穹は最後の力を使い終わったあと、本能的に理解していた。自分はここで死ぬのだと。だが、その穹は今……オクヘイマの生命の花園の下で、木漏れ日を浴びながら眠っていた。彼の腕には一匹のエンドモが留まっている。
「……あれ? 俺、どうしてまだ……」
動かなくなったはずの自分の体が、動く。穹は自分の体がまだあることに疑問を持った。それを見守っていたファイノンが、穹に言う。
「起きたんだね、相棒。よかった……」
「え、相棒……? なんでそんなにボロボロなんだ? というか、ここは……」
「オクヘイマだよ。オンパロスのね」
穹は何が何だかわからない。何故オンパロスがあるのか。消滅したのではなかったのか、と。
「オンパロスって、消えたんじゃなかったの?」
「そういう難しい説明は後にしよう。早く行ってあげて、みんなが待っているよ」
「みんな……そっか、みんなもいるのか」
死んでしまった手前、なんだか気まずかった。だが、ここにずっといるわけにもいかないので、立ち上がって雲石の天宮へと向かう。
「多分、ここにいるんだよな……?」
「穹、大丈夫かな……ファイノンが見てくれてるらしいけど……」
「もし穹が起きなかったら……あたし……」
キュレネがまた泣きそうになっていた。そこで穹が、天宮の中に入ってくる。その足音を聞いて、そこにいた全員が穹のほうを向いた。列車のみんなも、オンパロスの黄金裔も全員いる。誰も何も言わず、沈黙が流れる。最初に口を開いたのは穹だった。
「ハ、ハーイ。みんな、俺に会いたかった?」
「……」
『ヤバい、間違えたかな? つい気まずくて……』
それを聞いた列車のみんなは……しばらく黙ったあとに、目に涙を浮かべた。
「あ……会いたかったに決まってるじゃん、バカ!! うわぁぁぁぁん!!!」
「な、なの……!? 泣いて……うわっ!? キュレネも……」
「穹っ、穹が生きてる……!! 会いたかった、穹に会いたかったよぉ……!! うあぁぁぁぁぁぁ!!!」
キュレネとなのかに前と後ろから挟み込まれて、穹は身動きが取れなくなった。そこに丹恒が涙を浮かべて近づいてきた。
「お前という奴は、本当にッ……!!」
「えっ、丹恒が泣いてる……!? 珍しい、写真……あれ、スマホがない!? 死んだ時に落としたのか……?」
「スマホなんて、また買ったらいいわ。あんたが無事なら、私たちはそれで……」
姫子も涙を流している。ヴェルトも涙を浮かべて喜び、二重に安堵していた。穹が帰ってきたのもあるが……記憶が戻ったファイノンが、敵ではなかったこともある。
『よかった……ファイノンはこれからも星穹列車の味方でいてくれるんだな』
「穹さん、あなたが帰ってきて……本当に喜ばしいです」
「あ、デーさんも……なぁ、二人とも。ちょっとだけ離れてくれない? 服がびちゃびちゃに……」
穹の服はなのかとキュレネの涙でびちゃびちゃに濡れていた。しかし、二人に穹を離すつもりはない。
「「絶対やだ!!!」」
「え、えぇぇ……」
「許してやれ、開拓者。こいつらの気持ちを考えれば当然だ」
モーディスがそう言った。みんなも穹のことを思い出したようだ。
「みんな生きてる……そっか、俺は成功したんだな。でも、オンパロスが新生してるのはどういうことなんだ?」
「穹さん……あなたの生還に、私も心から祝福を送ります」
「あ、スクリューガム!! 何があったのか教えてよ、何をやったんだ? 俺、たしか死んで……」
それからスクリューガムは、穹が死んでいる間に起こったことについて説明した。
「そんなことになってたのか……俺、ヤバかったんだな」
「このような事態は、本来なら有り得ないことです。あなたの身に、何があったのですか? 覚えている範囲でいいので、聞かせてください」
「信じてもらえるかわかんないけど、もう一人の俺……女の俺に会ったんだよ。そいつの前で絶対に受け入れないって言ったら……不思議な力が使えるようになってさ。それで、みんなを助けたんだ……もう使えないみたいだけど」
それを聞いて、スクリューガムは予測しようとしたが……できなかった。全てが今までにないことだからだ。
「並行世界の自分との邂逅……と考えるのが妥当でしょうか。助けている時に何をしていたか、覚えていますか?」
「俺にもよくわかんないけど……歳月の力を使うみたいに、受け入れないって呟いて力を使うと発動して、みんなを助けてた。途中から体が痛くなってきて、体が動かなくなっていって……それからは覚えてない」
「やはり因果改変の代償は重い、ということか……質問に対する回答、ありがとうございます」
「ありがとうはこっちのセリフだよ、スクリューガムやみんながいなかったら、俺は絶対ここにはいなかったし」
そう言われたなのかとキュレネが、泣き腫らした顔で言った。
「当たり前だよ……一人で無茶ばっかりして、アンタが死んじゃ意味ないじゃん……!!」
「あの時あたしに言ってたじゃない、一人ぼっちは嫌だって……なのになんで、あたしを一人にするの? あたしはあなたと一緒にいたいのに……」
「ご、ごめん……ホントにごめん」
自分のやったことの大きさを改めて理解して、穹は平謝りしている。そこに黄金裔達が言った。
「今の今まで、あなたを忘れていたことが信じられません。聞くところによれば、どうやら天外の概念が関係しているらしく……興味深い。私もその天才クラブとやらに入ることを検討しています」
「開拓者さん。あなたは私の遺言通り、あれからもオンパロスのために、手を尽くしてくれたのですね。心から感謝すると同時に、あの時の非礼をお詫びします」
「もういいよ、アグライア。終わったことだし、気にしてないって」
穹の服は濡れすぎて、ぽたぽたと水滴が滴っていた。流石に服が冷たくなってきて、風邪をひきそうだ。
「僕たちは随分と、星穹列車とお前に迷惑をかけた。礼を尽くさねば、オンパロスは礼節に欠けた星であると広まってしまう。なんでも言え」
「それじゃ、ひとつお願いしていい……?」
「なんでも言ってみろ、穹。俺たちが叶えてやる」
丹恒がそういったのを聞いて、穹が言った。
「……今すぐにでも、着替えとお風呂が欲しい!! 服がすっごく冷たくて風邪ひきそう!!」
「え、あっ、ごめん……!!」
「なるほど。全てのピュエロスを貸切にしよう、自由に使うといい」
カイザーにそう言われた穹は、目を輝かせて喜んだ。現状確認より前に、まずはお風呂だ。
「ホント!? カイザー太っ腹!! いやっほー!!」
「……いつもの調子と変わらないな。間違いなく、穹だ」
「えぇ、車掌さんにもはやく知らせてあげないとね。泣いていたもの」
しばらく体を温めて、適当な服に着替えた穹。それから、スクリューガムから穹の現在に関して説明を受けることになった。
「まず穹さんは現在、体に穹さんの認知を集めて再生させた存在……つまりは、不安定な半記憶体の状態です。しばらくは、ここに留まる必要があるでしょう」
「え? ちょっと待ってくれ、スクリューガム。半記憶体って……もしかしてピノコニーにいた変な奴らとかと、今の俺は同じ種族ってことか!?」
「……そうなりますね。ワタシの知る限りでは」
サンデーにそう言われると、穹は突然地面に寝転がり、ジタバタして駄々をこね始めた。
「嫌だ!! あんな奴らとイケメン美少女の俺が、同じ種族だなんて絶対やだー!! うわぁぁぁぁ!!」
「大丈夫ですよ、穹さん。ワタシの調律で記憶を安定させて、記憶を体に浸透させればすぐ人間に戻れます」
「え、マジで!? ありがとう、デーさん大好き!!」
今度は穹がサンデーに抱きついた。キュレネがそれを見て、後ろから言った。
「次はあたしね、あたしとももう一回して!!」
「いいぞ、順番な!! いやぁ、銀河一の人気者は忙しいね!!」
「うふふっ、嬉しいわ……あなたの温かみがあるだけで、すっごく安心するの」
穹とキュレネは、抱き合ってイチャイチャしていた。全員が微笑ましく見守っている。
「あ、そういえば相棒は? ついてきてなかったのかな」
「ひと仕事終えて疲れているんだろう、休ませてあげてくれ」
「そっか……みんな、俺のためにすごく頑張ってくれたんだな。本当にありがとう」
イチャイチャするのを一旦止めて、穹は感謝を伝えた。それにアグライアが感謝を返す。
「お礼を言うのは私たちの方です。あなたがそうしてくれなければ、私たちはこの世界にこうして存在できていませんから」
「そうそう、誇っていいよグレっち。とんでもないことやったんだから」
「俺はただ……この結末を、受け入れたくなかっただけで……」
「でも、あなたが死ぬのは許せないわ。死ぬのをわかっててやったんでしょ? あたし、すっごく悲しかったのよ? あのまま戻ってこなかったらあたしはきっと……陽の当たらない植物みたいに、枯れちゃってた」
キュレネが表情に少しの怒りと、深い悲しみを浮かべて言った。それに続けて、なのかも言う。
「キュレネとウチ、ずっと泣いてたんだからね!! 反省して、二度としないこと!!」
「うん……ごめん」
「戻ってきてくれたから、今日だけは許してあげる……もうどこにも行かないでね」
ファイノンにとっては、彼が果てしない輪廻の果てに出会えた心の中の英雄であり、相棒だったように……キュレネにとっても、輪廻の果てに漸く出会えた最愛の人なのだ。それが自分のために死んだとなれば、そうもなる。
「そういえば、キュレネって……ファイノンの言うキュレネとは随分違うよな。どういうことなんだ?」
「あぁ、そういえば言ってなかったわね。今から説明するわ……あたしはファイノンの言うキュレネ、モモに育ててもらった記憶の種なの。この姿は大人になった綺麗なモモをイメージしてみたのよ、可愛いでしょ?」
「そうなんだ……」
そこからキュレネは、自分が十三番目のタイタンのデミウルゴスであることや、まだ語られていなかったことをみんなに話した。
「へぇ~、鉄墓ってそんなにヤバい奴だったんだな。ヘルタって人もすごい、そんな奴を抑え込むなんて」
「そのおかげで今があるんだから、感謝しないとね」
「あ、相棒!! もう大丈夫なの!?」
ファイノンを見て、飛んでいく穹。それを受け止めて、ファイノンが笑った。
「あぁ、君が元気なようで何よりだよ」
「ファイノン、もう少し休んでいてもいいんだぞ。お前が一番重労働だったんだ」
「いや、そうはいかないよ。僕が来なかったら、いつまで経っても祝勝会が始められないだろ?」
それを聞いて、みんなが待ってましたという顔をした。
「フン、そろそろ始めようかと思っていた。お前がいなくとも、キッチンは俺だけで十分だからな」
「お前一人で、全員を捌けるっていうのかい? しばらく見ない間に、随分と上達したんだね。僕ならできるけど」
「お前は野菜ばかりで、焼く必要がないからだろう。俺の肉や魚は手間がかかるからな」
「何を!? 僕だって肉料理や魚料理も作れるぞ!! 甘く見てもらっちゃ困る!!」
二人の間に、バチバチと見えない火花が散る。二人の仲を知る黄金裔達は、また始まったという顔をしている。
「口だけなら何とでも言える。肉や魚の調理は、経験の差がものを言うからな」
「そう言うなら、厨房で見せてもらおうじゃないか!! 僕の実力を見せてやる!! 後悔するなよ!!」
「フン、HKS……お前こそ、負けた時の台詞を考えておくことだな!!」
そう言って二人は、調理場へと走っていった。
「あ、行っちゃった……」
「あの二人は放っておいて大丈夫ですよ、グレーたん。あとですごい量の料理を持って戻ってくるでしょうから」
「カイザー、もう酒を飲んでもいいか?」
ヒアンシーが笑顔でそう言って、セイレンスが真顔で酒瓶を手に取る。
「剣旗卿、少し待て。では、今からカイザーの名のもとに祝勝会の開始を宣言する!! 皆のもの、存分に勝利とこの星の新生を祝うがいい!!」
「「わぁぁぁぁぁぁ!!」」
「よし、俺達も行こう!!」
みんなが会場に向かい、目の前にある食事に手を付け始めた。その後、すぐに料理のおかわり……では済まない量の料理が運ばれてきた。
「お待たせ、みんな!! 食べて感想を聞かせてくれ!!」
「わっ、美味しい!! 流石ファイノン……!!」
「まだまだあるぞ、どんどん食え」
すごい勢いで料理が出され……みんなが手をつける前に、セイレンスが食べていく。
「剣旗卿、少し抑えろ。他の者の分が無くなってしまう」
「そうか? わかった」
「あ、穹!! これも美味しいわよ、あーん!!」
「あーん……美味しい!! ありがとうキュレネ!!」
祝勝会は順調に進んだ。荒笛も他の大地獣達と一緒に、赤土を食べている。
「懐かしい味だ……やはり、上質な大地の恵みは素晴らしい」
「なぁ、荒笛さん……でいいのかな。その土って、美味しいの?」
「私たちにとっては最高の食事だが……人間が食べているのを見たことは無いな」
穹が赤土に興味を示した。一部の人達がそれを見て、ぎょっとする。
「ちょっと分けて!!」
「構わないぞ」
「あっ、グレーちゃん、それ大地獣用……」
穹はそれを勢いよく食べた。食べてしまった、質のいい……ねちょねちょした、酸味のある土の塊を。
「……おいしくない」
「はぁ……口をゆすいでこい」
「もう、何やってるの~?」
丹恒にため息をつかれ、キュレネに呆れられてしまった。それからも宴会は続いて……結局、祝勝会のために用意されていた、オクヘイマの食料庫は空っぽになってしまった。
「うわぁ、見事になんにもない……」
「お二人とも、正座してください。お説教です」
「……ごめんなさい、ヒアンシーさん」
「……すまない」
二人とも首から『ケンカしません』と書かれた札をかけて、正座させられている。
「それじゃ、俺の種族がイケメン美少女に戻るまで……オンパロスを満喫しよう!!」
「そうだね、せっかく新生したんだし!!」
「僕が案内するよ、エリュシオンも見てもらいたいしね」
「いいわね、一緒に行きましょ? モモから何回も聞いてはいたんだけど、行ったことはなかったのよね!!」
というわけで、穹とファイノンとキュレネは、エリュシオンに向かうことになった。黄金の麦畑が広がる、のどかな村。そこには、オロニクスの神像が立っている。
「へぇ、ここがエリュシオンかぁ……ファイノンが旅の途中で言ってた、のどかな村ってここのことだったのかな?」
「そうだね、僕はエリュシオンを見ていた……でもどうして?」
「あぁ、それならあたしよ?」
「えっ?」
衝撃の真実がサラッと明らかになって、二人がキュレネの方を振り向いた。
「みんなで送り出したあなたの旅を、途中で台無しにさせるわけにはいかないと思ってね。記憶が戻りそうになった時とか、エナの夢の時とかは手を加えたの」
「そうだったのかい、ミュリオン!? 凍るような感覚はそういうことだったのか……」
「影から俺たちの開拓を支えてくれてたんだな、キュレネは……」
衝撃的な真実を知りつつ、キュレネがまずしたことは……ブランコに座ることだった。
「うふふっ、一回座ってみたかったの♪」
「懐かしいな、キュレネもいつもそこにいた……」
「あれっ、なんだこれ? ノートかな?」
穹はその頃、家の中を探索していた。なにかを見つけたらしく、それを開いてみると……
「えーっと、なになに? 『僕は紛争の力を宿した剣、ニカドリーブレードを敵に振りかざした。相棒も僕の隣で灼熱剣フレアを握りしめて、共に最大の敵へと挑む……』」
「うわぁぁぁぁぁっ!? 頼む、読まないでくれっ!! どうしてこれがこんなところに!?」
「あら、そんなところにあったのね? 置き忘れて行っちゃってたのかも」
「ううっ、なんてことだ……」
ファイノンは羞恥で、顔を真っ赤にしている。そんなファイノンに、穹はニヤニヤしながら言った。
「灼熱剣フレアはないけど、存護の炎の槍ならあるぞ!!」
「やめてくれ、僕の黒歴史を擦らないでくれ!!」
「そういえば知ってる、穹? その先の内容はね……」
「どうして知ってるんだ、ミュリオン!? まさか読んだのかい、読んだんだな!? そうなんだろう!?」
ファイノンはキュレネを揺さぶっている。だがキュレネはある意味もっと最悪なことを言った。
「違うわよ、モモがあなたのことを話してた時に言ってたの。面白いから、ずっと覚えてたのよ」
「ま、まさか読まれたのか……? なんてことだ、どうしてよりにもよってキュレネに……」
「恥ずかしがることないぞ? 今からでも続きを書こう!! 他にも星穹バットとか、コンパスハットとか、ミュリオンペンとかあるからな!!」
ファイノンは恥ずかしすぎて顔が上げられなくなっていた。そこでキュレネが思い出したように言った。
「そうだ、子供の頃の思い出といえば……まだあるわよね、あの場所」
「えっ? ……あそこ、まだ入れるかな?」
「きっと行けるわよ。あなたも来て、いいものを見せてあげる!!」
穹は言われるがままについていく。そして木のうろの中に入っていくと……
「ファイノン、久しぶりミュ~!!」
「久しぶり、みんな。また会えて嬉しいよ」
「えっ、ミュリオンがいっぱい!?」
そこにいたのはたくさんのミュリオンだった。見渡す限りの色違いのミュリオン。
「ここは迷路迷境、かわいい妖精さんが沢山いる場所よ♪」
「そこの二人は新しいお客さん? ピンクの子はなんとなくキュレネに似てるけど……」
「俺の名前は穹、宇宙一の銀河打者だ!!」
穹が名乗りを上げて、キュレネは少し考えてから言った。
「あたしはキュレネ、あなた達の知るキュレネが育ててくれた、妹みたいなものよ♪」
「妹かぁ、何にせよ会えて嬉しいミュ~!!」
「懐かしい空気だ……ははっ、みんな寄ってきてるよ」
妖精達の村の不思議な空気を満喫しつつ、外で何があったかを語る。みんな集まってきて、座談会の様相を呈していた。
「そんなにすごいのをやっつけたの!? キュレネの救世主カードはやっぱりホントだったんだ!!」
「本当の救世主は彼さ。僕の相棒で、僕の心の中の英雄。彼がいないと誰にも勝てなかった」
「俺たちは最高の相棒なんだぞ、な!! ファイノン!!」
二人は肩を組んでいる。それを見て、キュレネが割り込んできた。
「二人だけズルい、あたしも混ぜてちょうだい!! あたしだって穹の相棒だもん!!」
「いいや、ここだけは譲れない!! 穹の相棒は僕だ!!」
「相棒が二人いたっていいじゃない!!」
相棒の座の取り合いは、二人とも相棒ということでどうにか収まった。それからそこを出て、お昼ご飯にエリュシオンのパンとぶどうジュースを飲ませてもらった。
「すごく美味しい!! このパン、ぶどうジャムつけてもいけるな!!」
「味を知ってはいたけど、実際に口で味わうと格別ね♪あなたと一緒だから尚更!!」
「俺もキュレネと一緒だから、美味しいよ!!」
「もう……そういうこと、サラッと言うんだから。でも、そんなところも大好きよ♪」
それを見ていたファイノンの両親が、ファイノンに尋ねた。
「ねぇファイノン、あの人達は誰なんだ? 片方はキュレネに似てるけど……」
「僕の相棒の穹と、その相棒のミュリオンだよ。キュレネに似てるのは……色々あってね」
「幸せそうに食べるねぇ、見てて気持ちいいよ。おかわりいるかい?」
「いる!! おかわり!!」
穹に遠慮はなかった。キュレネもそれに背中を押される形でおかわりしていた。そんな感じで、食事を終えて……それから、池で釣りをしてみたりもした。
「釣れないなぁ……あ、ファイノン引いてる!!」
「あっ本当だ、よし……アザラシが釣れた!!」
「うわー、釣られちゃった」
釣りをしている間にキュレネが二人のかかしを作ったり……
「キュレネ、何作ってるの?」
「かかしよ、どう? 似てない?」
「お~、似てる!! ファイノンとかそっくりだ!!」
それを畑に挿したり……原っぱに寝転がって一緒にお昼寝したりしながら、みんなでエリュシオンを満喫した。
「オンパロスって、いい星だな……」
「そうだね。帰ってきてみると、尚更そう思う」
「……俺、頑張ってよかったよ」
三人の時間は静かに流れていった。そして数日後……
「はい、大丈夫です。記憶は安定していますね、もう天外に出ても大丈夫でしょう」
「ホント!? やったぁ!! それじゃ、そろそろ出発だな」
「……相棒。それなんだけどね、僕はここに残ろうと思うんだ」
それを聞いた列車の全員が驚いた。特に穹が。
「えっ……? ど、どうして? なんで、俺は相棒がいないと……」
「僕だって君と一緒に行きたいさ。でも、君を救出している時……ナヌークが僕とオンパロスを見てきたんだ」
「なんだって? それは本当なのか?」
ファイノンが丹恒の問いに重く頷く。
「この星は、ルパートを退けて新生した。でも、危険は消えていない。絶滅大君がこの星を狙う可能性もある以上、僕は新生したこの星を守ろうと思ったんだ」
「……そっか、そういうことなら……」
「待て、救世主。どういうつもりだ?」
そこで現れたのは、モーディスだった。後ろにはケリュドラもいる。
「モーディス、カイザー……?」
「侮られたものだな、烈日卿。僕のいるオンパロスが、そう簡単に壊滅させられるとでも?」
「お前の助けがなくとも、俺達は戦える。それがどれだけ強いかは知らんが、返り討ちにしてやるまでだ」
二人が自信満々で言った。ファイノンもそれに感化されているようだ。
「本当に……大丈夫なのかい?」
「くどい。僕の判断が信じられないとでも?」
「安心して行ってこい。お前がいない間、ここは必ず守り抜く」
そう言われて、ファイノンは決意を固めた。
「わかった。オンパロスを任せたよ、メデイモス」
「あぁ、お前もな。救世主」
「ついてきてくれるんだな、相棒」
ファイノンは穹に言われて、笑顔で頷いた。
「うん。これからも共に開拓の旅をさせてくれ」
「決まりね、じゃあそろそろ出発しましょう」
「途中、大変なことになったけど……終わりよければ全てよし、だね!!」
なのかがそう言って、姫子を先頭に出発しようとしていると……穹の目の前が、柔らかい肉球で覆われた。
「わっ……!?」
「ふふっ、だーれだ?」
「キュレネだろ? わかってるよ、忘れてない!!」
ミュリオンから姿を変えて、目の前にキュレネが現れる。そのまま穹の手を握った。
「あたしも今日から列車に乗る!! いいわよね?」
「もちろん、みんなもいいかな?」
「うん、弓の使い方も教えてあげる約束だしね!! ビシバシ行くから覚悟しなよ~?」
「よろしくお願いしまーす!!」
そう言って二人は、列車へと向かっていった。だがそこで、ヒアンシーに呼び止められる。
「あ、ちょっと待ってください!! 最後にみんなで写真を撮りませんか?」
「いいね、撮ろう撮ろう!!」
「僕は相棒の隣ね!!」
「じゃあ、あたしも穹の隣!!」
というわけで、全員で写真を撮ることになった。
「おいモーディス、もうちょっと詰めろって!!」
「お前こそもっと詰めろ!!」
「距離が近すぎて暑いな……脱ぐか」
「剣旗卿、待て」
カオスな様相だったが、なのかは三脚を立ててそこにカメラを置いている。もう撮る準備はできているようだ。
「荒笛さん、写らなくていいの?」
「私は左端に少し写すだけでいい……」
「撮るよ~!! みんな笑って!!」
タイマーをセットして、なのかが走ってきた。そして、カメラの範囲に入る。
「ねぇ、相棒……」
「ねぇ、穹……」
「なんだ、ファイノン、キュレネ?」
「はい、チーズ!!」
シャッターが切られて、写真ができる。そこに写ったみんなは、みんな最高の笑顔だった。
「僕と出会ってくれて、ありがとう」
「あたしと出会ってくれて、ありがとう」
「……こちらこそ」
その頃、破損して消えたはずのセプターにて。頭のないあの怪物が、復活しようと試みていた。実験が中断されたと判断したのだ。
《演算再開》
《生命の第一原因……》
《ミス・ヘルタは永久不滅》
《ミス・ヘルタは傾城傾国》
しかし、それは謎の出力に拒まれた。ヘルタを称える文章が出続けて、いつまで経っても演算が再開できない。
《ミス・ヘルタは……天下無双……》
『驚いた? 私がかけた魔法だよ』
《生命の第一原因……ミス・ヘルタ……?》
鉄墓の再誕はこうして、宇宙一の天才がかけた『魔法』によって、永遠に延期されたのだった。そしてそれに、スクリューガムもなんとなく気づいている。
「これは……このプログラムでは、メッセージが無限ループしてしまうはず……それがスタートアッププログラムに?」
『あぁ、そうそう。最後にプレゼントを用意しておいたから。有効に活用してよね』
「……これが、あなたからの『プレゼント』ということですか? ヘルタさん」
ヘルタのメッセージの最後のP.Sを思い出して、誰にも聞こえない声で、スクリューガムはそう呟いた。
この旅が、いつか群星へ辿り着かんことを。