霊夢とその他達の現代入り 作:知ってたか?霊夢魔理沙妖夢は最強なんだぜ
Bクラスの教室には、入学初日とは思えないほど重苦しい空気が漂っていた。この学校が普通ではないことなど、ここにいる全員が知っている。さっきの校長の話を聞いた後なら尚更だ。ここは怪異と戦うための『退治屋』を育てる学び舎。一般的な高校では考えられないような、過酷な訓練が待っていることくらいは覚悟していた。
だが――これから語られる制度は、刹那覚悟を遥かに超えるものだった。
「改めまして。今年度Bクラスの担任を務める榊原奏よ。これから三年間、あなたたちの学校生活を担当することになるわ。よろしく」
教壇に立つ奏先生は、淡々とした口調でそう告げると、表情一つ変えずに黒板へチョークを走らせた。手慣れた様子でいくつかの単語を書き殴り、解説を始める。
「これから説明するのは、この学校であなたたちが『生き残る』ために必ず覚えておかなくてはならない制度よ」
黒板に書かれた文字は三つ。――【下克上】【決闘】そして【死闘】
「まずは『下克上』から説明するわ。これは一年に一度だけ挑戦できる昇格制度。チーム単位で上位ランクのチームへ戦いを挑み、勝利すればチーム全員が昇格できる」
「つまり、仲間全員で上のランクをぶんどりに行くってことか?」
クラスの男子生徒が身を乗り出すようにして尋ねる。
「ええ、そういうことよ」
「AランクからSランクへ上がる場合も、ですか?」
「もちろん。AからSへの昇格だけは、通常の手段では認められていないわ。この『下克上』を成功させるしか道はないの」
淡々と進む説明を聞きながら、僕の胸には「一年に一度」という言葉が妙に引っ掛かっていた。一度失敗すれば、次の機会は一年後。しかも自分一人の問題じゃない。同じチームの仲間全員の命運まで背負うことになる。そのプレッシャーは想像を絶するものだ。
「次に『決闘』。これは中間試験と期末試験の時期に行われる制度よ。ランクが一つ違う生徒同士が一対一で勝負する。勝利すれば、一つ上のランクへ昇格することができるわ」
「ってことは、BからAには『決闘』で上がれるんだな」
「ええ。ただし、さっき言った通りAからSだけは『下克上』でしか上がれないわ」
「なるほどな、分かったぜ」
納得したように頷く生徒をよそに、先生はさらに試験の具体的な仕組みへと説明を続けた。
「中間試験と期末試験は実技三十点、座学三十点の合計六十点満点。そして、この学校では試験の『一点につき一万円』の報酬が国から支給されるわ」
「六十点なら……六十万円、か」
誰かが息を呑み、小さく呟いた。高校生にとっては大金だ。けれど、僕にはその金額よりも別の事実が恐ろしかった。試験の結果でランクが変わり、それがそのまま学校での待遇に直結する。つまりここでは、日々の授業さえもただの勉強ではない。常に自分の実力を測られ、品定めされ続けるということだ。息が詰まるような緊張感の中、先生の指先が黒板の最後の一文字を指し示した。それを見た瞬間、僕の胸の奥の心音が、嫌な高鳴りを見せ始める。
「そして……最後が『死闘』よ」
教室内から、誰かが小さく息を呑む音が聞こえた。
「死闘は一年に一度、全生徒に課されるわ」
「……全員、ですか?」
不安を隠せない様子で、妖夢が尋ねる。クラスにいる大抵の全員が同じような様子だ。
「ええ。原則として、例外なく全員よ」
先生の返答には、微波ほどの迷いもなかった。まるで明日の天気を予報するかのように、あまりにも当たり前に言い放った。
「そして、この『死闘』は、名前だけの脅しではないわ」
先生はそこで一度言葉を切り、教室中の生徒たちを冷徹な視線で見回した。
「本当に――お互いの生死を懸けて戦ってもらうの」
その瞬間、教室の空気が完全に凍りついた。誰も、そんな話は聞いていない。パンフレットにも、事前の説明会でも、生徒同士で殺し合いをしろなんて一言も書いていなかった。だが、先生の目は冗談を言っているようには見えなかった。拒絶しても、いつか必ず自分の番が来る。
その時は――自らの手で人を殺さなければ、自分が殺される。喉の奥がカラカラに乾き、背中を冷たい汗が伝い落ちていくのが分かった。
「死闘は、決闘とは意味が違う。決闘が実力やランクを競うための制度なら、死闘は自分の命、そのものを懸ける制度というべきね」
静まり返った教室に、乾いた声がポツリと響いた。
「……随分と、物騒な学校だな」
教室の後ろから響いたその呟きを、奏先生は否定しなかった。
「そうね。この学校は普通の学校ではないわ」
遮るもののない静寂の中で、その一言は妙に重く、僕たちの肩にのしかかる。 魔理沙はしばらくの間、じっと黒板の『死闘』という文字を見つめていたが、やがて小さく息を吐き出して口を開いた。
「だったら、死ぬほど強くなればいいだけだろ」
「魔理沙さん……」
妖夢が心配そうにその顔を覗き込む。だが、魔理沙の瞳に宿る光は消えていなかった。
「相手に殺されるのが怖いなら、相手より強くなればいいんだぜ。そして、相手を喰らう。生き残るためには、それしか選択肢はないだろ」
魔理沙の声には、いつもの軽快さがなかった。冗談でも強がりでもない。この学校の本質を瞬時に見抜き、生存のための冷徹なルールを自分に言い聞かせているような、そんな声音だった。 僕は何も言えなかった。魔理沙の言っていることは、残酷なまでに正しい。でも、正しいからこそ、その覚悟の重さが怖かった。
「最後に、チームについて説明するわ」
奏先生の声が、凍りついた教室の空気を現実へと引き戻す。
「チームを組めるのは、同じランクの生徒だけよ。違うランクの生徒と組むことはできないから注意しなさい。そして、一度組んだチームは六年間変更なし。ランクが変わってもね、寮の部屋も、そのチームの仲間と共同生活を送ることになるわ」
――六年間、変更なし。寮も一緒。 僕は隣にいる霊夢、魔理沙、そして妖夢の顔を順番に見た。四人とも同じBクラスだ。ということは、僕たちは――
「だったら、私たち四人で組もうぜ」
僕の思考を見透かしたように、魔理沙が不敵に笑って言った。
「私は構わないわ。見知らぬ誰かと組まされるよりはマシよ」
霊夢が淡々と、けれど拒絶のない口調で同意する。
「私も、皆さんと一緒がいいです。その、心強いですから」
妖夢も少しホッとしたように表情を緩めた。三人の視線が、自然と僕に集まる。僕は彼女たちの真っ直ぐな瞳を受け止め、静かに頷いた。
「僕も、それでいいですが。……ただ、そのですね...」
そこでふと、先生の言葉が脳裏をよぎり、急に気恥ずかしさが込み上げてきた。
「女子三人の中に男一人って、倫理的というか、寮の部屋割り的に色々とアレな気がするんですけど……」
「あら、そんな贅沢な悩みを言う余裕があるなら安心ね」
奏先生が遠くから初めて、フッと口元を皮肉げに歪めて笑った。
「それじゃあ、チームが決まった人から私に伝えてちょうだい」
先生が教卓の上で名簿を開く。それを合図に、教室の中は一気に騒がしくなった。生徒たちが互いに顔を見合わせ、探るように、あるいは焦るように誰と組むかを相談し始める。
僕たち四人も、自然と距離を詰めて顔を見合わせた。
「じゃあ、私たちから最初に言っちまうか?」
魔理沙が促すと、霊夢が少し慎重に、けれどしっかりと頷いた。
「そうね、こういうのは早く済ませるに限るわ」
「よし。じゃあ先生、僕たちは刹那、霊夢、魔理沙、妖夢の四人でチームを組みます。」
僕が代表して声をかけると、奏先生は視線だけで僕たちを捉え、手慣れた手つきで名簿へ四人の名前を書き込んでいった。
「刹那、霊夢、魔理沙、妖夢……。この教室にいる時点で全員Bクラスに決まっているけれど、間違いはないわね?」
「はい、間違いありません」
「分かったわ。これで登録しておく。……次は、そっちの三人組ね」
チームの登録を終えると、奏先生はパタンと音を立てて名簿を閉じ、教室の生徒たちを鋭い視線で見渡した。
「他のチームも登録が終わった人から、これから寮へ案内するわ。手際よく済ませなさい」
その言葉を合図に、教室のあちこちからガタガタと椅子を引く音が響き始めた。まだどこかギスギスとした空気が残る中、僕たちもそれぞれの荷物を手にして席を立つ。
「寮、か……。一体どんなところなんだろうな」
魔理沙がカバンを肩にかけながら、興味深そうに呟く。
「この学校の施設なんだから、まず普通の寮であるはずがないわ。過酷な訓練に耐えうるだけの、監獄のような場所かもしれないけれどね」
「監獄って……霊夢、縁起でもないこと言わないでよ」
僕が苦笑いしていると、妖夢が不安げに眉をひそめて僕たちの顔を見回した。
「あの、やっぱり怪異への対策なんかも施されているのでしょうか。寝ている間に襲われたりしたら……」
妖夢の言葉に、僕の背中にも小さな悪寒が走った。確かにその通りだ。この学校全体が巨大な壁に囲まれていること自体が、ここが安全圏ではない証拠なのだから。
「寮については移動しながら説明するわ。全員、私に付いてきなさい」
奏先生がヒールの音を響かせて教室を出ていく。僕たちもその後に続き、他のBクラスの生徒たちと一緒に廊下へ足を踏み入れた。
長い廊下には、僕たちと同じように教室から吐き出されてきた生徒たちの姿が溢れていた。だが、彼らの胸元にあるバッジの色はバラバラだ。Sクラス、Aクラス、そして僕たちより下のCやDクラスの生徒たち。彼らは一箇所に集まることなく、それぞれ別の方向へと誘導され、移動している。徹底してランクごとに行動を分けられているのが、見ていて少し不気味だった。
「寮は学校敷地内の東側にあるわ。全生徒がそこで暮らすことになっているから、そのつもりでいなさい」
奏先生が前を歩いたまま、声を張り上げて説明を続ける。
「あの、外から通うこと……つまり、自宅から通学することはできないんですか?」
妖夢が小走りで先生の背中に追いつき、尋ねる。
「原則として一切認められていないわ。この学校では授業だけじゃなく、寮での共同生活、そのすべてが『退治屋』としての教育の一部だからよ」
「なるほどな。寝食を共にしてチームの絆を深めろってわけか」
魔理沙が納得したように頷くのを横目に、僕は廊下の大きな窓から外へ視線を向けた。校舎の向こう側、はるか遠くに、天を突くような巨大な灰色の壁がそびえ立っている。あの壁の向こうには、昨日まで僕が暮らしていたはずの普通の街が広がっているはずだ。なのに、ここから見上げる壁は、まるで僕たちを二度と外へ出さないために作られた檻のように見えて、胸が締め付けられる。
「それと、妖夢の懸念についてだけれど、寮には最高峰の怪異対策が施されているわ。防護結界や迎撃設備もあるから、この校舎と同じく、最低限の安全性は確保されていると思っていいわ」
「最低限、ですか……」
「この学校に『絶対に安全』という場所なんて存在しないからよ」
奏先生は前を向いたまま、氷のように冷たい声で答えた。 その言葉に、妖夢の表情が恐怖で小さく強張る。だが魔理沙は逆に、獰猛な獣のように面白そうに唇を歪めて笑った。
「相変わらずゾクゾクする学校だぜ」
四人でそんな会話を交わしながら歩みを進める。やがて無機質な校舎を抜けると、目の前に圧倒的な存在感を放つ巨大な建物が見えてきた。 それが、僕たちがこれから暮らすことになる寮だった。 校舎と同じように、周囲を威圧するような重厚なコンクリート造り。その外壁には、幾重にも張り巡らされた電子結界の発生装置や、怪異を迎撃するための禍々しい設備が等間隔で設置されている。
要塞のようなその姿を見上げながら、僕は細く長い息を吐き出した。 今日から、ここが僕たちの『家』になるんだ。 この閉ざされた世界で授業を受け、過酷な訓練に耐え、仲間と泥をすすりながら過ごす。
そして――いつかは、自らの手で人の命を奪わなければならない日が来る。 普通の高校生が送るはずの、眩しくて穏やかな青春。そんなものは、ここには最初から用意されていない。
それでも――否応なしに、僕たちの三年間はここから始まってしまう。時間は、決して待ってはくれない。
「着いたわ。ここがBクラスの寮よ」
奏先生がピタリと足を止める。僕たちは一歩前に出て、目の前にそびえ立つ巨大な鉄の扉を見上げた。
「……へえ、想像以上にデカいじゃねえか」
魔理沙がカバンを肩に担ぎ直し、不敵に呟く。
「三年間もお世話になる場所なんだから、文句を言ってないでちゃんと目に焼き付けておきなさいよ」
霊夢がそう言って、迷いのない足取りで寮の入り口へと歩き出した。
「はい、霊夢さん。置いていかないでください!」
妖夢も慌ててその後に続いていく。 僕は二人の背中を追いかけながら、もう一度だけ、重苦しくそびえる要塞のような寮を振り返った。 冷たい風が、僕の頬を撫でて通り過ぎていく。 ここが、僕たちの新しい生活の、そして生き残るための戦いの始まりだった。