霊夢とその他達の現代入り 作:知ってたか?霊夢魔理沙妖夢は最強なんだぜ
ドン、と鈍い音を立ててソファから転げ落ちた。背中に走る激痛に、思わず息が詰まる。フローリングの容赦ない冷たさが、薄い部屋着を通してダイレクトに体温を奪っていった。
――今日から新しい生活が始まるというのに、これ以上ないほど最悪の目覚めだ。
背中をさすりながら顔を上げると、呆れたような声が頭上から降ってきた。
「ソファなんかで眠るからそうなるのよ」
「しょうがないですよ、霊夢さん。昨日は荷造りで、立っていられないくらい眠かったんですから」
言い訳する僕をふいっと見限るように、彼女はパタパタとスリッパを鳴らして歩き出す。
「まぁいいわ。もう妖夢が朝ご飯を作って待ってるから。ほら、早く着替えなさい」
「分かった...魔理沙は起きてるか?」
「まだ寝てるわよ私は布団を詰めるのは終わったわよ」
「分りました、着替えてきます。」
痛む背中を気にしながら床から立ち上がり、自分の部屋へと足を向ける。ドアを開けると、昨日途中で投げ出した段ボールや梱包資材が散らばっており、足の踏み場もないほどごちゃごちゃしていた。その中からなんとか目当ての衣装ケースを見つけ出し、シワにならないよう避けておいた新しい制服へと袖を通す。
「朝ご飯できましたよー!」
リビングの方から、妖夢の弾んだ声が聞こえてきた。どうやら準備が整ったらしい。出発まではあと二時間。それなのに、自分の荷造りはまだ半分も残っている。早めに朝食を済ませて、作業に戻らなければ。
「分かりました、今行きます!」
応えながら、真新しい制服の襟元を整えて廊下へ出る。焦りのせいか、さっきよりも足取りが少し重く感じられた。ダイニングの席に座り、綺麗に並べられた箸を手に取る。
「いただきます」
今朝のメニューは、温かいお味噌汁にシャキシャキとしたみずみずしいキャベツの千切り、程よく脂ののった焼き鮭と炊きたてのご飯だ。まるで丁寧なお手本のような和食。味わいたい気持ちはやまやまだったが、とにかく時間がない。急ぎめに箸を動かし、お茶碗の白米を口にかきこんでいく。
「ご馳走様でした。美味しかったです。ありがとうございます。」
「お粗末様です。お口に合って良かったです」
空になった食器をまとめながら、僕は妖夢へと視線を向けた。
「妖夢はもう、自分の準備は終わったのか?」
「はい! 私はもう完璧ですので、これから魔理沙さんの荷物をまとめるのを手伝いに行ってきます」
「魔理沙は本当に手がかかりますね。俺も自分の片付けが終わったらすぐ手伝いに行く。……まぁ、妖夢ほどの家事マスターなら、自分の準備くらい一瞬で終わるけどな」
「ありがとうございます。刹那さんも、荷造り頑張ってくださいね」
妖夢に笑顔で見送られ、俺は再び自室へと戻った。さっきから部屋とリビングを何度も往復している気がする。段ボールを組み立てては、本や小物を詰め込んでガムテープで留める。同じ作業の繰り返しに、次第に息が上がってきた。
――それから、ひたすら手を動かし続けること数十分。
「よし、ようやく終わった……っ!!」
最後の段ボールの封を閉じ、床に大の字に寝転がろうとしたその時。不意に背後から、のんびりとした声がかけられた。
「おっ、刹那。荷造り終わったのか?」
振り返ると、そこにはあくびを噛み殺しながら、すっかり着替えを済ませた魔理沙が立っていた。その手には何も持っていない。
「終わった。……魔理沙、自分の荷造りは妖夢に全部やってもらっただけだよな?」
「ん? まぁ、そうだな!」
悪びれる様子もなく、魔理沙はニカッと白い歯を見せて笑った。
「全く、ちゃんとして頂戴。今日は入学式だっていうのに……」
腕を組んで偉そうにため息をつく霊夢。しかしその横から、荷造りを終えた妖夢がジト目を向けながら鋭い言葉を投げかけました。
「そう言ってますが、霊夢さんも私に荷造りを任せていただけですよね? 一人で全部荷造りを終わらせたのは刹那さんだけですよ。先が思いやられます……」
「うっ……」
正論を突きつけられて霊夢が言葉に詰まっています。このままでは言い合いが長引きそうだったので、僕は時計を確認して二人の間に割って入りました。
「言い合いはそこまでにして、早くバス停へ行こう」
青年移動中...青年移動中...
到着したバスへと滑り込み、横並びの座席に腰を下ろす、窓の外を流れる見慣れた景色を眺めながら、小さく息を吐き、これからの生活に思考を巡らせた、かつて、人間は『怪異』と呼ばれる存在に怯えて暮らしていた。
姿も見えず、理不尽に命を奪っていく恐怖の象徴。その脅威が決定的なものとして世界に刻みつけられたのが、一九八二年の『黒雨事件』だ、突如として街を覆った、気体状の怪異。
目に見えぬ死の霧は、防ぐ術を持たない人々の命を無慈悲に刈り取り、最終的に五十二万人という凄惨な数の死者を出した、この未曾有の崩壊を機に、全世界は手を取り合い、怪異に対抗するための国家規模の組織を次々と設立。人類の反撃と、怪異を制する人材の育成が始まった。
そして今日、僕たちが入学する『国立妖魔高等学校』も、その戦いの最前線に位置する場所だ、学校とは名ばかりで、その実態はいつ怪異の襲撃が起きてもおかしくない危険地帯。
敷地を囲む堅牢で巨大な防壁は、外敵を拒むための盾であり、生徒たちが全寮制での生活を義務付けられているのも、有事の際に即座に対応するため、そして一般社会から隔離して身を守るための防衛策に他ならない。
ガタゴトと揺れるバスの振動を感じながら、制服の袖を少し強く握りしめる。
「……本当に、とんでもないところに足を踏み入れたんだな」
霊夢や魔理沙、妖夢たちと過ごす賑やかな日常のすぐ裏側には、常にあの暗い脅威が潜んでいる。新生活への期待と同時に、冷たい緊張感が胸を静かに満たしていった。
膝の上で無意識に硬くなっていた拳を、誰かが上から小突いた。
「何よ刹那、そんなにガチガチになって。まるでこれからお葬式にでも行くような顔してるわよ」
隣からのぞき込んできたのは、呆れたような、けれどどこか面白がっているような霊夢の瞳だった。
「そんなことは……ただ、これから始まる学校生活のことを考えていたら、少し身が引き締まる思いがしただけだ。」
苦笑まじりに応えると、前の座席から魔理沙がぐいっと背もたれ越しに身を乗り出してきた。
「気負いすぎだって、刹那! 壁がなんだ、怪異がなんだ。どんな奴が襲ってきたって、この私がドカンと一発で吹き飛ばしてやるから安心しろぜ!」
「車内で騒がないでください迷惑になります。」
すかさず通路を挟んだ席から妖夢のたしなめる声が飛ぶ。しかし、魔理沙は意に介さず「へーへー」と笑いながら、刹那の肩をぽんと叩いた。
「まぁ、お前のその生真面目さは嫌いじゃないけどな。でもさ、せっかくの入学式だ。もっとワクワクしようぜ?」
「そうですよ、高柳さん。何かあっても、私たちはチームなんですから。一人で背負い込む必要はありません」
妖夢も優しく微笑みかけてくれる。
「……それもそうだな」
窓の外を見れば、遠くの街並みの向こうに、街の景色を両断するような灰色の巨大な防壁がうっすらとその姿を現し始めていた、けれど、さっきまで僕の胸を支配していた冷たい緊張感は、いつの間にか彼女たちの賑やかな声にかき消され、じんわりとした温かさに変わっていた。