな」

 

 本気でリンを心配するような顔になった咲に、リンは呆れるような視線で返す。とにもかくにも、とりあえずアヤメと咲の不仲(?)の原因は分かった。男同士ならいったん殴り合いでもすればいいのではないかと放り投げるところだが、女子同士ならそうもいかない。

 

「まあ、小夜風さんも寂しそうにしていたから、案外普通に話しかければ応じてくれるとは思うよ。あの人、友人というものに飢えていそうな感じはするしね」

「そうかな」

「とりあえずセクハラに関しては小夜風さんが怒ってるようなら謝った方がいいと思うよ。それと、二度とやらない事を確約したほうがいいね」

「そうだね。次からは抱き着くだけにするよ」

「抱き着くのはやめないんだね」

「そこまで止められたら、このストレスフルな学園生活なんてやってられない!」

 

 一体どんな生活をしているんだ。と、リンは思ったが、信用している教師が鉄鬼と後一人くらいしか思い浮かばないリンはなんとなく納得してしまった。特に、進学校である星彩学園では、(校則違反でないとはいえ)ギャルのような格好をしている咲は教師からの当たりも強いのかもしれない。リンはリンで世界に絶望していたことは有るわけであるし。

 

「よし、勇気出てきた。アドバイスありがとねー」

「大したこと言ってない気がするけど、まあ、何か参考になったなら良かったよ。頑張ってね」

 

 

 

・・・

 

 

 

 放課後、リンが音楽室に向かうと、アヤメに後ろから抱き着いている咲がいた。

 

「随分と早い仲直りだね……」

「まあ、天野さんが聞いたかどうかは分かりませんが、あのことについてはそれ程怒っていませんので……」

「ああ、うん、聞いたよ。霞さんが小夜風さんにセクハラしたって」

「恥ずかしいので明言しないでくださいますか。あの時は本当にびっくりしたんですから」

(これ許されたというより諦観に近いものじゃないかなあ)

 

 アヤメの様子を見たリンが、何とも言えない呆れの視線を咲に向けていると、彼女は気が済んだのかアヤメから離れた。

 

「アヤメちゃんがそんなに怒ってないとすると、あの時の殺意に塗れた表情って私に対してじゃなかったんだ」

「いえ、一割くらいは貴方に向けていましたよ、霞さん」

「名字呼び嫌ですう……」

 

 おそらく以前は下の名前で呼んでいたのだろう。咲は捨てられた子犬のような表情でアヤメに縋りついた。それよりも、リンは気になった事をアヤメに聞く。

 

「小夜風さんをそこまで怒らせたって、何があったの?」

 

リンの知るアヤメは基本的に温厚で、怒った姿というのはあまり想像がつかない。問いかけられたアヤメは、「ああ……」と声を漏らして、説明を始めた。

 

「自ら光を放つことは決してないゴミクズ―――こほん、ガラス片に絡まれましてね」

「ああ、なるほど。アイツか。そりゃ不機嫌にもなるね。あたしはそのせいでアヤメちゃんから殺意の眼光で睨まれたわけかあ」

「貴方の非も多分にありますけどね」

 

 セクハラに関しては間違いなくお前の非だよ。と、アヤメが伝える。そして、リンにはそれ以上にツッコみたいことがあった。

 

「小夜風さん、あんまり言い直しが機能してない」

「そうだよアヤメちゃん」

「お、たまには君も常識的な事を―――」

「まだアートに使えるガラス片を引き合いに出すのはガラス片に失礼だよ」

「違う、そうじゃない」

 

 (おそらく)人をゴミクズ、言い直してガラス片呼ばわりしたアヤメにリンがツッコむが、ある程度上品な悪口として使えそうだなと内心では思っていたのは内緒である。

 アヤメ曰く、『遠目に見たら光を反射しているために価値がありそうに見えるが、実態は自ら光る事の無いゴミクズ』であるとのこと。

 

 あまりにもその人物及びガラス片に対して辛辣であるが、なんとなく意味が分かってしまったリン。なるほど、色々考えられたうえでの悪口だったわけである。

 

「小夜風さんがそこまで言う人物。一体誰なんだ」

「知らない方がいいと思うよん。あたしも話しかけられた事あるけど、アヤメちゃんと不仲になったって話したら悪口言われたし」

「そうですね。下手に教えて縁が出来たら大変ですし」

「なんか名前を言ってはいけないあの人みたいな扱いになってない? 本当にどんな奴なんだ」

「あたしらには救えぬものじゃ」

 

 名前を言って、その言霊でガラス片なる人物が引き寄せられたらと、口を噤むアヤメ。その様は、映画化もされた海外の小説のラスボスを形容するかのようであった。尤も、アヤメ曰くそのラスボスのような格すらもないとのこと。故にゴミクズ。故にガラス片。

 

「とにかく、天野さんが彼女と関わらない事を祈ります。十中八九、碌な事になりませんから」

「そーだねー。酸性とアルカリ性って感じ? 化学反応起こしたら碌な事にならないよー」

「彼女ってことは女性なんだね。まあ、忠告は素直に聞いておくよ」

 

 リンは今の学園生活にそれなりに満足している。そのガラス片なる人物に関わることが無いようにリンも祈った。尤も、将来的にそのガラス片と関わる羽目になってしまうのだが……

 

「まあ、他人の悪口を言うのはこの辺にしておきましょう。これ以上話していたら、噂をすれば影、なんてことになりかねませんし」

「よほど会いたくないのは分かった。僕としても他人の悪口を延々と話す小夜風さんは見たくないよ。ところで、霞さんは僕の友達に会ってみる気はある?」

「君、友達いたんだね」

「失礼だな、セクハラ女」

「だって正論で殴って来るDV男なんて一番嫌われるタイプじゃん!」

「だからって『友達がいない』は飛躍し過ぎだろうが。そんだけ神経が太いのなら、アイツ等に会わせても大丈夫だろうね。初対面で殴りかかって来た奴らだけど」

「文字通りに殴りかかってくるDVじゃん! DV通り越して通り魔じゃん!」

 

 アヤメと同じ感想を抱く咲。リンの友達の恐ろしさを聞いた咲はその場から逃げようとするが、アヤメに肩を掴まれそうになって……それを回避したが、「やっぱり先程の一件は許さない事にしましょう」とアヤメが呟くと、ものすごい勢いで戻って来た。アヤメに突き放されるのは何よりも嫌であるらしい。

 

「まあ、大丈夫ですよ。私も会いましたが、皆さん、愉快な方々でした」

「本当?」

「うん、本当本当。少なくとも女の子相手に殴りかかって来るような奴らじゃないから」

「嘘だったら承知しないからね!?」

 

 その後、咲とリンの友人達である脳筋、腹黒、スパイの三人は打ち解けることができた。しかし、腹黒以外の二人がリンに喧嘩を吹っ掛けている。

 

「正統派糸目美少女の次はギャル美少女ですか。参謀の人脈には感心させられますね」

「本当にどんな手使って誑し込んでんだよお前」

「小夜風さん繋がりだよ! 僕が集めてるみたいな言い方すんな!」

「その小夜風さんだって貴方が連れてきたんですよ、参謀」

 

 アヤメはその光景に溜息を吐いており、咲は「美少女だなんて照れるなあ」と頭を掻いていた。なお、その喧嘩は十五分ほど続いたが、アヤメは今回は放っておいた。

 

「因みにこの喧嘩は日常な感じ?」

「みたいですね」

「ちょっと面倒くさいね」

「ですね」

 

 男子高校生のノリは、女子には少々面倒に感じるのかもしれない。まあ、逆も然りではあるが。後、アヤメは「糸目なのは気にしているので、あまり言わないでください」と言い含めておいた。

 




 はい、新キャラ霞咲さんでした。例の週一で連絡とってるというあの子ですね。お互いのすれ違いもなんとか解消出来ました。

 そして、アヤメが毛嫌いするガラス片とは誰なのか。実は旧作の方でもガラス片呼ばわりはしておりました、あの人物でございます。ま、それは後々。
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