霊夢とその他達の現代入り 作:知ってたか?霊夢魔理沙妖夢は最強なんだぜ
重苦しい鉄の扉をくぐり、僕たちが北の「寮エリア」に足を踏み入れた瞬間、ドッと鼓膜を劈くような騒音が押し寄せてきた。
「おい! 売店に新しい武器のカタログ届いてたぞ!」
「今日の座学、マジで意味わかんねえ。明日の中間試験詰んだわ……」
ロビーは、眩暈がするほど大勢の生徒たちで膨れ上がっていた。およそ1,500人もの人間がひしめき合う空間。売店の袋を抱えて笑い合う者、ソファに座ってゲームに興じる者、雑談しながらエレベーターに乗り込む者――そこにあるのは、どこにでもある普通の、あまりに賑やかな学生生活の光景だった。これから始まる厳しいカリキュラムに、少しだけ身が引き締まる。
「私の案内はここまでよ」
ロビーの喧騒の真ん中で、奏先生がキリッとした表情で振り返った。壁に設置された巨大な学園都市の立体地図を指し示す。
「各自、割り当てられた部屋へ行く前に、ここでこの学校の『全貌』を教えてあげるわ。明日からのオリエンテーションを前に、この学園都市の構造を頭に叩き込んでおきなさい。しっかり聞きなさいよ」
先生の指先が、地図の右側――僕たちが昼間いた校舎の場所をなぞる。
「まず、東側は『学術・正門エリア』。あなたたちが普段、座学や専門知識を学ぶ校舎が並ぶ場所よ。外界とこの学校を繋ぐ唯一の正門もここにあるわ。ここでの座学試験は成績に応じて相応の奨学金が出るから、精々頭を使いなさい」
次に、指先が左側の、派手なマークが密集する場所へと滑る。
「次に西側が『商業・娯楽エリア』。授業時間外は、この学校は至って『普通』よ。生徒のリフレッシュのために、娯楽はいくらでも用意してあるわ。そして、そこにある『購買部』。ここで試験の報酬を使い、次の実技に備えた各種ツールやウェアを買い揃えるのよ」
「だけど、一番忘れてはならないわ」
――先生の声のトーンが、一段と真剣になった。その指が、地図の最下部――広大な敷地を、パチン、と硬い音を立てて叩いた。僕たちの視線が自然とその場所に集中する。
「南側、『超広大実技エリア』。この学校で最も物々しい、本格的な実技・訓練専用の空間よ。評価試験や演習はすべてここで行われるわ。商売も娯楽もここにはない。そして……一対一の技術査定である『決闘』、チーム単位で上位ランクを奪い合う『下克上』。それだけじゃないわ。一年に一度、あなたたち全員で殺し合いをする――『死闘』も、すべてこの南のエリアが舞台となるわ。まぁ、大規模とは言っても、広い森と砂漠のような演習場が広がっているだけだけれど」
最後の、あまりにも軽い台詞が、逆に今後のカリキュラムのスケールの大きさを物語っていて緊張感が走る。妖夢が小さく息を呑む音が聞こえた。僕の背中を、一筋の緊張の汗が伝い落ちていく。南のエリアだけは、ただの地図のはずなのに、見つめているだけでその広大さと圧倒的な存在感に気圧されそうな錯覚を放っていた。
「最後に、今あなたたちがいる北側が『居住寮エリア』よ。1,500人もの生徒が完全全寮制の共同生活を送る巨大な施設だわ。夜間や放課後はこうして大勢の生徒たちで普通に賑わい、笑顔や雑談が飛び交う場所。ハードなカリキュラムの合間の、あなたたちの唯一のリフレッシュの場よ。……東で学び、西で備え、北で休み、南で競い合う。これがこの学園都市のすべてよ。今日のところは、このまま解散とするわ。せいぜい、今夜は初日の休息をゆっくり楽しんでおきなさい。明日、日の出とともに、東のエリアでオリエンテーションをするわよ」
先生はそれだけ言い残すと、コツコツと小気味よいヒールの音を響かせながら、賑やかな人混みの中へと溶けるように消えていった。
残された僕たち四人は、割り当てられた『B-04』号室へと向かった。鉄製のしっかりとした扉を開けて中に入ると、そこは想像していたよりもずっと広々とした、すっきりとした機能的な空間だった。
「へえ、結構まともな部屋じゃない」
霊夢が重いカバンを机の上に置き、品定めするように部屋を興味深そうに見回す。部屋の奥には、妙に頑丈そうな木製の二段ベッドが二つ設置されていた。さらに、先に奥を探索していた魔理沙が
「風呂とトイレ、めちゃくちゃ綺麗だぜ!」
と声を張り上げる。覗いてみると、そこには最新式の独立型バスルームと、徹底的に清掃された清潔感のあるトイレが備わっていた。部屋の荷物整理が一段落し、ふっと一息ついた頃。魔理沙がニカッと明るい笑みを浮かべて提案した。
「なあ、せっかく初日は解散になったんだ。さっき先生が言ってた西側のエリアに行ってみないか?」
「……私はパス。移動だけで結構疲れたわ。明日のために体力を温存させてもらう」
霊夢はすでに下段のベッドに寝そべり、面倒くさそうにひらひらと手を振る。結局、留守番の霊夢を置いて、僕と魔理沙、そして妖夢の三人は再び部屋を出て、広大な中央通路を西へと歩き出した。
西の「商業・娯楽エリア」に一歩足を踏み入れた瞬間、僕たちはそのあまりの『普通さ』に拍子抜けして、思わず肩の力が抜けた。明るいネオンサインが至る所で瞬き、クレープの甘い匂いや、ファストフードの香ばしい油の香りが鼻腔をくすぐる。ゲームセンターや映画館、普通の学生が放課後に立ち寄るようなカフェやコンビニがずらりと並び、先輩たちが楽しそうに笑い合っている。ここだけ見れば、本当にただの平和で活気のある街だ。
「おい、二人とも! 一番の目的の場所に行くぜ!」
魔理沙に腕を引っ張られて進んだ先に見えてきたのは、全面ガラス張りの大きなショップ――『WEAPONS』だった。店内は白を基調とした、まるでブランドショップのように明るく洗練された内装で、優しそうな店員のお姉さんが笑顔で迎えてくれた。けれど、ショーケースの中に並んでいるのは服や宝飾品ではない。洗練された美しいフォルムの日本刀や、圧倒的な存在感を放つ大型ブレード、そして精密な造りの魔導銃が、まるで美術品のようにスタイリッシュにディスプレイされている。
「この大剣、あたしの体格でも扱いやすそうだな! 早く自分の成績を上げて手に入れたいぜ。……なぁ、明日からさっそくポイントって貰えるのか?」
魔理沙がガラスに顔をくっつけんばかりに目を輝かせる。
「私はやっぱり、使い慣れた刀のバリエーションが気になりますね。あちらの軽量型の真剣、とても刃紋が綺麗です……でも、ポイントが貰えるのって試験の後って言ってましたよね? それまで一ヶ月間、学食も利用できなかったらどうしましょうか……」
妖夢が真剣な表情のまま、急に現実的な心配をして胃のあたりを押さえた。その様子がおかしくて、僕の口元から自然と笑みがこぼれた。ハイレベルなカリキュラムが待つ学校ではあるけれど、この賑やかな西側エリアには、僕たちの『普通の青春』も確かに存在していた。この温もりがあるからこそ、明日からのハードな毎日に全力で立ち向かえるのかもしれない。僕たちはしばし、ショーケースに飾られたツールの美しさに魅了されていた。
「いらっしゃいませ。明日からの授業に向けて、下見かしら?」
ショーケースを覗き込んでいた僕たちに、カウンターの奥から店員のお姉さんが品のある笑顔で声をかけてくれた。その胸元には、学園の支給品とは違う、精巧なバッジがピンと留められている。
「お姉さん、この学校のツールってどういう仕組みになってるんだ? あたしらのポイントで何でも買えるのか?」
魔理沙が身を乗り出して尋ねると、お姉さんは「いい質問ね」と人差し指を立てた。
「このショップで扱う装備は、大きく分けて二つ。近接用兵装と、遠距離用兵装よ。ここまでは一般的な専門機関と変わらないわ。……だけど、この学校が他と決定的に違うのは、その奥にある特殊装備ね」
お姉さんはそう言って、ショップの最奥、厳重なセキュリティがかけられた一角を指差した。そこには、これまでに見たこともないような、圧倒的な存在感と洗練されたオーラを放つ大型の鎌がディスプレイされていた。見つめているだけで、その完成度の高さに圧倒されるような感覚に襲われる。
「――『E.G.O』そう呼ばれる特殊な装備よ」
「E.G.O……?」
妖夢がその言葉をなぞるように呟く。僕の視線も、その異様なまでに美しい装備に釘付けになっていた。
「ええ。あなた達も知っているでしょう、誰もが憧れる26の翼のうちの一つの巨大企業――『ロボトミーコーポレーション』が、人間の精神から生み出された存在『幻想体』通称:アブノーマリティから抽出した、概念としての装備よ。使用者の精神と共鳴して、規格外の力を引き出すことができるわ。ただし、装備そのものの出力が非常に高いから、精神面や技術が未熟な者が扱えば、制御しきれずに自分自身の負担になってしまうの最終的には死を迎えるわ...」
お姉さんの声からスッと笑みが消え、真剣な眼差しが僕たちを射抜く。
「だからこそ、これらは明日からの実技試験で相応の成果を出し、高いランクと十分なポイントを得た生徒にしか販売できないの。……あなたたち、安全に使いこなしたければ、まずは自分の身の丈に合った標準的な鉄製のツールから選びなさいね? あっ、言い忘れていたけれど、これはSランクの資格がないと購入できないわ。最低でも10万ポイント、最高で200万ポイントは必要だから、今の段階ではまだ手が届かない最高峰の装備よ」
再びお姉さんは優しい微笑みに戻ったけれど、その言葉の重みに、僕の胸には程よい緊張感が走った。近接、遠距離、そして最先端企業がもたらす『E.G.O』。僕たちがこれから手にし、技術を磨いていくことになる「装備」の全貌が、少しずつ見えてきた気がした。この活気あるエリアの温もりがあるからこそ、明日からのハードなカリキュラムにも全力で立ち向かえるのかもしれない。僕たちはしばし、ショーケースに飾られた武器の美しさに魅了されていた。