霊夢とその他達の現代入り   作:知ってたか?霊夢魔理沙妖夢は最強なんだぜ

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第二話 恐怖の学園

プシューと気の抜けた音を立ててバスの扉が開く。ステップを降り、地面を踏み締めた僕の視界に飛び込んできたのは、圧倒的な威圧感を放つ『国立妖魔高等学校』の校門だった。

 

そして何より目を引くのは、敷地をぐるりと囲む、どこまでも高く、どこまでも殺風景なコンクリートの防壁だ。怪異の襲撃を拒むための盾。しかしそれは同時に、中にいる僕たちを外の世界から完全に隔離する檻のようにも見えた。

 

そんな重苦しい壁のふもとを埋め尽くすように、春の訪れを告げる桜の木がところ狭しと生い茂っている。無機質な灰色の壁を背景に、狂い咲くような鮮やかな薄ピンク色の花びらが舞い散る光景。その美しさが、かえってこの場所の異様さと不気味さを際立たせていた。防壁を見上げながら、僕は小さくため息を漏らす。

 

「こんな殺風景な壁に囲まれた場所で、三年間も閉じ込められる事になるんですか……本当に先が思いやられます。」

 

重苦しい防壁に背を向け、僕たちは校舎へと続く並木道を歩き始めた。周りを見渡せば、同じように制服に身を包んだ新入生たちが歩いているが、誰もが壁の威圧感に気圧されているのか、一様に緊張した面持ちをしている。そんな張り詰めた空気の中を歩いていると、前方にひときわ異彩を放つ人物の後ろ姿が見えた。同じ学校の制服を着ているはずなのに、その頭にはどう見ても不釣り合いなものが乗っている。青くて、丸っこくて、鋭い歯が並んだ

 

――サメの形をした大きなぬいぐるみ帽子だ。

 

「……なぁ、あれ。いくらなんでも目立ちすぎじゃないか?」

 

僕が思わず声を漏らすと、魔理沙が「おっ?」と目を輝かせた。

 

「なんだあれ、面白い帽子被ってんな! おい、そこのサメ帽子!」

 

「ちょっと、魔理沙、いきなり大声で呼ばないの!」

 

霊夢の制止も間に合わず、魔理沙の声に反応したその人物が、くるりとこちらを振り返った。サメの大きな口の中から顔を覗かせていたのは、どこか眠たげで、掴みどころのない瞳をした少女だった。透き通るような肌に、サメ帽子から覗く髪がよく映えている。彼女は僕たちの姿を見ると、特に驚く風でもなく、のんびりと手を挙げてみせた。

 

「んー? 私のことかな。……初めまして、かな。私は天月。一応、魔法使いをやってるよ」

 

天月は、サメ帽子のヒレをパタパタと揺らしながら、私たちの方へ歩み寄ってくる。さらにそのすぐ後ろから、どこか底知れない落ち着いた雰囲気をまとった少女も静かに歩み寄ってきた。

 

「天月、あまり初対面の方々を困らせるものではないよ。……あ、初めまして。私は永夜抄。よろしく頼む」

 

「私は博麗霊夢。こっちは霧雨魔理沙に、魂魄妖夢よ。で、このガチガチになってるのが――」

 

「刹那です。よろしくお願いします、天月さん、永夜抄さん。……ええと、その帽子は……?」

 

挨拶を返しつつも、どうしても頭上のサメから目が離せない。天月は悪びれる様子もなく、サメの頭をぽんぽんと叩いてふにゃりと笑った。

 

「これ? これは私の、なんていうか……お守り、みたいなものかな。落ち着くんだよね、サメ...二人じゃ寂しいしみんなで行かない?」

 

「いいですよ、僕たちも心もとないので...」

 

僕たちは自然と一つの塊になり、そのまま重厚な花崗岩造りの講堂へと移動した。中に入ると、高い天井から豪奢なシャンデリアが吊り下がった厳かな空間が広がっている。すでに多くの新入生たちがパイプ椅子に腰を下ろしており、独特の緊張感でしんと静まり返っていた。

 

「うわぁ、広い……。なんだか本当に身が引き締まる...」

 

案内状の番号を確認しながら、横一列に並んで席に着く。僕の左隣には霊夢、魔理沙、妖夢。そして右隣には天月と永夜抄が腰を下ろした。やがて、講堂の大きな扉が重々しい音を立てて閉まった。会場全体が一気に完全な静寂に包まれる。その張り詰めた空気のなか、壇上に一人の女性が姿を現した。

 

カツン、カツンと、静寂を引き裂くように硬いヒールを響かせて中央のマイクへと歩み寄る。彼女こそが、この国立妖魔高等学校のトップ――幽香校長だった。

 

パンフレットで見た通りに緑色の美しい髪を揺らし、仕立ての良い黒いスーツに身を包んで、鋭い眼光で四百人の新入生を一瞥する。その佇まいからは、幾多の死線を潜り抜けてきた者だけが放つ、圧倒的な威圧感と強者のオーラが漂っていた。幽香校長――幽香はマイクの前に立つと、口元に艶やかな、けれど背筋が凍るような笑みを浮かべて口を開いた。

 

「新入生諸君、入学おめでとう。……ふふ、まさかそんな、生温い歓迎の言葉を期待していた頭の緩い子はいないかしら?」

 

 第一声から放たれた強烈な皮肉に、講堂内の空気が一瞬で氷結する。僕はただ、ごくりと唾を飲み込んで壇上を見つめる。

 

「最初の挨拶もなくて急すぎてビックリししてるわね、まぁいいわ。諸君らはこの学校の門をくぐる前、一枚の誓約書にサインをしたはずだわ。細かな文字で書かれた規約を、果たして何人がまともに読んだかは知らないけれど……あそこに何が書かれていたか、今ここで教えてあげる」

 

幽香は美しいお辞儀をするような優雅さで、しかしその瞳の奥には冷酷な光を宿したまま、壇上から生徒たちを見下ろした。

 

「『本校におけるあらゆる活動、訓練、および突発的な事象において生じた肉体的・精神的損害、ならびに死亡に関し、学校側は一切の責任を負わない』――ふふ、要約すればこういうことよ。お前たちがここで五体満足を失おうが、無惨な死体になろうが、国も学校も知ったことではないわ。すべては自己責任。都合の良い時だけ守ってもらえると思ったら大間違いよ」

 

ざわり、と講堂が大きく揺れた。周囲の新入生たちの顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。しかし、校長の容赦ない言葉はそれで終わりではなかった。むしろ、本当の絶望はここからだった。

 

「今年、この門をくぐった新入生はちょうど四百人。でもね、三年後に無事卒業証書を手にできるのは……おそらく、六十人程度かしらね」

 

「……っ」

 

息を呑んだ。四百人中、わずか六十人。残る三百四十人は退学か、転校か。……あるいは、さっきの言葉通り「死」を意味するのか。もしかしたら、霊夢や魔理沙、妖夢すらもいなくなるかもしれない。最悪の結末は、もう目の前まで迫っている。なら、生半可な希望を持つより、最初から地獄を覚悟しておいた方がマシだ。そして自分が死ぬと言うケースも考えておいた方が良い

 

「一九八二年の黒雨事件以降、人類は怪異に抗う組織を作り、この学校を建てたわ。けれど、怪異を狩るための牙を育てる場所が、安全なぬくぬくとした温室であるはずがないでしょう? ここは戦場よ。戦場であれば、未熟な弱い子から順に死んでいくのは至極当然の理だわ」

 

幽香の声には一切の誇張も、脅しのような色もなかった。ただ楽しそうにすら見える笑顔のまま、冷徹な事実だけを告げている。

 

「ゆえに、我が国立妖魔高等学校は、完全なる『実力主義』を掲げるわ。能力のない者に、生き残る資格なんてないもの。諸君らはこれより、その実力に応じて五つの階級に厳格に格付けされるわ」

 

 彼女は背後の巨大なスクリーンを指し示した。そこに表示されたのは、血のような赤色で区切られた五つのクラス名だった。

 

「最優秀であり、将来の主力となる 大隊並みの戦力の【Sクラス】。それに次ぐ優秀で一個の中隊並の戦力の【Aクラス】。平均的な戦力で小隊並の戦力の【Bクラス】。劣等生で分隊並の【Cクラス】。そして、いつ死んでもおかしくない最底辺でただの一般兵並の戦力の【Dクラス】だわ。この格付けは絶対であり、受ける恩恵も、課される任務の危険度もすべてクラスによって異なるの。傷つきたくなければ力を示しなさい。死にたくなければ強くなることね。それだけよ。……せいぜい、私を楽しませて頂戴ね」

 

それだけ言い残すと、幽香はどこまでも優雅に、けれど圧倒的な恐怖の余韻を残したまま壇上から去っていった。校長が消えた後も、講堂内には重苦しい沈黙が支配し続けた。

 

そこへ、各々の手元にある黒い電子端末が一斉に短い電子音を鳴らした。画面に浮かび上がったのは、無慈悲な選別の結果だった。

 

「おいおい、Bクラスか……」

 

魔理沙が端末を睨みつけながら、少し不満げな声を漏らす。画面には白抜きの文字で、はっきりと【Bクラス】と表示されていた。

 

「私もBクラスだわ。良くも悪くも『平均的』ってところね」

 

霊夢が端末をポケットに放り込み、妖夢も同じ画面を見つめて「私も、Bです……」と小さく息を吐いていた。

 

「俺もBクラスなんだよな全員綺麗に揃った……」

 

苦笑いしながら自分の画面を見せる。幽香校長のあの恐ろしい演説の直後だ、平均的な評価であるとはいえ、いつ戦場に駆り出されるか分からない現実に変わりはなかった。ふと気になって、俺たちの右隣に座る二人へと視線を向ける。咄嗟に敬語で話しかける

 

「あの、天月さん、永夜抄さんはどうでしたか……?」

 

「ん? 私? 私はね、これだって」

 

「私も天月と同じ画面が表示されているな」

 

二人が何気なく見せてきた画面。そこに映し出されていた文字を見た瞬間、僕たちの動きが完全に止まった。

 

鮮烈な紫色で点滅する、【Sクラス】の文字。

 

「S、クラス……!?」

 

思わず声を裏返した僕の横で、魔理沙が身を乗り出して画面を凝視する。

 

「な、なんだって!? 二人ともSクラスなのかよ!?」

 

「うん。なんかそうみたい。よく分かんないけど、一番上なんだよね、これ」

 

天月は他人事のようにサメのヒレをパタパタと動かしており、永夜抄はふっと不敵に口元を和ませていた。

 

「へぇ……。サメの帽子を被った魔法使いに、底の見えないお嬢さん。ただの変わり者かと思ったら、二人揃ってとんでもない化け物だったわけね」

 

霊夢が目を細めて二人を見つめる。この学校では、入学前に行われた武力の実技テスト(百点満点)と知識の座学テスト(百点満点)の合計点によってクラスが決まる仕組みになっており、その基準は全生徒に公開されている。百八十点以上がS、百四十点以上がA、九十点以上がB、五十点以上がC、それ以下がDクラスだ。

 

「……なるほど、そういうことですか。僕は実技が四十七点、座学が四十八点の合計九十五点です。なんとかBクラスに滑り込めた、という感じですね。妖夢さんはどうでしたか?」

 

僕が尋ねると、妖夢は少しほっとしたように微笑んだ。

 

「私は実技が五十二点、座学が四十九点の合計百一点でした。どちらも平均的で、良く言えばバランスが良いみたいです。」

 

「バランスが良いのは強みですよ」

 

僕が言うと、隣の魔理沙が複雑そうな顔で自分の画面を見せてきた。

 

「私は実技が五十六点で、座学が三十八点の合計九十四点だぜ。知識問題がちょっと苦手でよ、完全に実技に助けられたな」

 

「あんたはいつも詰めが甘いのよ」

 

そう吐き捨てた霊夢の端末を覗き込むと、極端すぎる数字が並んでいた。実技は八十八点という驚異的な高得点なのに、座学がわずか六点。合計九十四点でのBクラスだった。

 

「霊夢さん、実技は凄まじいのに、座学が低すぎませんか……?」

 

「文字をたくさん読むと眠くなるんだから仕方ないじゃない」

 

霊夢が膨れる横で、僕は右隣の二人に目を向けた。最高峰のSクラスに君臨する彼女たちの点数は、やはり次元が違っていた。天月がのんびりとサメ帽子のヒレを揺らしながら画面を見せてくれる。

 

「私はね、実技が百点で、座学が九十二点の合計百九十二点。身体を動かす方が得意かな」

 

「実技満点……!?」

 

魔理沙が驚愕で声を裏返した。しかし、真の怪物はその隣にいた。永夜抄が静かに提示した画面には、信じられない数字が刻まれていた。

 

「私はどちらも百点。合計二百点だ」

 

「実技も座学も満点……完全無欠ですか……」

 

僕たちBクラスの四人は言葉を失った。妖夢のバランスの良さも、僕や魔理沙の実技への偏りも、霊夢の圧倒的な武力すらも、Sクラスの二人の前では霞んでしまう。この圧倒的な数値の差こそが、幽香校長の言う「実力」の正体なのだと、私たちは改めて突きつけられていた。

 

……でも、やるしかない

 

僕は小さく、けれど確かにそう呟いた。僕の心臓は今までにないほど激しく脈打っている。講堂のスピーカーから、次に進むための無機質なアナウンスが流れ始めた。

絶望の宣告を受け、分かたれた境界線を前にした新入生たちを置き去りにしたまま、国立妖魔高等学校の過酷な日常が、いよいよその幕を開けようとしていた。

 

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