すべきことを尋ねるライコスに対して、穹が気になることを聞いた。
「俺と一緒に来た、丹恒の行方を探してほしい。急に消えちゃって……キュレネによると、記憶の力を使われて連れ去られた、とか……」
「なるほど、少々お待ちを……丹恒さんは確かに、ここに来ています。しかし、座標データが巧妙に隠蔽されていますね。記憶の力を使われたというのは嘘ではないようです」
「どこにいけば会えるか教えてくれ」
ライコスがそれに対して、すぐに答える。
「丹恒さんの最終座標地点へと送信しましょう。そこから探してみてください。あと、もう一つ……あなた達の仲間である三月なのかさんも、ここに来ているようです。座標データはわかりませんが、最終座標は丹恒さんと同じです」
「そうなのか!? なのもここに……でも、どうして来てるんだ?」
「見つけ出して本人に聞いてみよう、相棒」
それからライコスに転送された場所は……暗黒の潮に飲まれ、紫の水晶に包まれた神悟の樹庭だった。
「ここに来てたのか……でも、なんでこんなところに?」
「やっと逢えたね、愛しの穹……そして、その相棒さんにもね♭」
「ッ、相棒!! 下がって!!」
ファイノンが穹を庇うように立った。そこにいたのは、なのかにそっくりな女の子……長夜月だ。
「なの……いや、違う。誰だ?」
「アタシはあの子の中にいた存在……とりあえず、長夜月って呼んでよ」
「長夜月、丹恒をどこにやったんだ? 三月さんを返せ!!」
そう言われて、長夜月は笑いながら言った。
「あの子を返せって? ふふっ、そう言われても……アタシを呼んだのはあの子なんだけどな」
「なんだって? どういう意味だ? 丹恒はどこだ!?」
「丹恒ならこの先にいると思うよ。抵抗するから閉じ込めたけど……会いたいなら進んでみたら? まぁ、会えるとは限らないけど。それじゃ、また会おうね」
そう言って、長夜月は姿を消した。
「消えた……あいつ、丹恒になにしたんだ!? 無事じゃなかったら、タダじゃおかない!!」
「どうなっているにせよ急ごう、相棒!!」
「暗黒の潮の造物……邪魔だ!!」
もう相手取るのにも慣れてきた。穹だけでも、造物たちでは相手にならない。
「流石だね、相棒!!」
「ファイノンもな!!」
「……さて、ここまで来たけど、ここから先は行き止まりか」
会いたいのなら先に進めと、そう言っていた。しかし、ここから先は隔離されている。どうしたものかと悩んでいると……ファイノンが変身して、言った。
「多分ここだな……相棒、危険だから下がっていてくれ」
「え、何するんだ?」
「進めるようにするのさ!!」
そう言って、浮き上がる。カスライナの胸の中から、眩しい光が吹き出して……それを一点に集中させて、山めがけて放つ。
「……はぁぁぁっ!!」
「す、すごい!! 今度はビームだ!!」
「ふぅ……なんとかなったね」
壁には大穴が空いている。その先に道ができていた。またその影響なのか、木の穴の中から光が溢れてきている。
「あれは……なんだろう?」
「この感じは……火種か? 見に行ってみよう、相棒」
「光が強くなってきてる……これ、もしかして!!」
穹もファイノンも、それを察したらしい。その穴の中にいるのは丹恒だ。穹は穴の中に手を入れて、伸ばす。
「こっちだよ、丹恒!! 来て!!」
『聞こえているのか? 聞こえているなら、俺と一緒に唱えてくれ』
「……挙一明三」
「君命無二……」
穹とファイノンが、一緒にそれを唱える。
『一意……』
「専心っ!!」
「……ありがとう、穹、ファイノン。助かった」
そこから出てきたのは、間違いなく丹恒だった。しかし、その姿や雰囲気は大きく変わっている。
「丹恒、それは……大地の火種だよね?」
「あぁ……話すと少し長くなるが、構わないか?」
「いいよ、今まで何してたか聞かせて? 俺たちも話すからさ」
丹恒は語った。長夜月に穹といきなり引き離されたことを。何故なのかと聞くと、『ルパートを倒さず、永遠に封印するため』だと答えたという。意味がわからないと言って、戦おうとしたらあそこに閉じ込められたらしい。そして、同じく閉じ込められていた山の民ジオクロスと、荒笛に出会い……荒笛とジオクロスの意思を受け継ぎ、大地の半神となったらしい。それを聞いた穹とファイノンも、これまでの出来事を語った。
「……俺がいない間に、苦労をかけたな。特に穹、お前は随分成長した」
「えっ、どうして? 俺、一人じゃなんにもできなかったし……」
「だからこそだ。その人に合わせて柔軟な対応ができるようになっている。開拓とは探索、理解、構築、そして連携だ。それが自分でできている。立派になったな」
丹恒に褒められて、穹はいい気分だった。
「なんだよ、照れるじゃん……ありがとう」
「再会をもう少し噛み締めたいけど、三月さんの奪還がまだだ。喜ぶのはそれからにしよう」
「あぁ、そうだな。進もう、穹……ファイノン、お前は後ろで休んでいるといい。攻撃は、俺が受け止める」
「……そうだね、気遣いに感謝するよ、丹恒」
ファイノンは二人の後ろを歩くことになった。途中で天穹要塞にもあった、縦の∞のマークがあり……そこからさらに降りていくと、不思議な場所に辿り着いた。
「なんだ、ここ……ファイノン、何か知ってる?」
「多分、オンパロスのコアの部分だろう。実際に来たことはないから、内装はわからないけど……」
「未踏の地というわけか。問題ない」
そのまま先に進んでいくと……誰かの声が聞こえてきた。その人物に、ファイノンは見覚えがあった。
『さて、今日はなんのお話を読みましょうか……』
「キュレネ……? 彼女がどうしてここに?」
「え、キュレネ? あれが?」
穹との認識の食い違いに、ファイノンは首を傾げる。
「キュレネはあの姿のはずだけど……相棒の知っているキュレネは違うのかい?」
「うん、もっと背が高くて……髪が長くて、白い服着てて……」
「考察はあとにしよう、今ここで考えても仕方がない」
丹恒にそう言われて、先に進んでいく。紡がれた物語を差し込むと、装置が動いて鍵が開いていく仕組みのようだ。先に進む度に、ファイノンの知る『キュレネ』が出てくる。
「ここは一体、どういう場所なんだ? それに、誰と話しているんだろう……もしかして、キュレネが言っていた『あの子』と関係があるのか?」
「なるほど、紡がれた物語は『記憶』で加工された情報端末なのか。急に出てきて驚いたが、それなら合点が行く」
「……そろそろ最後の場所だな」
輪廻の中で死んでいったキュレネ達の遺体が、記憶としてあちこちに転がっている。その中を穹達は進んでいった。そして、最深部にて……
「見つけたぞ、長夜月!!」
「意外と早かったね、三人とも」
「三月さんは返してもらう!!」
ファイノンが剣を、丹恒が槍を、穹がバットを構えた。それを見ても長夜月は笑っている。
「まぁ、戦う前に話を聞いてよ。アタシは何も、銀河の脅威を放っておこうってわけじゃないの。むしろ逆、倒してしまったら最後……この銀河は、記憶に利用されてしまう」
「……どういう意味だ?」
「ここにいたあの子、キュレネの記憶を見てきたでしょ? 彼女はずっと、なにかに向かって話しかけていた。それに不思議だと思わない? あなた達の話を聞いてたけど、いつの間にキュレネはデータである人間を、それも火種の塊のファイノンを外に逃がすような芸当ができたと思う?」
ファイノンと丹恒はまさか、という顔をしているが……穹はわかっていない様子だ。
「キュレネは記憶の力を使っていた……彼女は記憶の使令だったと、そう言いたいのか?」
「丹恒、大正解。そして浮黎はその見た目同様、冷酷な星神……自分のために動く。其の目的は宇宙に記憶の種をばら撒くこと。つまり、ここは浮黎の為の畑にされてるってことだよ。キュレネは、そのために利用されてただけ……その証拠にデミウルゴスなんて、どこにも……」
「なに言ってるんだ、キュレネがそんなことするわけないだろ!?」
穹の叫びに、その場の全員が振り向く。
「……アタシは今、キュレネの話じゃなくて浮黎の話をしてるの。あいつは、鉄墓が知恵を滅ぼすと同時に、記憶を宇宙中にばら撒くつもりだったけど、それはヘルタによって失敗した。だから第二プランとして……ルパートが倒されて、セプターが崩壊する時にタイミングを変えたんだよ。だからここは、永久凍結しないといけない。浮黎の好きにさせない為にも、あいつを倒されちゃ困るの。わかった?」
「だから俺を閉じ込めたのか……」
「全然違うぞ、だって浮黎はキュレネだろ!?」
その発言を受けて、その場の全員が固まった。長夜月の顔からも微笑が消えている。
「……キュレネは浮黎の一瞥で記憶の力を使えるようになったんじゃ」
「違うって、俺に一瞥をくれたのもキュレネなんだ!! 浮黎はここには来てない!!」
「……え?」
長夜月は何が何だかわからず、首を傾げている。そこで丹恒とファイノンが尋ねた。
「詳しく説明してくれ。キュレネから何を聞いたんだ?」
「旅のことは聞いていたし、相棒からキュレネが助けてくれたとは聞いたけど……一瞥で助けたというのは、どういうことだい?」
「そっか、みんな知らないのか……キュレネは物語のテクスチャを貼り付けて、俺達を救ってくれたって言ってただろ? あんなことができたのも、浮黎としての権能があったからだと思う」
それを聞いて、長夜月がなおも食い下がる。
「だから、それは浮黎の一瞥で使令になってたからなんじゃ……」
「違う、絶対違う。というかあそこにいたキュレネと、俺の知ってるキュレネは違うし」
「さっきから言っているが……そのキュレネというのは誰なんだ?」
丹恒が尋ねると、穹は一番とんでもない事実を言った。
「あ、そっか、キュレネって言うからわかんないんだな。ミュリオンのことだよ、キュレネは」
「なにっ!?」
「えぇっ!?」
「……は?」
穹以外の全員、信じられないという顔をしている。そりゃそうだろう、小さなピンクの妖精が背の高い女の子になったなんて、信じられるはずもない。
「俺も信じられなかったけど……ホントなんだよ。命を賭けて俺を助けてくれて、死んじゃったから……もう二度と会えない」
「アタシの……というか、記憶の勢力であるガーデン・オブ・リコレクションの認識そのものと食い違ってる。どういうこと?」
『それについては、私から説明をさせていただきます』
そこに現れたのは、スクリューガムだった。アンカーを通じて通信してきたらしい。
「スクリューガムさん、来ていたのか?」
『丹恒さん、無事で何よりです。結論から言ってお二人の認識は、どちらも間違っていません』
「えっ? それじゃ長夜月の言う通り、ルパートを倒したらダメなのか?」
穹の問いに対して、スクリューガムは否定を返した。
『いいえ、倒すのは決定事項です。ですが長夜月さんの言う、浮黎の世間的な認識については概ね間違っていません。そう思われるのも当然です、今現在、浮黎は存在していないのですから』
「……存在しない? まさか隕落したっていうの?」
『それも違います。浮黎はまだ、誕生すらしていません。遥か遠方に観測できる其の姿は、記憶の塊が一点に集まってそう見えているだけ。そして未来から現代に一瞥をした浮黎は、浮黎となる資格を持つ者……無漏浄子によるものだと考えています』
それを聞いて、長夜月が言った。
「無漏浄子? じゃあ、穹の言うことがホントだとして……未来からあの妖精、もといミュリオンが一瞥をしたってこと? あれがなのかと同じ無漏浄子だっていうの?」
『肯定:そうである確率は99.86%です。其が未来から一瞥をする、特別な星神である以上……ここで一瞥をできる候補は二人。三月さんか、キュレネさんです。しかし三月さんは、まだ記憶の力を使いこなせていない。よって、候補は一人に絞られます』
「つまり、其は誕生しておらず……穹に一瞥をしたのはミュリオン……もといキュレネで、キュレネは未来から俺達を見ていたのか?」
その結論が出て、その場がしんと静まり返る。最初に口を開いたのは長夜月だった。
「どうやら……アタシの言ってることも、なのかの憎き敵が言ってたことも、大間違いだったみたいだね。アタシ、とんでもない早とちりをしてたんだ。あはは、笑えるね♭」
「わかったなら、なのに体を返してくれ」
「うん、返すよ。その前にちょっとだけ、最後に仕事させてね」
そう言って、地面から金色の箱のようなものが突き出してきた。それを赤いクラゲが囲いこんで爆破する。
「ぐぉあぁぁぁぁ!?」
「これでよし。本当は、この中に入ってるやつで戦うつもりだったんだけど、必要なくなったからね。あの子にあんなの見せたくないし」
「どんな見た目だったんだろう、逆に気になるな……」
ファイノンがぼそりと言いつつ、長夜月は穹達になのかを任せて、力を全て譲渡してから帰っていくことになった。
「ふふっ、あの子はいい仲間を持ったね」
「……長夜月?」
「ん、あれ? ここどこ? ウチ、今まで何して……えっ、みんな!?」
なのかはいきなり未知の場所に放り出されて、困惑している。三人は安心して、近づいてきていた。
「なの、よかった!! また会えて……!!」
「三月……無事でよかった。あとでゆっくりと話を聞かせてくれ」
「痛いところはないかい、三月さん?」
「だ、大丈夫だから、みんな近いって……!!」
スクリューガムはそれを見て、四人に言った。
『三月さんも、ご無事で何より……ですが、再会を喜ぶのを、どうやら待ってはくれないようです』
「えっ? まさか、それって……」
『はい。ルパートが完全に目覚めようとしています。外部からは、エネルギー吸収シールドを破れない限り攻撃できません。リュクルゴスにも全力で協力させますが、戦いそのものは皆さんに頼るほかありません』
それを聞いて、全員が気合いを入れた。
「みんな揃ったんだ、もう何も怖くない!!」
「そのセリフ、なんか怖い……でも、そうだね!! ウチらに怖いものなんてなんにもないよ!!」
「あぁ、俺達なら必ず勝てる。姫子さんやヴェルトさんに、俺たちの成長を見せつけてやろう」
「キュレネとの約束を果たして、みんなの想いを継いでいくためにも……必ず勝ってみせる!!」
こうして決意を新たにしながら、スクリューガムに案内されて、一同はルパートの元へと歩いていくのであった。