キュレネが列車に乗ってから、しばらくした後のこと。穹は今……謎のえっちなお姉さんこと、ダリアに謎の部屋に連れ込まれて、密会をしていた。
「……それはいささか語弊があるのではなくて?」
「誰に言ってるんだ?」
「いえ、こちらの話ですよ。では、あなたの望み通り……最後の真実をお見せしましょう。……あら?」
そこでドアが叩かれる音がした。どうやら誰かに気づかれたらしい。
「誰だろう、ブラックスワンかな?」
「では最後に……もしも、どうしても受け入れ難いことがあれば、この黒猫へと祈ってください。その願いがテルミヌスに届くことを願って……」
「あ……行っちゃった」
それから穹は、自身の記憶の中でホタルと約束を果たそうとした。しかしホタルは、約束の花火を見る前に時間切れで消滅。それが受け入れ難いことだった穹が黒猫に祈ると、過去の因果がねじ曲がり、二人は線香花火で遊んだことになった。そこで穹は、ある声を聞いた。その声に穹は聞き覚えがある。
「……えっ? お前、もしかしてあの時の……」
「ん? どうしたの、穹? 誰と話してるの?」
「いや……なんでもない。一緒に遊ぼう、ホタル」
「うん!!」
その後、二人で満足いくまで線香花火をした。穹が目を覚ますと、体をキュレネに揺さぶられていた。
「ねぇ、穹……穹、大丈夫?」
「ん……あ、キュレネ? そっか、ドアを叩いてたのはキュレネだったのか」
「やっぱり何かあったんだね?」
そこにはファイノンもいた。なので、簡潔に事の顛末を説明する。
「そんなことが……僕の記憶と君の言うことで微妙に違う部分があると思ってたけど、そういうことだったのか」
「何もされてないのよね? 変なことされたりしなかった?」
「されてないよ、最初は警戒したけど……あと最後に、ホタルと花火を見るために終焉の力を借りたよ。あの時、オンパロスでやったのと同じ力だと思う。オンパロスと同じようなことをやったら、今度こそ次はないって、そう言われた」
それを聞いた瞬間、二人の動きが止まる。ファイノンはため息をついて、キュレネは不安のあまり泣き出してしまった。
「え……二人ともどうしたの?」
「相棒……君はどうしてそう、自分の身を簡単に危険に晒すんだ……」
「穹、お願い、死なないでっ……!!」
「おいキュレネ、泣くなよ!? なんともないよ、ホントになんともないからさ!!」
だが、体は誰かに診てもらった方がいいということで……ちょうどメッセージを送ってきた、銀狼に診てもらうことにした。ホログラムで現れた銀狼に、体の中を診てもらう。
『うん、問題なし。使用された形跡があるのに、星核がまだ残ってるのが不思議だけど……』
「あ、やっぱりあの時使ってたのか……オンパロスの時に」
『もしかして、オンパロスで妙なことが起きてたのってそれ? 道理で……』
銀狼は、納得したというような顔をしていた。だが、そこで穹がサラッと爆弾を投下する。
「あぁ、一回死んで因果から消えてたんだって。本来生き返れないらしいんだけど、みんながすごく頑張ってくれたんだ!! いい友達を持ったよ!!」
『……は?』
「え、銀狼? 何してるんだ?」
『電話。カフカとホタルにね』
穹が止める暇もなく、二人にその事が伝えられた。そして、スピーカーになった電話から、声が聞こえてくる。
『どういうことですか、穹。わかるように説明してください』
『私にも説明が欲しいわ、穹。嘘はつかないでね?』
「はい、説明するから落ち着いて……」
というわけで穹は説明した。オンパロスを救うためには仕方がなかった、と。
『そういうことだったんだ……でも、もうやらないでね? 君がいなかったら、あたし生きてる意味ないから……』
「う、うん、わかった。もうしないよ……」
『その力は危険な力よ。迂闊に手を出していい力じゃない……気をつけてね?』
「わかってる、心配かけてごめん」
完全に、遠くの母親が子供を心配する構図だ。ホタルは遠距離恋愛中の彼女かもしれない。
『反省しなよ、もう二度とこんなことしないで。次の対価はそんなもんじゃ済まないかもよ』
「うん、よくわかったよ……」
「ありがとう、銀狼さん。僕たちも見張っておくよ」
『そうしてあげて。穹がそんな無茶して死ぬなんて、脚本にも書いてなかったんだから』
そう言われて、通信が切れた。穹が安堵のため息をつく。
「はぁぁ、よかった……二人とも、怒ったらあんなに怖いのか」
「二人ともあなたのことを愛してるの、わかってあげて」
「わかってる。別に嫌いになったとか、そういうわけじゃないよ」
そこで姫子からメッセージが来た。どうやら、キュレネの部屋の用意ができたらしい。みんなで見に行ってみると……新しい車両に部屋が割り当てられていた。
「わぁ~、いいところね……!!」
「家具は自分で揃えてね、お金は列車の手伝いで貯めてちょうだい」
「俺の部屋の時を思い出すなぁ……部屋が広かったから、色々置いて……」
穹が自分が乗った時のことを懐かしむ。それを聞いて、ファイノンが言う。
「またピュエロスを借りていいかな、相棒?」
「いいぞ、一緒に入ろうか!!」
「え~、二人だけずるいわ!! あたしも一緒に……」
「「それはダメ!!」」
流石に男女混浴はまずいだろう。そう思って、二人が全力で止めた。
「どうして? あたしがミュリオンの時は一緒に入ってたじゃない!!」
「あれは性別がよくわからなかったからで……!! 女と男が一緒にお風呂に入るのはまずいんだよ、何度も言ってるだろ!? ここは雲石の天宮じゃないんだから!!」
「一緒のベッドで毎日寝てるのに~?」
「……本格的に、車掌さんにピュエロス車両の設置を提案したほうが良さそうだ」
ファイノンは、本格的にそう思ったのだった。それからしばらくして、キュレネと穹と……あと、ヒアンシーやキャストリスは、ピノコニーに来ていた。家具を買うためだ。
「ここがピノコニー……話に聞いてたより、ずっと煌びやかな場所ですね……!!」
「あ、可愛いぬいぐるみ……色んなものが置いてありますね、ここは」
「夢の中だからな、ここにはなんでもあるぞ!! 俺はピノコニーの50%の株を持ってるんだ、なんでも言ってくれ!!」
例によって穹は見栄を張って、株の桁をひとつ盛った。キャストリスはそれを聞いて、萎縮している。
「えぇっ……!? それじゃ、もしかしてこの街も、全部穹さんの……どうしましょう、勝手に触ってしまって……」
「違うわよ、キャス。5%よ、穹は見栄を張ってるだけなの」
「ちょっとキュレネ、なんでもうバラすんだよ!? 株主権限で割引してもらうつもりだったのに!!」
しかしキュレネによって、その見栄は一瞬で砕かれてしまった。キャストリスはホッとしているようだ。
「そんなことしちゃダメよ、それにお金はちゃんと持ってきてるんだから」
「むぅ……よし、それなら後で空飛ぶ船に案内してやる!! 俺はそこの船長なんだ!!」
「グレーたん、また見栄張ってるんですか?」
「違うって、今度はホント!!」
そう言いつつ、みんなでピノコニーで買い物をする。みんなが思い思いの物を買う中で、キュレネは……
「あ、これも可愛いわね……これも可愛いわ、これもこれもこれも!!」
「……そんなに買って、お金は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ、ちゃんと考えて買ってるから!!」
嘘である、キュレネは考えなしに買っている。幸い、お金は足りたが……全部合わせてすごい量の荷物になった。
「キュレネ……それ、重くないのか?」
「全然重くないわよ? 軽いくらい!!」
「その細い腕のどこにそんな力が……」
キュレネは荷物の全てを軽々持っている。それから約束通り、穹は三人を暉長石号に連れていった。
「みんなようこそ、ここが俺の船だ!! みんなは好きに遊んでいいぞ、俺の船だからな!!」
「なんだ、あの人達……美人がいっぱい……」
「ここの船長、金持ちらしいし……モテるんだな」
セレブ達に噂されながら、穹はみんなを案内していく。そんな時、キュレネが穹の袖を引いてきた。
「……ん? どうしたの?」
「ファイノンから聞いたの、こことは違う真のピノコニーがあるって。そこに開拓の足跡が残っていることも……二人で見に行きたいの」
「いいよ、一緒に行こう!!」
というわけで二人には暉長石号にいてもらい、穹とキュレネはドリームリーフへと向かうことになった。そして……穹から、色々と話を聞いた。
「そんなことがあったのね……」
「あぁ、それからここでミハイルに、あの帽子をもらったんだ」
「ミハイルって人は、あなたにその帽子と一緒に意志を託した……どれだけ時を超えても、重なった想いは変わらない。とってもロマンチックね……」
キュレネはそう言って、穹と景色を見る。朝日が登ってきていた。
「なぁ、キュレネ。二人で来たいって言ってたけど……なんか話したいこととかあるの?」
「やっぱり、あなたに隠し事はできないわね。あたしはあなたに、伝えたいことがあるの」
「ど、どうしたんだ? 急に畏まって……」
「あたしは、あなたのことが……」
それから、列車に戻ってきた二人が少し顔を赤くしながら言った。
「というわけで、キュレネは今日から俺の彼女だ!!」
「うふふっ、これからは夫婦共々よろしくお願いします、みんな♪」
「えぇーーーっ!?」
なのかがこれまでにないくらい、めちゃくちゃ驚いている。それは他のみんなもなのだが。例外として、ファイノンだけは男泣きしていた。
「相棒、ミュリオン……本当におめでとう、結婚式のスピーチはぜひ僕にやらせてくれ!!」
「気が早くないか、ファイノン? ……いや待て、キュレネ。夫婦と言ったか?」
「うん、結婚を前提にお付き合いして欲しいって言ったからね♪」
「えぇぇーーーーっ!!!」
なのかがさらにデカい声を出した。列車がなのかの声だけで大きく揺れている。
「落ち着いて、三月ちゃん。その……二人とも、水を差すつもりはないのだけど、意味はわかってるの?」
「うん、彼女って女の子の中でもすごく大切な人のことだろ?」
「ずっと一緒にいたい、大好きな人のことよ♪」
間違ってはいない。しかし、どこか認識にズレがある気もする。だが……今は訂正できる空気ではなかった。
「おめでとうございます、お二人とも……ワタシからも祝福を送らせてください」
「ありがとう、デーさん!! あ、あとファイノンも俺の彼氏だから!!」
「……えっ?」
ファイノンが固まった。それと同時にみんなも固まった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ相棒。ミュリオンと恋人になるって言ってたよね?」
「うん。だからファイノンは彼氏!! キュレネは彼女なんだ!!」
「えぇぇぇぇぇいたっ!?」
「これ以上は列車が壊れる、やめろ三月」
なのかの声で列車が破壊されそうになっていたが、丹恒の静止でなんとか崩壊は免れた。
「穹、知らないかもしれないが……恋人は、一人につき一人なんだ」
「知ってるぞ? 彼女や彼氏は一人だけなんだろ? だから彼女がキュレネで、彼氏はファイノン!!」
「キュレネちゃん……大丈夫? 傷ついたりしてない?」
「穹が幸せならあたしも幸せよ、だからいいの」
キュレネは穹の浮気発言に全く動じていない。それどころか受け入れる気満々でいる。
「待ってくれ相棒、彼氏も彼女もどっちかひとつだから、僕は……」
「俺の彼氏になってくれないのか、相棒……?」
「うぅっ……わ、わかったよ、なるから泣かないでくれ!!」
そんな感じで、ファイノンは穹に泣き落としを食らい、キュレネと同じように彼氏兼相棒になったのだった。