何故か最初からいるファイノン世界線   作:とも667

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昨日は明日に

その頃、列車内では。ファイノンが、穹のことを心配していた。あまりにも帰りが遅いのだ。

 

「相棒……遅いなぁ。どうしたんだろう」

 

「ミュリオン……キュレネとの話が長引いているんじゃないか?」

 

「いや、それにしたって遅いよ。迎えに行った方が……」

 

 ファイノンはそう言っているが、丹恒や他の人たちはやけに楽観的だった。違和感を覚えているのは、ファイノンただ一人。そこで姫子が言った。

 

「もしかして、あの子のことだし……帰ってきてるけど、どこかに隠れて驚かそうとしてたりするのかもしれないわね」

 

「あー、ありそう!! 驚かされる前に見つけないとね!!」

 

『みんなはこんな反応、するかな……? もう少し心配してもいいような気が……』

 

 ファイノンは違和感を感じながらも、列車内を探した。しかし、どこにも穹はいなかった。最後になのかと丹恒とファイノンが辿り着いたのは……穹の部屋だった。

 

「あれ? 部屋の電気切ってる……寝てるのかな?」

 

「疲れているのかもしれないな、起こさないようゆっくり入ろう」

 

「入るよ、相棒……ッ!?」

 

 穹の部屋は埃だらけの、倉庫になっていた。いや、戻っていたという表現が正しい。まるで最初から誰もいなかったかのように。

 

「あれ? ここって、穹の部屋だったよね? なんで倉庫になってるの?」

 

「ここまで大掛かりなことをやっていたなら、物音がするはずだが……」

 

「やっぱりおかしい。一体なにが起きてる……?」

 

 三人が部屋を探索していると、なのかが一冊の本を見つけた。紡がれた物語だ。それを知らないなのかは、二人に尋ねることにした。

 

「ねぇ、これなに? 日記帳かな?」

 

「紡がれた物語……何故ここに? 相棒はこれを、肌身離さず持っていたはずだ」

 

「なんか書いてあるかも、開けてみよっと!!」

 

「おい三月、迂闊に開け……」

 

 その本を開いた瞬間、部屋に眩しい光が満ちた。三人が目を開けた時には……永遠の1ページの中にいた。展望台、星空が見える場所だ。

 

「ここは……どこだ? さっきまで、相棒の部屋にいたはずなのに……」

 

「……俺たちはどうして、あんなに楽観的だったんだ? 明らかにおかしいのに、危機感を感じていなかった」

 

「ウチもだよ、なんかおかしくない……?」

 

 二人が自分達の異常に気がついた。それにまだ異常はあった。下から音が聞こえてくる、ガリガリと強く引っ掻くような音。

 

「なに、この音……どこから出てるの?」

 

「俺が先頭に立とう。みんな、警戒しておけ」

 

「僕も隣に立つよ、丹恒」

 

 ファイノンと丹恒を先頭にして歩き出す。階段を降りた先にあったのは、美しい大きな広場と……もういないはずの、オンパロスの人々だった。

 

「やっと来たか、救世主。ずいぶん遅かったな」

 

「なっ……モーディス!? どうしてここに……!?」

 

「どうしてここにも何も……お前たちがオンパロスを救ったんだろう?」

 

 全員、意味がわからなかった。ルパート3世を倒しはしたが、みんなはもういないはず。オンパロスを救うことはできなかったはずなのに。

 

「ちょっと待って!? ウチら、ルパートを倒したけど……オンパロスはもう、消えちゃったあとなんじゃないの!?」

 

「どうやら、僕たちとお前たちの認識は根本的に異なるようだな……」

 

「教えてくれ。何があったんだ?」

 

 丹恒が尋ねると、ケリュドラが話してくれた。

 

「お前たち星穹列車は、ルパートに侵食され滅びかけのオンパロスに来た。無名の英雄と共にな。そしてルパートを倒し……キュレネと協力してこの場所、永遠の1ページを作った。そして今、残滓からオンパロスが新生するのを待っているのだ」

 

「……待ってくれ、カイザー。無名の英雄というのは誰だい?」

 

「何者なのか、誰も覚えていない。お前たちも何も話さなかったし、気がついてすらいなかった。お前たち三人と、そいつしかオンパロスには来ていない」

 

 三人もそこで違和感に気がついた。穹の話題がいつまで経っても出てこない。

 

「待て、穹という男が来たはずだ。灰色の髪をした、俺たちの仲間なんだが……知らないのか?」

 

「全く知らないな、そんな男はこのオンパロスに入ってきてすらいない。誰も会ったことはない」

 

「そんなはずない、僕と一緒にいたはずだ。僕の隣にずっといたのに、気づかないわけ……」

 

 三人は嫌な予感がどんどん膨れ上がっていた。そこで、ヒアンシーが言った。

 

「あ、そういえば……キュレたんも同じようなことを言ってましたよ。なんか、急いであっちの方に走っていきました。あなた達なら話を聞いてあげられるかも」

 

「キュレネ……そのキュレネはトリビーくらい小さいほうか? それとも、大きいほうか?」

 

「え? 多分大きいほうかと……」

 

 ミュリオンのことだ。それに気がついて、三人が走る。ガリガリいう音が止まらない、それどころか大きくなっている気さえする。

 

「ミュリオンがこの先にいるんだね? わかったよ、感謝する!!」

 

「警戒しろ、何があるかわからない」

 

「キュレネと穹、大丈夫かな……ホントにどうしたんだろう? ウチらもなんか変になってたし」

 

 そう言いながら、走っていくと……そこには想像を絶する光景が広がっていた。

 

「なっ……!?」

 

「な、なにこれ……!?」

 

「壁の文字が……ひとりでに消えていっている? どうなっているんだ?」

 

 壁一面に文字が刻まれていた。その全てが穹のことに関するもの。髪の色から癖、好きなものや性格など……事細かに書かれた全てが、みるみるうちに消えていく。それを刻んでいるのは……目の前にいる、キュレネだった。必死でペンを持ち、ガリガリと壁に文字を刻んでいる。地面には壊れたペンが何十本も転がっていた。

 

「な、なにやってるの、キュレネ!?」

 

「……聞こえていないようだ、相当必死らしいな」

 

「ミュリオン、落ち着くんだ!! そんなことをしても、何も意味は……」

 

「邪魔しないでッ!!!」

 

 キュレネが絶対に出さないような、怒りと焦りの籠った叫びが響いた。それを受けて、三人とも思わず怯む。

 

「落ち着いてくれ、キュレネ。俺たちはなにも、無理やりそれを止めさせにきたわけじゃない。話を聞かせてほしいんだ、穹のことを」

 

「ッ……!!」

 

「あっ、ペン……落としたよ、キュレネ……え!?」

 

 ペンを差し出そうとしたなのかは、キュレネの顔を見て驚愕した。キュレネは大粒の涙を流して泣いており、目の下がすっかり赤くなっていた。ペンを握っていた手の皮は剥けて、血が出ている。涙は止まらず、キュレネはその場に蹲って子供のように泣きじゃくり始めた。

 

「うぅっ、ひっぐ……!! うわぁぁぁぁぁんっ!!!」

 

「キュ、キュレネっ……!! どうしたの、そんなに泣いて……!?」

 

「ミュリオン、急がなくていい。ゆっくり話してくれ、相棒に何があったか……知っている範囲で、教えてほしい」

 

 ファイノンがそう言うと、キュレネは泣きながらもなんとか話しはじめた。

 

「穹がっ、穹が……この世界から、消えちゃったの……!!」

 

「世界から消えた……? どういう意味だ?」

 

「わからない、でも……紡がれた物語の穹のページが、丸ごと白紙になってる……記憶で作られたこの物語を改変することはできない……できないはず、なのに……!!」

 

 そこに落ちていた紡がれた物語を開く。キュレネの言う通り、ページの内容がまるごと消滅していた。

 

「……相棒の身に、一体なにが?」

 

「わからない、わからないけど……穹との繋がりが感じられない……ただどちらかが死んだだけじゃ、繋がりは絶対切れないのに……」

 

「とにかく、俺も何かまずい気がする。早くスクリューガムさんに連絡しよう」

 

「ウチは……キュレネのこと見てるよ」

 

 なのかがキュレネに寄り添う。そして、二人は永遠の1ページ内から、スクリューガムに連絡をした。

 

『……なるほど。原因は不明ですが、確かに奇妙な状況です。すぐにリュクルゴスに指示して、調べさせましょう』

 

「お願いするよ、スクリューガムさん」

 

『すぐに結果は出ると思いますので、少々お待ちください』

 

 スクリューガムはすぐにライコスに連絡した。セプター内のデータを調べろ、と。

 

「なるほど、そのようなことが……少々お待ちを」

 

「お願いします、できる限り早く」

 

「……開拓者殿らしきデータを発見しました。ですが、残念なことが3つあります」

 

 ライコスはそう言って、最悪の現実を話しはじめた。

 

「まず1つ目に、開拓者殿らしきデータの状態は99.99%破損。確実に死亡しています」

 

「……そうですか」

 

「2つ目に、私の管理者権限を用いても、データ座標が特定できません。それどころか、開拓者殿の痕跡データが根こそぎ消滅しています。このようなことが起きる条件はひとつだけ」

 

 スクリューガムは何となく予想がついたが、それでも信じたくなくて尋ねる。

 

「その条件とは?」

 

「『虚数の樹』からの消滅。即ち、宇宙の因果そのものからの消滅です。俗な言い方をするなら、魂そのものが消えている……どうやっても開拓者殿の蘇生は不可能でしょう」

 

「……3つ目の残念なこととは?」

 

 ライコスがそれに続けて話す。

 

「セプター内で穹さんのデータは、ジャンクデータとなっています。このまま放っておけば、彼のデータはこの宇宙から完全に消滅……私たちも、穹さんを忘れてしまうでしょう」

 

「タイムリミットは?」

 

「現実時間で、24システム時間です」

 

 たったの丸一日、あまりにも短すぎる時間だ。人の死を受け入れて、遺体を回収しに行かせるには……あまりにも猶予がない。

 

「もう時間がありません。早急に決断をしないといけないでしょう」

 

「あなたに言われずとも、理解しています。私はこれを……彼らに伝えに行きます」

 

「……まさか、このようなことが起こるとは。開拓者殿、あなたは一体何を……?」

 

 それからスクリューガムは、永遠の1ページへ戻り……星穹列車の人たちを集めた。キュレネも、それについてきた。

 

『皆さん……どうか、落ち着いてお聞きください』

 

「……何があったんだ?」

 

「相棒はどうなっていたんだい?」

 

 それからスクリューガムは、ライコスから聞き自分でも確かめた現実を口にした。そして、それを聞いた四人は……

 

「相棒が……死んだ?」

 

「しかも、絶対生き返れないって……な、なにかの冗談、だよね……? ねぇ、そうだって言ってよ?」

 

『私もそう思って、自分でも調べましたが……現実です』

 

 スクリューガムが苦しそうに言った。そして、泣いていたキュレネは……最愛の人の死が確定し、目から光が消えて息すらできなくなり、その場に力なく倒れ込んだ。

 

「かっ、ひゅっ、ひゅーっ……きゅ、う……ぁ……」

 

「ミュリオン!? しっかりしてくれ!! 丹恒は……ちょっと、どこに行くんだ!?」

 

「鱗淵境だ。龍化妙法を使う」

 

 龍化妙法、死者を龍として生き返らせる禁術。昔、それで羅浮には恐ろしい災いが降りかかったのだが……スクリューガムは、そんな丹恒に対して言った。

 

『丹恒さん、お言葉ですが……穹さんは魂そのものが消滅している状態です。私の知る限り、そのような状態の生物を甦らせる方法は……この銀河には存在しません』

 

「……くそっ!!」

 

「生き返らせる方法もない……それじゃ、相棒は……」

 

 その場にいる全員が絶望しきっていた、その時。聞き覚えのある声がした。

 

「方法ならあるよ」

 

「三月? ……いや、違う!! 長夜月か!?」

 

「こんな時に……!! なんの用だ!?」

 

 ファイノンと丹恒の警戒に、長夜月が言った。

 

「そう警戒しないで。あの子が泣いてるのにアタシが何もしないと思う?」

 

『方法があると仰いましたね。その方法を伺っても?』

 

「結論から言えば、このオンパロスの性質を利用して、半記憶体として穹を生き返らせる。宇宙の認知をこのオンパロスの一点に集めることでね」

 

 それに対して、気絶しているキュレネ以外の全員が反応する。

 

「何をすればいいんだ?」

 

「とにかく大量の認知をこのオンパロスに集めるの。できれば、この銀河全ての認知をね。ひとつひとつはなんてことないものだけど、大量に集まれば……この地でなら影響を及ぼすことができる。内容は『穹はオンパロスを完璧に救って、生きて凱旋した』でどう?」

 

『わかりました。それなら、すぐに実行に移しましょう。迷っている暇はありません、私はリュクルゴスにこれを話してきます』

 

「賛成だ、少しでも可能性があるのなら……すぐにでも実行しよう」

 

 その後、スクリューガムはライコスに計画の全容を話した。ライコスはそれを聞いて、少し考え込む。

 

「なるほど……確かに記憶の地であるこの地なら、それも可能です。しかし……今計算したところ、成功確率は最低でも、四億分の一。とても現実的ではありません。それに記憶を集めても、体を回収できなければ、穹さんはただの記憶体。本人とは言えませんし、オンパロスから出ることもできないでしょう」

 

「しかし、それは我々にとって諦める理由にはなりません。肉片のひとつでも残っていれば、そこから肉体を再構成できるはずです」

 

「かくいう私もそうです。私はヌースという四億分の一では済まない確率の、最悪の存在を産み出してしまっている。一度起きた確率が二度起きない道理はありません。全力で協力しましょう」

 

 ライコスはそこから、具体的な計画について発案した。

 

「まず、情報を銀河に広める役割。これは人脈的にも移動速度的にも、星穹列車が適任でしょう。他にも協力者がいるなら、尚良い。そして集めた記憶を安定させ、穹さんの体ににぶつける準備をする役割。これは無漏浄子の二人が適任でしょう、あの二人は記憶を扱うのに長けていますから。そして最後に……」

 

「穹さんの体を回収する役割……それも、今から23システム時間以内に。肉体が残っているかすら怪しいのに、それを広大なセプター内から手がかりなしで見つけ出す」

 

「決断や転送の手間を考えれば、さらに時間は短くなるでしょう。セプター内と時間の流れが違うとはいえ、猶予はありません。これから私が強制的にセプターを再起動し、できる限り引き伸ばしますが……焼け石に水でしょう。破損したセプターの演算能力はたかが知れている。宇宙から流れ込む大量の記憶に耐え切れなければ、そこで終わりです」

 

 それに対して、スクリューガムが言った。

 

「スクリュー星のメインコンピュータをセプターに回しましょう。私の友人にも協力を要請します」

 

「それに加えて、もう一つ。私のこのオムニックの体も、演算に回します。そのために余計な機能は全て削除しなければなりません。なので、今から私はもう、ザンダー・ワン・クワバラではありません。そして演算のためには、私の人格プログラムも邪魔になる……こうして話せるのも、これが最後でしょう」

 

「……そうですか。では、ご武運を。リュクルゴスさん」

 

 そう言ってスクリューガムは、その場を去っていった。ライコスの顔の装飾が外れて、三つ目の真の姿が露わになる。神礼の観衆として、ライコスはオンパロスに向けて、最後の言葉を放つ。

 

「神礼の観衆の名において、私は見届けましょう……オンパロスの、真の結末を……!!」

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