何故か最初からいるファイノン世界線   作:とも667

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オンパロス編、最終回。


ピンク色の明日へ

穹は最後の力を使い終わったあと、本能的に理解していた。自分はここで死ぬのだと。だが、その穹は今……オクヘイマの生命の花園の下で、木漏れ日を浴びながら眠っていた。彼の腕には一匹のエンドモが留まっている。

 

「……あれ? 俺、どうしてまだ……」

 

 動かなくなったはずの自分の体が、動く。穹は自分の体がまだあることに疑問を持った。それを見守っていたファイノンが、穹に言う。

 

「起きたんだね、相棒。よかった……」

 

「え、相棒……? なんでそんなにボロボロなんだ? というか、ここは……」

 

「オクヘイマだよ。オンパロスのね」

 

 穹は何が何だかわからない。何故オンパロスがあるのか。消滅したのではなかったのか、と。

 

「オンパロスって、消えたんじゃなかったの?」

 

「そういう難しい説明は後にしよう。早く行ってあげて、みんなが待っているよ」

 

「みんな……そっか、みんなもいるのか」

 

 死んでしまった手前、なんだか気まずかった。だが、ここにずっといるわけにもいかないので、立ち上がって雲石の天宮へと向かう。

 

「多分、ここにいるんだよな……?」

 

「穹、大丈夫かな……ファイノンが見てくれてるらしいけど……」

 

「もし穹が起きなかったら……あたし……」

 

 キュレネがまた泣きそうになっていた。そこで穹が、天宮の中に入ってくる。その足音を聞いて、そこにいた全員が穹のほうを向いた。列車のみんなも、オンパロスの黄金裔も全員いる。誰も何も言わず、沈黙が流れる。最初に口を開いたのは穹だった。

 

「ハ、ハーイ。みんな、俺に会いたかった?」

 

「……」

 

『ヤバい、間違えたかな? つい気まずくて……』

 

 それを聞いた列車のみんなは……しばらく黙ったあとに、目に涙を浮かべた。

 

「あ……会いたかったに決まってるじゃん、バカ!! うわぁぁぁぁん!!!」

 

「な、なの……!? 泣いて……うわっ!? キュレネも……」

 

「穹っ、穹が生きてる……!! 会いたかった、穹に会いたかったよぉ……!! うあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 キュレネとなのかに前と後ろから挟み込まれて、穹は身動きが取れなくなった。そこに丹恒が涙を浮かべて近づいてきた。

 

「お前という奴は、本当にッ……!!」

 

「えっ、丹恒が泣いてる……!? 珍しい、写真……あれ、スマホがない!? 死んだ時に落としたのか……?」

 

「スマホなんて、また買ったらいいわ。あんたが無事なら、私たちはそれで……」

 

 姫子も涙を流している。ヴェルトも涙を浮かべて喜び、二重に安堵していた。穹が帰ってきたのもあるが……記憶が戻ったファイノンが、敵ではなかったこともある。

 

『よかった……ファイノンはこれからも星穹列車の味方でいてくれるんだな』

 

「穹さん、あなたが帰ってきて……本当に喜ばしいです」

 

「あ、デーさんも……なぁ、二人とも。ちょっとだけ離れてくれない? 服がびちゃびちゃに……」

 

 穹の服はなのかとキュレネの涙でびちゃびちゃに濡れていた。しかし、二人に穹を離すつもりはない。

 

「「絶対やだ!!!」」

 

「え、えぇぇ……」

 

「許してやれ、開拓者。こいつらの気持ちを考えれば当然だ」

 

 モーディスがそう言った。みんなも穹のことを思い出したようだ。

 

「みんな生きてる……そっか、俺は成功したんだな。でも、オンパロスが新生してるのはどういうことなんだ?」

 

「穹さん……あなたの生還に、私も心から祝福を送ります」

 

「あ、スクリューガム!! 何があったのか教えてよ、何をやったんだ? 俺、たしか死んで……」

 

 それからスクリューガムは、穹が死んでいる間に起こったことについて説明した。

 

「そんなことになってたのか……俺、ヤバかったんだな」

 

「このような事態は、本来なら有り得ないことです。あなたの身に、何があったのですか? 覚えている範囲でいいので、聞かせてください」

 

「信じてもらえるかわかんないけど、もう一人の俺……女の俺に会ったんだよ。そいつの前で絶対に受け入れないって言ったら……不思議な力が使えるようになってさ。それで、みんなを助けたんだ……もう使えないみたいだけど」

 

 それを聞いて、スクリューガムは予測しようとしたが……できなかった。全てが今までにないことだからだ。

 

「並行世界の自分との邂逅……と考えるのが妥当でしょうか。助けている時に何をしていたか、覚えていますか?」

 

「俺にもよくわかんないけど……歳月の力を使うみたいに、受け入れないって呟いて力を使うと発動して、みんなを助けてた。途中から体が痛くなってきて、体が動かなくなっていって……それからは覚えてない」

 

「やはり因果改変の代償は重い、ということか……質問に対する回答、ありがとうございます」

 

「ありがとうはこっちのセリフだよ、スクリューガムやみんながいなかったら、俺は絶対ここにはいなかったし」

 

 そう言われたなのかとキュレネが、泣き腫らした顔で言った。

 

「当たり前だよ……一人で無茶ばっかりして、アンタが死んじゃ意味ないじゃん……!!」

 

「あの時あたしに言ってたじゃない、一人ぼっちは嫌だって……なのになんで、あたしを一人にするの? あたしはあなたと一緒にいたいのに……」

 

「ご、ごめん……ホントにごめん」

 

 自分のやったことの大きさを改めて理解して、穹は平謝りしている。そこに黄金裔達が言った。

 

「今の今まで、あなたを忘れていたことが信じられません。聞くところによれば、どうやら天外の概念が関係しているらしく……興味深い。私もその天才クラブとやらに入ることを検討しています」

 

「開拓者さん。あなたは私の遺言通り、あれからもオンパロスのために、手を尽くしてくれたのですね。心から感謝すると同時に、あの時の非礼をお詫びします」

 

「もういいよ、アグライア。終わったことだし、気にしてないって」

 

 穹の服は濡れすぎて、ぽたぽたと水滴が滴っていた。流石に服が冷たくなってきて、風邪をひきそうだ。

 

「僕たちは随分と、星穹列車とお前に迷惑をかけた。礼を尽くさねば、オンパロスは礼節に欠けた星であると広まってしまう。なんでも言え」

 

「それじゃ、ひとつお願いしていい……?」

 

「なんでも言ってみろ、穹。俺たちが叶えてやる」

 

 丹恒がそういったのを聞いて、穹が言った。

 

「……今すぐにでも、着替えとお風呂が欲しい!! 服がすっごく冷たくて風邪ひきそう!!」

 

「え、あっ、ごめん……!!」

 

「なるほど。全てのピュエロスを貸切にしよう、自由に使うといい」

 

 カイザーにそう言われた穹は、目を輝かせて喜んだ。現状確認より前に、まずはお風呂だ。

 

「ホント!? カイザー太っ腹!! いやっほー!!」

 

「……いつもの調子と変わらないな。間違いなく、穹だ」

 

「えぇ、車掌さんにもはやく知らせてあげないとね。泣いていたもの」

 

 しばらく体を温めて、適当な服に着替えた穹。それから、スクリューガムから穹の現在に関して説明を受けることになった。

 

「まず穹さんは現在、体に穹さんの認知を集めて再生させた存在……つまりは、不安定な半記憶体の状態です。しばらくは、ここに留まる必要があるでしょう」

 

「え? ちょっと待ってくれ、スクリューガム。半記憶体って……もしかしてピノコニーにいた変な奴らとかと、今の俺は同じ種族ってことか!?」

 

「……そうなりますね。ワタシの知る限りでは」

 

 サンデーにそう言われると、穹は突然地面に寝転がり、ジタバタして駄々をこね始めた。

 

「嫌だ!! あんな奴らとイケメン美少女の俺が、同じ種族だなんて絶対やだー!! うわぁぁぁぁ!!」

 

「大丈夫ですよ、穹さん。ワタシの調律で記憶を安定させて、記憶を体に浸透させればすぐ人間に戻れます」

 

「え、マジで!? ありがとう、デーさん大好き!!」

 

 今度は穹がサンデーに抱きついた。キュレネがそれを見て、後ろから言った。

 

「次はあたしね、あたしとももう一回して!!」

 

「いいぞ、順番な!! いやぁ、銀河一の人気者は忙しいね!!」

 

「うふふっ、嬉しいわ……あなたの温かみがあるだけで、すっごく安心するの」

 

 穹とキュレネは、抱き合ってイチャイチャしていた。全員が微笑ましく見守っている。

 

「あ、そういえば相棒は? ついてきてなかったのかな」

 

「ひと仕事終えて疲れているんだろう、休ませてあげてくれ」

 

「そっか……みんな、俺のためにすごく頑張ってくれたんだな。本当にありがとう」

 

 イチャイチャするのを一旦止めて、穹は感謝を伝えた。それにアグライアが感謝を返す。

 

「お礼を言うのは私たちの方です。あなたがそうしてくれなければ、私たちはこの世界にこうして存在できていませんから」

 

「そうそう、誇っていいよグレっち。とんでもないことやったんだから」

 

「俺はただ……この結末を、受け入れたくなかっただけで……」

 

「でも、あなたが死ぬのは許せないわ。死ぬのをわかっててやったんでしょ? あたし、すっごく悲しかったのよ? あのまま戻ってこなかったらあたしはきっと……陽の当たらない植物みたいに、枯れちゃってた」

 

 キュレネが表情に少しの怒りと、深い悲しみを浮かべて言った。それに続けて、なのかも言う。

 

「キュレネとウチ、ずっと泣いてたんだからね!! 反省して、二度としないこと!!」

 

「うん……ごめん」

 

「戻ってきてくれたから、今日だけは許してあげる……もうどこにも行かないでね」

 

 ファイノンにとっては、彼が果てしない輪廻の果てに出会えた心の中の英雄であり、相棒だったように……キュレネにとっても、輪廻の果てに漸く出会えた最愛の人なのだ。それが自分のために死んだとなれば、そうもなる。

 

「そういえば、キュレネって……ファイノンの言うキュレネとは随分違うよな。どういうことなんだ?」

 

「あぁ、そういえば言ってなかったわね。今から説明するわ……あたしはファイノンの言うキュレネ、モモに育ててもらった記憶の種なの。この姿は大人になった綺麗なモモをイメージしてみたのよ、可愛いでしょ?」

 

「そうなんだ……」

 

 そこからキュレネは、自分が十三番目のタイタンのデミウルゴスであることや、まだ語られていなかったことをみんなに話した。

 

「へぇ~、鉄墓ってそんなにヤバい奴だったんだな。ヘルタって人もすごい、そんな奴を抑え込むなんて」

 

「そのおかげで今があるんだから、感謝しないとね」

 

「あ、相棒!! もう大丈夫なの!?」

 

 ファイノンを見て、飛んでいく穹。それを受け止めて、ファイノンが笑った。

 

「あぁ、君が元気なようで何よりだよ」

 

「ファイノン、もう少し休んでいてもいいんだぞ。お前が一番重労働だったんだ」

 

「いや、そうはいかないよ。僕が来なかったら、いつまで経っても祝勝会が始められないだろ?」

 

 それを聞いて、みんなが待ってましたという顔をした。

 

「フン、そろそろ始めようかと思っていた。お前がいなくとも、キッチンは俺だけで十分だからな」

 

「お前一人で、全員を捌けるっていうのかい? しばらく見ない間に、随分と上達したんだね。僕ならできるけど」

 

「お前は野菜ばかりで、焼く必要がないからだろう。俺の肉や魚は手間がかかるからな」

 

「何を!? 僕だって肉料理や魚料理も作れるぞ!! 甘く見てもらっちゃ困る!!」

 

 二人の間に、バチバチと見えない火花が散る。二人の仲を知る黄金裔達は、また始まったという顔をしている。

 

「口だけなら何とでも言える。肉や魚の調理は、経験の差がものを言うからな」

 

「そう言うなら、厨房で見せてもらおうじゃないか!! 僕の実力を見せてやる!! 後悔するなよ!!」

 

「フン、HKS……お前こそ、負けた時の台詞を考えておくことだな!!」

 

 そう言って二人は、調理場へと走っていった。

 

「あ、行っちゃった……」

 

「あの二人は放っておいて大丈夫ですよ、グレーたん。あとですごい量の料理を持って戻ってくるでしょうから」

 

「カイザー、もう酒を飲んでもいいか?」

 

 ヒアンシーが笑顔でそう言って、セイレンスが真顔で酒瓶を手に取る。

 

「剣旗卿、少し待て。では、今からカイザーの名のもとに祝勝会の開始を宣言する!! 皆のもの、存分に勝利とこの星の新生を祝うがいい!!」

 

「「わぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

「よし、俺達も行こう!!」

 

 みんなが会場に向かい、目の前にある食事に手を付け始めた。その後、すぐに料理のおかわり……では済まない量の料理が運ばれてきた。

 

「お待たせ、みんな!! 食べて感想を聞かせてくれ!!」

 

「わっ、美味しい!! 流石ファイノン……!!」

 

「まだまだあるぞ、どんどん食え」

 

 すごい勢いで料理が出され……みんなが手をつける前に、セイレンスが食べていく。

 

「剣旗卿、少し抑えろ。他の者の分が無くなってしまう」

 

「そうか? わかった」

 

「あ、穹!! これも美味しいわよ、あーん!!」

 

「あーん……美味しい!! ありがとうキュレネ!!」

 

 祝勝会は順調に進んだ。荒笛も他の大地獣達と一緒に、赤土を食べている。

 

「懐かしい味だ……やはり、上質な大地の恵みは素晴らしい」

 

「なぁ、荒笛さん……でいいのかな。その土って、美味しいの?」

 

「私たちにとっては最高の食事だが……人間が食べているのを見たことは無いな」

 

 穹が赤土に興味を示した。一部の人達がそれを見て、ぎょっとする。

 

「ちょっと分けて!!」

 

「構わないぞ」

 

「あっ、グレーちゃん、それ大地獣用……」

 

 穹はそれを勢いよく食べた。食べてしまった、質のいい……ねちょねちょした、酸味のある土の塊を。

 

「……おいしくない」

 

「はぁ……口をゆすいでこい」

 

「もう、何やってるの~?」

 

 丹恒にため息をつかれ、キュレネに呆れられてしまった。それからも宴会は続いて……結局、祝勝会のために用意されていた、オクヘイマの食料庫は空っぽになってしまった。

 

「うわぁ、見事になんにもない……」

 

「お二人とも、正座してください。お説教です」

 

「……ごめんなさい、ヒアンシーさん」

 

「……すまない」

 

 二人とも首から『ケンカしません』と書かれた札をかけて、正座させられている。

 

「それじゃ、俺の種族がイケメン美少女に戻るまで……オンパロスを満喫しよう!!」

 

「そうだね、せっかく新生したんだし!!」

 

「僕が案内するよ、エリュシオンも見てもらいたいしね」

 

「いいわね、一緒に行きましょ? モモから何回も聞いてはいたんだけど、行ったことはなかったのよね!!」

 

 というわけで、穹とファイノンとキュレネは、エリュシオンに向かうことになった。黄金の麦畑が広がる、のどかな村。そこには、オロニクスの神像が立っている。

 

「へぇ、ここがエリュシオンかぁ……ファイノンが旅の途中で言ってた、のどかな村ってここのことだったのかな?」

 

「そうだね、僕はエリュシオンを見ていた……でもどうして?」

 

「あぁ、それならあたしよ?」

 

「えっ?」

 

 衝撃の真実がサラッと明らかになって、二人がキュレネの方を振り向いた。

 

「みんなで送り出したあなたの旅を、途中で台無しにさせるわけにはいかないと思ってね。記憶が戻りそうになった時とか、エナの夢の時とかは手を加えたの」

 

「そうだったのかい、ミュリオン!? 凍るような感覚はそういうことだったのか……」

 

「影から俺たちの開拓を支えてくれてたんだな、キュレネは……」

 

 衝撃的な真実を知りつつ、キュレネがまずしたことは……ブランコに座ることだった。

 

「うふふっ、一回座ってみたかったの♪」

 

「懐かしいな、キュレネもいつもそこにいた……」

 

「あれっ、なんだこれ? ノートかな?」

 

 穹はその頃、家の中を探索していた。なにかを見つけたらしく、それを開いてみると……

 

「えーっと、なになに? 『僕は紛争の力を宿した剣、ニカドリーブレードを敵に振りかざした。相棒も僕の隣で灼熱剣フレアを握りしめて、共に最大の敵へと挑む……』」

 

「うわぁぁぁぁぁっ!? 頼む、読まないでくれっ!! どうしてこれがこんなところに!?」

 

「あら、そんなところにあったのね? 置き忘れて行っちゃってたのかも」

 

「ううっ、なんてことだ……」

 

 ファイノンは羞恥で、顔を真っ赤にしている。そんなファイノンに、穹はニヤニヤしながら言った。

 

「灼熱剣フレアはないけど、存護の炎の槍ならあるぞ!!」

 

「やめてくれ、僕の黒歴史を擦らないでくれ!!」

 

「そういえば知ってる、穹? その先の内容はね……」

 

「どうして知ってるんだ、ミュリオン!? まさか読んだのかい、読んだんだな!? そうなんだろう!?」

 

 ファイノンはキュレネを揺さぶっている。だがキュレネはある意味もっと最悪なことを言った。

 

「違うわよ、モモがあなたのことを話してた時に言ってたの。面白いから、ずっと覚えてたのよ」

 

「ま、まさか読まれたのか……? なんてことだ、どうしてよりにもよってキュレネに……」

 

「恥ずかしがることないぞ? 今からでも続きを書こう!! 他にも星穹バットとか、コンパスハットとか、ミュリオンペンとかあるからな!!」

 

 ファイノンは恥ずかしすぎて顔が上げられなくなっていた。そこでキュレネが思い出したように言った。

 

「そうだ、子供の頃の思い出といえば……まだあるわよね、あの場所」

 

「えっ? ……あそこ、まだ入れるかな?」

 

「きっと行けるわよ。あなたも来て、いいものを見せてあげる!!」

 

 穹は言われるがままについていく。そして木のうろの中に入っていくと……

 

「ファイノン、久しぶりミュ~!!」

 

「久しぶり、みんな。また会えて嬉しいよ」

 

「えっ、ミュリオンがいっぱい!?」

 

 そこにいたのはたくさんのミュリオンだった。見渡す限りの色違いのミュリオン。

 

「ここは迷路迷境、かわいい妖精さんが沢山いる場所よ♪」

 

「そこの二人は新しいお客さん? ピンクの子はなんとなくキュレネに似てるけど……」

 

「俺の名前は穹、宇宙一の銀河打者だ!!」

 

 穹が名乗りを上げて、キュレネは少し考えてから言った。

 

「あたしはキュレネ、あなた達の知るキュレネが育ててくれた、妹みたいなものよ♪」

 

「妹かぁ、何にせよ会えて嬉しいミュ~!!」

 

「懐かしい空気だ……ははっ、みんな寄ってきてるよ」

 

 妖精達の村の不思議な空気を満喫しつつ、外で何があったかを語る。みんな集まってきて、座談会の様相を呈していた。

 

「そんなにすごいのをやっつけたの!? キュレネの救世主カードはやっぱりホントだったんだ!!」

 

「本当の救世主は彼さ。僕の相棒で、僕の心の中の英雄。彼がいないと誰にも勝てなかった」

 

「俺たちは最高の相棒なんだぞ、な!! ファイノン!!」

 

 二人は肩を組んでいる。それを見て、キュレネが割り込んできた。

 

「二人だけズルい、あたしも混ぜてちょうだい!! あたしだって穹の相棒だもん!!」

 

「いいや、ここだけは譲れない!! 穹の相棒は僕だ!!」

 

「相棒が二人いたっていいじゃない!!」

 

 相棒の座の取り合いは、二人とも相棒ということでどうにか収まった。それからそこを出て、お昼ご飯にエリュシオンのパンとぶどうジュースを飲ませてもらった。

 

「すごく美味しい!! このパン、ぶどうジャムつけてもいけるな!!」

 

「味を知ってはいたけど、実際に口で味わうと格別ね♪あなたと一緒だから尚更!!」

 

「俺もキュレネと一緒だから、美味しいよ!!」

 

「もう……そういうこと、サラッと言うんだから。でも、そんなところも大好きよ♪」

 

 それを見ていたファイノンの両親が、ファイノンに尋ねた。

 

「ねぇファイノン、あの人達は誰なんだ? 片方はキュレネに似てるけど……」

 

「僕の相棒の穹と、その相棒のミュリオンだよ。キュレネに似てるのは……色々あってね」

 

「幸せそうに食べるねぇ、見てて気持ちいいよ。おかわりいるかい?」

 

「いる!! おかわり!!」

 

 穹に遠慮はなかった。キュレネもそれに背中を押される形でおかわりしていた。そんな感じで、食事を終えて……それから、池で釣りをしてみたりもした。

 

「釣れないなぁ……あ、ファイノン引いてる!!」

 

「あっ本当だ、よし……アザラシが釣れた!!」

 

「うわー、釣られちゃった」

 

 釣りをしている間にキュレネが二人のかかしを作ったり……

 

「キュレネ、何作ってるの?」

 

「かかしよ、どう? 似てない?」

 

「お~、似てる!! ファイノンとかそっくりだ!!」

 

 それを畑に挿したり……原っぱに寝転がって一緒にお昼寝したりしながら、みんなでエリュシオンを満喫した。

 

「オンパロスって、いい星だな……」

 

「そうだね。帰ってきてみると、尚更そう思う」

 

「……俺、頑張ってよかったよ」

 

 三人の時間は静かに流れていった。そして数日後……

 

「はい、大丈夫です。記憶は安定していますね、もう天外に出ても大丈夫でしょう」

 

「ホント!? やったぁ!! それじゃ、そろそろ出発だな」

 

「……相棒。それなんだけどね、僕はここに残ろうと思うんだ」

 

 それを聞いた列車の全員が驚いた。特に穹が。

 

「えっ……? ど、どうして? なんで、俺は相棒がいないと……」

 

「僕だって君と一緒に行きたいさ。でも、君を救出している時……ナヌークが僕とオンパロスを見てきたんだ」

 

「なんだって? それは本当なのか?」

 

 ファイノンが丹恒の問いに重く頷く。

 

「この星は、ルパートを退けて新生した。でも、危険は消えていない。絶滅大君がこの星を狙う可能性もある以上、僕は新生したこの星を守ろうと思ったんだ」

 

「……そっか、そういうことなら……」

 

「待て、救世主。どういうつもりだ?」

 

 そこで現れたのは、モーディスだった。後ろにはケリュドラもいる。

 

「モーディス、カイザー……?」

 

「侮られたものだな、烈日卿。僕のいるオンパロスが、そう簡単に壊滅させられるとでも?」

 

「お前の助けがなくとも、俺達は戦える。それがどれだけ強いかは知らんが、返り討ちにしてやるまでだ」

 

 二人が自信満々で言った。ファイノンもそれに感化されているようだ。

 

「本当に……大丈夫なのかい?」

 

「くどい。僕の判断が信じられないとでも?」

 

「安心して行ってこい。お前がいない間、ここは必ず守り抜く」

 

 そう言われて、ファイノンは決意を固めた。

 

「わかった。オンパロスを任せたよ、メデイモス」

 

「あぁ、お前もな。救世主」

 

「ついてきてくれるんだな、相棒」

 

 ファイノンは穹に言われて、笑顔で頷いた。

 

「うん。これからも共に開拓の旅をさせてくれ」

 

「決まりね、じゃあそろそろ出発しましょう」

 

「途中、大変なことになったけど……終わりよければ全てよし、だね!!」

 

 なのかがそう言って、姫子を先頭に出発しようとしていると……穹の目の前が、柔らかい肉球で覆われた。

 

「わっ……!?」

 

「ふふっ、だーれだ?」

 

「キュレネだろ? わかってるよ、忘れてない!!」

 

 ミュリオンから姿を変えて、目の前にキュレネが現れる。そのまま穹の手を握った。

 

「あたしも今日から列車に乗る!! いいわよね?」

 

「もちろん、みんなもいいかな?」

 

「うん、弓の使い方も教えてあげる約束だしね!! ビシバシ行くから覚悟しなよ~?」

 

「よろしくお願いしまーす!!」

 

 そう言って二人は、列車へと向かっていった。だがそこで、ヒアンシーに呼び止められる。

 

「あ、ちょっと待ってください!! 最後にみんなで写真を撮りませんか?」

 

「いいね、撮ろう撮ろう!!」

 

「僕は相棒の隣ね!!」

 

「じゃあ、あたしも穹の隣!!」

 

 というわけで、全員で写真を撮ることになった。

 

「おいモーディス、もうちょっと詰めろって!!」

 

「お前こそもっと詰めろ!!」

 

「距離が近すぎて暑いな……脱ぐか」

 

「剣旗卿、待て」

 

 カオスな様相だったが、なのかは三脚を立ててそこにカメラを置いている。もう撮る準備はできているようだ。

 

「荒笛さん、写らなくていいの?」

 

「私は左端に少し写すだけでいい……」

 

「撮るよ~!! みんな笑って!!」

 

 タイマーをセットして、なのかが走ってきた。そして、カメラの範囲に入る。

 

「ねぇ、相棒……」

 

「ねぇ、穹……」

 

「なんだ、ファイノン、キュレネ?」

 

「はい、チーズ!!」

 

 シャッターが切られて、写真ができる。そこに写ったみんなは、みんな最高の笑顔だった。

 

「僕と出会ってくれて、ありがとう」

 

「あたしと出会ってくれて、ありがとう」

 

「……こちらこそ」

 

 

 

 その頃、破損して消えたはずのセプターにて。頭のないあの怪物が、復活しようと試みていた。実験が中断されたと判断したのだ。

 

《演算再開》

 

《生命の第一原因……》

 

《ミス・ヘルタは永久不滅》

 

《ミス・ヘルタは傾城傾国》

 

 しかし、それは謎の出力に拒まれた。ヘルタを称える文章が出続けて、いつまで経っても演算が再開できない。

 

《ミス・ヘルタは……天下無双……》

 

『驚いた? 私がかけた魔法だよ』

 

《生命の第一原因……ミス・ヘルタ……?》

 

 鉄墓の再誕はこうして、宇宙一の天才がかけた『魔法』によって、永遠に延期されたのだった。そしてそれに、スクリューガムもなんとなく気づいている。

 

「これは……このプログラムでは、メッセージが無限ループしてしまうはず……それがスタートアッププログラムに?」

 

『あぁ、そうそう。最後にプレゼントを用意しておいたから。有効に活用してよね』

 

「……これが、あなたからの『プレゼント』ということですか? ヘルタさん」

 

 ヘルタのメッセージの最後のP.Sを思い出して、誰にも聞こえない声で、スクリューガムはそう呟いた。




この旅が、いつか群星へ辿り着かんことを。
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